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49:元妖精と村娘

「レーナレーナっ、お手伝いするのですよ」


 色素の薄い翡翠色の髪をハーフアップサイドでお団子にした、ワンピースの少女の声。


「ありがとうございます。じゃあ、食べ終わったお皿を運んできていただけますか?」


「ふふんっ、了解なのです」


 元妖精の少女・スミレちゃんが我が家にやって来て、早いもので三ヶ月が経過した。

 森の外初体験なスミレちゃんは、見るもの全部が珍しいのか、日々好奇心に照らされてキラキラと目を輝かせている。

 その上、家に置いて貰っているからと、自分から食器運びなんかを率先して手伝っているのだから偉い子だ。

 お茶を啜ってダラダラと傍観しているどこかの黒髪日本人とは大違いである。まあ私なんですけどね。



 そして、そんな微笑ましいスミレちゃんを遠目に眺める視線もう一つ。


「……わたし、あの子きらい」


 そう、あまりに辛辣なことを口にしているのは何を隠そうレーナちゃんの親友、ソフィちゃんだ。レーナちゃんに会いに来たついでに、昼ご飯もここで食べてもらったところである。


 ソフィちゃんは私に突っかかってくることこそあれ、それはあくまでじゃれ合い程度。他人への嫌悪は口に出さないタイプの子だと思っていたのだが、珍しいこともあるものである。……まあ、その陰口が額面通りの意味ならばの話だが。


「影であんまりそーいうこと言っちゃダメだよ?」


「……だって、お手伝いにかこつけて、れえなおねえさんどくせんしてるし」


「託けてって……難しい言葉知ってるなぁ」


 とは言え、独占とはちと違う気がする。

 他意はなく、純粋にあの子は役に立とうとしているのだ。それは褒められこそすれ、貶められていいものではない。


「みかちゃんは、いいの? れえなおねえさん、だいすきなのにさ」


「だってあれ、別に恋愛感情云々の話でもないでしょ? すみれちゃんもレーナちゃんも相手とどうこうなりたいとかそういう話でもなし」


 それならよっぽどソフィちゃんの方が危険だ。恋愛感情こそないが、レーナちゃんに懐きまくっている。こんなの、いつか取られないかってヒヤヒヤするわい。

 私が別に何とも思っていないことを伝えると、途端に馬鹿馬鹿しくなったのか、彼女は大きめの溜息をついてそっぽを向いた。幸福逃げちゃうよ。


「あっ、そうだ。……ソフィー! このお手伝いが終わったら一緒に外で遊ぶのですよー」


 よいしょっと無理のない数の食器を重ね持ちした小さなお手伝いさんが、こちらに声をかけてくる。外遊びのお誘いだ。それも名指しで。

 それに応えるのは、若干不機嫌そうに頰が膨らんだ、こちらも小さな村娘の表情で。


「……やだ」


「ふふふ、スミカに聞いたのです。それ、ツンデレって言うのですよね? いいのですよ、照れなくて!」


「––––みかちゃんっ」


「おい待て睨むな落ち着けソフィちゃん」


 ギラリと、ソフィちゃんは下手なモンスターにも勝る眼光で私を睨め付けてくる。何でさ、誤解生まないように取り繕ったのに。


 ––––そもそも、ソフィちゃんも素直じゃないよなぁ……。


 ツンデレとは言い得て妙で、何だかんだソフィちゃんもスミレちゃんのことを嫌っているわけじゃない。

 なまじ今まで同世代で––––スミレちゃんは外見年齢と精神年齢が釣り合っていないがまあそれは置いておいて––––尚且つ同性の友達がいたことが無かった分、距離の詰め方を測りかねているのだろう。森に引きこもり続けていたはずのスミレちゃんの方が、コミュ力お化けなのは本当に不思議だが。

 因みに、先の陰口を意訳すると『あの子、距離感近過ぎてどうしていいかわからないんだよね……本当は仲良くしたいんだけどなぁ』だ。決して嫌っているわけではない。本当に。


「……っと、運び終わったのですよ。レーナっ」


 最初は何も知らなかったのに、毎日毎日たくさんの事を覚えて、成長するスミレちゃん。

 明らかに手際が良くなりつつあるお手伝いに、見守っている側としては中々嬉しいものがある。

 それは、レーナちゃんも同じようで、


「はいっ、とっても助かりました。おやつの用意はしておきますので、三時までには戻って来てくださいね。……ソフィちゃんもっ」


 台所からひょこりと顔を出したレーナちゃんに続き、スミレちゃんもタタタタとこちらに駆け戻ってきて、ソフィちゃんの手を握った。


「え、ちょっと、まっ」


「ソフィ、早く行くのですよぅ! 今日こそは、酒場の旦那さんを馬鹿にしたガキ大将に目にもの見せてやるのです……!」


 言うが早いか、そのまま玄関の方へダッシュして行った。


「は、はなしてっ、自分であるけるよっ……!」


「あんまりゆっくり歩いてたら、それこそ日が暮れてしまうのですー!」


「ま、まだおひるだからぁっ!」


 猪突猛進気味なスミレちゃんに、私たちとのやり取りでは見ないくらいに振り回されっぱなしなソフィちゃん。

 凸凹なようで、何だかんだいいコンビだ。


 どたばたとした足音が遠くに行ったかと思うと、扉の開く音がする。

 一応の注意として、私は大きめの声で玄関にいる二人へ呼びかけた。


「怪我とか気をつけるんだよー!」


「はーいなのですー!」


「み、みかちゃん……たすけ」


 バタン。

 無慈悲に閉じる扉の音を最後に、一切の音が聞こえなくなる。

 若干救助要請のようなものが聞こえた気がしたが、どうせ遊び終わった頃には彼女も絆されて、二人ともニコニコ顔で帰ってくるのだし、気にしない気にしない。

 本当に嫌がっているのなら、私もレーナちゃんもとっくにスミレちゃんを止めていた。スミレちゃんとて、本気で拒絶してくる相手の手なんて最初から握ったりしない。

 そもそも、彼女たちはとっくのとうに友達になっているのだ。今更拒絶も何もない。



 少し時間をおいて、洗い物を終えたレーナちゃんがタオルで手を拭きながらやってくる。ねぇねぇ、そのタオル後で貰っていいかな。


「……途端に、静かになっちゃいましたね」


「そだねぇ」


 子供の声とは不思議なもので、一人いるだけで空間が賑やかになる。それが二人もいなくなったとなれば、急に世界から物音が掻き消えてしまったように錯覚するのも致し方ないことだろう。


「ねぇレーナちゃん、一緒に暖炉であっまろー」


「いいですね。膝掛けは二枚用意しますか?」


「一枚で! 大きいやつ一緒にかけよっ」


「はい」


 二人がけのソファに並んで座って、同じブランケットをかけて、暖をとる。

 こうして暖炉の熱の他に、互いの体温を感じ取れる瞬間が、幸せでたまらない。


「スミレちゃん、どんどん色んなこと覚えていきますね」


「あの子、レーナちゃんに手際の良さで似てきたよ。 」


「それを言うなら、明るく誰かの手を引くところなんて、ご主人様の影響を受けていると思うんです」


「本人がやりたがったらさ、魔法とか、勉強とか、沢山習わせてあげたいな」


「スミレちゃんは、好奇心旺盛ですもんね」


「ソフィーちゃんも、なんだかんだ同世代で同性のお友達ができて嬉しそうだしねぇ」


「スミレちゃん、村にも馴染んできてます」



 話題の中心は、何気ない雑談と、二人の小さな女の子たち。

 人の成長を見て、感じて、見守って。それに充実感を覚える日が来るなんて、思っても見なかった。

 その気持ちを他者と共有できる喜びも、初めてのもので。


「ふふ、なんだか……不思議な……気分……」


「はい、本当に……」



 そうしていつの間にか二人揃って微睡んでしまって、三時に戻ってきた子供二人におやつの催促をされるのはまた少し後の話である。

スミレ・タチバナ


外見年齢5〜6歳

年齢:1歳

性別:女

外見的特徴:翡翠色の髪(お団子のハーフアップサイド)、琥珀色で一部が黒い瞳、純夏とレーナ似の顔立ち、美白肌


元名無しの妖精族。森の中での何も起きない生活に刺激を求めつつも、外に出ることのリスクが大きすぎてずっと引きこもってきた。

先祖から受け継いだ記憶により、ある程度の倫理観や言語能力、思考能力を会得している。ただし森の外のことは殆ど何も知らない。


なお、その身元について周囲には、身寄りのなくなった純夏の親戚で通している。



人物設定の方もそのうち工事したいです。

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