白狼とご飯
なんだろう。この主人公のヒロイン力。オレは性別を間違えたのだろうか。
(まったく。この前あれほど注意したのに、またオマエか。何しにきたんだ。)と白狼がため息をつきながら行ってくる。
「ごめんなさい…入り口のスライムとかで考えて、もっと弱いかと思ってました…」
(ここはオレの縄張りだからな。弱い魔物は近づく事もできんのだ。)とふんっと鼻を鳴らしながらいう白狼。
(で?今回はなんでここに来たんだ?また木材か?)と
ジッとこちらを見つめてくる。
「うん、木材採取が一番の目的なんだけどね!お昼を作ってきたから、キミと一緒に食べられたらなあと思って!」と笑いながらサンドイッチを見せると、
(む…?餌をくれたとしてもオレはオマエにテイムされる気はないからな?)と怪しそうに見てくる。
「んー、テイムできたら嬉しいとは思うけどさ。ただなんか懐かしいというか、一緒に食べられたらなあって思っただけなんだよ。ほら、一応『ご近所さん』になるわけだしね?」とニコニコしているヒビキ。
耳と尻尾もパタパタしているのに自分では気がついていないその様子を見て、白狼は毒気が抜かれたようにポカンとしてから、
(フッフッフ、そうか。『ご近所さん』か!ふふふっ)
とご機嫌そうに笑いだした。
「ん?なんか変な事言った?」とキョトンとしているヒビキ。
(いや、なんでもない。んじゃ飯をもらうとするか。)
「まだ料理スキル取ったばかりだから、あまり上手じゃないけどね! ウサギのソテーのサンドイッチです!」
じゃじゃーんとアイテムボックスから3つのサンドイッチの塊を取り出す。 一つの塊で三つほどサンドイッチが固まっており、大人が十分満足できる量となる。
ノーマルが2つにHQが1つ。
ヒビキはスッとノーマルとHQを一つずつ白狼の前に差し出す。
「一個はHQで出来たんだ! どうせだからどうぞ?」
(ほう、HQ品か。なかなかやるもんだな。ではいただくか。)
白狼はそういうと、ノーマルのサンドイッチを咥えて咀嚼し始める。
(ふむ、なかなかだな。 そういえばオマエは旅人だったな?いつからこちらに来たのだ?)
とモグモグしながら念話が飛んでくる。
「モグモグ…ング。4日か5日くらいだね!」
(ほう、その短い時間でHQ品が作れるとはなかなかだな。よく作っているのか?)
とHQのサンドイッチを咥えながら白狼が聞いてくる。
「ん?HQが作れたのはそのサンドイッチが初めてなんだよ! どう? 美味しい??」
とヒビキが無邪気に聞くと、白狼が慌てて
(ん!?ならオマエもまだHQ品は食べたことがないのか?!)
二つ目のサンドイッチを慌てて口から離してしまう。
「大丈夫だよー!また作れるし! 美味しかったならよかったよ!」とニコニコ、パタパタ。
(む、むぅ。 HQは味が全然変わるのだよ。 とても美味しいが…残り一つはオマエ自身が食べてみろ。
オレはオマエのその最後の一個をもらう!)
と白狼が言うと、ヒビキが食べようとしていた、手の中のサンドイッチがビュゥっと風と共に消え去る。
びっくりして白狼を見ると、白狼はノーマルサンドイッチを咥えて立っており、ヒビキの前にはHQのサンドイッチが一切れ置かれていた。
「いつ見てもすごい速さだね…全然見えなかったよ」
目を丸くしながら、置かれたサンドイッチに手を伸ばすヒビキ。
(ふん、オレの種族は天狼とも呼ばれるからな。風の属性が強い種族は速さに自信があるのさ。)
「天狼とかカッコいい種族だね!うっわ…確かにHQとノーマル全然味が違うや…これはうまい…」
HQのサンドイッチを頬張り、美味しさに絶句する。
(HQ品の料理など現地人でもそこまで簡単に作れるものではないのだぞ。)と何故かドヤ顔の白狼。
「まあ一緒に食べられてよかったよ。喜んでもらえたみたいだし!」
(う、うむ。 馳走になった。感謝しよう。)
「また今度作ったら一緒に食べよう! またくるからさ。」
(いや、危険だと何度言えば…まあ、オマエの好きにすればいい。 危なくなったら出迎えてやる。)
「お?迎えに来てくれるんだ!なら安心だね。ありがとう。」とふんわりとヒビキが笑うと、
(ふ、ふん。飯が消えたら勿体無いからな!)
と顔を背けながら白い木の向こう側へと歩いていく白狼。
ヒビキがそれを見送っていると、
(そうだ、これは今回の礼だ。取っておけ。)
と声と共に風が巻き起こり、目の前に青白い光を放つ草が1束置かれているのだった。
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