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魔法使いの日常(打ち切り)  作者: ファミア・エルゼル
3/6

ヒルル草

 植物の授業で、”ヒルル草”を教わった。

「”ヒルル草”は、文字通り、回復草の名称です。苦いですが、多少の傷を癒すことができます。一般的に流通していますが、季節によっては手に入らないものです。じっくりと観察してくださいね」

 教師がヒルル草を机の上に置いた。

 文字通り、草だ。

「これが、ポーションの材料」

 この草が材料となって、ポーションを作られている工程を思い浮かべる。ポーションの種類は豊富で、毎年数を増やしては幾つかが廃棄されている。

 ポーションは色分けされており、一番安価で安いのは水っぽく色がないもの。高価なものは虹色に光り輝くもので、その次が赤色だ。

 この草は安価である水っぽく色がないポーションを作るときに使う材料だ。

「見ましたか、では回収します」

 先生がヒルル草を拾い上げ、次に別の草を置いた。

 見た目は同じだで、区別はつかない。

「これは、”ヒルルモドキ草”と呼んで、別名”吸血鬼草”と言われています。名前通り、ヒルル草と大して見分けができず、専門家でも区別するのは大変難しいと言われています。”吸血鬼草”は文字通り、血を好みます。生き物の血を吸って、大きくなることからこの名が付いたと言われています。」

 これが、”ヒルルモドキ草”。正式名称は”ヴァンパイア草”とも呼ばれており、なんだかバカにしたような名称だと怒られたエピソードがある。その話はまた別の時に。

「気を付けて調合しないと、相手を回復するどころか傷つけてしまう薬となってしまいます。今回は、この草の見分け方を教えたついでに、ミニポーションの作成を行いたいと思います」

 先生に言われるまま、準備しておいたみっつの草と水をテーブルの上に用意していた。

 実験する際は隣のチームと手を組んで作業をする。

 今回も同様M、Kがぼくの相方だ。

「ではまず、お湯を沸かします。あまり熱くせず、指を入れてぬるいと感じる程度でいいです。あまり熱くするとヒルル草以外の草たちが嫌うので、失敗してしまいますので、注意してください」

 お湯を調整するのはもちろん、Mだ。

 几帳面なMなら任せでも大丈夫だ。

 Kに任せたらきっとアッチチな湯加減にしてしまいそうだから。

「次に、草について説明します。”ヒルル草”はそのまま、葉と枝と分けてください。枝では微毒ですが毒が含まれているので、今回は使用しないので外してください。他の草はそのまま使用しますので、細かくもぎ取ってください」

 ヒルル草の扱いはぼくになった。細かい作業は集中できるからだ。それに、失敗したら、チーム評価が下がってしまう。前回の実験で、Kが実験とかいって爆発させたばかりに、詩を百回書く罰を受けた。

 Mとぼくはうんざりしていた。だから、無理言って、今回はぼくがメインをやることにしたのだ。

「この草、トゲがあってやりづらいなー」

 弱音を吐いている。

 まあ、仕方がない。

 トゲが付いているのは甘味草だ。味をまろやかにする役割があって、どんな料理や薬にも使用されている。枝にトゲが付いているため、外しておいた方が、飲むとき楽になる。

 それに、昔、魚の骨が喉に躓いて以来、トゲは鳥肌が立つほど嫌いだ。だから、Kに譲ったのだ。

「ネバリ草は、手にくっつくほどのネバリがあるので、手を洗った状態で触れてください」

 先生の声に従うように、ぼくらはせっせと準備に取り掛かる。

 Mが温度OKと合図を送り、ぼくも”ヒルル草”の準備OKと合図おくった。

「だーもーめんどくせぇなー!」

 Kが怒りを募っていた。

 先生の注意を効かずに、ネバリ草に手を出したために、ネバネバが手にくっついてしまったのだ。ネバリ度はちょうど粘着テープのような感じだ。水を濡らせば多少はよくなるとアドバイスをして、Kの苛立ちを収めた。

 ふと、指が滑った。

 端っこに置いていたとげにKが華麗に突き刺したのだ。

 親指から血が出ている。

「待ってろ、いま回復魔法を――」

「いや、これをできたてのポーションで治せばよくね」

 と頭いいなとぼくは言った。

 そんな会話をしながら、ふと血がヒルル草に落ちた。すると、ヒルル草が元気になったような餌を食べて満腹を得たかのようなみるみる大きくなった。まるで、風船のようだ。

「これって……」

「! 先生!」

 一直線に手を挙げたのはMだった。

「これ、”ヒルルモドキ草”です」

 と、先生は「そんなことはないはずですよ」とぼくたちのテーブルに近づくなり、目を大きく開かせた。

「授業は一旦中止です。作業せず、待っていてください!」

 そう言って、先生は教室から出て行ってしまった。


 しばらくして、授業は再開したものの、ヒルル草はすべてヒルルモドキ草だと判明し、業者に文句を言った後、新しく変え、作り直すことになった。

 ポーションづくりは宿題となり、各自の提出物となった。

「まずい」

 空になった瓶を見せながら舌をベロンとだしている。

「飲んだのか!?」

「まずかった。でも、傷は癒えちまって、結果的に回復したのかわかんねーな」

 傷は自然的に治った。魔法も薬もいらなかったのだが、この典型的なところは自然では治らなかったらしい。

「宿題どうするんだよ、K」

「そんなもん、二人を分け合えば、いいじゃねーか」

「そんな余裕ねえぞ」

 ボソっというと思ったら、ぼくが作っていた瓶から水が沸騰していた。

 熱すぎたようだ。ヒルル草以外の草がお気に召さなかったようで、間欠泉ごとく噴き出した跡はテーブルを水びだしにしてしまった。

 後日、Mを除いたぼくとKは詩を千回書く羽目になった。

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