年は明く
数時間前から降り始めた雪は、年が明けても降り続けた。
雪は好きじゃない。
ただでさえ鬱屈とした街から音が消えて憂鬱さが増す。
面白くもないけど、テレビを見続ける。空虚な笑い声のほうが遥かにましだ。
「ただいまーっ、はーっ、さむ。」
弟が帰って来た。
「あれ、朝までかと思ったけど。」
寒い寒いと言いながら炬燵に入る。
弟が帰って来て部屋の温度が上がった気がする。
「やっぱり家族で過ごすって、道子が。」
道子ちゃんは弟の彼女だ。
私とも仲良くしてくれるいい子だ。
「なー姉貴、アイス買いにいこーぜ。」
キラキラと目を輝かせる弟。
道子ちゃんは私に気を遣ったのかもしれない。
外に出ると、雪のせいで空が明るい。
「やばっ、テンション上がるわーっ」
はしゃいでいる弟を見ると雪も悪くないから不思議だ。
年越しは、昔からいつも弟とアイスを買いに行っていた。
両親がいなくて寂しがる弟を宥めるためだったそれは、いつからか恒例になっていたけれど。
今年はもう行かないと思っていた。
コンビニまでの道を弟と歩く。
いつまにか私より背が高くなってしまって、ホッとするような寂しいような。
「父さんと母さんは今年も帰ってこなかったなぁ。」
弟が呟く。
「あー、ね。」
弟は両親のことが好きだ。
遠い国で恵まれない人々のために働いている両親を弟は尊敬しているようだけれど、両親にとって他人よりも弟と私の優先順位が低いように、私にとっても両親の優先順位は低い。
時折、思い出したように手紙が届いているけれどポストに入れっぱなしだ。
触る時間さえ私の中にない。
弟も気付いていないし私も気付かなかった、ということにしてる。
「なー、姉貴はさ、大学とかどうするの?行くんでしょ?やっぱ都会に出る?」
「あー。あんたが高校にいる間は家にいるよ。学費貯めないといけないし。」
前から決めていたことだ。
「まじ?ほんとに?いいの?」
それでも弟は嬉しそうな顔をしてる。
こういう顔をしてくれているうちは、叶えてやりたい。
「おっけーおっけー」
安心したーって、叫ぶ弟に安心したのは私のほう。
もし弟がもう1人で大丈夫って言ったら。
姉貴は姉貴の好きなようにしてって言っていたら。
過った考えを振り払う。
やっぱり雪は嫌いだ。