48:変身
「え?」
「はい?」
どういうことだ、と言わんばかりに疑問符を浮かべ、私はご主人様と顔を見合わせる。
「ここに置いていただきたいのです」
「え、いや、ね……? ヨウセイちゃん、観測のお仕事あるんじゃないの?」
彼女は代々森を見守ってきた一族の末裔であるらしい。
ならば、その役目を放棄して良いものなのか。
ご主人様の尤もな疑問に、ヨウセイちゃんはかぶりを振って答えた。
「元々、仕事と言うほど大層なものではないのです。森の外へ出てしまうと、妖精族はそう長くは存在していられないからただ何となく行なっていただけであって、そこに後付けの義務感が生まれてしまったというか––––」
そこで一呼吸置いて、
「もう、その義務感も終わりにしてしまっていいと思ったのです。元より、妖精族は森に縛られるなりに自由と好奇をこよなく愛する種族なのですから」
「……今、聞き捨てならないこと聞いた」
「へ?」
「"そう長くは存在していられない"って、私聞いてないんだけど」
「あれ、言ってないのでしたっけ……えへへ、うっかり」
「そこ照れるところじゃないよ!」
叫ぶご主人様に、心なしか頰の色を赤らめて頭を掻くヨウセイちゃん。
本人に危機感は無さそうに見えるが、存在できない=死なのだとしたら、彼女の生命は今生死の瀬戸際にあるのではないか。
「じゃ、じゃあ尚更すぐ森にお帰りになった方がよろしいのでは……?」
「もう老木とのリンクは千切れているので、ヨウセイがこのまま生きていくのはどのみち無理なのですよ」
「詰み状態……の割には落ち着き払ってるし。何か、生き延びる方法あるんだよね?」
「勿論無論。無策で楽観視していられるほど、ヨウセイも阿呆ではないのですよ!」
「重要なこと言い忘れてた癖にどの口が言うんじゃい」
軽口の応酬。会話の若干のぎこちなさも大分取れてきているし、ヨウセイちゃんとご主人様は大変相性が良いのだと思う。
「それで、その策と言うのは……?」
「『変身』するのですよ」
「変身?」
「妖精族から、人間族へとそっくりそのまま完全に、肉体を作り変えるのです。その逆も然り」
「えっ、すご、そんなのできるの!?」
驚愕と興奮に染まったご主人様の表情に、ヨウセイちゃんは胸を張って続ける。
「えっへん、なのです。種族の固有魔法で、ヨウセイたちにしか使えない生涯に一度の大魔法なのですよ。人間族になってしまえば、ヨウセイも生き長らえることができるというわけなのです」
「はぇー……すごいな妖精族」
「とは言え、あの森の中では人間の食べられそうなものはロクに無いし……でも森の外がどんな風かも知らないし、何よりヨウセイは一族共々ずっと引きこもってきたので世間にも疎いし……す、スミカとレーナは、その点優しく色々教えてくれそうだなぁ、寄生できるなぁ、養ってくれそうだなぁ、という打算が無きにしも非ずというか……どうせ人間になるなら、もう独りでいるのは嫌だと思ったのです。だから」
おちゃらけた雰囲気なのに、どこか重みのある言葉を紡ぐ。
そして、
「ここに、置いていただきたいのです……ヨウセイにできることなら、何でもするのです」
そう言ったのを最後に、ヨウセイちゃんは深々と頭を下げた。
よく聴いてみれば、彼女の声は少し鼻声というか、今にも泣き出しそうに震えているように思えた。
「……」
それは、そうだ。
まだヨウセイちゃんは生まれて一年も経っていないのだ。なのに死の危険に晒されている。誰だって、死ぬのは怖いし、生きるためなら何だってしたいと思う。
変身したとしても、眼前のよく知りもしない人間たちに縋らなければ、明日を生き抜くことすらままならない。
妖精族と違って、人間は食糧が無ければ簡単に飢えて死んでしまうのだから。
震える彼女の四肢が、心情をありありと物語っている。
楽観視したような物言いも、その危機感なき饒舌さも、彼女の精一杯の強がりなのかもしれなかった。
「……ご主人様、私は」
こんなにも小さな女の子が、こうまでしなければ生きていけないなんて、やっぱりおかしい。
私は、ヨウセイちゃんを助けたいと思った。
ご主人様はどうなのだろうかと向き直すと、彼女は私の頭にぽんっと優しく手を乗せて、微笑んだ。
「だいじょぶ、わかってる」
「ご主人様……」
「ねぇ、ヨウセイちゃん」
「っ」
ご主人様が呼び掛けると、三頭身の小さな生命は、びくりと震えて、
「ぁ……あ、の……」
拒絶されるのを恐れた掠れ声。それに歩み寄るように、彼女は腰を下ろし、ヨウセイに目線を合わせて切り出した。
「お名前。君のお名前、どうしよっか」
「へ……」
何を言っているのかわからない、と言った様子で、ヨウセイちゃんはおずおずと顔を持ち上げた。
涙腺がどこについているか分からないその顔は、静かに涙で濡れていた。
ご主人様はすぐにポケットから手巾を取り出し、ヨウセイちゃんの顔を拭き始まる。
「君は、名前がないんだよね」
「うぅ……はい」
「これから人間に生まれ変わるんなら、まずは人間としての名前が必要だよね。誰かに気持ちよく呼んでもらうために、とっても良い名前にしよう」
「それは、あの……」
「なぁに?」
「ここに、置いてもらえる、ということなのでしょうか……?」
「当たり前じゃん」
ご主人様は笑った。
本当に、綺麗な笑みで––––、
「可愛い女の子は、周りにどれだけ居ても目の保養になるからねぐへへ」
化けの皮剥がれてますよ。
****
「さぁて始まりました妖精少女お名前けってーせん! エントゥルィナンブァ、ワン、私!」
「ヨウセイちゃんは、どんなお名前がいいんですか?」
「可愛い名前がいいのです……あっ、でも名前負けしないような感じの! 万人受けする感じの!」
「無視しないでよ」
早速始まったヨウセイちゃんの名付け。
うるさいご主人様は可愛いけれど一旦無視して、私は、ヨウセイちゃんの意見を聞いた。
「じゃあ……お花の名前、なんてどうでしょうか」
「あっ、なるほどなのです……!」
「ヨウセイちゃんの印象と合うようなお花は……」
「……ねぇ、意見言ってもいいかな」
若干不貞腐れた雰囲気のご主人様が挙手する。
私とヨウセイちゃんが視線を向けると、彼女はけふんけふんとわざとらしく咳をして、
「今のヨウセイちゃんのイメージに合わせるよりさ、一回変身してもらった方が良くないかね」
と提案した。
「あ……確かに」
「言われてみれば、なのです」
そういうわけで、まずヨウセイちゃんに変身してもらうことになった。
「十数分ほどで終了すると思うのです」
特に準備等は必要なく、いつでも始められるそうなので、そのまま客室で行う。
「で、それって私たちまじまじと見てていいものなの? 企業機密とかは無し?」
「……? 言っている意味がよくわからないのですが、どうせ妖精族以外では真似できない技能なので。いくらでもどうぞ、なのですよ」
「ちぇ、ホントに固有の魔法なのかぁ」
じゃあ純粋に鑑賞会するー、とご主人様は階下から勝手に焼き菓子を持ってきた。
強請られたので一応私もお茶を淹れて準備万端。本当に鑑賞会をするような雰囲気になってしまったが、
「ふふ……なんだか観察される側になるのも面白い気がするのです」
ヨウセイちゃんの少し気負った様子が晴れたので、これでいいのかもしれない。
「はぁ……何枚食べても飽きない、美味しい……」
もしゃもしゃと幸せそうにお菓子を頬張る隣の彼女には、そこまでの思惑はなかっただろうけれど。多分、かこつけて甘いものが食べたかっただけだろうけれど。
「–––じゃあ、始めるのです」
「おー」
「頑張って下さいっ」
「ありがとうなのです。あ、眩しいかもしれないので、そこは気をつけてほしいのです!」
「は? それどういう––––」
何やら重要そうなことをヨウセイちゃんが言い放った次の瞬間––––。
「まぶっ––––!?」
「うぇ!?」
室内が、翡翠色の光に包み込まれた。
直後、視界は白濁に占領され、まるで太陽を直視したように目に痛みが走る。結果、僅かに瞼を持ち上げることしか叶わない。
その輝きを生み出しているのは眼前、先程まで会話を交わした妖精族の幼子であり、
『変われよ変われ我が肉体! 転じろ転じて我が魂!』
何やらへんてこな呪文をぶつくさと詠唱している。
呪文が進行するにつれ、光は形を変え、やがて八本ほどのリボン状に分裂して。
それらはまるで花弁、ひいては蕾より開いた大輪の花を彷彿とさせる美しさだった。
『生まれや変われ––––メタモルフォーゼ!』
それが最後か、詠唱は止んだ。
呼応するように、花弁たちは再び輝きの中心を包み込んで纏わり、覆い、収束し、一つの球体を形作っていく。
この時点で、目は殆ど光に慣れつつあった。
「だんだん目が慣れてきた……すごい……私の魔法なんて目じゃないや……」
ご主人様は感嘆しつつそう零す。それに首肯し、私も思うままの感想を漏らした。
「綺麗ですね……間近でお星様を見ているみたいです」
一世一代のそれは、ヨウセイちゃんの生命の輝きそのものだった。
できればいつまでも見ていたいような、そんな温かみある光で。
しかし、それは叶わない。
球体は収縮し、脈動し、また更なる変貌を遂げようとしていた。
腕が伸び、脚が生え、少しずつ少しずつ、光は生き物の、ひいては人の形をとっていく。
そして––––、
「……ふぅ」
少し疲弊した幼い声がして、光が搔き消える。同時に室内は平時の明るさを取り戻したはずなのだが、錯覚で少し暗く感じた。
瞬きを数回繰り返して、目を慣らす。
慣らされ、整えられた視界の先。そこには、
「……え」
外見年齢五歳ほどの、見知らぬ女の子がいた。
色素の薄い翡翠の髪は肩の少し下まで伸びていて、琥珀に黒の混じった色の瞳は、宝石のように輝く。
真っ白とまではいかなくとも、きめ細やかで日焼けのない肌。
愛らしいその顔立ちにはどこか見覚えがあって、しかし違和感もあって。
知らないのに、何故か見知った雰囲気を孕んだ不思議な裸身の美少女が、真っ直ぐにこちらを見ていた。
「君は……ヨウセイちゃん、なの?」
ご主人様が、訊ねる。
三頭身の妖精の姿は既にその場には無く、入れ替わりに眼前の裸の美少女が現れた。
変身が無事行われたとするのなら、彼女がヨウセイちゃんということになるが。
「……」
何故か僅かに唇を震わせてこちらを見つめ続ける少女。
何か言いたげで、しかし言葉が出ないような、そんな儚げな––––、
「……ざぶ……ざぶいっ、ざむいのでずぅ……にっ、人間の体……寒すぎるのですっ……!」
全然儚くなかった。ずびびと、彼女の端正な鼻から水が垂れかけては、すすられる。……汚い。
「な、なんなのですかっ……なんなのですかこれっ、ニンゲンさんたちは、こんな寒々しい身体でどうやって冬を越してきたのですか……!?」
今は、冬の晩を終えて初春を迎えたばかりの季節。
そんな時期を裸で防寒せずに過ごせば、体が震え上がるのは自明の理だった。私も、昔のこの時期は地獄だったと記憶している。
「あっ……ヨウセイちゃんよくよく考えたら全裸だったもんね。変身前から裸だったから、人間になっても裸なのか……たしかに急に洋服が出現しても変だもんね! 理にかなってる!」
「か、関心してないでっ、何かっ、寒さを凌げるものを所望したいのですぅっ……ぶぇっぐじょん!」
「えっ、あっ、す、すぐに着るもの用意しますねっ! ご主人様は、暖炉の方よろしくお願いしますっ。後、ヨウセイちゃんを下まで運んでいただけると……!」
「へーい」
ご主人様にいくつかお願いすると、私は大急ぎで部屋を出た。
****
頼まれた通りヨウセイちゃんを抱っこして下の階まで連れてきた。
大きさの合うものが無く、ぶかぶかながらもレーナちゃんの服を着た新生ヨウセイちゃん。腕の長さが足りず垂れた袖なんかは愛くるしく、庇護欲を掻き立てさせた。何で小さい子ってこんなに可愛いんだろう。
チリチリと火のついた暖炉の前で、彼女は、手鏡を覗き込む。
首を傾けたり、顔の向きを変えたりして、変身後の自分の容姿を確認しているようだった。
「うひょーっ、ヨウセイかわいいのです! すごいのですっ、めっちゃ美少女になっているのですよ! 大成功大成功!」
「すさまじいナルシストにしか見えないのは私だけか」
「あはは……まぁ、可愛らしいことは事実ですし」
自画自賛するヨウセイちゃんに、苦笑する私たち。
確かに変身したヨウセイちゃんはとても可愛らしいし、まず見かけないくらいの美しい少女なのだが、本人自ら言うと何とも残念な印象を抱いてしまう。
「ま、美少女二人のパーツを参考にしたので、当たり前なのですがね」
「美少女二人? 誰それ」
「え? 誰って……スミカとレーナなのですよ? ほらっ、この目元とか結構スミカ似だと思うのです。髪の艶や唇のふっくらさなんかも、レーナっぽくしたのですよ!」
「……は? また聞き捨てならない話! 参考にされるとか私聞いてないんだけど!」
「あれ、言ってなかったのです……?」
「今初めて言ったよ!」
「……え、えへへ……うっかり、なのです」
なんでこうもこの子は忘れっぽいのか。
後、私たちに無断で似せた件については著作権から検討した上で別にいいとしても、一つ訂正したいことがある。
「私言うほど美少女じゃないじゃん」「私は言うほど綺麗じゃありませんよ」
「は?」「え?」
全く同じタイミングで隣から訂正の声が発されたので、そちらに顔を向ける。
惚けたような様子のレーナちゃんと目が合った。きっと今の私も、彼女と同じような表情をしていると思う。
「何言ってんの、レーナちゃんめっちゃめちゃ美少女じゃん」「何言ってるんですか、ご主人様はとっても綺麗で可愛らしいじゃないですか」
「は?」「え?」
いやいやいや、だから何を言っているんだこの子は。
「いやいやいや、レーナちゃんのが可愛い」「いえいえいえ、ご主人様が一番ですっ」
「いやいや」「いえいえ」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」「いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ」
「……真逆のこと言ってるのに息ぴったりなのです」
小さく呟かれたヨウセイちゃんの声は二人分の声に掻き消されて聞こえず。
そのまま何故か『どっちが可愛いか論争』が勃発した。
****
レーナちゃんは己の美麗さを頑なに認めず、最終的には両方ともまあまあの容姿、という妥協案で論争は終結した。
「……そろそろ、名前決めよっか」
「はい」
私が若干掠れた喉でそう言うと、レーナちゃんも間髪入れず頷いた。
長時間に渡り、普段口にしないような罵詈雑言に等しい意見をぶつけ合った私たちは一心同体––––もはや、相手の思うことが口にせずとも八割がたは手に取るようにわかっていた。阿吽の呼吸である。
「……あ、もう終わったのですか?」
私の魔法書をペラペラ捲りながら、ゴロゴロとベッドの上で焼き菓子を食べて論争を傍観していたヨウセイちゃんが、欠伸混じりに訊ねてきた。数時間にして恐ろしく環境に適応している。
「ヨウセイちゃんは、どんなお名前がいいんだっけ?」
「花! 花の名前がいいのですよ」
「やっぱお花かぁ……ダメだ、私専門外。レーナちゃん任せた」
「うぇっ!? そんな適当なっ」
「ぐっどらっく!」
残念なことに可愛げより食い気、女子力より戦闘力を修めている私では、花の名前などこれっぽっちも分からないのである。
花言葉なんかを考慮しても、無知な私に付け入る隙はますますない。多少意見は言うかもしれないが、適材適所という有り難い言葉もあるので、私はサムズアップしてレーナちゃんに丸投げすることにした。
「うぅ……私に名付けの感性を求めないで欲しいんですが……」
「レーナっ、レーナっ、よろしくなのです!」
「そ、そんな純粋な目で見ないでほしいです……っ」
弱音を吐きつつも、やる時はやる––––というか、やらなくても良いことまでやってしまう究極の仕事中毒者たるレーナちゃんは、やがて観念したようにヨウセイちゃんを見やった。
「で、では例えば薔薇……ローズ、なんてどうでしょうか? 赤いものなら、愛情や、情熱と言った意味があるそうですが……」
「うーん……」
女の子の名前としては割とアリだと私も思うが、名付けられる本人の歯切れが悪い。
「嫌でしょうか?」
「……ちょっと趣味じゃないのです」
「そうですか……いえっ、他にも沢山、ステキなお花はありますからっ」
その言葉通り、それからレーナちゃんはいくつもの花の名前を挙げていった。
「ダリアはどうですか?」
「……うーん」
「うぅ……」
「ら、ラナンキュラスは?」
「長過ぎるのですよ……」
「うぅ……!」
しかしそのどれもが撃沈。ヨウセイちゃんは思ったよりもネーミングセンスに煩いようだった。
まあ確かに、そのままずっと人間として生きていくのなら、名前というのは一生ついて回る判別記号である。そう易々と決めて良いものでもない。
後何回か候補出て駄目だったら助太刀しよう、と思いながらレーナちゃんを見守っていると、若干ムキになった様子の彼女が、再度口を開けた。
「じゃあ、すみれ……バイオレットはどうですか」
「……!!」
また真っ先に否定されるかと思いきや、ヨウセイちゃんは息を呑んだように何も言わない。
「よ、ヨウセイちゃん……?」
「……良い」
「?」
「……いい、すごく、すごくいいのですよ!……その名前がいいのです!!」
試行数十回目––––ドンピシャだった。
底の見えない沼に嵌ったようだったレーナちゃんの顔は一変し、嬉しそうに問うた。
「じゃ、じゃあ、お名前はバイオレットちゃんに決定しますか……?」
「あ、そっちじゃないのです」
「へ?」
「え、ちがうんだ」
じゃあ、何が彼女の琴線に触れたというのか。
「すみれがいいのです」
「すみれ、ですか?」
「はいなのです!」
それからヨウセイちゃんは、恋する乙女のように頰を紅潮させ、胸に手を当て熱烈に語る。
「なんだか心に響く音なのです! すみれ……すみれ……!」
この国の人らしくない、どちらかと言うとだいぶ日本人的なネーミングであるが、本人が気に入った名前にすることが、この場においては一番であるように思う。
「今日からヨウセイは、我が身をスミレと呼ぶことにするのです!」
こうして、ヨウセイちゃんはスミレちゃんになった。
名を得た人間の少女は、不慣れなのか不器用に表情筋を動かして笑みを浮かべ、
「改めまして不肖スミレ。不束者ですが、これからよろしくお願いするのです!」
ぺこりと、可愛らしく頭を下げた。
「よろしくね、スミレちゃん」
「よろしくお願いします、スミレちゃん」
私とレーナちゃんの容姿を元にして変身したというスミレちゃん。
よくよく考えてみたら、『スミカ』と『レーナ』を足して割ったら『スミレ』になるな、なんて。
名前まで私たちに似てるなんて、何だか娘みたいだな、なんて。
最愛の女の子の面影ある幼い容貌を眺めながら、ふとそんな他愛無いことを考えていた。
ブックマーク件数200を越えていました、いつもお読みいただき誠にありがとうございます。




