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26.5:橘純夏とスミカ・タチバナ

というわけで、純夏の頭の中の話です。


 私の名前は橘純夏。なんの変哲も無い……なんて人間はこの世にいないけど、そこそこ平凡な日々を送っていた日本人だ。


 家族構成は、可愛い妹がいて、両親がいる四人。後、田舎にじいちゃんばあちゃんがいる。


 最近妹はぐんぐんぐんぐん背が伸びてさ。ちょっと前までちんちくりんだったのに、一丁前にオシャレだなんだって煩くなってさ。私も高校生になるわけだよね。

 それでもまだまだ甘えん坊。

 この先も、私が構ってあげなきゃなって、シスコンっぷりにちょっと呆れながら思ってたっけ。まぁ私もシスコンだから人のこと言えないね。


 友達だって人並みにいる。

 高校には……三人の親友がいた。


 毎日楽しかったな。

 私が引っ掻き回して、それに他の三人が乗っかったり、宥めたりしてくれてさ。

 そのうちの一人は幼馴染で、ずっと一緒に育ったんだ。

 毎年毎年夏祭りとかも一緒に行ってたし、同じクラスになるたびに、飛び跳ねて喜んだっけ。

 あぁ、私たちまた一緒だねって。

 きっとこの先も、ずっと親友だねって。


 私が住んでた場所はあんまり栄えてるとは言えない地方の街。

 それでも田舎っていうほど寂れてもなかったし、ゲーセンとか、ショッピングモールとかもあった。

 アーケードゲームって、高校に入って初めて本格的にプレイしたんだよね。親友三人と一緒にカーレースゲームやった時は、めっちゃ燃えた。女子高生らしくない? いやいや、こんなもんだよ。

 とにかくまぁ、毎日面白おかしくて楽しかったよね。明日が来るのをワクワクしながら夜眠ってた。






 私の名前はスミカ・タチバナ。異世界から、無責任に召喚されてきた元一般人の冒険者。


 この世界に来てからしばらくは本当に地獄だった。


 冒険者って、結構キツイことばっかりなんだよね。

 返り血も沢山浴びたし、ともすれば動物園なんかで飼い慣らされたライオンなんかより、よっぽど凶暴で迫力がある化け物と毎日戦わなきゃいけない。あんな温室育ちの百獣の王なんて、ガォーガォー言うだけで弱っちいっての。ゴブリンとやり合ったら即死だよ。

 命がけの毎日だ。生きるため、お金を稼ぐためには遊んでなんていられなかった。まぁ、遊ぶものもろくになかったよね。



 ご飯もあんまり美味しくなかったな。片田舎の酒場でさ、ガサツで豪快な料理が多かったんだけど、日本でヌクヌクと暮らして来た私には、どれも合わなかった。

 周りは、お酒に酔って絡んで来るウザイおじさんばっかでさ、ほんっっとに、居心地悪かった。まぁ、私自身料理できないんだから生きるためには通い詰めるしか無いんだけどさ。その頃の食事は、本当に苦痛だった。



 帰りたいなって、いっつも思ってた。

 なんでこんなところにいるんだろうなって、二足歩行する小鬼(ゴブリン)の頭を裂きながら、考えてた。

 死にかけたこともあったんだ。まだ環境に完全に慣れてない頃、突然変異して大きくなったゴブリンと遭遇して、不意の初撃を奇跡的に避けられたから良かったけど、多分、当たってたら私は即死してた。


 反射神経とか、経験で養ったものとか沢山使って何とか倒したんだけど、首に剣ブッ刺してやるまで、生きた心地がしなかった。

 それで、また思ったんだ。

 なんでこんなところにいるんだろうなって。






 レーナちゃんって、女の子がいる。

 家事をなんてろくにしないで、平日は寝るためだけに帰ってた屋敷だったから、居間とかめっちゃくちゃ散らかっててさ。流石にこのままじゃまずいって思ったんだよね。



 酒場の主人さんに相談したら、奴隷を勧められてさ。

 抵抗あったけど商人さんのところ行ったら、その子に一目惚れしたんだ。

 今でも、どこに一目惚れしたのかわかんないままだったりする。

 顔かな、声かな、色かな、存在自体かな。

 不思議と、『あ、私この子好きだ』って、運命みたいなものを感じたんだ。

 家事は丁寧で、その上凄い早く終わらせてくれるし、手料理の味付けとか絶妙で、美味しくて。酒場のご飯には戻れなくなったよね。

 そのくせ可愛いし、仕事の行き帰りに『いってらっしゃいませ』とか、『おかえりなさいませ』とか、毎回わざわざ玄関まで来て言ってくれるし。それだけで頑張る気力が無限に湧いてくるよ。

 誕生日にサプライズしてくれたり、冬が苦手なのに雪遊びに最後まで付き合ってくれたり。

 多分隠してるつもりか下手したら自覚ないのかもしれないけど、すごい甘えん坊で、頭撫でると顔がふわふわ溶けたみたいにだらしなくなる。

 笑ったらふんにゃりって擬音がぴったりな可愛い顔になる。元々可愛いけど。

 なんだかんだ私の無茶振りにも応えてくれる。

 意思が弱いって思ってたけど、段々と本性っていうか、今まで抑えて来てたっぽい部分が見えてきて、案外棘のある言葉をサラッと言ったりするし、『ありがとうございます』とか、『幸せです』とか、思ったことをちゃんと口に出してくれるところもポイント高い。

 弱いところとか見せても、気遣ったり安心させたりしてくれる。

 独り言とかは普通にタメ口なのに、誰に対しても敬語で接するところとかは、正直まだあの子が『奴隷』って括りから抜け出せてないんじゃないかって考えちゃって、勝手に胸が苦しくなったりする。けどまぁ、それもトレードマークだって思えば、自然と美点だって感じられるようになる。あの子が変えようとしていないんだから、きっとそのままでいいんだ。



 そうやって挙げたら本当にキリがないくらいにレーナちゃんはいい子なんだ。私はそんなあの子が大好きなんだ。

 どうしたってあの子のことを考えない日は無いし、ほんのちょっと前に、あの子も私のことを好きだと言ってくれた。嬉しかった。ヘタれちゃって唇にキスできなくて、つい旋毛にキスしちゃったけど、あの子は私が旋毛好きだって勝手に解釈してくれた。合ってるけど違う。



 とまあ、こんな具合に私のこれまで生きてきた記録を大雑把に挙げてみたけどさ?

 どうなんだろうね? 元の世界に戻りたい?

 日本に戻れたら、多分高校は中退扱いだろうから、高認とかとってさ、就職活動して? 苦労しながら職見つけて? 親孝行とかしてさ、まずまずの人生送れるかもしれないよね。

 日本なら、まず命かけなきゃ生きられないなんて状況にはならないよね。食べ物だってこっちじゃ食べられないような美味しいものたくさんあるだろうし、何より親友がいる。きっと心配してる幼馴染とか、家族がいる。

 待っててくれてるはずな人たちが、たくさんいるんだ。

 ならさならさ? 答えは決まってるよね?



 橘純夏とスミカ・タチバナ、私ならどっちを選ぶよ?

異世界系の作品で、転移してきた主人公たちが、元の世界に帰りたがらないのが本当に不思議です。

冒険者とか……命がけで生き物殺さなきゃいけないので普通に無理です。トラウマになります。





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