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第12話 デート

「お兄さん、引き締まったしなやかな筋肉を持ってるやろ。せやから、旋棍なんてどうやんなぁ?近接戦で、攻撃も防御もできるバランスええ武器や!バランスの良いお兄さんの身体には合うんやないかなぁ。」


猫耳娘は、棚の上の方から引っ張り出した旋棍を俺の手に握らせた。旋棍、いわゆるトンファーってやつか。手から肘までの長さの棒に突起がついており、その突起を手で握って使う接近戦で用いられる武器だ。昔見たアクション映画に出てきた時は、相手の攻撃を受けることも振り回して打撃することもできる攻守とも兼ね備えた武器だったはずだ。


「何で、近接戦限定なの??」


俺は旋棍を弄りながら尋ねた。


「そりゃ、相方のお姉さんが弓使いやからに決まってるやんかぁ。」


「‥‥っ??!!何で私が弓使いだってわかるの??」


「小指のつけ根に小さいタコができてるやろ、それに立ってる時につま先を進行方向に向けた半身になりがちや。」


「.......................。」


俺とシラギは顔を見合わせた。猫耳娘は、武器選びに関して意外と信用できるのかもしれない。


「俺、武道って演技で殺陣とか組手とかやったくらいで、本格的なのやったことないけど、棍旋って初心者でも使えんのかな??」


「武器の中では軽い方だし、飛び道具に比べれば扱いやすいと思うんよ。何より、この旋棍は喜国特産のイーガブ鉱石で作られてて、濡れても錆びないし丈夫で長持ちするんよ。しかも、イーガブはマナを覚える鉱石って言われていて、使えば使うほど持ち主の魔法に適用するんよ。」


俺は棍旋を握り、ためしに軽く振り回してみる。王道の剣も捨てがたいが、トンファーもカンフーみたいでカッコ良さそうだ。それに、猫耳娘は何故か信じてしまう説得力がある。


「よし、俺はこれにしてみよう!」


「弓のお姉さんは、イーガブもええけど、魔水晶で作った矢尻なんてどうや?マナに余力がある時に、矢尻にマナ溜めとけば攻撃力がますやんなぁ。」


「それは確かに威力が上がりそう!、、、でも、魔水晶って高級なんでしょ?」


シラギが心許なさそうに、お金の入った袋を握りしめた。


「そりゃ喜国外では関税がかかっとるからやん。喜国は魔水晶の産地やから、ここで買えば安いんよ!矢尻10個で1000フェン、棍旋は2000フェンでどうや?2人とも買うてくれるんやったら合わせて2800フェンでええよ。」


俺とシラギはもう1度顔を見合わせた。長い旅路を思うと出来るだけ節約はした方がいいが、ここでこそお金を使うべきだという気もする。異世界のお金を全く持っていない俺には、会計について発言できる権利なんてないのだが。


「買うわ!!」


シラギが意を決したように、大きな声で宣言した。俺は驚いてシラギの方を振り向き、猫耳娘はにんまりと猫のようにアーモンド形の目を細めた。カウンター奥で老人のため息が聞こえた気もしたが、俺たちは猫耳娘が勧めてくる付随商品を断るのに精一杯になった。


棍旋を手入れするためのヌンガの革布と身軽に動けそうな胸あてと籠手も買い、俺たちは店を出ることにした。


「おおきに〜旋棍本気で習いたかったら、嫉妬国がええと思うで!あそこは、近接戦のメッカやと戦士の間では有名なんよ。ほなな〜、また贔屓にしてや〜。」



*************************************************


ーシラギとマシロの去った武器屋では、老人のしわがれた声が響いていた。


「お前、また適当なホラ吹いて不良在庫を売りおって。なぁにが、お客様は神様じゃ。弓使いて分かったのもエルフだからって理由だけやろ、それをもっともそうに言いよって。お前は魂から商人あきんどに成り下がったんやな。」


フンッと鼻を鳴らして、老人は手元の作業を続けている。


「おじいちゃん!私は死ぬまで職人や、そんな意地悪な言い方しないで欲しい、、。丹精込めて作った可愛い武器たちを出来るだけ多くの人の手に届けたいって思っているだけなんよ。」


「旋棍が、見るからにひ弱そうなあの坊主に買われて幸せだと思うんか?」


「うーーーん、あたしもあの兄ちゃんは心身ともに軟弱そうで戦士にも騎士にも向いてないと思うたけど、、、ただ見間違いじゃなければ黒い聖石を持ってた気がするの。」


「それ、、、、は、」


マシロたちが店に入ってから出るまで一度も止めることなく続けていた作業の手を止め、老人は褐色の瞳を見開いた。


「そやねん、伝説の勇者。かもしれへん。旋棍は伝説の書で出てくるから、ええかなぁって思ったんよ。」


「馬鹿な、あの坊主が、、、、もしそうなら、怒国のもんとおるなんて、、、最悪やないか。」


猫耳娘は、困ったように肩をすくめた。


「私は喜国のためより、可愛い可愛い武器のためを優先しちゃったんやなぁ。棍旋はあの兄ちゃんにもらわれたそうな気がしたんよねぇ。」


「フンッ、、あの坊主が勇者だったとして、今のままじゃあの旋棍を使いこなせるとは思えへん。お前もそう思うやろ?せやから、やっぱりお前は不良在庫をいいカモに売りつけただけや。」


「そうだとええけど、、、。ええんかな、、。」


猫耳娘はしばらく考えるように宙を見つめていたが、息をつくと小さな声で呟いた。


「...もし勇者なら、世界も喜国も救って欲しいもんやなぁ。」


*****************************************************


「あ、あれ魔水晶じゃない?」


シラギが驚いた顔で指さしているのは、露店に並んでいるアクセサリーだ。ミサンガのように編み込まれた紐に米粒ほどの小さな光る石がついているブレスレットのようだ。ブレスレット1つ1つについている石の色は異なり、黄、青、緑、赤、紫などあらゆる色がある。しかし、先ほど武器屋で買った矢尻は透明な水晶のような素材でできていた。


「でもシラギ、あれって透明じゃなくて色がついてるぞ。」


「ふふっ、だって魔水晶だもの。怒りのマナを込めれば赤、哀しみのマナを込めれば青、喜びのマナを込めれば緑、楽しみのマナを込めれば黄に変わるのよ。透明な水に絵の具を溶かすようなイメージね。」


シラギはアクセサリーが気になるのか、露店に並ぶ商品をまじまじと見ている。そういえば、おしゃれをしたい年頃だろうに(実年齢はどうあれ、精神年齢的に)シラギは髪飾り1つ付けているのを見たことがない。


ー買ってあげたいな。


そんな気持ちが心に浮かんだことに自分で驚く。誰かに、女の子にプレゼントをしたことなんて生まれてこの方一度もない。プレゼントといえば、小学生の時に母の日に折り紙で作った花と手紙を母ちゃんに渡したくらいだ。


魔水晶のブレスレットは人気商品らしく、目の前でも次々と売れていく。商人風の男がまとめて買って行ったり、旅人風の男がお土産にか買って行ったりする。俺たちの横にいる若いカップル風の男女もブレスレットを買おうか迷っているようだった。


イヌ耳女子「ねぇ、魔水晶のブレスレット私も欲しいなぁ。ター君お願い!大切にするからっ。」


クマ耳男子「えーーしょうがねぇな。何色が欲しいんだよ?」


イヌ耳女子「んー緑か黄色かなぁ、、、。ぶっちゃけどれも綺麗だし、赤以外全部欲しいくらい!」


クマ耳男子「むちゃくちゃ言うなよ、全部は無理だって!キナの瞳と同じ緑がいいんじゃない?」


イヌ耳女子「っふふふ、全部は冗談よ。そうね、やっぱり緑よね。」


クマ耳男子「おじちゃん、緑のブレスレット1つちょうだい。」


俺たちの隣のカップルがブレスレットを購入すると同時に、シラギが寂しげに微笑んで、


「そろそろ、次のお店に向かいましょ。買いたいものはたくさんあるし、無駄遣いはできないわ。」


「無駄遣いって、、。」


露店のおじちゃんは意地悪そうな笑みを浮かべて、俺たちを呼び止めた。


「赤い目のお嬢ちゃん、赤のブレスレットなら半額にするよ。売り残って困ってるんだよねぇ。」


「なっ、、、おじちゃん何言い出すんだよ!!」


俺はびっくりしてシラギを振り返ると、シラギは傷ついた顔を取り繕うこともできず固まっていた。俺はとっさにシラギの手を掴み、足早にその場から逃げるように歩き出した。


シラギは無言で下を向いたまま歩いている。次第に歩調がゆっくりになり、トボトボと蟻のようなスピードになっていく。


「シラギ、泣いてるの?」


シラギはふるふると首を横に振る。俺は、なんと声を掛けていいか分からず一緒に黙って歩き続けた。小一時間ほど歩きつづけ、細い路地を何度か曲がったところで、シラギが不意に顔を上げた。ぐるっとあたりを見回した顔には、困惑と戸惑いが浮かんでいる。


「ここ、、、どこ??」


俺は、真っ直ぐに見つめてくるシラギの瞳を正面から見つめ返した。


「........................迷った。」


高い建物に囲まれた路地で、見上げると細く切り取られた青空が見えた。当惑した顔で固まるシラギの手に握られた地図を覗き込むが、道が複雑に入り組みすぎていて現在地が全く分からない。いつの間にが大通りの喧騒も遠ざかり、住宅街なのかオフィス街なのか、周りに人気もあまりない。途方に暮れた俺たちは、とにかく大きな通りに出るまで真っ直ぐ歩いてみることにした。

たまに見かける獣人は皆、ジャラジャラとしたアクセサリーをつけ、怪しい葉巻をふかしている。路地裏にたむろしながら、けたたましく笑っている姿から、絶対に関わってはいけない部類の人たちだと悟った。

時々シラギに絡もうとしてくる輩もいたが、その度に俺たちは急いでその場を走り去った。進めば進むほど、路地は暗く狭くなっていき、シラギの手を握る俺の焦燥感は最高潮に達していた。その時だった。道に迷ってから初めて、まともそうな見た目の人が前から歩いてきた。背中がひどく曲がった老婆が、杖をつきながらゆっくりと歩いていた。

シラギは俺の目を見て、任せといてと言いたげに深く頷いた。


「あの、道をお尋ねしたいのですが、、、。」


老婆は声をかけられて初めて俺たちの存在に気がついたようで、やや間があってからゆっくりと顔を上げてシラギと目を合わせた。


「ミルバ、、、、???」


老婆は驚愕に声を震わせ、シラギを見つめたまま固まった。その瞳は次第に潤んで行き、今にも泣き出しそうな顔をしている。


シラギは当惑を瞳に浮かべ、困ったように俺を振り返った。



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