これからの指針
切りどころが見つかりませんでした。
「やります!」というヒビキの返事を聞いてトガリは満足そうに頷き、「うむ、なら仮契約として2年間牧場をお主に譲渡しよう。この契約書に手を置いてくれ。」と羊皮紙のような紙を差し出してくる。
書いてある内容は読めないが、イメージとして頭に入ってくる不思議仕様だった。
内容は【ヒビキに2年間牧場主を譲渡、二年後一定金額を支払うことでヒビキに完全譲渡】と書いてあるようだ。
「すごく嬉しいんですが、トガリさんはいいんですか?奥さんと喧嘩してでも取っときたかった牧場ですよね?」とヒビキが心配そうに聞くとトガリはちょっとそっぽを向いて「… お前さんならきっと牧場を大事にしてくれそうだしの。…それに元々はつい弾みで反対してしまってな。一回反対すると何かきっかけがないと頷くのが悔しくてな…」と後半ボソボソと言い始めた。
(全然頑固ジジイじゃないとか思ってたらそっちで頑固だったのか?!プレイヤーに対してはデレデレかよ!?) ヒビキの内心でのツッコミ再び。
「ま、まあ奥さんとも息子さんとも会えるみたいですし、よかったです。奥さん達はどちらにいらっしゃるんですか?」
「あやつらは【ウーファイ】という街におるよ。大きな魔道具屋をやっておってな。まあ契約も終わったし、明日には向かうかのぅ。」
「明日!? 何も牧場について聞けないじゃないですか!」慌ててヒビキが言う。
「いや、そう特に急ぐわけでもないんじゃが…婆さんも元気か少し気になるしな? きっかけができて良いタイミングだからすぐに向かおうかとな?」
(頑固ジジイじゃなくてツンデレジジイじゃねえか!明日までに基本だけでも教えてもらわないと!)
「トガリさんも奥さんに早く会いたいと思うのですが、出来れば牧場の基本的な事とこれからどうしたら良いかだけでも教えてくれたら嬉しいのですが…」
とワザと早く奥さんに会いたいんでしょ?と言ってみる。
「いや、早く会いたいわけじゃないぞ!!そんなすぐに会わなくても問題ない。もう長いこと顔を見てないからせいせいするしな! よし、ヒビキよ!それなら今日はウチに泊まって行け! 今日と明日を使って基礎だけでもレクチャーしてやるわい!」
ヒビキは内心でガッツポーズをしながら「よろしくお願いします!」とお辞儀するのであった。
「よし、それじゃあまず農業と牧場の基本について説明するぞ。ヒビキは【飼育】や【農業】のスキルを持っておるか?」
「はい、どっちもあります。 まだLV1ですけどね。」
「ふむ、それならば話は早い。スキルのLVについては自然と上がっていくから安心せい。スキルを持っている者は神からの補助が受けられるのでな。 非常に作業が楽になるのだよ。まず【ハウスオープン】と言って指を振ってみるんじゃ。」
(どっかで受けたことがある説明だぞ?)
「はい、【ハウスオープン】!」
指を振るといつものステータスボードのように上から見た牧場の全体図が現れる。
(おお?牧場は家としての機能と同じなのか!)
「ふむ、きちんと譲渡できておるな。それが牧場の全体図となる。建物の設置や、作物、魔物などの情報はここで確認ができる。また右上のメニューという
ボタンを押すとスキルの力で世話もしてくれる。だが収穫などは自分でしなければならんのと、自分で世話をするとHQと呼ばれる良い品質の物が取れることがある。HQ品は収穫するとスキルの育ちが良いので最初が自分で作業する方がいいかもしれんな。」
(ふむふむ、ゲームとVRのいいとこ取りなのか。時間がない時はオートで、時間がある時は自分でやれば良いと。)
「また魔物に関してはファーマーギルドで買うことができる。基本的な牧畜系の魔物は全て売っておる。
ただ売っておるのは基本的な魔物だけで、上位の魔物とかは売っとらんな。
野生の魔物とも、心を通じあわせることができれば仲間になってくれることがあるらしい。
かなり低確率らしいがな。
上位の魔物などは特別な作物を作ってくれたり、また一緒に戦ってくれるらしいぞ。一緒に戦うには【飼育】の上位スキル【テイム】が必要だな。」
「おおー! 一緒に戦ってくれる子もいるんですね!!すごいワクワクしてきた!」
「あと卵から孵した魔物は懐きやすいな。基本魔物は全て卵から生まれる。 魔物を育てるのは少し先になると思うが、詳しくはファーマーギルドでやりながら聞くといい。」
「ありがとうございます。 農業は普通に畑を耕して作物を植えればいいですか?」
「うむ、だが作物を育てる際には季節を考えて育てなければいかんぞ。 【ファンタジア】は4つの季節に分かれておる。1-3月が【スプリー】 4-6月が【サマル】7-9月が【オータ】 10-12月が【ウィン】の季節になっておる。 一月30日で360日で一年じゃな。」
(つまりリアル1ヶ月で一年になるのか。)
「旅人って一回寝てしまうと、すごく長い間目が覚めないんですが、その間はどうすれば?」
「スキルによる神の加護で寝ている間の世話もある程度はしてくれる。だが余りにも長い間寝ていると、スキルに込められた力が薄れていき、効果が出なくなってしまうな。作物が枯れたり、魔物も野生に戻り脱走してしまうようじゃ。一月くらいならばスキルの加護が十全に働いてくれるぞ。」
「よかったです! それならオレにもできそうだ。」
「あと牧場の奥にある森も一応ワシの所有となっておる。入り口の浅いところで薬草やキノコなど魔法薬の材料が取れる。 ただ森の奥には行かんようにな。
古の魔物が住む危険なエリアになっておる。真っ白な木が目印じゃ。特別な魔力を持った薬草なども多く生えているが、まず今のお主にでは太刀打ちできんじゃろう。」
(高LV用のエリアもあるってことか。白い木にはきをつけよう。)
「わかりました。白い木が生えているところから奥には行かないようにします。」
「まあ特別な魔力を持った草なども多いんじゃがな。蒼月草などはここらでは、あそこでしか取れんしの。まあ近寄らんことじゃ。あと森の近くに練金小屋などもあるから、もしお主が【練金】を覚えたら行ってみるとええ。」
「【調薬】はあるんですが【練金】はないなあ」残念そうにヒビキがいう。
「【調薬】と魔法の能力を上げると【練金】が覚えられるようになるな。スキルを取ることも大事じゃから、鍛錬してLVをあげることも大事じゃぞ。」
とここまで話してからトガリはふと窓の外をみて、
「ふむ、もうかなり時間が経ってしまったな。まず晩飯にしよう。また続きは明日、実際に農場でいくつかやってみることにしようかのぅ。」
「あ!夜ご飯作るのお手伝いします!」
そう言って二人はキッチンへと向かうのであった。
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