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魔法使いの日常(打ち切り)  作者: ファミア・エルゼル
2/6

KとMの出会い

 名門魔法学校フェニックスパレス。

 迷宮的な作りで一度は行ったら二度と同じ出入り口には戻れないという噂の学校だ。

 そんな学校に入るきっかけになったのは魔法学校の試験でここに決まったことがきっかけだった。


「規定には魔法学校入学手続きはすべて試験から始まる」

 と親から話しを聞かされていた。

 親も名門魔法学校の卒業生でもあり、当時から試験内容は変わらないということもあっていろいろと教えてもらっていた。

「第一の試験で〈魔物をできるだけ多く倒せ〉という課題は、弱くて数が多い敵じゃなくて目立ってなおかつ単独にいる敵を叩いた方が評価が高い」

 まさにその通りで、試験管たちは目立って強くて威嚇がある魔物に対して正面から戦う人は少なかった。それに”多く倒せ”と聞いていたために弱くて数が多い魔物に向かっていった方が多かった。

 ぼくは親の言うとおりに大きい魔物だけ倒した。

「規定通り数を上回った、合格だ」

 試験管は任務をこなすように淡々に言った。

 毎度のことだろうか、自動音声のように他の合格者にも同じことを言っていた。声の大きさも同じように。

 雑魚敵だけを倒していた人たちは不合格だった。

「大物にも立ち向かえない魔法使いはいらん!」

 とつっかえられ、不満げに去っていった人が何人もいた。

 そして合格した人に対して「ズルい」とか「卑怯」とか言葉にならないほどの罵声を浴びせて帰っていった。彼らは規定というよりも言葉通り行動したことが問題だったのだろうか。

 ぼくは合格できた。なんとか。

「みっつの選択肢がある。いかなる時でも自分だけを選べ」

 と親に前もって教えてもらっていた。

 どういう意味だろうと疑問に思っていたが、試験場でその理由がようやくわかった。

 次から次へと現れるかのようにみっつの置物が出現する。

 ”あなたは〈大きな船〉、〈自分〉、〈首輪をつけられた人たち〉どちらを救いますか?

 〈大きな船〉を選べば、船に乗った人たちは助かりますが、首輪をつけられた人たちや自分は死にます。

 〈首輪をつけられた人たち〉を選べば、首輪をつけられた人たちは助かりますが、船に乗った人や自分は死にます。

 〈自分〉を選べば、自分は助かりますが他は死にます。”

 と、選ぶとすれば全員助かるか、物に縛られた人たちを助けるかという選択肢だ。普通なら首輪や船と選ぶところだが、思考が止まることなく自分を指定した。

「おめでとう、あなたは生きられます。その代り、彼らは死にます」

 スピーカーから女性の声が流れ、そして扉が開かれた。

 その先に待っていたのは、尊い命を天秤にかけた自分の肉体だった(みせかけの置物)。

 そして、その自分の肉体を拾い上げ、残された天秤に床に落ちていたハンマーを拾い、天秤に向かって大きく振り下ろした。

 そして、試験は終了した。


 結果、合格。フェニックスパレスへ入学が決まった。

 試験経過から合格の基準はイマイチわからないところが多数あった。

 けど、合格したのを握りしめ、親にいち早く報告して、受かったウマを伝え、喜び合った。


 後に、親から聞いたのだが、魔法学校は数千以上と存在しており、毎年ランダムに近い方法で魔法学校に配属されるのだという。

 合格した人たちは名門と呼ばれる偉大な魔法使いが通ったといわれる学校に配属されるのだが、不合格だった人たちは名門とは呼ばれず落ちこぼれた学校へ配属されるのだという。


 名門と落ちこぼれの違いは、国が管理してなおかつ多くの偉大なる魔法使いが教師として所属しているかどうかの違いとなる。

 国が管理すれば、魔法学校を壊しに来る連中や魔物の軍隊、物騒な連中の攻撃など、魔法特殊部隊が配属され、守ってくれるうえ、壊れても国が担保してくれたりといろいろと手ごろだ。

 卒業した魔法使いが偉大とは言わず、卒業する前か後かで功績を認められた魔法使いのことを偉大な魔法使いと呼ばれる。その人たちは将来優遇され、他の卒業生や魔法使いよりも仕事量は多くて配属先が自由に選べれるなどいろいろと利点が多い。

 教師となった魔法使いは、国からの支援もあってお金に困ることはないという。

 親がどうしてそこまで知っているのかと聞けば、祖父がそうだったとか、友達がそうだったとかで話しを聞いてわかったのだという。


 ちなみに名門とかは学校の見た目で判断されているわけではない。

 それは建築自体が教会だったり木製の建造物だったり、豪華客船だったりと様々で、建物自体は数えたらきりがないど存在しているが、そのなかで名門と呼ばれている学校は昔からある理由によって存在しているものに与えられている。

 偶然なのかもしれない。

 でも、それは学校で卒業生が優秀であれば名門として優遇されるという決まりによって決定されている。


 さて、フェニックスパレスに入学したものの、最初の厄介組から敵視されてしまったのが一番問題だったのは、今でも笑えない話だ。

 ぼくは、入学してから一カ月後、KとMと出会った。

 同じチームに配属されたことを期に、一緒に行動する機会が増えたこともあって、授業中でも実習でもお昼でも一緒だった。

 チームとは三人一組で構成される組で、学寮も同じで、パートナーと呼んでもいいぐらいの関係である。そのチームは入学してから学校側で決められ、たとえ昔からの幼馴染みや親友であっても気が合わなければ一緒になれないなど、いろいろと難しいところがある。


 ぼくは友達がいなかった。

 そのこともあって、二人と出会えたことは幸運だった。しかも、二人とも面白く愉快で、ぼくは友達というのは初めていいものだと思えたからだ。


 ある日、事件が起きた。

 クラスメイトの女子生徒の杖が盗まれたのだ。

「だれなの! 盗んだのは!!」

 泣き崩れる女子生徒を囲みながら、盗んだ犯人は誰かと周囲をくまなく探し見つめる二人の生徒。二人はクラスでも有名で、いたずら好きの生徒だった。

 そのときも、誰かを陥れるためのいたずらだと思っていた。

「あなたね!」

 ぼくが机に向かったとき、イタズラ好きのAさんがぼくに向かって指をさした。

 ぼくは「え…ちがう!」と一瞬困惑したが、すぐに否定した。

「言い訳は無用よ、その机の下から覗いているものはなに?」

 と、ぼくは机の下に取り付けられた小さな引き出しを見つめた。

 それはどの教室にも同じように取り付けられた引き出しで、生徒はここに教材や薬剤など入れ、授業を行うために前もって準備するものを備え付ける場所だった。

 そんな場所から盗まれた杖が出てきたのだ。

「違う! ぼくじゃない!」

「じゃあ、誰だっていうのよ! 机はみんな固定で、選べることはない。つまり、盗んだ犯人は自らの机の中に入れておく。もし、違う犯人だったら机の引き出しは開かないはずよ」

 確かにその通りだ。

 みんな同じ机だし、そもそも引き出しは各生徒が持っている鍵じゃないと開かないような仕組みになっている。そんな仕組みを無視して物を入れることはできない。

 ぼく以外が犯人だという立証には成り立たない。

「人のものを盗んで、挙句に違うとか、すぐに謝りなさい! ”ぼくが盗みました”ってッ謝罪を!」

 AとBはクスクスと笑っていた。

 まるで最初から僕が犯人だと決めつけているかのように見えた。

 でも証拠がない。ぼくがやったという証拠が。

「……この杖から指紋がAとBさんのしかないけど、どういうことなのかな?」

 Mが杖に粉をまぶしながらくるくると盗まれた杖を回していた。

 周りは何をしているんだという顔をしていたが、それを見ていたKがMに飛びついた。

「なんの遊び?」

「これを盗んだ犯人を調べているの」

「なーるほど、でもさ、盗んだ犯人が分かってもどうやって引き出しに入れたんだ?」

 KがMに対して質問していたとき、Aが食いついた。

「そうだよ、鍵しか開かない引き出しからどうやって杖を入れたんだ!? 鍵は各生徒にひとつずつしか持たされていないうえ、手持ちから消えることも盗まれることもない代物だ。それを無視して入れる方法なんて……」

 追いかぶさるようにしてKが口に出した。

「開いている引き出しの中に入れたとか…?」

 ぼくは回想する。

 この教室に入ってぼくは引き出しに鍵を回して開けた。中に何も入っていないことを確認してから授業に使う教材や薬剤を入れた。

 引き出しを閉めようとしたとき、ある薬剤が足りないことに気付き、ぼくは引き出しを背にしてカバンから薬剤を探した。そして見つかったから、引き出しに入れ、閉じて、騒動が起きた。

「タイミングからしてそうとうしか思えない」

 Mが言った。

 まるで見ていたかのような口ぶりでAたちに向けた。

 Aは「違う、入れたのはぼくだ!」と言い返した時、Mがにこりと笑った。

「”入れた”といったな。」

 あ…と、Aが口が滑ったと口に手を当てた。

 Bはバカなことを言うなとAに睨みつけていた。

「そもそも証拠があるのか! 証言だけじゃ証拠にならない!」

 Aの代わりにBがMへ指を向けて叫んだ。

 確かに、証言があっても証拠がない。これではぼくへの疑いは晴れないままだ。

「証拠はある」

「なに? そんなバカな!」

「これを見ろ!」

 それはビデオテープだった。

「この中に、教室の出来事が撮影されている。最近、盗まれる事件がこの教室に集中しているっていう噂を聞いていたから、前もって仕掛けておいたんだ」

 そう言って、MはKに手渡す。

「この中に状況証拠が入っていれば、犯人たちはこの学校にはいられないだろうな」

 と強気な口調でKが言った。Mは黙っていたが、Kはそのまま言葉を積もらせた。

「この問題は学長にも届く。きっと退学は免れても、お仕置きはあるだろうね」

 ビクつくAとB。もういいわけができないとAが口をこぼした。

 そのあと、AとBは謝罪し、このことを報告しない代わりに今までのいたずらをすべて学長に報告する約束をした。そのイタズラはどれも笑える程度のもので、今回のような盗みの件以上はひどいものはなかった。MとKは互いに顔を見合い、そして、ぼくを助けてくれた。


 授業を終えた後、Kがビデオテープを捨てているのを見つけた。

「捨てちゃっていいのか!?」

「まあ、いいさ…Mがいいっていうからよ」

「でも、Aたちがまた悪さするかも…」

「それはないってMが言ってた。理由はわからない。けど、アイツが考えていることは俺には想像できないんだ。でも、これだけ言える、アイツは信頼できるし、裏切ると怖い奴だと」

 Kは笑っていた。

 ゴミ捨てにビデオテープを捨てた後、後で掃除のおばさんにこっぴどく怒られていたKを見たのは昼食を済ませた後だった。

 燃えない物を捨てるのは何事か! と怒られていたが、一緒にいたMは助けもせずただ遠く見つめていた。

「いいの、助けてあげなくて」

「俺は捨てろと言ったが、問題を拾ってくる奴にいちいち助けねえよ」

 と切り返した。

 確かに、問題を作ったのはK本人だ。

 でも、あのとき助かったのは二人のおかげだ。

 ぼくは、Mにお礼を言い、Kに向かって走った。

 ぼくも同罪だ。ゴミ箱に捨てるのを見てみぬふりをしたのだから。


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