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魔法使いの日常(打ち切り)  作者: ファミア・エルゼル
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フェニックスパレス 食い物の恨み

「火のファイアボール!」

 ドカーンと爆発し、柱が崩壊する。

 ぼくはとっさに「氷のアイスタワー」を唱え、柱の下敷きにならずに避ける。

「俺の肉まんをとったやつはだれだー!!」

 高らかに大声を上げる一人の学生。

 彼が怒っているのは、夕食後のおやつ肉まんを喰われたことに腹を立てていた。


 事件が起きたのは今日未明、夕食後後片付けをするぼくらの目の前においしそうに味付けるTの姿があった。Tはこの学校の生徒で同じクラスなのだが、チームが違うので、ほとんど顔を合わせることはない。合わせても食い物の話ばかりで、これといった趣味の話とかで通じることはなかった相手だ。


 そんなTを怒らせる事件が起きたのだ。

 Tの大好物であった肉まんをだれかがとってしまったということだ。


 教室から出て行ったのはT以外、全員いた。チームは2つで計5人。AとR、KとぼくとMの5人だ。全員アリバイがあるし、Tの大好物である肉まんをとる奴はいなかったはずだ。

 それが、トイレから戻ってきたTが激怒したのだ。

「俺の肉まんをとったやつはだれだーー!!」


 Tが怒ったら止められるのは先生ぐらい。

 使い魔を使っても乱暴に止めてしまう結果となってしまうだろう。お互いに平和的に解決するとすれば、肉まんを盗んだ犯人を突き止めるか、肉まんをみんなで出し合って皿に乗せるかの選択肢だ。

 後者は選べない。選んだ瞬間、犯人扱いにされるのが終いだ。

 ぼくは、誰が犯人なのだとは微塵にも思っていないからだ。


 肉まんが消える直前を見ていたのはぼくしかいないからだ。

 事実を言っても信じてはくれないだろう。むろん、ぼくが犯人だと疑われて終いだ。


 ぼくはどうにかして打開策を見つけるしかない。見つけなければ、教室が崩壊してしまう。そうならないためにもTを止めなくてはならない。

「火のファイアボール!」

「火のファイアウォール!」

 Tの攻撃をMが防ぐ。

「おい、待てっよ、盗んだのはこのメンバーにはいない!」

 ぼくが訴えかけたがTは怒りで訊く耳を持たなかった。

「盗んだ奴はだれだー! 今なら、半殺しで許してやる」

「オレじゃないぞ、いくら俺でも半殺しになるってことをわかっている状態で、取って食ったりはしない」

 Kが真っ先に違うと言った。

 たしかに、あのとき、テーブルの端っこでネットを見ながら、次の話題となる噂を検索していた。Kのはずがない。

「俺だって違うぞ! 現に、同じチームでありながら盗むという無謀なことはしない」

 Aが弁解した。Rも同意見だと述べた。

「Mと○○しかいない。正直に言え、いまなら八割がたで許してやる」

 先ほどよりも増えているじゃありませんか。

「T! 俺が盗むわけないじゃないか。そんな不易なことをして俺に得があるのか? ないだろう」

「なら、お前が犯人だ! この泥棒め!!」

 ぼくに指をさしながら怒鳴った。

 明らかに僕を適している。それよりも最後に残ったからと言って犯人扱いされるのはごめんだ。

 ぼくは違うと弁明しようとしたが、聞く耳を持っていないのか、早速魔法を打ってきた。

「火のファイアボール!」

 ぼくはとっさに教室から出て長い廊下を走って逃げた。

 扉から出た瞬間に火の玉が壁に触れ、爆発する。爆発の威力で吹き飛ばされそうになったが瞬時に判断したスライムによってぼくの身体が床にたたきつけられることなく、クッション性があるスライムの身体に受け身をとられ、すぐに態勢を整えることができた。


「水のアクアエッジ

 水の刃だ。水が渦を巻いて襲ってくる。カマイタチのようなもので回転してカッターのように襲ってくる魔法だ。あれに切られたら鋭利な刃物で切られたのと同じものだ。

 ぼくはとっさに防御魔法を唱えた。

「衝撃を封じるストップウォール

 ドカドカと壁に伝わる衝撃波。

 防ぐことができたら、近距離の魔法では防ぐことはできない。

 ぼくは再び走り、距離をとるために〈疾風の靴〉魔法を唱え、ダッシュ力を増幅した。

 壁が崩れると音ともに再度〈水の刃〉が飛んでくる。


 階段から身を固めてジャンプした。

 床へ着席すると同時に、水の刃が頭上へ飛んでいくのが見えた。

 Tを敵にすると怖い。

 Tは学年内でも距離攻撃に優秀と印鑑を押されたほどの才能を発揮した天才児だ。知識や運動能力は平均的にも低く、食べ物にしか頭が動かないなど欠点はあるが、魔法の弱点の一つでもある〈距離〉を引き延ばす才能を持っていた。

 〈距離〉は、攻撃にとって重要なものにあたる。

 距離が短いほど、魔力の才能としての器用性が低く、近距離に重視した魔法が多くなる一方で、遠距離に長けているほど器用性が抜群に上手いことを表している。

 Tは〈距離〉の才能がある。ゆえに、近距離で最強の魔法であっても遠距離でも届いてしまうほどの力強さを持っている。つまり、死にまつわる魔法が遠くにいても狙えるというとても敵に回したくない輩であるということだ。

「ぐぬぬ。そこまでして逃げるのか!? 殺しは止めだ、押しつぶす。そしてお前の肉を代わりに食ってやる!」

 おいおい、冗談だろ。それ、人肉を喰うってことだろう? ゾンビやグールじゃないんだから、そんなこと許されるわけないだろう。

「水の刃!」

「冗談じゃ、済まされないぞT!」

 学校の廊下に存在している窓が割れたり、柱が崩壊したり、床が沈んだりとやりたい放題だ。

 このままでは学校を壊しかねない。

「クソ、魔法で抑え込むか?」

『いい案だと思うよ。じゃないと、学校が沈んでしまうよ、このままだと』

 スライムの意見に従う形で強制半場、Tを抑え込むことにした。

「Tすまない、〈強制圧重力〉!」

 とてつもない負荷をTに押し付ける。床にメリメリと音を立てながら、下の階へと押しつぶされていく。重力の強制的に圧力をかける魔法だ。禁じられている魔法のひとつで、このことを知られたら退学だけでは済まされないだろう。

 その覚悟で、Tを下の階へと追いやった。

「それにしても、犯人は誰なんだ? 見ていたろ、あの時の光景」

『あーん、犯人はKの使い魔のシャドウウルフだよ。肉まんに食らいついて持っていたのを目撃したよ。そんとき、Kさえも気づかなかったことが驚きだったよ』

 ウハハと笑いを上げるスライムにぼくはどうやったら収拾が収めるのか尋ねた。

『そうだな、犯人を晒せば、いいが、それだと根本的に解決にはならない。なら、妖精さんのせいにすればいいじゃないかな』

「妖精さんに?」


 学校の一部を崩落させたことを怒られるT。先生数人に囲まれ、なぜこのようなことを問われていたとき、ぼくがしでかしたのだと報告した。

 ぼくは禁じられているはずの重力魔法を使ったことに先生から怒りの声が上がった。

「なんてこなとなの!? 生徒に、しかも友達に〈重力魔法〉で攻撃し、学校の一部を破壊するなんて!」

「しかも、聞けば、生徒の食べ物を勝手に奪ったということじゃないの!? なんてことなのかしら、昔から”食べ物の恨みは怖い”って聞かされなかったのかしら?」

「だから、禁じられた魔法を知っているこの子を入学させるのは反対でしたのよ! これで、ようやく決断できましたわね、みなさん?」

「ええ、生徒に危害を加え、学校を破壊させた罪、禁じられ魔法を無断に使用と、退学だけではすみませんよ」

 先生たちからの言いたいことが次から次へと襲い掛かってくる。Tがしでかしたことは明らかに無視していた。学校内で才能あると言われたTがこんなことをしても追い出すことができないことを知っているからだ。

 Tを追い出せば、この学校の恥、そしてTを他の名門学校に取られれば、この学校はおしまいだと先生たちは思っているのだろう。だから、ぼくひとりに責任を負わせ、事の収拾を図っているのだろう。

「おまち、その生徒は退学にすることは許しません」

「校長!!」

 小柄で小太りな老婆が姿を現した。この学校フェニックスパレスの校長だ。迷宮とも呼ばれたこの学校の地形をすべて知り尽くした女性と言わしめるほどの人物だ。

 そんな校長がぼくを引き留めるなんて、どういう風の吹き回しなのだろうか。

「校長! 甘やかしてはいけません! この生徒がすべての元凶なのです!」

「あら、どうしてからしら? この子の使い魔が教えてくれたわ。妖精さんが放置されていた料理が猛威いらないのだと捉え、捨てたと言っていたわ。現に、妖精さんも証明してくれたわ」

「…ですが!」

「これで収まらないの? たしかに、学校を崩壊させたのは事実ですが、これはTが暴れたために仕方なくそうしたまで。じゃなかったら、人殺しとしてTは捕まり、我が学校は人殺しという罪を背負うことになるところだったのを、○○が解決してくれたのよ。なら、今回の退学の件はなし、じゃないかしら」

 先生たちはぐっと固まった。

 なにもいえなくなってしまったからだ。

「○○、盗んだんじゃなくて、妖精さんが片づけていたのか?」

 Tが急にやってきたことに罪を感じて、青ざめていた。

「ぼくの使い魔から聞かされるまで、気づかなかったことだけどね」


 少し前、スライムから提案された。

『妖精さんが近頃、ネズミの被害が多いと喚いていてね、原因は食べ物の放置ということだったから、この際、妖精さんに片付けたことにしてしまえば、納得してくれるだろう』

 そう言っていたのを思い出した。


 現に、妖精さんはどの食べ物を片付けたのか記憶していなかったので、幸いしたのだが、このスライム、どこまで知り尽くしているのか、妙な気分になった。

「さて、学校の修繕は、この学校のシステムが直してくれます。それと、Tと○○はしばらくの間、妖精さんの手伝い”食べ物を放置しない”を手伝ってもらいます。いいですね、みなさん」

 先生たちは敬礼し、去っていった。

 こんな禁じられた魔法持ちの生徒がいることをよく思っていない表れなのだろう。

「校長、助かりました。おかげで、退学にならずにすみました」

「禁じられた魔法は確かに悪いことだけども、使い方次第で変わることなのよ。だから、めげないで、自分の信じた気持ちで突き進みなさい」

 校長は会釈して、闇に消えていった。


 後日、Tと一緒に食べ物が放置されていないかを見回りながら、寝ることにした。

 Tが「もったいない」と言わんばかりに、食べ物を口にしていたのは秘密だ。Tのおかげでネズミの被害が減ったのだから。

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