ヒビキと廃牧場
よく見たらデータ分析でポイントとブックマークの数が見られるんですね。 こんな拙い作品にポイントとブックマークをしていただけて本当に嬉しいです。
これからも頑張ります。
怒鳴りながら出てきたのは、杖をついているお爺さんだった。
頭に麦わら帽子を被り、ヒゲモジャのドワーフのような、ずんぐりむっくりしたお爺さんはヒビキを見つけるとギョロリと睨みながら、「なんだ、いつものやつじゃないのか。商業ギルドからの使いか?」と不機嫌そうな言ってきた。
ヒビキは少しビビリながらも、お辞儀をして「はじめまして、ヒビキと申します。ベルランドさんに紹介されてこちらに来ました。このお手紙をこちらにいる方に渡してほしいと言われまして。」と言いつつ、クエストでもらった紹介状を差し出す。
お爺さんはふんっと軽く鼻を鳴らして「なんじゃ、ベルランドの奴もあっちの味方か?」と言いつつ手紙を受け取る。
「わしゃトガリという。手紙を読む間、少し待っとれ。」顎で家の横にあるベンチを指し示す。
「わかりました、トガリさん。」
ヒビキは少し牧場の中を見てまわりたい気持ちを抑えつつ、大人しくベンチに座る。
獣人化の際に耳や尻尾で自動的に感情を表すシステムが機能しているようで、ヒビキの耳の狼耳はピクピクキョロキョロしている。尻尾は少し垂れていた。
トガリはその耳と尻尾を見て、そっとため息をついて一言「牧場が気になるなら見てきてもいいぞ。しばらく経ったら戻ってきてくれ。」と言った。
ヒビキはまだ感情が尻尾に現れていることに気がついていないため、なぜ急にトガリが許してくれたのか、目をパチクリさせていたが、トガリから「嫌なら行かんでいいぞ。」と言われ慌てて「ありがとうございます!トガリさん!ちょっと見学させてもらいますね!」とお辞儀をしてから飛び出していった。
トガリはその姿を少し眩しいものでも見るように目を眇めながら、杖をついて家の中に戻っていった。
ヒビキはまずサイロを見にいくことにした。
サイロは石造りですごく大きいものだった。
ただ現在は中に飼い葉などは入っていないようで、少し寂れた感じが出ている。
もし、このサイロ満タンまで干し草などを入れていたのであれば、大きな動物も何頭も飼っていたんだろうなと昔に少し思いを馳せる。
その周りには厩舎や鶏小屋があり、その奥に木の柵で覆われた牧草地が広がっていた。ただ牧草地は手入れされておらず、草がボーボーとなっている。
かなり広大な牧草地の奥に小さく森の影が見える。
牧場の奥には森があるようだ。森の手前に少し小さな小屋が見える気もするが森も輪郭と同化しているためはっきりとは見えなかった。
鶏小屋や厩舎には1匹の動物も見当たらず、物寂しげな雰囲気が漂っている。
牧草地とサイロの中間に少し大きな草の茂みがあり、そこには綺麗な泉が湧いていた。
農業用の水や動物の飲み水などは、この泉の水を使っていたようだ。
厩舎とトガリの家の後ろを通り、右側にいくと柵に囲われた畑が見えてきた。 こちらは今もまだトガリが手入れをしているのか、手前の少しの畑には見たことがない青い野菜が並んでいた。
(何これ。青いニンジンがぶら下がってる。)
料理も普段からよくするため、ヒビキは見たことがない野菜を興味津々で眺めた。
流石に人の畑から勝手にとるのは泥棒になってしまうので、後でトガリさんにわけてもらえないか聞いてみようと心に決める。
その他にも、大根[の様な物]が一列に植えられていた。
なぜ[の様な物]なのかというと土から少しだけ覗いている部分が黒く、更に外に出ている部分がリズムを刻む様に縦にヘッドシェイクをしているからだ。
(うわぁ…これも野菜なのかな…)
ヒビキはこれについてもトガリさんに聞いてみようと思い、一回トガリの家まで戻ることにした。
お読みいただきありがとうございました。