10月20日
「おっす、よろしくー」
最近の体育ではソフトボールをやっている。ペア同士ウォームアップのキャッチボールで、センパイの弟とペアになった。
センパイの弟は運動は苦手らしいけど、キャッチボールは上手い。さっきからちょうど良いところに投げてくる。
「なんかー、悪かったなー」
「なにがー?」
ボールと共に言葉が飛んでくる。
離れているので会話しづらい。
「姉貴のことー。」
「はー?」
思わず力を入れすぎた。
ボールはセンパイの弟を大きく越えた。ボールを追いかけるセンパイの弟を追いかける。
「ごめん、」
「いーよ、わざわざいいのに。」
「なあ、センパイのことがなに?」
「あー、なんか変なプレッシャー?みたいなのやったかなー?って。気にしてないならいいんだ。」
プレッシャーとかは何の話かよく分からないけど、センパイのことはちょっと気にかかってる。
文化祭以来、あんまり話せてない。
見かけて話かけようとしても、さっといなくなってしまう。
「なー、最近センパイおかしくね?」
言った瞬間、センパイの弟はズッこけた。
「あー、まー、姉貴もひとの子っつうか。ま、気にすんなよ。しかたねーよ。」
ポンポンと肩を叩かれる。
集合がかかったので、話はそれきりになった。
相手チームのピッチャーは野球部だった。
野球部だけあって、やっぱり上手いつうか。打ち頃というか。
綺麗に当たって結構飛んだ。飛ぶボールを目で追いかけていると屋上に人影が見えた。
走ってホームに戻り、「トイレ!」叫んでその場を離れた。
あいつどんだけだよ、と笑い声が聞こえてきたけどそれどころじゃない。
「センパイっ」
屋上へ続く扉を勢いよく開けて、後ろ姿に声をかけるとセンパイは振り向いた。
少し髪の毛が伸びてる気がする。
久しぶりのせいかなんだか緊張する。
「村入ー。サボりはだめなんだぞー。」
センパイが笑顔でホッとした。
「センパイに言われたくない。」
「一本とられたね。」
なははと笑うセンパイ。
けど、すぐに笑うのをやめた。
「村入、何しに来たの?」
え?
「こういうの、困る。どうしたらいいか分からないよ。」
センパイは困ったように笑う。
俺はセンパイに会いたかったけど、センパイは違うのかな。
「会いたかったけど、会いたくなかったかな。」
「どういうこと?」
「村入の、思うままを叶えられたらいいんだけど、3回目はちときついかな。」
センパイは相変わらず困ったような笑顔だ。
センパイの笑顔が見れたらそれでよかったんだけど。
センパイはいつもみたいに笑ってくれない。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「着替える時間なくなっちゃうよ?」
ほら、とセンパイに促されてその場を離れた。
あれ?
俺なにがしたかったんだろう?