44:めりくり!〈後〉
何とかイブのうちに間に合いました。
レーナちゃんの料理は絶品だ。私なんかが口にするには烏滸がましいくらいに美味しくて、しかしだからこそ、私には少し不満があった。
––––レパートリーの中に和食がない。
以前から分かっていたことだが、この国にはロクに和食がない。
毎朝味噌汁とホカホカのご飯を食べて育った元日本国民としては和食、ひいては白米が一般的に出回っていないのはとても悲しいことだった。レーナちゃんが素手で握ったおにぎりとか、レーナちゃん成分たっぷり含んでそうだから是非むしゃぶりつきたいのに。
今度国外にでも探しに行ってみよう。勿論レーナちゃんも連れて、だけども。
「さて、食卓へ視線を戻そうか」
「……誰と喋ってるんですか?」
「独り言だ」
メインは先のパリパリ皮なチキンステーキ。厚みのあるお肉が、ずっしりと各々の目の前に一つずつ置かれている。少し鼻を揺らすだけで、香ばしい香りが感じ取れ、腹の虫が騒ぎ出しそうになった。鎮まれ我が胃袋。
それからパンとシチュー。シチューには偏らずきちんと栄養が摂れるようにと様々な具が入っている。
その他にも、セルフサービスでサラダや果汁濃度の高いジュース、彩り豊かなおかずの数々がぎっしり卓上を占めていて、本当に食べ切れるのか不安になる。まあ、口に運び始めると案外イケるのだが。
これでも買った食材を使い切っていないというのだから、本格的におすそ分けコースで確定らしい。
「わぁ……おいしそーだね! れえなおねえさんすごーい!」
「……えへへ、そう言ってもらえて嬉しいです。お口の方にも合うと、いいんですけど」
ほのかに頰を染めてはにかむレーナちゃん。なんか良い雰囲気ですね、私も混ぜてよ。
****
食事が始まって最初に手をつけたのはチキンステーキだった。
ナイフで一口分に切り分けると、肉汁が流れ出してくる。
すぐさま口へと運んだ。
「……はむっ」
パリパリとした皮を越えてお肉に到達すると、途端にじゅわりとジューシーで熱々な肉汁が口いっぱいに広がっていく。
「んん〜っ! おいしい!」
それでいてあまり脂っぽくは感じず、後味もしつこくない。どんどん食べ進めてしまう。
味付けがあえてシンプルに済まされているところも、肉本来の旨味を引き出すのに一役買っているのだろう。
その横のシチューも最高だ。パンを浸して食べればミルク中心の濃厚な味わいが味覚を上書きする。具も比較的野菜が多いけれど、下に沈んでいた繊維のほぐれたお肉を掬って食べれば、口の中でほろりと溶けていった。うめぇ……うめぇ……。
さて、兼ねてより我が恋人が不安がっていたお客様の反応はと言えば––––、
「〜〜〜っ! 〜〜〜っ!」
大変良好である。よほど美味しく感じたのか、先程から目が輝いたまま、無言で黙々と食べ進めている。
「えへへ、気に入ってもらえたみたいで嬉しいです。もっと沢山食べてくれていいんですからね、なんならお代わりだって」
「……っ! ……っ!」
レーナちゃんの言葉に更に瞳をキラキラさせて、ソフィちゃんはコクコク頷いた。
自分の料理が気に入ってもらえてよっぽど嬉しかったに違いない。琥珀色の目をほんのり潤ませて、友人の頭を優しく撫でていた。
昼間は姉妹みたいだと思ったけど、こうしてみると親子にも見えるな、なんて。
「まだお腹に入れられそうですか?」
「デザートは別腹ってね」
「ならよかったです」
たらふく食べてほぼ食べ残しも無くなった––––未使用の食材は除く––––頃、レーナちゃんはお手製のお菓子を沢山運んできた。
「食べきれない分はお持ちください。おうちの方で、ご家族と一緒に食べていただけると嬉しいです」
「わーい!」
クッキーに、一口サイズのシュークリーム––––『プロフィトロール』って言うらしい。よくわかんない––––に、パウンドケーキと、いくつか名前が分からないのもあるけれど、沢山のお菓子が大皿に乗っていた。
「あまいよおいしいよ……! すごいねすごいね……れえなおねえさん、どうしてこんなにいろんなのつくれるの……!? まほうみたい」
「練習と、何事も経験、ですね。村の方々にも教えていただいたものもありますし、昔住んでいた場所で叩き込まれたものも……っと、お口の端に食べ残しついてますよ」
「とってー」
「ソフィちゃんまでそんなこと言って……もぅ。動かないでくださいね?」
––––住んでいた場所で叩き込まれた、ねえ。
たまに、どうしてレーナちゃんはこんなにも色んなことを知っているのだろう、と思う。
こき使われて、色んな能力を身につけざるをえなかった、というのはまあわかる。けれど、それだけでここまで幅広い技能を磨けるだろうか。
例えば、きちんと将来の可能性を見据えた誰かが、レーナちゃんに色んなことを––––、
「……あ、あのっ、ご主人様は、召し上がらないんですか?」
「……うぇ?」
無い頭なりに考察していると、普段は食い意地が張っているのに、一向にお菓子に手をつけようとしない私を訝しんだレーナちゃんが躊躇いがちに声掛けしてくる。
「みかちゃんたべないならわたしぜんぶたべちゃうよう」
「あ、ううん。食べる食べる!」
「チッ」
「おい何舌打ちしてんだ幼女」
一先ず考察は打ち止め。余計なことを考えて糖分を消費してしまった、摂取せねば。
手短な場所にあった焼き菓子を手に取り、齧ってみる。
すると、外側はサクサクしているのに、その内側からは柔らかく、マドレーヌにも似たバターが濃いしっとりした生地が出てきた。
甘いものは大好物なので、ペロリと一つ平らげてしまう。
「んんっ……おいしい! ねぇっ、外クッキーみたいなのにふわふわした………これ、なんて言うの?」
「あ、今回初めてお出ししたお菓子ですね……ええと、フリアンです。フィナンシェとも言うみたいですね……お口には、合いましたか?」
「うんっ、今度またつくってほしいな! めっちゃ気に入った!」
「ならよかったですっ」
私たちが美味しいと伝えて初めて、レーナちゃんも嬉しそうに破顔する。もっと自分の腕に自信を持てば良いのに。
謙虚過ぎるのもやはり考えものだ、まあそれがレーナちゃんの持ち味でもあるのだが。
****
ソフィちゃんがいることを口実に三人で仲良くお風呂に入ってから少し経った頃。
眠る準備も済んで、やや瞼が重そうなお二人さんを招集し、私はテンション高めな声を心がけ、口を開いた。
「さて、改めまして今日はなんの日でしょーかっ」
「え……クリスマスですよね?」
「はい当たり。というわけで、スミカさんから贈り物を贈呈しまーす」
言うが早いか、私は自分の部屋に隠しておいたブツを取り出した。そしてレーナちゃんへと差し出す。
「……私に、ですか?」
「そうだよ、今年一年ありがとうね。来年も、その次もずっとよろしく」
「い、いえそんなこちらこそありがとうございます……その、とっても嬉しいですっ」
彼女の瞳は期待に満ちていて、私は少し不安になる。
「あ、あんまり期待はしないでほしいな。それに見合うプレゼントかどうか……」
「ご主人様に頂くものなら何でもいいんですっ!」
「……あはは、石ころでも?」
「ご主人様が真心を込めてくれたなら、宝物になります」
冗談のつもりだったのに、清々しいくらいに迷いのない断言で返されてしまった。
普段ぐいぐい押してる側だけど、こういうふとした時に照れてしまうのは私だから、何故だか悔しい気がしてくる。
「ま、まぁ、開けてみそ」
「はいっ」
包みを丁寧に開けていくレーナちゃん。破らずに綺麗に迅速に剥いでいく様は、流石に器用だなと感心する。
やがて中から出てきたのは、シロクマをデフォルメ化したような、可愛らしい真っ白なもふもふの物体だった。
「わぁ……ぬいぐるみさん、ですか?」
ぬいぐるみ相手にも『さん』付けしちゃうのね。
「クッションだよ。レーナちゃんに見た目似てたから直感で選んじゃった」
「私に、ですか?」
「うん」
白いところとか、可愛い顔とか、どことなく。
ちょっと触ってみて、と受け取ったばかりの彼女を急かす。
言われるがままクッションを握ると、わぁ、と驚いた声を上げた。
「ふわふわ……してますね」
「羽毛が入ってるんだって。抱き枕とかにしてもいいし、ふとした時に握りしめて気持ちを安らげるのとかにも良いんだよ」
「へぇ……確かに、とっても落ち着きますね」
「お、早速効果出ちゃってる?」
「でも……」
きゅっとクッションを握りしめて、きっとご主人様に頂いたからですね、と頰を染めてはにかむレーナちゃん。
可愛い……買ってきて良かった。
「後ね、ソフィーちゃんにもあるんだよ」
「えっ……わたしも?」
そこまで、羨ましそうにしながら黙り込んでいたソフィーちゃん。多分、自分には何もないと思っていたのだろう。
ふぉっほっほ、その点スミカクロースは用意周到なのだ。
「うん。日頃、レーナちゃんと私と仲良くしてくれてるお礼とか……まぁ、もろもろのね」
とはいえ、彼女はレーナちゃんと違って四六時中私と一緒にいるわけではない。正直、異世界の子供の好みというやつが、私にはさっぱりだった。
だから、なんとなく隣に寄り添ってたら可愛いな、と私が脳内妄想で悶えたものをチョイスしたので、気に入ってもらえるかどうか。
「わぁぁぁ」
レーナちゃんのそれよりやや細長い包みを手渡すと、ソフィーちゃんは嬉々としてまさぐり始めた。あー、こっちは普通に破いてますね。
中からひょっこりとつぶらな瞳を覗かせたのは、ソフィちゃんの身長の半分くらいの大きさを持つ、60センチのビッグなクリーム色クマさん。なんとなく、クッションと顔が似ているのを選んだ。
「ソフィーちゃんには、ぬいぐるみにしてみたよ。こ、こういうの嫌いだったりする?」
「ううんっ、だいすき! みかちゃんありがとうっ」
早速ひしっとクマさんを抱き寄せるソフィーちゃん。おおぅ、メルヘンチックな絵面。クマさん役得だなぁ。
「お返し、考えないといけませんね……!」
「いいよいいよそんなの。レーナちゃんはこれ以上ないくらい私のお世話してくれるし、ソフィちゃんはそんなレーナちゃんと仲良くしてくれてるし」
「そう言うわけにも……」
「じゃあせめてそれほどお金かからないものにして? 私も貰えるだけで嬉しいんだから」
「はい、わかりましたっ」
二人とも、とっても嬉しそうだ。それだけでプレゼントとお返しとしては十分な感じすらある。
でへへ、女の子に貢ぐ男の人の気持ちが少しわかったかもしれない。これは破産もするわ。
「あれ、なんとなくですけど、このクッションとそのぬいぐるみさん、お顔が似てますね」
あ、気づいたか。流石レーナちゃんです。
「わっ、ほんとだぁ……れえなおねえさんおそろいだねっ」
「はいっ」
あぅ……笑顔が眩しいよぅ。
良かった。お姉さん、『ふざけんなプレゼントの見た目被ってるじゃねえかこのタコッ!』とか罵られたら泣いて自害するとこだった。
「あ、でもでもっ、まだ喜ぶのは早いよ二人とも!」
「どうしてー?」
「なんでですか?」
「だって、これだけな訳ないじゃん!」
私がこの程度の贈り物しか贈らないと思ったのか。
「レーナちゃんもソフィーちゃんも髪の毛長いし、結ぶ用にゴム何個か買っておいたよ。レーナちゃんは私服少なすぎだもんね、ちゃぁんとお洋服も買っておいたよ! 気に入らなければ今度一緒に別のを買いに行こ。ソフィーちゃんは冬場体冷やして欲しくないし、内側がモコモコした服何着か買ったよ。こっちも気に入らなきゃ3人で一緒に買いに行こう。後、火属性の魔法の応用だかで、擦ると熱を放つ布! カイロみたいで面白いから沢山買ったよ! 二人とも使ってね、あったかいから! それから、レーナちゃんにお花の種。可愛いのが咲くってオススメされたんだぁ……ソフィーちゃんにお菓子の詰め合わせ。私も食べてみたけど美味しかったよ、まぁレーナちゃんのお菓子には負けるけど。後、髪飾りも綺麗なやつ買った! それと––––」
「買いすぎですよ!?」
「わぁーい! みかちゃんありがとー!」
使った金額を気にするレーナちゃんと、無邪気にはしゃぐソフィちゃん。
両者異なる反応だけれど、心から喜んでくれていることはひしひしと伝わって、頰が綻んだ。
****
先程まで騒いでいたのが嘘のように、静かな夜だった。
聖夜と呼ぶのに相応しく、外ではまた粉雪舞い始め、辺りの針葉樹を白く染め始めていることだろう。
暖炉のチリチリとした火花の音もなく、ただそこにいる人間の息遣いだけが、空気を震わせていた。
どうせなら三人並んで眠りたいと私が言い出した結果、普段は使っていない客間の床に、布団を敷く形になった。
「すぅ……すぅ……」
いっぱい遊んで、美味しいものをお腹いっぱい食べたソフィちゃんは、歯を磨いた直後、幸せそうに眠ってしまった。
レーナちゃんは若干うとうとしているものの、まだ意識を保っている。
「寝ちゃったねぇ」
「……そうですね」
すぅすぅと寝息を立てる姿は、年相応に愛らしい。
毛布をかけて冷えないようにしてやると、僅かに身動ぎした。
「ね、レーナちゃん」
「はい?」
「おいで」
私は端から木の椅子を持ってきて腰掛け、ぽん、と自分の膝の上を叩く。
レーナちゃんはこてん、と首を傾げた。
「そういえば最近、レーナちゃんのこと膝の上に乗せてなかったなぁって。久々に、どう?」
「……でも、ソフィちゃんだっていますし、そういうのは……もし起きてしまったら」
「そんなに人にじゃれ合ってるとこ見られるの嫌?」
「だって、はずかしい……ですし」
「へーきへーき。ぐっすり眠ってるもん」
「……そ、そこまで仰るなら」
失礼します、とレーナちゃんは満更でもなさそうにして私の膝に乗った。ささやかな重みが腿にかかる。
「……んん」
「あっ……や、やっぱり重いですよね……?」
「まさか。怖いくらい軽いよ。ねぇ、私がいない時とかお昼ちゃんと食べてる?」
「ご主人様と一緒に食事を摂る時程度には……たまに他のことをしていて食べ忘れちゃいますけど」
「こぁらっ」
「ひうっ!?」
ほとんど痛覚がないように加減して、後頭部を指で弾く。衝撃に驚いたレーナちゃんは可愛い声をあげた。
「な、なにするんですかぁ……」
「これ以上痩せちゃダメだよ。あんまり骨張ってると私が不安になるし……多少お肉がついてるくらいの方が、女の子は可愛いって言うけど」
「ご主人様も、そう思うんですか……?」
「私は別に。太ってても痩せててもレーナちゃんじゃん。年取っても、多分レーナちゃんは可愛いお婆ちゃんになるし、一生君のこと可愛いって言い続けると思うから、覚悟しててよ」
「……そうでしたね。ご主人様は、そういう人ですもんね」
レーナちゃんは呆れたような安心したような、とにかく脱力した声を漏らし、私にしなだれかかってくる。ふふ、甘えモードかなぁ。
「かわいいなぁ、もう」
「……ご主人様は……いえ、あの」
「?」
「体の向き、変えてもいいですか?」
「あ、うん」
うんしょ、と声に出しながらレーナちゃんは私の膝の上で時計回りした。
その結果として、顔がかなり近くなる。
「……顔、結構ちかいですね。ご主人様の匂いがします」
「わ、私ってそんなに汗のニオイきつい? お風呂入ったばっかなんだけどね……」
「そういう意味じゃないですよ……もう」
「れ、レーナちゃんも、いい匂いする、よ……?」
「ど、どんな風にですか?」
「甘いような、お花っぽいような。それでいて香水みたいな人工物感がない自然な香り……正直めっちゃ好み」
「ふふ……なら、よかったです」
レーナちゃんは私の体に腕を回してきた。
ぎゅっ、っと体が寄せられる。
「あったかい……ですね。ご主人様は……ちゃんと、私の恋人さんですよね」
「あ、あの……レーナ、ちゃん?」
「––––私、自分が嫌になりそうなんです」
「へ……何の話?」
急に不穏な言葉を聞いて、私の体は少し強張る。
「今日一日、ご主人様と、ソフィちゃんがとても仲良くしているのを見ていて、胸の中がモヤモヤしました」
「は? いやいや……どっちかと言うと私ソフィちゃんには舐められてると思うんだけど」
雪合戦での悪意に満ちた笑みから、食後のお菓子タイムでの舌打ち。
あの子は確かに純粋だが、一部真っ黒な部分もあることは間違いない。末恐ろしすぎる。
「あれは心を許してくれてる証拠ですよ」
「……で、レーナちゃんはそれに嫉妬した、ってこと?」
「はい、おかしいですよね……ソフィちゃんは、それこそ私たちより十歳以上も年下の女の子なのに。ご主人様が取られてしまいそうだ、なんて。自分がこんなに心配性で小さい人間だったなんて、知りたくありませんでした」
––––私は君が心配性なのは知ってたよ。
恥ずべきものを曝け出すように躊躇いがちに、けれどはっきりと、彼女は胸中を明かしていく。
奇しくもそれは、私も同様に思っていたことだった。
「……私も」
「––––」
「私も、二人が仲良くしてるところ見ると、結構不安になってたよ」
「えっ」
そんな意外そうな声を上げるほどのことだろうか。レーナちゃんとて、全く同じ胸中だったと話してくれたばかりなのに。
「取られちゃいそうだなって。あの子、無邪気なようで抜け目ないところあるっぽいから。レーナちゃんころっと落とされちゃわないかなぁって」
「そ、そんなっ、あり得ないですよっ。ソフィちゃんは、大切な友達です! そういう対象じゃないですよっ」
「私だって、ソフィちゃんとはあくまでレーナちゃんを介した友達ってだけだよ。やっぱりさ、どうにもレーナちゃん以外の女の子といても、ドキドキはしないんだよね」
「……!」
胸が高鳴るか高鳴らないか。その明確な判断基準は、相手がレーナちゃんであるか否かだと考える。
他の同性を愛する人たちなら、どうなんだろうか。
私は同性であれば、誰でも恋愛対象になり得るとは思わない。レーナちゃんだから、レーナちゃんが、いいんだ。
「安心して、私を信じて? 私もレーナちゃん信じるよ。浮気なんてしないし、ずっとずっと君だけを見てるよ」
そうして、自然な動作であたかも当たり前のように唇を重ねる。
嬉しかったのは、レーナちゃんが一切抵抗とせず、それを受け入れてくれたことだ。
数秒触れるだけのキスをして、顔を離していく。
「ずっとずっと、大好きだよ」
「…………その言葉が、何より嬉しいプレゼントな気がします」
そう言って幸せそうに笑うレーナちゃんこそ、私にとっては今年最後の一大プレゼントだった……なんて。
「……ま、マジかー、私の贈り物はことごとく琴線に触れてなかったってことね」
あまりに綺麗な表情だったから、私はつい余計なことを言ってしまう。
「え、ちょ、そ、そんな意味じゃあっ……もぅっ! わかってるくせに、そういう態度とらないでください! だから私も素直になりきれないんです!」
「あ、自分の性格人のせいにするとかひどい!」
「だ、だって少なからずそれもっ……!」
「えぇ、言い訳だよそんなのー」
「……も、もういいですっ、私もう寝ますからっ」
「え、ちょっと!?」
捕まえる暇も与えず膝から飛び降りて、レーナちゃんは布団の方へとたとた歩いて行ってしまう。
「そ、そうやって逃げるのレーナちゃんの悪いくせだよっ!」
すぐさま追いついて、ソフィちゃんを挟んで布団の中でレーナちゃんを申し訳程度に睨みつける。
「ご、ご主人様こそ、照れ隠しに私のこと弄るの悪いくせですっ!」
「そっ、それは愛情表現であり別に照れ隠しでは––––」
「むぅ、ふたりともうるさくてねむれない……」
「ごめんなさい」「ごめんなさい」
寝惚けた幼女に怒られた。
明日はクリスマスなので(?)短めのお話何本か投稿するかもしれません。
ブックマーク等、いつもありがとうございます!




