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魔法使いの日常(打ち切り)  作者: ファミア・エルゼル
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フェニックスパレス 英雄と世界剣

 遥か昔、まだ魔人と呼ばれる怪物が大地を降臨していた時代。ある英雄フォークリフは世界を揺るがす剣を神から授かり、その剣で魔人が支配する国々から解放を求めて剣を払ったという。

 魔人の息吹に掛かる国々から魔物が次から次へと逃走し、そして、英雄フォークリフは魔人を追い払ったと伝説となった。


 その後、英雄は彫像となって世界に君臨した。


 英雄フォークリフの彫像はいまも帝都に佇み、人々から貢献と感謝を込められた祈りを送っている。

 その噂を聞き、Kが帝都へと足を向かった。

 Sは一足先に、帝都へ赴き、バイトで近くの喫茶店で仕事をしていた。

「よう、S!」

「おう、お前らもきたのか」

 旅行気分で帝都に来たぼくらを不安げに睨みつけた。

 そんな装備で大丈夫なのかと。いう眼つきだった。

 たしかに、一般的に私服で旅行する感じだった。帝都へ行くということが分かっていれば、もう少し服装を整えて着ていたのだが、Kが肝心なことを述べず、「Sのバイト先へ行こうぜ」と持ち掛けられ、Sのバイトってどんなとこかなと疑問を抱きながら、来たわけだ。

 電車に乗って、長い時間を経て、到着したとき、ぼくはやってしまったと痛感した。

「――像ってどこにあるのか知っているか?」

「像…ああ、ここから東に行った先に駅のホームがある。そこから南にいくと階段があるからそこに彫像が立っているぞ」

 もっていた地図を手渡し、そこまでの行先ルートをかいてもらった。

「Sはいかないの?」

「まだ仕事だからな、終わり次第、合流するよ」

「待っているぜ、お前の案内なしじゃ、俺らは田舎者だからよ」

「それ、田舎の人に迷惑だよ」

 とぼくはKにツッコんだ。


 喫茶店から離れ、ぼくらはある彫像に向かって歩いていた。

 かつて英雄と呼ばれたフォークリフにはもうひとつの逸話が残っている。それが、剣の行方の話だ。

 物語ではその後、剣の行方のことは記されていなかった。そして、魔人はどうなったのかもわからないままだ。

「ついたぞ」

 目の前に広がる公園。噴水の中心に立つ大きな彫像。高さは7メートルはあるだろう。「7メートルあるぜ」と実際に高さを図っている連中がいたので、そうだと思うことにした。

 見るからに気高く年季が入っているためか色が変わってしまっているところがあるが、時代に関係なくそのまま、そこに居座る気高きその英雄はぼくらを圧倒させていた。

「これが、英雄…フォークリフ」

 ぼくは目の前にして口が閉じることができないほど圧倒的な光景に驚かされていた。

 重々しい鞘を持った手甲、マントを着用し、網模様の鎧を装着している。その彫像は、いかに大切に扱わられてきたのか想像ができる。

 そんな彫像を前にして、なにを思ったのかKが呟いた。

「なんーか、違うんだよな」

「違うってなにが…?」

 Kに問うた。あれだけ、見たいと思っていたはずが、なにを思ってそのようなことを言ったのか気になったからだ。

「この彫像さ、学校の図書館にあった写真と比べて明らかに作りが違うんだよ」

「違うって?」

「まあ、これを見てくれよ」

 手渡される一冊の本。それは、昔の彫像が写っていた本だった。それと、この本は見覚えがある。

「図書室からパクったのか」

「違う、妖精さんに頼んだけどダメって言われたから、今日中に返すって言って借りたの」

 妖精さんとは、学校で従業員の代わりに働いてもらっている小人のことだ。姿かたちみんな違うけども、魔力を報酬として働きに来てもらっている。彼らがいなければ、学校の大半は崩壊してしまうだろう。

「それは、借りるのはとは違う」

「まあ、今日中に返すのは事実だ」

 それ以上言うのは止めた。どうせ、聞かないのだから。

 それにしても本と見比べてみる。

 確かに本に残された昔の写真と比べてみると明らかに違うのだ。彫像の高さは明らかに倍に作られている。体付きは少しガタク作り直されているし、マントも着ていないはずなのに新たに加えられている。しかも、配置されていたのは駅ができる前のホームで、駅を作るために大かた移動したのだろうと推測ができる。

 けど、それだけではなく、問題はこの彫像からは違うなにかが放っていることだ。

「…もしかして生きているのか?」

 彫像に対して”生きている”という意味はおかしいところだが、Kもなんとなく違和感に気づいていたらしく同じことを思っていたと話してくれた。

「つまり、この彫像は生きたまま、石化しているということなのか?」

 このことを言ったとき、背後から一人の男が「そうだ」と答えた。

 ぼくらは振り向くとそこにいたのは白髪の男性だった。帝国軍の服を着ているところからして、高齢で権力がある人物だとわかった。ぼくらは慌てて敬礼をしたが、男は「よいよい」とニコリと笑って手を振っていた。


 場所を移動し、Sが働いている喫茶店に移動した。

 そこでぼくは紅茶を男とKはコーヒーを注文した。

「さて、どこから話せばいいのかね」

 男は少し考え事をしながら一つずつ呟くかのように積み重ねていった。

 ぼくらは、なにかしでかしたのかと思い、ぐっと出された飲み物を呑めず、生きを呑んでいた。

「緊張せずとも、ただのお話を聞くというだけでいいのじゃ」

 男は軽率に言うのだが、そんなこと鵜呑みにもできず、ただ出されたものを飲まずに帰るのは失礼だとグイッと飲み干して、黙った。

「まあ、よいじゃろう。さて――」

 男はポツポツと口にした。

 あの彫像が生きているということはどういうことなのかを話してくれた。

「わしは、英雄フォークリフの子孫にあたる。先祖である彼の話は代々受け継がれてきた。遥か昔、魔人がまだ大地を征服していた時代、世界剣と呼ばれる世界を切り裂くことができる剣を授かった男がいた。彼は無実の罪で牢に入れられ、苦しまれていた。

 そんな彼が神から剣を授けられ、罪を背負う形で牢を出て、魔人を切り裂く英雄となった。国々を支配していた魔人の配下たちを払いのけ、次から次へと国を救っていった。

 あるとき、魔人に貶められた女性が英雄が実は、魔人と暗躍していたと嘘の話を持ち掛ける。その話を民間人は信じなかったが、ある鋭く国を切り裂くほどの威力を持つ剣のことを考えると、実はグルではないかと浮上した。

 英雄は魔人を打ち倒したと同時に、魔人を海の底へ静め封印した。国へ帰ると、女性に騙された人々――かつて救ってきたはずの人たちによって石化されてしまった。

 罪滅ぼしとして永遠的に石化という呪いを貸せて、英雄は国を救ったヒーローだが、同時に魔人のグルたという枷を押し付けられ、障害を閉じた。

 そのとき、剣は神に戻され、行方は不明のままとなっていた。

 これが、英雄の終わり方の物語じゃ」

 男はコーヒーを飲み、「それじゃ、ワシは勤務に戻る。このことは他言無用じゃ」と告げ、消えていった。

 ぼくらは残された中身が空になったコップに追加注文をして、再び飲み込んだ後、ため息をした。

 英雄のその後が民から裏切られるという期待とは裏腹の出来事だったからだ。

 その後の女性の行方については不明だったが、あの男が知る限り女性の行方は当時、信じた民間人しかわからない事だろう。そう結論した。


 バイトを終えたSと合流し、電車に乗った。

 噂とは裏腹に、英雄の悲しい過去を見た感じで気持ちよく帰れなかった。

「あんなにいろんな国や人々を救ったのに、終わりかけは裏切り…なんて、悲しすぎる」

 窓辺でぼくは外の景色を見ながらつぶやいた。

 英雄は決して楽じゃなかった。無実な罪を着せられ、神に動かされるまま剣を振るって、自分ができることだと信じた行為が、恨みを持った人物に殺されるなんて、ウソだと思いたかった。

『その話、真実だったら、英雄を助けるかい?』

 身体にひそめていたスライムが呼びかけた。

 ぼくは「いや、それはできないよ」と返した。『どうして?』と投げかけられるがぼくは「英雄に失礼だと思う」と返した。『意味が分からない』、たしかにわからない。

 あれだけ、英雄の終わり方は悲しい結末だ。それを明るい結末へ変えようとしないのは時代に反することだと思ったからだ。

『だったら、英雄に直接聞けばいいじゃない。そうしたら、事実はすべて解決するはずだよ?』

 たしかに、ぼくはスライムに投げかけられるまま、頷き、後日、彫像に掛けられた呪いを解き放った。


 石化の呪文は簡単な魔法で作られているだけだった。セキュリティが施しられた形跡はなく、誰にでも解ける代物だったのが正直、驚いたところだ。

 呪いを解かなかったのは、みんなそのことをしない選択をしていたのだろう。英雄は彫像のまま生きていてほしいと思っていたからなのだろう。ぼくは、ただそう思うことしかできなかった。


『久しぶりの太陽――じゃないけど、夜に呼び出してすまなかったね』

 卵の殻を破ったかのように欠片が地面へ落下する。頭に手を当て、「いま、何年だ」と聞かれ、ぼくは正直に答えた。

「そんなに経ったのか!? 俺は、そうだ――俺は、石化されて…」

 英雄は困惑していた。無理もない、目覚めた世界が百年以上経過した未来の果てに漂流タイムスリップしたのだから、英雄が困惑しているさなか、スライムが訊いた。

『英雄さんよ、無実の罪を着せられ、石化されたんだ。世界を呪いたいんじゃないのかい?』

 こいつは何を言っているんだと思った。

「俺は憎い――!」

『そうだよ、憎かったらさぁ……って、え?』

「民の辛さも理解せずに魔人を倒した挙句、英雄気取りになっていた。明らかに天狗になっていた。王城に招待された時点で気づいていたはずなのに、俺は調子に乗って民を馬乗りにしてしまった!!」

 意外なことを発言し、正直ドン引きした。

 これが英雄なのだというと、いまの子供たちは批判の的だろう。それどころか、子孫が辛い現実へ蹴落とされるだろう。

『それじゃ、どうするんだい?』

「俺は、このまま石化になるつもりだ、頼めるか?」

 まあ、いいですよとぼくは答えた。

 すると、スライムがありえないと口にした。

「今の世代では、英雄は必要ないのかもしれないからな。それに、これ、渡しておく」

 それは小さな短剣だった。短剣と言っても指ぐらいはあるかないかの大きさの剣だ。

「これは俺なりのお礼だ。世界を切ったと言われた剣だ。とはいっても昔ほど力はないかもしれない。あー、朝日見たかったな。それじゃあな、ようやくたまっていたことを言えたし、俺は再び眠るわ」

 ぼくはせめて子孫に話しをしないかと持ち掛けたが、英雄を苦笑いを浮かべていった。

「こんな先祖じゃ、子孫に申し訳ないじゃないか。せめて物語として語り継がせておくれよ。あと、剣をやったことは内緒な」

 そう言って、ぼくは再び石化の呪文を唱え、再び彫像に戻っていく英雄を見て泣いてしまった。

『あーあー、せっかく英雄と仲良くなれると思ったのに…』

 不満げに文句を言うスライム。

「だったら、ぼくが石化にされたほうがよかったかい?」

『そんなことないよ、それだったら英雄を石化させたよ』

 スライムはぷんすかと怒っていたが、そう言ってくれたのは少しばかりか嬉しかった。


 学校に帰るとあの英雄のポーズが変わっていると盛り上がっていた。

 昨日の晩、英雄を復活させたことがばれると思ったのだが、誰かのいたずらで姿を変えたのだと妙な納得の言い分に落ち着きを払い、この話は大きく報じられることはなかった。

 Kから「姿を変えた、これも呪いか? 彫像を見に行こうぜ!」と誘われたが、「電車賃高いんだから、Kが払うんなら、行ってやってもいいよ」というと、「あー、来月か再来月まで待ってくれないかな…」と返してきたので、ぼくが何か言ってやろうとしたとき、隣で本を読んでいたMが先に答えていた。

「――K! この本、昨日中に返すんじゃなかったの? 妖精さんたちから苦情が来ていたよ」

「だあーー!! 忘れていた!!」

 とMから本を取り上げ、図書室へ駆け込んでいった。

 それを見ていたMが「どういう経緯で変えたのか知らないが、あまり変なことにツッコむなよ」と怒られてしまった。

 面目ない。

 ぼくは詫びた。Kを追い払ってくれたことと彫像の呪いを勝手に解いてしまったことを謝った。

「Kは、ああだけど、来月には話題は変わっているから深く考えることはするなよ」

 と、Mは机の上に置いてあった、週刊誌をとり、読みだした。

 ともあれ、Mはなんでも知っているなと驚きとともに同じチームメンバーでよかったと内心ホッとしていた。


 その後、妖精さんにしごかれる形で掃除をしているKを見かけた。

 あれが罰なのだろう。

 そういえば、結局、英雄の無実の罪っていったいなんだったんだろうか。不意に落ちない点がいくつかも残されたが、英雄が再び目覚めること事態が罪なのだろう。ぼくはKを無視して、掃除道具を取りに向かった。




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