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番外:小さな傷、大きな傷跡、小さな痛み

当時投稿しようか迷って、結局お蔵入りしたものです。

今よりもっとレーナさんが卑屈だった頃の話になります、文字数が少なくて申し訳ございません。

「れ……レーナちゃん、どうしたのそのキズっ!!」


 ご主人様は、私の手を指差して大声を上げる。


「はい……? あの、この指のことを聞いていらっしゃるのでしょうか」


「そうだよっ」


 何を訊ねられたのかよく理解できず首をかしげると、彼女は明らかに正気でない顔で私へにじり寄ってきた。


「どうしたのそれっ! 切り傷!」


 そこまで言われて、今朝の調理中に生じた指の切り傷を思い出す。

 やけに痛く感じて、食器洗い中はよく沁みたのを覚えている。


「あ……いえ、どうってことないです。包丁で指を切るなんて見苦しい失敗、凄く久しぶりに––––」


「リストカット!? いや、この場合指だからフィンガーカット!? 自傷行為したの!? 自殺なんてしちゃ駄目だよ……」


「……へ?」


 りす……ふいんがぁ?

 いつの間にか涙目と化したご主人様。何を言っているのかよくわからない。

 それに自殺するなとは、一体どういう要件なのか。


「……するつもりはないのですが」


「じゃあ事故なんだね!?」


「……はい」


 コクリと頷く。


「よかった〜……じゃあ治すね!」


 すると、ご主人様はガシリとしっかり私の手首を握り、目を見開いた。

 途端、


「……あったかい」


 彼女の触れた箇所から、緩やかに熱が流れ込んでくるの感じる。

 最初は血流のように手全体を巡って、最後に患部のある指の方へと集中する。

 この感覚は、既に幾度か体験したことがあって。


「––––治癒魔法」


「うん。女の子に、傷なんていつまでもついてちゃいけないから」


「そんな……私のこんな傷なんかに、勿体ないです」


 血だってとっくに止まっている。今はとても清潔な環境で暮らしていることだし、放っておけばすぐに治るはずの小さな傷だ。


「魔法の使い道は使う本人が決めるの。価値観だってそうなんだから。レーナちゃんに使うのが勿体ないかどうかは、私が決めることだよ」


「でも……」


「何より、レーナちゃん痛がってるじゃん。顔、ちょっとだけ引きつってる。


「……すみません」


「なんで謝るのさ。……魔力が集中してる箇所、ヒリヒリするでしょう。傷がもうヘッチャラなら、そもそも痛覚だって発生しないんだよ。……水仕事のたび、指痛んだでしょ」


「……はい」


 正直に白状する。

 少し前までは、こんな傷なんとも無かったし、全身傷だらけだったから、一々小さな傷を気にかけることもなかった。

 環境に感覚が適応した、と言えば聞こえはいいけれど。言ってしまえば、私は痛みに弱くなったのだ。


「もっと早く気付ければよかったな……今度からは、我慢しなくていいからね」


「……こんな、小さな傷です。前はもっと、沢山大きな傷がありました。一々治すなんて」


「傷は傷でしょ。血だって出たでしょ。大小関係なく痛いものは痛いよ」


「……私、弱くなってます」


「痛みに強いのがそのまま強いってわけでもないのに。なら私はむしろ、レーナちゃんのこと弱くしたいかも」


 ほらできた、とご主人様は魔力を送り終える。

 見れば、傷は綺麗さっぱり無くなっていて。


「何かあって、どこか痛かったらすぐに言ってね。私、できる限り治すから」


「……はい。ありがとうございます」


「堅苦しいよ、もっと肩の力抜きんしゃい」


 そうは言われても、癖だからすぐには治せない。

 そんな私に苦笑して、じゃあ私はお昼寝するから、とご主人様はソファに寝転がり、目を閉じた。

 すぐに、寝息が聞こえ始める。寝入るのが本当に早い人だ。


「……痛い、か」


 幸せそうな寝顔を晒すご主人様を眺めながら、小さく呟く。

 今まで、沢山痛いことがあった。

 この先はもう、痛みを我慢しなくても、いいのかな。

 ご主人様が、全部治してくれるのなら。


「……?」


 不意に、胸の奥がキュッと締まるような痛覚に襲われた。

 この感覚も、この屋敷に来てから幾度か経験している。


「……これは、ご主人様でも治せなさそう」


 胸に手をやりながら苦笑して、私は掃除の準備を始めた。

訳あって、数週間前より満足に執筆時間を取れておりません。

週一投稿、あるいはそれより遅くの更新が少しの間続くかと思われます。誠に申し訳ございません。

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