7月13日
長谷川が行ってて、というので先に旧校舎へ向かう。
屋上へとつながる階段を登ると、何やら人の声が聞こえてきた。
やべ、教師かも。怒鳴ってる。
音を立てないようにそろりと登る。
あ。
「とぼけるな。これお前だろっ。」
「だから、違いますって。」
センパイだ。
何だろう。屋上に出てたことを怒られてる訳じゃないみたい?
よく見ようと身を乗り出すと、センパイがちらりとこっちを見た。
驚いたような顔をしてそれから。
ふわっと笑った。
「お前、あんまり舐めた態度をとるとな、」
「すいません。やっぱり私です。」
教師の手には煙草の吸殻があった。
なんとなく、センパイがそういうヘマをするとは思わなくて。
それから思い立った。
長谷川かも。
思わずあ、って言ったら教師が振り向いた。
「なんだ、この先は立ち入り禁止だぞ。」
「や、あの、その煙草、」
センパイのじゃない、って言おうとしたとき。
「先生、早くいきましょ。停学?でしたっけ。さっさと終わらせて帰りたいんで。」
センパイが階段を降りてきた。
あの、って声をかけようとしたけど。
口パクで、ばーか。
ってセンパイは。
いつかの笑顔で、わらった。
「あ?何してんの?」
タイミング良く長谷川が来た。
げ、せんせーじゃん、って言った長谷川は不意に顔を強張らせた。
長谷川の視線の先は。
「長谷川?」
センパイは俺にも長谷川にも一瞥もくれることなく教師と何か言い合いながら去っていった。
「…長谷川、煙草さ、」
「あ?なに?」
ぼんやりしている長谷川。
煙草のこと、センパイが停学になるかもってことを長谷川に話した。
長谷川はあっそ、って言うだけ。
「あっそ、ってお前さ、」
「あの人さ、皆瀬茜の姉貴でしょ?」
「はぁ?あー、そうだけど、」
「別にあの人がどうとかないけど。皆瀬に関わりたくないから。あの人にも関わりたくない。」
吐き捨てる長谷川。
じゃあな、っていなくなった。
いつもへらへらしてる長谷川の真顔に何も言えなかった。
長谷川が、何かにずっと怒ってることは知ってた。
その一端を垣間見た気がした。