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苦手な方はご注意ください。

ある異世界の短編集

英雄エルブロウはかつて只の騎士だった(前編)

作者: 睦月一華

 きっと、夢を見ているのだと思った。


「Guriiiiiiiii!」


 騎士、エルブロウが所属する騎士団は総勢780人の騎士が所属している。一貴族が所有するには最も大きな騎士団だった。

 街の外の更に向こうの森の奥深くであった爆発音。その調査に騎士8人が向かったのが三週間前。

 待てど暮せど誰一人として還ってこない。

 領主が騎士32人で大隊を編纂したのが一週間前。

 そして、今、森の奥にたどり着いた騎士大隊は壊滅、遁走していた。


「エルブロウ小隊長!ここは我々第四小隊が抑える!早く街に戻り援軍を!」


 士官学校時代からの友、メセメタリアが声を上げ、あの怪物に切りかかる。

 しかし、既に彼の率いる小隊8名中3名が瀕死あるいは重体。残る5人もほぼ魔力を使い果たしていた。


「馬鹿を言うな!まだ私達第ニ小隊の方が戦える!お前達が先に退け!」


 一方エルブロウ率いる第二小隊は大した傷もない。まだ5人はほぼ完全に魔力を残しているし、残り3人もまだ半分以上は残っている。


「だからこそだ!悔しいが我々第四小隊は仲間を見捨てねば退くことも叶わん!ならばせめて、死地の旅は私が共に歩まねば!」


「な…死なせんぞ!死なせてたまるものか!」


 既に第一小隊は誰も動かず、第三小隊は姿も見えない。


「絶対に死なせんからな!共に生きて帰るぞメセム!」


 第四小隊の、身軽で軽業が得意だった騎士が化物の爪にかかった。

 騎士大隊全滅まで、残り12人。




 森に居た化物は、護竜族(ファーヴニル)によく似た姿をしていた。

 大きな鰐のような顎に、蜥蜴のような体躯。体は柔らかく鋭い毛に覆われ、足は4本。そしてて一対の巨大な翼。


 しかし、護竜族(ファーヴニル)と大きく違うのはその体の色。

 本来護竜族(ファーヴニル)であれば白銀を基調とし、そこに赤や金が差す。

 一方この竜の色はどこまでも漆黒。

 そして何より、()()()()()()()

 それが、この竜に似た化物が竜でないという最大の証だった。




「【(あか)よ紅よ進化を促す不死身の紅よ。歪みし黒を貫く光をこの手に】…ふせろメセム!」


 エルブロウは簡易的な、しかし魔術師達とは違う呪文を呟いた。


「?…なんだそれh」


「【光滅】!」


 無音、そして静寂。

 メセメタリアは最初、魔法に失敗したのだと思った。

 初めて聞いた、他のどの魔法とも根本が異なる呪文だったのだから、そもそも間違えたのだとも思った。


「Gi…Gaaaaa!?」


 遅れること数秒、化物が突如として悲鳴を上げる。

 何かが触れたわけでもないのにも関わらず、突如として左の翼が弾け飛んだのだ。


「なっ…今のは一体なんだエルブロウ!?」


 エルブロウは今の一度の魔法でほぼ全ての魔力を使い果たしたのだろう、青白くなった顔で笑う。


「先日の…闘技大会で優勝した褒美に…皇帝陛下直々に賜った秘術…だ…はぁ…はぁ…」


 ポーチから小瓶(ポーション)を取り出し、一気飲み。これで魔力不足はとりあえず解消された。


「真似しようとするなよメセム。あれは魔力が足りなければ魂を削るぞ」


「…言われずとも。そもそも魔法が苦手な俺には無理だ…おいシュシ!」


「はっはい!」


 ただ羽を弾け飛ばしただけではないようで、化物ら悶え苦しんでいる。

 その隙に仲間達を魔法で集め、部下たちに預ける。


「シュシ。今から馬鹿(エルブロウ)の転送魔法で街までお前たちを戻す。俺達が抑えてるから…そうだな、勇者でも呼んできてくれ」


「しょ、小隊長!?無茶です!死んでしまいます!」


「いいからいけ!エルブロウ、頼む!」


 シュシと呼ばれた騎士の周りの地面が光り輝く。既に転送魔法は発動していた。


「小隊長!エルブロ」


 泣き叫ぶシュシの声も途中でブツリと千切れる。


「よし…エルブロウ、あれはまだ使えるのか?」


「無理に決まっているだろう…メセム、来るぞ」


 化物を見れば、左の肩まで爛れていた。そして目には怒り。


「さて、あと何分時間を稼げるかなぁ」


「せめて一時間は稼げよ…っ!」


 メセメタリアが長剣を、エルブロウが盾と片手剣を構える。

 残り2人。先程より遥かに激高した化物との戦いが始まった。




「…がはっ!…エルブロウ、回復頼む!」


 もう2人で戦い始めてからどれほど時間がたっただろうか。

 化物にも細かい傷が増え、右の前足をへし折ることに成功した。

 しかし既にエルブロウの剣は折れ、予備の短剣を振り回している。メセメタリアの大剣も限界近い。


「【治光】…悪い知らせだ、もうポーションがない」


 ポーチの中の最後の一本を飲み干し、空になったポーチごとすてる。


「そうか…エルブロウ…いや、エル。お前も逃げろ」


「馬鹿言うな、惚れた女置いて逃げれるかよ」


「それは初めて聞いたなっ…!くそっ!」


 メセメタリアの振り下ろした大剣が鈍い音をたてて刃の中程が大きく割れた。


「これはマズイ…か。本当なら退きたいところなんだが…」


「一旦挽け!俺が抑える!」


「いや、大丈夫だ。誰が来たようだからなっ」


 大きく振り回された尻尾を砕けそうな大剣の根元で無理やり防ぐ。

 メセメタリアは知覚を最大に延ばしていた。だからこそ、森の入り口上空付近に何か大きな魔力を持つ者が飛来していることを感知していた。


「ほら来た…っておいおい、マジかよ…」


 飛来したのは、対峙する化物と同じ体躯をした白銀の竜。


『感謝する勇気ある騎士よ。我が同胞を止めてくれた事』


 護竜族(ファーヴニル)と呼ばれる竜だった。

初投稿作品につき。

基本的に毎週月曜日+αで投稿していけたらいいなぁ…

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