魔法使いの密告(未完)
素人でも魔法使いになれる学校ヘデス。
魔法使いでしか通れないトンネルを通った先にある学校。魔法使い以外は特殊な結界で入口に戻されてしまう。ナリタはこの結界のおかげで最初は通ることができなかった。
困っていたところ、中年の女性に声を掛けられたのが最初のきっかけだった。
「どうしたの? こんなところで、もしかして……」
魔法使いじゃないとバレル。そう思いとっさに嘘をついた。
「実は、友達とふざけ半分で遊んでいたところ、魔力をうまく使えない呪いに掛けられたみたいで、結界を超えられないのです」
中年の女性は「あら、まあ」と声を上げると、わたしの額に指をあてた。
「嘘は言っていないわね」
確信のために触れたようだった。
これが嘘だと判別できなかったようだ。
「わかったわ。私の魔法で通してあげる。規則違反だけど、その友達に厳罰与えないとね」
そう言って、結界を解除してもらい、入ることができた。
魔法使いに嘘は通じる。私はそう確信し、明日、同じ手で友達を誘うことにした。
明日が魔法学校ヘデスの試験日。実技はすでに終えており、後は筆記試験のみ。それさえ達成できれば、魔法学校ヘデスに通える。魔法使いになれる。私は、胸の希望を持ち、明日に向けての作戦に出た。
こうして、少女ナリタは偶然にも親切な魔法使いによって生徒として入学に果たした。
念願の魔法使いに慣れて興奮していたナリタ。友達のアンナも浮かれていた。
素人が――魔法を持たない一般人が入学できたからだ。今までそんな事例は一度もなかった。魔法使い以外が学校に入学できた事例がなかったからだ。あの結界を通り抜けられなかったら魔法使いではない。そんな掟を看破することができたのだ。
アンナとナリタは興奮でその日は眠れなかった。
次の日、正式に生徒となった二人は学長から授かった〈入港手続き書〉をもらった。これは、結界を通る際に魔法を何回も使わずに済むというものだった。生徒として当たり前のもので、これがあれば、誰かに嘘をついて通る必要もなくなる。
アンナはぎゅっと握りしめ、〈入港手続き書〉に感謝し、結界を何度も通ったり戻ったりを繰り返して堪能した。
一週間になれば、実習が授業に入るようになってきた。
魔法使いとしては当たり前のなのだが、魔法が使えない。ナリタは悩んだ。魔法が使えないと知られれば、私たちは厳重な処罰を受けることになる。そうなれば、魔法使いとしての希望も明るい未来も失ってしまう。
それを避けるべく、ナリタは故郷から持ち出した道具を用いて、見事魔法使いだと証明し始める。
炎を指から発する魔法を唱えるよう授業があった。アンナとは別クラスになってしまったが、やり方を回避する方法をすでに伝えてある。
「ユビカラチイサクホノオヲアゲナサイ」
先生は呪文を唱えると、ボウっと人差し指から蝋燭のようにユラユラと赤く小さい火が付いた。生徒たちは真面目に先生を見つめながら、なにかを唱える者はひとりもいなかった。
ナリタは内心、
(すげぇー! カッケェー! ワンダフルー!!)
と叫んでいた。
憧れの魔法が手が届きそうなところにある。
ナリタは興奮していた。目をギラギラと星のように光り輝き、魔法に対するあこがれを強く抱いていた。
先生が手を叩き「皆さんもご一緒に」と合図を送るまで、先生を凝視していたのはナリタぐらいだった。
「うむむ、難しい」
メガネをかけた茶髪の少女が指先から火が出るように念じていた。それはやり方が違うと隣の生徒に笑われていた。
「こんなことは簡単なことですわ、見てらっしゃい皆さま!」
調子をこいているツインテールの少女が見事に失敗して見せた。数人の注目を集めたものの見事に失敗を果たしてしまい、落ち込む。
「今のは、偶然による失敗です。決して確実の失敗ではございません!」
一生懸命に訂正はしているが、失敗の後。それに、その後、何度も繰り返すが失敗してしまい、釈明の余地がなくなってしまう。次第にツインテールの少女は泣き顔になり、それを見た先生が少女に歩み寄っていった。
(いまだ!)
ナリタはカバンに隠し持っていたライターを取り出し、懐に隠した。
おおいに改良したイカサマの魔法だ。
「ナリタさん、できましたか?」
不意に先生が後ろに立っていたことに気づかなかった。鼓動が大きく跳ね上がる。
冷静を装い先生に振り向いた。
「はい」
力なく返事をするが、先生の瞳は睨むというよりも少し心配げな目をしていた。
「あの子、魔力が底をついてしまったの。他の生徒も上手くいっていませんし、私は先生としてやっていけるかどうか不安です。でも、先生は応援します。そのために魔法使いになったのですから、では、見せてください」
先生は意味深なことを言っていた。
まるで魔法使いではない、魔力がないということを確信しているかのようなナリタに心配を装い、どこかがっているかのような感じだった。
ナリタは深呼吸し、仕込んでおいたイカサマを披露した。
服の中に仕込んだ竜の鱗を使った小さなカバンにライターの原理と同じように二つの液体を入れ、左右入れ替われないように中の作りをうまく作り替えた。
竜の鱗は火に対する耐性があり、今回のような検証にはもってこいものだった。
右手の指に仕込んだ小さい穴。チューブが竜のカバンまでつながっている。
左手の指がスイッチになっており、スイッチを入れるかのように親指と人差し指でタッチすると、火の手が上がった。
「そ、それはまさに私が求めていた結界です!」
先生は喜びを上げた。
単純に考えれば、これは魔法でも何でもない。
チューブだって、皮膚と同化しているわけではない。手に触れたりじっと見つめられば、簡単に見破られてしまう。そんな単純で不器用な状態だ。
必死で指に触れられないようにしていた。先生が手を握ってこようとしたので、「先生、まだ火を止めていないので、待ってください」と言い、火を止めた。
先生は「ごめんなさい」と謝っていた。
感動の末だろうか、一人の生徒に喜びを誓い合うのは校則として禁じられている行為だ。他の生徒や先生に失念を抱いてしまうからだ。
「みなさん、ナリタさんはできました。他の生徒もできましたら手を挙げてください!」
「はーい!」
次から次へと生徒が手を挙げ、火の魔法は成功に収めた。
それから手から水を放出する魔法の実習があった。
これは、原理は同じでオイルを水に変え、水道水と同じ原理を利用して、乗り越えた。
先生からは期待の星だと言われたが、正直嬉しかった。
二メートルほど飛び越える授業があった。
靴にバネを仕込み、宙を舞った。一メートルはギリギリいかなかったが、「こんなこともある」と先生はフォローしてくれた。
水の中で宝石を探すというゲームみたいな授業があった。
水から顔を出したときは失格になるという厳しいものだった。
生徒たちは空気を詰め込んだ道具や魔法を用意し、空気を逃がさないように、なるべく長く持たせるようにして水の中へ飛び込んだ。
水中では魔法が使えても酸素を作り出すことはできない。
「危なくなったら、先生が助けるから」
と先生は言っていたが、空気をどうにかして水の中へもぐりこみ、生きを長く持たせるかが重要だった。道具は必要再現で、目立つものや大きいものは魔法使いとしてどうだろうかと評価にガタがついてしまう。
ナリタは必死で、考え、水の中へ飛び込んだ。
見事、クラス12人いる生徒から四番目の記録6分耐えて見せた。宝石も4個見つけ出した。
賞賛の声を称えられた。
一番目は驚異の15分、宝石は9個。
二番目は12分、宝石は7個
三番目は1分、宝石は5個
十二番目は15分、宝石は0個。
ビリだったのがあのツインテールの少女だった。少女は「探したけど見つからなかった」とベソをかいていた。それもそのはず。ツインテールの少女は見当違いの場所を探していたからだ。先生が決めていた範囲を超えた場所で探していたため、長く潜ったのに、宝石はひとつも手に入れられなかったという結果を出してしまった。
ナリタが残ったのは単純な仕掛けだった。
前もって水の底に空気を入れた袋を重りを乗せて静めさせておいた。
他の生徒たちにバレる可能性もあった。
水底にある藻を使って、カモフラージュしてなんとか最後までバレることはなかったが、ツインテールの少女が「これなんだろう」と拾い上げた藻の塊の空気を詰めた袋を見つけたときは焦った。
「新種の藻? かな」と適当なことを言い、「勝手に採取するのはよくないよ」と告げ、水の中へ戻してもらった。
そして、こんなことを続けていたある日、事件が起きた。
アンナが動物に変身させられたという通告が届いたのだ。
校則を破り、”魔法使いでもないものは動物に変えられる”という契約書を思い出し、アンナの元へ駆け出した。アンナは校長の部屋にいると聞いていたからだ。
扉をノックもせず、開けたナリタに校長は怒鳴ったが、目の前に変わり果てたアンナの姿と、支給された服やカバン、筆記道具、教材、数々のイカサマ道具が散乱していた。
「全くもう。遺憾ですわ」
校長は怒りをぶちまけていた。
「魔力を持たないもの(アンチ)が侵入しているとは、我が学校に汚名を着せるとは…なんという事実、何という不愉快だ」
校長はナリタに睨みつけ尋ねた。
「この子とは知り合い?」
「ええ、試験の日にあった友達です。意気投合して、ずっと一緒にいました。」
「ふーん…なるほどね…ふーむ」
校長はなにか知っている振りをしていた。
ナリタの鼓動が一層に高まる。
(バレたのか!? いや、ありえる。学長が)
そこに先生が後を追ってナリタをフォローしてくれた。
「この子は先ほどまで、わたしと授業を受けていました。それに、何度か一緒に授業をすることもありましたが、この子はアンチではありません。現に何度も魔法を見せてくれました。」
「では聞きますが、それがイカサマ――嘘ではないと言い切れますか?」
「大丈夫よね、ウソじゃないもんね」
先生は信頼の眼差しを見つめる。
正直辛いと感じた。今までしてきたことはすべてイカサマ。しかも嘘の繰り返しだ。先生にも嘘を言っては心を痛めた。でも、真実を言えば、アンナのように動物に変身させられてしまう可能性だってある。
ナリタは心を込めた。そして、誓った。
「私は生まれてきてから嘘は何度かついたことがあります。ですが、先生の期待を裏切るような嘘をついたことはありません。それはすでに先生が証明してくれています」
校長は間を開けて告げた。
「いいでしょう。信じます。ですが、本当に魔法使いであるということは証明できません。なぜなら、私は見ていないからです。簡単な魔法で構いません。私の前で魔法を見せてください」
そうなってほしくないという選択肢が目の前に現れた。
それはイカサマをせずに堂々と魔法を使って見せろというものだった。
校長ならイカサマも見破ってしまう。
ましてや、今手持ちに何も持っていない。持っているのは頼りがなく一度も使ったことがない杖だけだ。
「ナリタさん…」
先生の信頼を得るために杖を取り出し、魔法を唱えた。
「ツエノ センタン カラ ホノオ ヨ デテキテクダサイ」
スンともいわない。まるで声を聴いてくれていないかのようだ。
「どうしましたか?」
校長の声が耳を差す。まるで鋭い刃物を耳の中へ向けているかのような感じだ。
痛くて痛くて辛い。でも、やらなければ、動物に変えられてしまう。
焦りは禁物。でも、ここを凌がなければ解決できない。
「ツエノセンタンカラヒヲアゲテクダサイ。オネガイシマス」
すると先端からうっすらとだが火が付いた。すぐに消えてしまったが校長を納得することには十分な成功だった。
「よろしい。認めます。ですが、この子はこのまま処分します。家族たちには申し訳ありませんが、記憶を消し、この子の存在は闇に失せます」
どうしてそうなるのか、ナリタは訴えようとしますが、先生は引き止めます。
それから、注意事項を受けますが、校長や先生の声が届かなくなりました。
友達のアンナがこのままでは処分されてしまう。
生気が失われていくナリタを庇ってか「それは少し強引なのでは」と先生が反感しますが、「規則は規則です」と押し入れられてしまう。
結局、アンナの将来は消え失せてしまいます。
校長室から出るとツインテールの少女がいました。
「危なかったですわね。私のとっさのフォローが無かったら危なかったですわよ」
「…ありがとう」
「全く。私や先生にフォローを頼むとはアンチとはいえ、信じられないことだらけですわ」
「クレハさんはいつからお気づきに?」
先生が尋ねた。
「先ほどですわ。友達のアンナさんが”呪いをかけられた”と聞いたのですわ。それで、ナリタさんがやったと校長に疑いを掛けられていると聞き、私はフォローに向かいましたわ」
「あの時の魔法は、クレハさんが?」
「ええ、ナリタさんは入学してから数日後に”呪いをかけられた”と説明してくれましたの。あの水辺のイベントの時に教えてもらいましたわ。呪いは呪いをかけた人を見つけないと解けないといい、ましてや、魔力を持たないこの学校では彼女はとても不都合な状態ですわ。それで賭けをしましたの。私に魔法について教えてもらう代わりに、”呪いの解き方”を探る条件を結びましたわ」
クレハはナリタの嘘を信じてくれた。
”呪いをかけられた”はウソ。魔法使いだったのを魔力を封じられ、魔法つが使えなくなったというでっち上げを立証するためのもの。
”呪いをかけられた”であれば、魔女や悪用する魔法使いが行う最低な魔法のことだ。解除の方法はいまだに当の本人を探して解いてもらうまでは解除できない。
それに、世界中探しても一年にひとりか二人までしか見つかっていない現状で、”呪いを解く方法”を探すのは難しい。ましてや、使用した魔法の刻印もなければ証拠もない。
二人には悪いけど、魔法は使えない。
嘘とイカサマで乗り切るしかない。
杖の先端に火をつけたのはクレハさんのフォローがあってこそのことだ。
先端に火をつけるというのは難しく、同じクラスでも同じことができる人は限られている。校長の眼をそむけ、信頼さえ得ればいい。
クレハにお願いして、魔法が使えるというアピールをしてもらった。
「それで、アンナさんの件はどうします?」
「処分される。でも、どうしてアンナが厳罰受けたのか知りたい。話では密告があったって聞いたから」
「…密告」
二人は息を止め、唾を飲み込んだ。
「密告者が何らかの方法でアンナを追い詰めた」
「”呪いをかけられた”二人には密告者にとってはアンチ当然。厳罰を受けてもおかしくはない。けど、やり方が強引すぎる。」
「アンナは何か見たのかもしれない」
重たい口を開くナリタ。そして言う。
「誰かの秘密を知ってしまったために、填められたのかもしれない」
と、大ウソを告げた。
二人は衝撃が走った。
アンナたちを陥れて得をする人物。
「絞られましたは、アンナさんを毛嫌う連中を4人ほど知っていますわ」
クレハの証言で、アンナを狙った4人の容疑者が浮かび上がった。