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プロローグ2

前回までのおさらいをしよう。


俺は劇団の面接を受けた帰りに、母からの心無い留守電を聞き、落胆に暮れてぼんやり下を向いて歩いていたところ、トラックに轢かれた、、、轢かれたんだよな、、??


交通事故にあったはずの俺の目の前には、ヨーロッパの宮殿のような白亜の広間が広がっていた。俺の通っていた高校の体育館が10個は入りそうな広さがあり、中央には玉座を思わせる台座がある。

全てが大理石でできた無機質な空間に、ただ1つ有機的な柔らかさを放つ異質なものがあった。

少女が1人、台座に佇んでいる。静謐が満ち、白亜の大理石に全ての音が吸収されてしまったかのような空間に、少女は息をひそめ、あたりを伺うように目を見張っている。


少女は紫紺の瞳に紫紺の髪を腰まで伸ばし、顔立ちにはあどけなさが残るものの表情は大人びており、見るものを魅了する神秘的な美しさを放っていた。14歳くらいだろうか、肌の色が透けそうなほど薄い光沢のある生地のシンプルなドレスに身を包み、差し込む陽の光に照らされる姿は神々しさすら感じる。


目を開けた瞬間に、予想していたトラックではなく少女の紫紺の瞳を視界に捉え、俺はしばし時を忘れて見入ってしまった。


しかし、少女が全くこちらに反応を示さないことから少女には俺が見えていないということが分かった。


そこで俺は少し落ち着きを取り戻し、ぐるりと振り返ってあたりを見渡してみたのだ。


宮殿の広間のようなその部屋は全く見覚えのない場所で、神々しい少女の存在もあって、俺はやっぱり交通事故で死んで天国にでもいるのだろうかと思えてきた。


よく見ると広間の装飾はとても華美であり、緻密な彫刻と無数の宝石に彩られていた。しかし彫刻は大理石であり、宝石もクリスタルのようで、全体的に白い印章が強い。天井にはガラスが埋め込まれて陽の光が差し込んでいる。床の大理石にはチリひとつ落ちておらず、磨き上げられた大理石が濡れたように光を反射している。否、少女の足元に小さなものが何か落ちている。

俺は気になって少女の足元を注視した。


それは、サイコロだった。


ごく普通の、うちの押入れのどこかにもあるであろう六面のサイコロだった。


サイコロの存在は、現実離れした豪奢な広間ではひどく浮いていた。俺はサイコロに手を伸ばし、上面 『 1 』 の目がでている面に触れた。


途端、世界がぐらりと揺らいだ。


少女がこちらを振り向き、お互いの視線が始めて交差した。俺は足元にいるので、図らずもひざまずいているような格好であった。

少女が口をぱくぱくと開け何かを言おうとした。

俺は少女が何か言う前に急いで聞いてみた。


「俺は死んだのか?!ここは天国なのか?」


少女は暫し瞠目したのち、微笑みながらふるふると首を振った。

予想外の答えに、今度は俺が瞠目した。


俺は死んでない、のか?


確かに、トラックにぶつかった感触はないし、痛みも感じていない。もしかして、これが世に聞く異世界転移‥‥????俺の部屋の棚に並ぶ、異世界転移ものの小説やアニメが走馬灯のように頭を駆け巡る。


混乱する俺に、少女は薄紅色の可愛らしい唇を開き、意を決したような眼差しでこちらに向き直った。


「わたくしの奇跡、あなたに託します。」


少女はそれだけ言うと口を結び祈るように手を組んだ。


瞬間、広間の天井から壁にかけて大きな亀裂が生じた。ピシッ、、、不吉な音と共に頭上からは大理石の破片がパラパラと落ちてきた。

俺の足元にも亀裂が生じたため、俺は咄嗟に少女から目を離し、足元に視線を落とした。


すると、足元は先ほどまでの大理石ではなく、青々と繁った草だった。

顔を上げると、広間のあった形跡は微塵もなく、深い森が眼前に広がっていた。


‥‥‥????!!!


ここまでくると何が何だかよく分からないぞ。俺はトラックに轢かれる直前に、宮殿の広間のような場所に異世界転移し、またすぐに深い森の広がる場所に異世界転移したのだろうか?


信じがたいがそれ以外に説明のつかない状況だ。一瞬にして広間も少女も消えてしまったのだ。しかし、あれだけ立派な建物の倒壊があって少女が無傷とは考えづらい。

俺は、美しく可憐で神々しい少女の無事を祈りながら立ち上がり周りを見回した。


30m以上ありそうなブナによく似た大樹が密集して生えているため薄暗いが、木々の隙間からは木漏れ日が差し込んでいる。足元は草が所狭しとはえており、所々に巨大な苔むした岩が転がっている。時折聞こえるバラエティに富んだ鳥のさえずりと虫の音、そして姿は見えないが確かに感じる獣の気配から、生き物達の息遣いに満ちた森であることが伺える。


ここで、これから俺は生きていくのだろうか?


周りに注意を払っている間は忘れていられた不安が胸を締め付けた。

この世界に人はいるのだろう?いなかったら一生孤独に人生を送るのだろうか?そもそもこんな森でのサバイバル生活を俺は生き抜けるのか??


不安に心が占拠され、胸が締め付けられるような感覚に過呼吸気味になってきた。

怖い、怖い、怖い。焦りと恐怖に、体が小刻みに震えた。


その時ーーーーー


「そなた何者だ?!!そこで何をしている?!」


凛とした声が響き渡り、驚いた小鳥たちが飛び立つ羽音に森がざわめく。


「ぴえっ、、」


俺は、小鳥と同調するように驚きの声を上げながら、声のした方に視線を移した。

声の主は、高校生くらいの女の子だった。しかし、その姿は現代の高校生とはかけ離れたものだった。巫女を思わせるような白と朱色の装束に漆黒の髪を組紐のように美しく結って束ねている。絹のような長髪から覗く耳は、スラリと細長く伸びている。そして何より、女の子を印象的にさせているのは真紅の瞳だった。意思の強そうな真っ直ぐな瞳が、俺を射抜いている。だけではなく、物理的にも俺は射抜かれそうな状況に陥っていた。


女の子は弓道で使うような大きな弓矢を構えており、その先端は真っ直ぐに俺に向けられていた。


「答えよ。そなたは誰だ、どこから我が領内に入った?」


彼女は総毛立つような殺気を発し、同時に矢の先端にメラメラと赤い炎がついたため、俺は慌てて弁解した。咄嗟のことで、気の利いた嘘をつくこともできず、赤裸々に今の状況を説明していた。手のひらは、汗腺が全て開ききっているのではないかと言うくらいに、ぬるぬるしてきた。


「俺は、気づいたらここにいたんだ。ついさっきまでは、全く違う場所にいた。嘘みたいな話だけど本当なんだ。決して悪意を持ってここに来たんじゃない。君の縄張りだって知らなかったし、君に毛ほどの敵意も持っていない!!信じてくれ、、、!」


彼女はしばし考えるように眉をひそめ、俺をじっと見つめた。後ろめたいことは何一つないが、燃えるような眼差しに晒され、どぎまぎと落ち着かない気持ちになる。


「確かに嘘をついているようにも見えない。しかし、結界に守られた領内にどうやって、、、結界にも綻びが生じているということか?」


少女は俺の話を信じてくれたらしい。さっきまでの剥き出しの敵意が薄れ、自問自答の言葉を呟き何かを考えているようだった。自然と弓の矢尻も下がってきたため、俺の緊張も少し緩んだ。


「どちらにせよ、筆頭長や顧問、審議員らの前でも話してもらう。こんな時世で、皆気が立っているが、正直に話せば悪い結果にはなるまい。」


少女は話しながらこちらに向かって歩いてくる。近くで見ると、切れ長の目に雪のような肌、和風の美形であることが分かった。


「何をじろじろ見ている?」


真紅の瞳を怪訝に細め、少女は俺の手首を掴んだ。


グイッ


「逃げられては困るからな。敵だとも思わないが念のため、だ。」


俺はいきなり手首を掴まれ、驚きとともに咄嗟に抵抗する。

しかし、手はまったく振りほどけない。そんなに強く掴まれている感覚はないが、俺の抵抗する力を上手くいなしているのか、可憐な少女の手のひらはしなやかに掴んで離れない。手を振りほどこうとする俺とそれを涼やかにいなして握り続ける少女の攻防の中、不意に少女の指先が俺の手の甲に触れた。



「ーーーーー???!!!!」



途端、少女が後ろに飛びずさった。

そして、困惑と恐れの入り混じった表情を浮かべ、俺の方を見た。


「そなた、何者なのだ???!どこの国から来た?!今の魔法は何なんだ‥‥!聖石を見せろ!!!!」


少女は矢継ぎ早に糾弾する言葉を紡ぎ、わなわなと震える指先で俺の手の甲をさした。


俺は少女の言葉の意味が分からず、自分の手の甲に視線を落とした。


ーーーー???????


見慣れた自分の手の甲には、見慣れぬ異物が埋め込まれていた。手の甲の中心部、中指の付け根から手首にかけて、切れ込みが入り、消しゴムくらいのサイズの石が埋め込まれている。吸い込まれそうな漆黒に品の良い光沢があり、見たことのない質感の石だった。


少女は、俺の手の甲を凝視し、呟いた。


「漆黒の聖石。」


少女は信じられないものを見るように俺の手の甲を見つめていたが、ふいに俺と目線を合わせ、戸惑ったような仕草で弓を足元に置いた。

そして、片膝をついてこうべを垂れ、礼の形を取ったのだ。


「女神の使徒、伝説の勇者よ。どうか我が国をお救い下さい。」


俺は、少女の態度の変化についていけず、彼女の艶やかな黒髪を見下ろし、暫し固まってしまった。

しかし、脳内は疑問符でいっぱいになっていた。


「な、なんで跪いてんだ??違和感しかないからやめてくれよ、、、。それと、、、勇者ってなんだ?あと聖石ってこの黒い石のことか?この石なんなんだ??!」


口を開くと、とめどない疑問が声になった。


少女はゆっくりと顔をあげ、


「やはり、私と共に集落へ来てください。筆頭長らも含め、皆の揃った場で全てご説明します。」


先ほどと打って変わって、丁寧な言葉遣いで少女は答えた。

少女は立ち上がり、先導するように前を歩き出した。


「お、おう。」


俺は疑問だらけの気持ちをどうにか沈め、少女の後ろに続いた。




ーーー伝説の勇者ってなんなんだよ?









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