8月1日
午前までの補習授業が終わって、帰り道。
周りの奴は部活やら彼女とやらとさっさといなくなってしまった。
日陰を選んでバス停へと向かう。
一本前のバスを逃してしまったので、諦めてだらだらと歩く。
バス停は山陰で涼しいから助かる。
誰もいないだろうと思っていたバス停は先客がいた。
センパイだ。
制服姿でダルそうに足を伸ばしてベンチに座っている。この人はスカートだとかそういうことを気にしなさそうだ。
「…センパイ、」
呼び掛けると、首だけこちらを向いた。
「おー、村入じゃん」
「何してるんですか、センパイ家すぐそこでしょ。」
「学校へ行く途中」
「学校そこですけど…」
なんだろう、ぼーっとしてる?
「村入はー、何してるのー?」
「補習終わって、帰るところ。」
「ありゃ。学校もう終わりじゃん、」
制服着た意味ないな、センパイは笑った。
「隣座っていいですか」
スマホの時計を確認すると、バスが来るまでまだまだ時間がある。
「どうぞ」
センパイは少し寄ってくれた。
無言でいるのも気まずいので、適当に話をする。
センパイがどんな話が好きか分からなかったので、テレビのことやネットのこと、クラスメートの馬鹿話までつらつらと喋った。
センパイは全部の話に律儀に相槌をうって、笑って聞いてくれた。
「村入の友達は面白い人ばっかりだね」
「面白いっていうか、バカばっかですよ。」
あはは、声を出してセンパイは笑った。
「センパイの友達は…、皆頭良さそうですね。センパイって特進クラスですよね?」
「そうそう。皆、なんだろう。ノリはいいかもね」
「へえ、なんか意外。」
1年の特進クラスの人は休み時間もちゃんと勉強してる人が多いから、そのイメージが強い。
「…村入はさぁ、」
「なんですか?」
センパイが躊躇うように話すのは珍しい気がする。
「私はさー、こうやって話せるの楽しいけど、村入はいいの?」
「え、どうしたんですか、急に。」
「急かー。そっかー。」
ひとり納得したようなセンパイについていけない。
「ま、いっか。」
言いながら、センパイは立ち上がる。
バスがちょうど来た。
「バス来たね、じゃあまたね」
「あ、はい。また。」
手をヒラヒラと振るセンパイに振り返すと、センパイは綺麗に笑った。