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前編 ややHな男子の勇気ある青春

もう少しでバレンタインが近いこともあって、

恋愛ものの小説を書いてみました。

このジャンルは初めてで、勢い任せで書いたのもあって未熟なところもあると思いますが、少しでも皆様に面白いと思ってもらえれば幸いです。

 ほぼ毎日過ごし、見慣れているはずの教室が別の世界のようだった。

 その理由は夕方になり、窓越しに差し込む夕陽のせいで教室内が鮮やかな茜色に染められているせいだったり、普段にぎやかな教室なのに、ほぼ無人で静かなせいだったりするが・・・最大の理由は僕、西宮優也と目の前にいるクラスメイトにしてクラスカースト上位の女子生徒「神園はるか」と2人きりのせいだろう。


 神園はるか

 我が校でもトップクラスの美少女と誉れ高い女子生徒である。腰まで届く艶のある黒髪、人形のように整った顔立ち、同い年の女子の平均より高めの身長でありながら、すらりとした手足と、豊かな胸をもった完璧なスタイル。中身も優秀で成績は常に学園上位でスポーツも万能。それでいてどんな相手にも常に優しく、微笑みを絶やさない上に、品が良く、礼儀正しい。

 どんな完璧超人だよといいたくなるくらいの存在。それが人気美少女、神園はるかである。


 この神園さんの人気は凄まじい。全てにおいても完璧なのに彼女を嫌う者は滅多にいない。いつも女子グループやこのクラスや他のクラスのカーストの上位であるイケメン男女集団の中で笑顔に包まれている。彼女はもてる。超モテル。かく言う僕も彼女に惹かれるその一人だ。

 残念ながら、僕は不細工というわけではないが、地味でこれと言った特徴のない平凡の男で、似た者友人たちのグループの中でひっそりかつのほほんと過ごしている。そんなグループなので神園さんのいる陽キャグループとの接点がほぼ無い。

 そのため、同じクラスメイトで、他のクラスの人より若干近い位置にいるとはいえ、高嶺の花すぎて告白すらできていない・・・それどころかまともに会話すらできていない。なんというかアイドルとただのファンくらいの距離感を覚えるのだ。

 唯一の慰めは彼女は理想が高いのか、何人かに告白されても、未だ付き合っている人はいないというところだろうか?


 そんな彼女は今、一切の表情を消して、人形のようにぼーっとしている。

 これは催眠によるトランス状態というやつだ。今この状態ならばどんな命令も聞かせられる状態にある。



 そう、何を隠そう僕西宮優也は催眠術師なのだ。



 昔ゴミ捨て場に廃棄されていた綺麗な装丁の本を思わず拾い、そこに書いてあったのを読んで覚えたのがこの催眠術である。

 とはいっても、全然大したことが無い。今までかけられたのは仲良しの僕の妹のみ。

 それも、手を上げ下げさせるような単純な命令だけで、「おやつのプリンを譲って」とか、「ゴミ捨て当番代わって」と指示したら、「え?やだ。って、あれ?何かぼーっとしてた」とあっさり解除された。

 他にも試したが、10秒放置したり、少しでも反感を覚える指示をすると従うどころか、あっさり目が覚める。そもそもイライラしたり、興奮してたらかかりもしない。先の催眠も宿題終えて、ご飯も食べて、お風呂上りの最高にリラックスした時でしか効かなかった。

 もっとしっかり学ぼうにも、その肝心な本はいつの間にかどこかにいってしまったので、どうにもならない。


 凄いようだが、そんな程度の能力なのだ。なのに何故か神園さんには思い切り効いてしまったのだ。


 今日は偶然が重なった。

 明日提出の宿題のノートを忘れて、夕方教室に戻ったところ、何か用事があったのか教室にいた神園さんと偶然遭遇。時間が時間なだけに教室内には他に誰もいない。そこで誰にでも優しい神園さんが話しかけてきてくれたのだ。普段いない時間帯で完全に2人きりの空間。その空気にのまれ、世間話の延長で思わず催眠術をかけたら・・・今に至った。


 心臓がバクバクする。憧れの相手が目の前で自分の言いなりになる状態にあるのだ。興奮しない方がおかしい。

 人気のない教室に2人きり。目の前には何でも言うことを聞いてくれる高嶺の花の美少女。そんなドラマか漫画のような出来過ぎた状況の中、僕は・・・。


「何を命令すればいいんだろう」

 何もできないまま、茜色の教室内で途方に暮れていた。



 いや、ちゃんとやってはいるんだ。両手を上げてとか、その場で一回転してとかさ・・・でもそれ以上のことがどうしてもできない。


 エッチなことをする?

 とんでもない!漫画じゃないんだ。もう校内には人気がいないとはいえ、先生もいる。部活が終わった人もいるだろう。見つかる危険が高い、当然見つかったら、どんな弁護士も弁護不能。人生の終わりだ。それ以前に意識が無い状態を襲う犯罪じみた真似など、そんな極悪非道な真似できるわけがない!


 キスをする?

 駄目だ!女の子のキスは大事なものなんだ!もしそれがファーストキスだったら、僕は取り返しがつかないことをしたことになる。彼女が覚えていないとかは関係ない。女の子のキスは大切にしなくちゃ。


 では、目覚めたら好きになるように命じる?

 絶対にダメ。それだけは何があってもダメ!人の意思を捻じ曲げるなんて肉体を弄る以上にゴミ以下の最低の行為だよ。例えそうなったとしても肝心の彼女の本心が望んでない行為など脅迫して無理強いさせるようなものだ。そんなクズ以下のふるまいなんて絶対ダメだ!


 下着を見せて?

 それならいいだろうか?しかし、本当にいいのだろうか?・・・っていいわけないじゃん!ただの変態だよ!いくら言いなりだからって他人に下着見せるなんてひどいマネできないよ・・・。


 とそんなこんなで勢いで催眠をかけたものの何もできず立ち尽くす僕。

 いかに催眠がかかったとはいえ、これ以上は流石に目が覚める!・・・そうだ!


「西宮君大好きですって言ってもらえる?」

 ぐるぐる考えて出た命令がこれ。まぁ、これくらいならば、流石にいいだろうと思って出した命令だが、思いがけない効果を生んだ。

 神園さんは僕の命令通りにその言葉を繰り返す。


「西宮君だぁい好き♪」

「おっふぅ!?」

 その瞬間、僕の口から変な声が漏れた。


 やばいやばい!何これ何これ!?まじやばいんですけど!?トランスのぼーっとした表情でただ言わされているだけなのに、この破壊力。これがもし本気で好きない相手に言っていたらどんな相手もイチコロだろう。

 好きな相手・・・か。自分で言って少し考えた。


「神園さんは、す、好きな人はいるんですか?あ・・・名前は結構です」

 ついに聞いてしまった。怖くて名前を聞くことすらできないのが我ながら情けない。

「います」

 そんなチキンな僕に神園さんからの返球はストレートで帰ってきた。

「あ・・・」

 やっぱりいるんだ・・・そうだよね。高嶺の花でアイドルみたいに思っていたけど、彼女も普通の女子高生なんだ。しかも、男はより取り見取り。その中には神園さんが好きになれる人もいるに決まっている。

「その・・・今付き合っているんですか?」

「いいえ。怖くて告白もできていません」

 ほんのちょっぴり安堵した・・・そんな自分に嫌気がさす。相手にすらされていないくせに付き合っていないという事実だけで、可能性があるなんて思ってしまった。

 ただ気になる答えが。怖いって何だろう?

「怖いって、なんですか?」

「彼に好きな人がいて、振られるのが怖いです。断わられたと考えたら・・・苦しくて悲しくて耐えられません」

「そうか」

 そうだよね、振られるのは怖いよね。当たって砕けろなんていうけど、そんなのは勇気ある人か何も知らない人の言える言葉だ。好きな人に嫌われる、別の人と結ばれ、自分に振り向くこと可能性が消えるというのがどれほどの絶望か。何でも言うこと聞かせられる状況で何もできないような臆病者な僕にはよくわかる。

「でも・・・好きな人って、森岡君かな?それとも同じグループの」

 僕は神園さんとよくお喋りし、一緒のグループで親しげなクラスメイト・・・陽キャというのかな?僕とはまるで違う彼ら・・・の名前をつい口にしてみた。

 その瞬間、神園さんは虚ろな目のまま思い切り顔をしかめ吐き捨てるように言った。

「違います!」

 え?なにこの勢い。すっごく眉を顰めて、私不機嫌ですと顔で語っている。

「私は森岡シンヤのことが大っ嫌いです」

「え?」

「彼らのグループと一緒にいるのは学園生活を円満に過ごすためです。全員本気で好きではありません。とくに森園シンヤは事あるごとにエッチな言動して、嫌がっても照れているだけだと思い込んでいる自意識過剰で無神経なところが死ぬほど嫌いです。それに昔いじめていた男の子を思い出して、なおさら嫌いです。付き合う女性をアクセサリーみたいに見るところも嫌いです」

「・・・わぁお」

 嫌悪丸出しでまさに吐き捨てるように言い放つ神園さん。とんでもないカミングアウトを聞いてしまった。仲良しグループと思いきやこんなドロドロしていたとは・・・怖いよぉ。明日からどんな目で見ればいいのだろう。いや、特に接点はないんだけどさ。

「うぅぅぅん?」

 神園さんがうめき声を上げる。いけない!感情の昂ぶるスイッチを押してしまったためか、催眠が解けかけてきている!?

「まずい・・・ええっと、どうしよう!?えっと、これからも頑張って行こうね!」

 何をどう頑張るんだよ・・・最後に何かしないとと、慌てふためいて結局、自分でも訳の分からない言葉を紡いでしまい・・・僕の人生最大のチャンスは幕を閉じた。


 そして、それからすぐに目をぱちくりさせて、神園さんの顔に表情が戻ってきた。

「あれ?えーっと、西宮君?私何してたんだっけ?」

 完全にいつもの彼女に戻った。どうやら催眠術のことは覚えていないらしい。ちょっとひと安心。

「え?世間話してただけだよ。そうしたら、ぼーっとして、疲れたんだね。もう、帰ろうか」

 と促し、教室のドアに向かおうとすると。くいっと何かに引っ張られた。見ると、神園さんが僕の服の裾を引っ張っていた。

「え?神園さん?」

「あのね・・・西宮君・・・私・・・その」

 頬を赤らめて、もじもじしながら彼女は僕の顔を見つめて、一歩僕ににじり寄る。

 いい匂いとその美貌に思わずくらりとする僕。

 そして、もう一つの物語が始まった。


お読みいただきありがとうございます。

なおHはヘタレの頭文字のHでした。

半端な終わりですが、明日同じ時間に続きの後編をあげますので、興味があればお読みください。

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