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神ノ瀬高校 異世界科  作者: Mr.
第一章 生徒会選挙編
1/3

一話 不良は異世界へ飛ぶ

わりと設定決めないまま見切り発車で書いていきます。

もう一つの作品の方が書くのにめっちゃ頭を使うのでこっちは休憩程度にしようとおもってます。

流行りの異世界ものだけど主人公はチートじゃないしハーレムも形成されないと思います。

ごめんね。

不定期更新です。

 ここは某県神ノ瀬市。人口は十万人ほどで決して大都市とは言えないが、その名前は全国に響き渡っていた。理由は二つ。

 一つは、治安がすこぶる悪いこと。酒、煙草、女、クスリなどなど、人間の欲望を全てかき集めたような街がいくつもある。法に則っているところはごく少数。その他は全て非合法、捕まれば即刑務所入りが確定するような犯罪の温床となっている。

 類は友を呼ぶと言うべきか、それが災いとなって、全国からやくざの類や不良、悪ガキなどが集まってきていた。

 こうして全国でも類を見ないほどのアウトレイジな街が作り上げられていた。

 これに対し警察は全く関与しないことも神ノ瀬が悪の街となることを助長していた。黙認しているのだ。警察はこの状況で何をしているのか、取り締まるべきだ、という意見も挙がっているが、神ノ瀬署はそれでも動かない。

 何故か。

 それはこの街そのものが監獄のようなものだからだ。全国の悪たちがここに集まってくるため、現在の日本はこの神ノ瀬市を除く全ての市区町村が平和そのものだった。現に犯罪数も減少していた。

 二つ目は、とある高校の存在。その名を神ノ瀬高校という。この高校は大学付属ではない日本唯一の国立高校だ。この高校が建てられたのは国家プロジェクトの一環だった。昨今の社会は学歴しか見ない。そこに埋もれていく才能を持った若者は大勢いた。これを活かせないだろうかと考えた時の政府が、そんな学問以外の長所や尖った才能を持った人を見捨てず、育てるために作ったのがこの神ノ瀬高校だった。

 そんな神ノ瀬高校には奇妙なうわさがある。

 数年前、たった一夜にして教師全員と何人もの生徒が行方不明になったのだ。これは当時大問題となった。そもそも神ノ瀬高校は生徒、教師ともに全寮制である。高校にしてはかなり広い敷地の中に、寮が完備されているのだ。普段外出しない生徒や教師が大人数で行方不明になどなるはずがない。

 メディアはこれを大々的に取り上げた。事件後は高校に取材が殺到し、残った生徒に幾度となくマイクが突き付けられたが、誰一人、何一つ話すことは無かった。

 結局その事件は多くの謎を残したまま、国が遺族に莫大な賠償金を払って終息していった。


 俺――鬼灯涼夜(ほおずきりょうや)はこの事件の当事者だ。事件というよりは大冒険譚だな。なんたって俺らは異世界に飛ばされて、数々の戦いを乗り越えたのだから。






 ***






 四月五日。今日はこの神ノ瀬高校の入学式だ。今頃、第一体育館では校長がそれはそれは長い挨拶をしていることだろう。俺――鬼灯涼夜は校舎の屋上で横になり、流れる雲をぼんやりと眺めていた。

 今日も暇だな。


「あ! やっぱりここにいた! ほら早く行くよ、私たちだって始業式があるんだから」


 階段を駆け上がってきたのは、幼馴染の槐真優子(えんじゅまゆこ)。俺とはかれこれ十年くらいの仲だ。目鼻立ちは整っている方だと思う。俺なんかとつるんでなきゃとっくに彼氏の一人くらいできただろうに、残念な話だ。長い黒髪をそのまま下ろしている彼女はいわゆる委員長タイプで、皆のまとめ役であり慕われている。

 一方俺はというと獣のような鋭い目つきにオールバックの金髪。短気で気性が荒く、すぐに暴力に訴える。いわゆる不良タイプで皆の嫌われ役であり避けられている。

 なぜいつも二人でいるのかとよく聞かれるが、それは幼馴染だからとしか言いようがない。本当にそれ以上でもそれ以下でもない。


「あ? いいだろ別に出なくても。どうせ先公の長ったらしいご挨拶だけだろうしよ」

「もう、ほんとにクズね。大事な連絡もあるかもしれないから、ホームルームまでには教室に帰ってきてよね」

「わりぃ、俺何組だった?」

「クラスも確認してないの? はぁ、涼夜は私と同じ二年一組よ」

「さんきゅー」


 呆れたような口ぶりの真優子に、俺は全く悪びれもせず答えた。もはやこういうやりとりもいつものこととなってしまい、最初の方は逐一注意してきた真優子も最近ではただ呆れるだけで全くスルーするようになった。


「でも、入学式かー、早いね。もうここに入ってから一年経っちゃったなんて」

「そーだな」


 真優子と俺は、去年の今頃のことを思い出す。






 ***






「やべぇ、真優子と約束してんの忘れてた!」


 俺は家を大急ぎで出る。今日は神ノ瀬高校の入学式だ。この高校は全寮制だがその寮に入れるのが今日からだったため、今日に限っては自宅からの登校だ。

 ガラガラとスーツケースを乱暴に引きながら、高校への道をひた走る。

 普段の俺は時間なんか守らない適当人間だが、真優子との約束となっては遅れるわけにはいかない。

 自分で言うもなんだが、俺は体力はある方だと思う。さほど疲れもせずに高校まで走り抜けた。途中、どうみてもガラの悪い兄ちゃんと何度となく遭遇したが、物騒なことは起こらなかった。

 待ち合わせていたのは昇降口。しかしいざついてみるとどこにも真優子の姿が見当たらない。暫く敷地内を歩き回っていると、体育館の中から声が聞こえてきた。


「あちゃー、やっぱ式には間に合わなかったか。まあ、真優子は俺を諦めて一人で体育館に行ったんだろうな」


 それなら問題ない。俺はもともと不良だしな、先公もそれくらいわかってんだろ。

 俺は昇降口のところに掲示してあったクラス分けの表を確認すると、一足先に教室に行って暫く眠ることにした。

 俺が寝始めてから数時間。やっと入学式が終わったらしく、校舎がだんだんと煩くなってきた。徐々に人が帰ってきている。俺のクラスの人間も例に漏れず帰ってきた。ガラと扉が開かれる。が、しかし教室に人が入ってくる気配はない。どうしたのかと俺が横目で窺うと、入り口のところで何人もの生徒が驚愕に目を見開き、口をあわあわと動かしている。


「あ? なにしてんだお前ら。じろじろみてんじゃねぇよ」

「な、な、な、なんでうちのクラスにあの鬼灯涼夜がいるんだよ!?」


 それは誰かが発した言葉。他の連中も激しく同意といった様子でブンブンと頷いている。


「はぁ? なんでってそりゃあ俺がこのクラスだからだよ。それともなんだ、いちゃあ悪いのか?」

「い、いえ、何でもないです」


 涼夜が睨むと、男子生徒は小動物のように縮こまってしまった。他に文句あるやつはいるか、と言外に匂わせながら他の生徒を見ると今度は女子生徒が怯え切った様子で言った。


「だ、だってあなたは喧特で入った生徒じゃないんですか? ここは普通クラスの教室ですよ」

「だからうるせ――」

「残念だけど、こいつは喧特じゃないよ。私たちと一緒で一般入試で入ったの。だから今日からクラスメイトってわけ。大丈夫、何もしなきゃただの金髪だから」


 俺の声を遮って話し始めたのは真優子だ。人ごみをかき分けて教室に入ってきた。周りの生徒から「真由子さんだ」「姉御が居れば安心だな」と口々に言っている。

 真優子は俺と仲が良かったためか、不良のやつらからも慕われている。それでつけられたのが姉御だ。

 つーか、俺は猛獣かってーの。

 先程会話で上がった喧特とは喧嘩特待生の略だ。喧嘩特待とは、この学校に定められている制度で、この街で喧嘩が飛びぬけて強いと、年齢制限はあるが、この学校に入れるという制度である。なんでもお偉いさん曰く、喧嘩が強いのもまた才能だそうだ。背後に「こうすれば全国の不良をここに押し込められる」って魂胆が見え見えだがな。

 一応俺にも喧嘩特待の知らせは届いたんだが、俺はあえて断った。普通科と喧嘩特待じゃあ教室どころか校舎も違うからな。あっちは隔離病棟みたいなもんだ。


「でも、この学校の一般入試ってめちゃくちゃ難しいんじゃなかった?」

「なんだそれ、てめぇ俺は馬鹿だって言いてえのか?」

「い、いえ、そういうわけじゃ!」

「あーもういちいちめんどくせーな。そこに突っ立ってないで入れよお前ら。何もしねえよ」


 俺が一般で入ったことを信じていない様子だった生徒も、怯え切った生徒も、俺が声をかけるとぞろぞろと教室に入ってきた。

 確かに神ノ瀬高校の一般入試は独自の問題な上、募集定員が少ないためかなりの難易度だった。

 俺は普段やらないだけで地頭はよかった。それと成績優秀な天才少女である真優子がずっと一対一で勉強を教えてくれたおかげでもある。そんなこんなで俺は一般の狭き門を潜り抜けてこの神ノ瀬高校の普通クラスに入学したのだった。

 全員が席に着くと、担任が教卓に立って話し始めた。もちろん興味の欠片もない俺は窓の外を眺めている。

 あー、今年入った奴の中で気になるのは二人だな。気になるというのは喧嘩が強いという意味だ。

 まず一人目、仙道魁(せんどうかい)。こいつは身長二メートル近く、体重は百キロオーバーの大男でとても俺らと同い年には見えない。やつは格闘技やら武術やらをやたらと習得している。中でも柔道が一番得意らしく、少し前も中学生ながら世界大会で金メダルを取っていた。

 直接喧嘩したことがない分、期待も高まっている。いつかサシで戦ってみたいもんだ。

 そして二人目は金平晴陽(かねひらはるひ)だ。こいつは俺や真優子と同じくこの神ノ瀬市が地元で昔から喧嘩が強かった。と言っても俺は実際に戦ったことは無い。俺は「東の鬼灯」、金平は「西の金平」と呼ばれ、互いにかなりの勢力を抱え込んでいた。ま、勢力ったってガキの集まりだが。その頭同士が戦うとなれば総力戦となりかねない。さすがに俺も金平もそこまでするつもりはなかった。たびたび下の方で小さな争いは起こっていたがな。やつの見た目? はっ、思い出したくもねーな。


「――以上で、先生からの話は終わりです。皆さん、今年一年間よろしくお願いします」


 先生は若い男だった。熱血漢って感じだ。

 まあこんな感じで俺はここに入学したんだ。






 ***






「って、涼夜はほとんど授業出てなかったし、教室で見たのもあの日が最後だったね。それ以降はどこか歩いてるかこの屋上に来ているかだったし」

「うるせーな、単位が取れりゃあいいんだよ」

「はぁ、そこがウザいよね。涼夜ったら私が教えたらすぐ吸収しちゃうんだもん」


 深いため息を吐く真優子。

 この高校にいる生徒は皆、それぞれの分野で世界一を争うような人間ばかりだ。そのため海外を飛び回る人も少なくなく、それに対応するためこの学校は出席点という制度がなかった。つまりテストでいい点さえ取れば、授業に出ていなくても単位がもらえるのだ。涼夜もその制度をフルに活用して、普段は外を散歩したりたまに喧嘩したりしていた。


「いいのかよ、もうホームルーム始まってんぞ?」

「え、嘘!? やば、ほら早くいくよ」

「いだだだ! ばっかてめぇ髪の毛掴むなよ、折角セットしてんのによ」

「その金髪オールバック? だっさいから止めた方がいいよ」

「ぶっ殺すぞ――ってわかった! わかったからもみあげはやめてくれぇぇ」


 涼夜は真優子に引きずられていった。

 教室に着くと、すでに他の生徒は着席していて、先生も二人を待っている様子だった。


「槐さん、わざわざありがとうございます。鬼灯くんは後で指導室に来るように」

「あ? なんで俺だけ呼ばれなきゃなんねーんだよ」

「言い訳は禁止です。ほらはやく着席しなさい」


 今年の担任はメガネの女だった。いかにもお堅い人って感じで俺の嫌いなタイプだ。

 俺は担任の言葉を無視して席にどかりと腰かけた。担任が話し始める。


「私は阿久津陽子(あくつようこ)です。この二年一組の担任になりました。一年間よろしくお願いします」


 その後、担任の阿久津はたらたらと話し始めた。当然俺はその話なんか聴かずに外を眺めている。


「鬼灯くん! どこ見てるんですか? 今は先生が話している途中でしょう。ちゃんとこちらを向きなさい。あとしっかりと座りなさい」

「んだよ、こまけーんだよ」


 俺が我慢できず阿久津の方を向いた時だった。

 パッと視界が暗くなった。教室の電気も消えている。しかしおかしいのはそこではない。外だ。電気が消えただけでこんなに真っ暗にはならない。そう思い、俺が外を見ると、


「なんだ? ありゃ」


 学校の周りを囲っている塀の外側が、黒と紫が混ざったような何とも言えない毒々しい色に染まっていた。というより、黒と紫の壁に囲われているみたいだ。空も同じく毒々しくなっている。何が起こっているのか、他の生徒も俺と同じように外を不思議そうに眺めている。

 すると、阿久津が突然みんなに呼び掛けた。


「みなさん落ち着いて。一旦先生の方に注目、はい! いいですか、すぐに非常電源に切り替わるはずです。それまでは混乱を避けるために動かないでください」


 生徒からの視線を浴び、満足そうに支持する阿久津。仕切りたがりか、うぜー。

 そのすぐ後、非常電源に切り替わり、教室は明るくなった。一見元通りになったかと思ったが、阿久津の言うことを聞かずずっと外を眺めていた俺はすぐに異変に気付いた。


「ここは……どこだ?」


 窓の外に広がっていたのは広大な緑。どこまでも森が続いている。それほど遠くまで見通せるわけではないためよくわからないが、とりあえず視界に入っている範囲は全て森だった。先程までいた神ノ瀬市とは絶対に違う。


「なんだ?」

「どうして外が森になってるの?」


 他の生徒たちも気づき始めたらしく、外の景色を見ては口々にそう漏らしている。

 皆の視線が窓の方へ向かっている中、教室の扉が勢いよく開かれた。バンという強い音に、俺も含めた生徒全員が振り返ると、入り口の所に、おそらく隣のクラスの担任だろうと思われる男が立っていた。ってあれ去年の担任じゃねーか。

 去年の担任は阿久津を呼ぶと、耳元で何やら話している。

 暫くすると、阿久津はこちらを振り返り、言った。


「先生は他の先生と会議をしてきます。帰ってくるまでは落ち着いて待っていてください。」


 この時の俺は、いや俺たちはまだことの重大さに気づいていなかったが、すでに俺らは異世界とやらに飛ばされていたらしい。

 それも一人や一クラスなんて規模じゃない。学校ごとだ。

 こうして俺らの冒険譚は幕を開けたんだ。





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