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第五話 「アルフレッドの慧眼」

 マキシマム家先代当主、アルフレッド・マグヌス・マキシマムは、応接室の重厚な革張りの椅子に深く腰を沈めていた。


 六十五歳になった今でも、その背筋は一本の剣のように真っ直ぐ伸びている。長年の戦いで刻まれた数々の傷跡が、彼の肉体に歴史を刻んでいた。だが、その瞳だけは今でも鋭く、獲物を見据える鷹のような光を宿している。


 昼間の激論が脳裏に蘇る。


 リーベルが見せた、あの生々しい感情。

「カミラを外に出してくれ」という必死の願い。そして、それを頑なに拒む息子夫婦との対立。

 あの時の孫の表情を思い出すたび、アルフレッドの胸の奥で何かが疼いた。


 このままでは、あの孫は実力行使に出るぞ。


 長年、感情を殺して任務をこなしてきたリーベル。まるで精密に作られた暗殺機械のように、冷徹で完璧な仕事ぶりを見せ続けてきた。そんな孫が、初めて家族の前で激情を露わにしたのだ。

 その時のリーベルの表情を、アルフレッドは忘れることができない。


 怒り、焦燥、そして何より――妹への深い愛情。


 あの瞬間、アルフレッドは確信した。リーベルは変わったのではない。もともとあった想いが、ついに表面化したのだ。


 変われば変わるものじゃ。


 いや、違う。ようやく本当の自分を取り戻したのかもしれん。

 アルフレッドは孫の真の姿を見た気がした。


 殺し屋一族の宿命として、我らは時に非情な判断を下さねばならない。小を捨てて大を取る。感情に流されては、家族全体が滅びかねない。それがマキシマム家に代々受け継がれてきた鉄則だった。


 だが、それでも――いや、だからこそ――家族への愛こそが、我らの根幹にあるべきものなのだ。


 リーベルは腕前においては既に一流を超えている。十七歳にして、アルフレッド自身の若い頃と遜色ない実力を身に着けていた。だが、今まで家族に対してどこか距離を置いているように見えた。己の技術向上のみに執着し、時として冷たささえ感じさせることがあった。


 それが今回、妹のことでこれほど心を荒立てるとは。


 見抜けなかった。

 このアルフレッドの目をもってしても、孫の心の奥底にある想いを見抜けなかったとは。


 八万の軍勢を相手に戦い抜いた戦場の嗅覚も、家族の心の機微を読むには役立たなかったということか。

 アルフレッドは自分の不明を恥じる一方で、リーベルの成長を誇らしく思った。


 確かに孫の言葉は的を射ていた。

 我らは、カミラを愛するあまり、いつの間にか籠の鳥として扱っていた。過保護が過ぎて、かえってあの子の成長を阻害していたのかもしれん。


 温室の花として育てることが、果たして本当にカミラのためになるのか。

 息子ドミニクも、本来なら冷静に判断できる男だ。戦場では的確な状況判断を下し、数々の修羅場を潜り抜けてきた。だが、娘への愛情が判断を曇らせている。


 エリザベスに至っては、母性本能が完全に爆発状態じゃ。


 あの気高く美しい息子の妻も、カミラのこととなると途端に理性を失う。千人以上の賞金首を冷徹に仕留めてきた暗殺者が、今では過保護な母親に成り下がっている。


 家族で腹を割って話し合わねばならん。


 今こそ、決断の時じゃ。


 アルフレッドは重い腰を上げると、書斎の扉へと向かった。その足取りは老人のものとは思えないほど力強く、床に響く足音には威厳があった。


 廊下で出会った執事に声をかける。


「ドミニクとエリザベスを応接室に呼んでくれ。急ぎの話がある」

「かしこまりました」


 執事が恭しく頭を下げ、速やかに立ち去っていく。


 アルフレッドは再び応接室に戻ると、暖炉の前に立った。炎がゆらゆらと踊っている。その光は、彼の深く刻まれた顔の皺を浮き彫りにした。


 数分後、重い足音と共にドミニクが現れた。その後ろから、一見優雅だが明らかに戦闘モードのエリザベスが続く。


 ドミニクは仁王立ちで腕を組み、父親を睨みつけている。その眼光は、歴戦の戦士でさえ震え上がらせるほどの迫力を放っていた。身長二メートルを超える巨体から発せられる威圧感は、まさに人間離れしている。筋肉の一つ一つが鎧のように発達し、まるで歩く要塞のような存在感を醸し出していた。


 一方のエリザベスは、表面上は貴婦人らしい微笑みを浮かべているが、その美しい瞳の奥には氷のような光が宿っていた。完璧に整えられた金髪、優雅なドレス、上品な所作。だが、その全てが彼女の正体を隠すための仮面に過ぎない。現役暗殺者の本性が、薄いベールの向こうに透けて見える。


 やれやれ、完全に敵対モードじゃな。


 息子夫婦の殺気立った雰囲気に、アルフレッドは内心で苦笑した。


「まあ、座りなさい」


 アルフレッドが穏やかに声をかけると、ドミニクは渋々ソファに腰を下ろした。しかし、エリザベスは立ったまま微動だにしない。


「無駄だぞ、親父」


 ドミニクが開口一番、釘を刺すように言った。


「何を言うつもりかは分かっている。だが、俺の意見は変わらん。カミラはまだ子供だ。外の世界に出すには早すぎる」


 息子の頑なな態度に、アルフレッドは眉をひそめた。


「お義父様、夫の言う通りですわ」


 エリザベスが上品に微笑む。だが、その笑顔には明確な拒絶の意志が込められていた。


「カミラちゃんを危険にさらすお話でしたら、お聞きする気もございません」


 参ったな。


 アルフレッドは内心で苦笑した。確かに孫には甘いと自覚しているが、それを差し引いても今回の判断は正しいと信じている。


 ただ、息子夫婦の反対は予想以上に強固だった。特にエリザベスの母性は、理屈を超越している。


「まあ、そうカリカリするでない。話だけでも聞いてくれ」

「聞きません」


 エリザベスがきっぱりと断言する。


「カミラちゃんを危険にさらすような話など、絶対に。あの子はまだ病弱なのです。家の外に出すなど論外ですわ」


 その瞬間、エリザベスの纏う雰囲気が一変した。


 普段は「薔薇の貴婦人」と呼ばれる優雅な女性。その正体は千人以上の賞金首を仕留めた歴戦の暗殺者だ。子を守ろうとする母親の本能に火がついた今、その殺気は空気を震わせるほどだった。


 美しいドレスの下に隠された、レイピアの存在をアルフレッドは感じ取った。いつでも抜刀できる体勢を整えている。


 これは想像以上に厄介じゃな。


 母熊から子熊を奪おうとするのがどれほど危険か、アルフレッドは身をもって理解した。


「エリさん、とにかく座ってくれんか。このままでは話にならん」

「座りません」


 エリザベスの拒絶は頑として動かない。


「エリ、あまり頑固になるものではない」


 ドミニクがエリザベスを諫める。


「あなたも同じです」


 エリザベスが夫を睨みつける。


「私と同じ気持ちのくせに、どうして注意なさるの?」


 エリザベスの言葉に、ドミニクは苦い表情を浮かべた。


「親父、すまない。しかし、俺もエリと同じ気持ちだ。カミラはまだ幼すぎる」


 アルフレッドは深くため息をついた。

 やはり、正攻法では通じそうにない。

 息子夫婦の愛情は本物だ。だが、その愛情が時として子供の成長を阻害することもある。今がまさにその時だった。


「エリさん、意地を張らずに——」

「聞きません!」


 完全に膠着状態だった。

 アルフレッドは腹を据えた。孫達のためなら、多少の荒療治も已むなしじゃ。


「……なら、力ずくでも聞いてもらおう」


 アルフレッドが本気の威圧を放出した。

 空気が震動し、応接室の調度品がガタガタと音を立てる。窓ガラスがビリビリと共鳴し、今にも割れそうになった。暖炉の炎すら一瞬揺らめき、部屋全体が異様な圧迫感に包まれる。


 これは八万の軍勢に単身突撃した時にも使わなかった、アルフレッドの本気中の本気だった。


 マキシマム家の先代当主として、そして伝説の暗殺者として積み重ねてきた威厳の全てを込めた威圧。それは、場の空気を完全に支配した。


 さすがのエリザベスも、その圧倒的な威圧の前では平静でいられない。美しい顔に驚愕の色が浮かび、無意識に半歩後ずさりした。レイピアに手をかけていた右手も、わずかに震えている。


 ドミニクでさえ、父親の真の実力を目の当たりにして息を呑んだ。


 しかし流石は歴戦の暗殺者。エリザベスはすぐに体勢を立て直す。


「さすがはお義父様」


 エリザベスが皮肉混じりに呟く。しかし、その声には先ほどまでの強硬さはなかった。


「改めて、その実力に感服いたします。ですが、それでもカミラちゃんを危険にさらすことには反対です」

「すまんかった。少々大人気なかったな」


 アルフレッドが謝ると、エリザベスもようやく腰を下ろした。


 威圧を解いたアルフレッドの表情は、再び慈愛に満ちた祖父のものに戻っている。


「それで」


 エリザベスが警戒を解かないまま尋ねる。


「お義父様は何をお話しになりたいのですか?」


「率直に言おう。我らは間違っておった」

「何が間違っているとおっしゃるのですか?」

「カミラの扱いじゃ。あの子を過保護にし過ぎた」


 エリザベスの美しい眉がぴくりと動いた。


「お義父様は間違っていらっしゃいます」


 静かだが、強い意志を込めて反論する。


「カミラの戦闘技術はまだまだ未熟です。それに、あの子は警戒心が薄く、油断しやすい。とても安心して外に送り出せる状態ではありません」


 エリザベスの懸念は、母親として当然のものだった。カミラの技術レベル、精神的な未熟さ、外の世界の危険性。どれも的確な指摘である。


「その通りだ、親父」


 ドミニクも息子の妻に同調する。


「カミラの体格を見ろ。まだまだ子供じゃないか。技術も基礎すら怪しい。俺が同じ年の頃と比べても、明らかに実戦経験が不足している」

「確かにカミラは小柄で、技術も未熟じゃ」


 アルフレッドが素直に認める。


「じゃがな、いつまでもここでぬるま湯に浸らせているわけにはいくまい。実戦に勝る修行はなし。お前達だって、武者修行を通じて一人前になったではないか」


 アルフレッドの記憶が、息子夫婦の若い頃に遡る。

 ドミニクは十五歳で初めて家を出た。それまでに基礎的な技術は叩き込んでいたが、やはり実戦での成長は目覚ましかった。一年の武者修行を経て帰ってきた時の息子は、別人のように逞しくなっていた。


 エリザベスもまた、クリムゾン伯爵家で厳しい修行を積んだ後、若くして暗殺者の世界に身を投じた。現在も現役として活動を続けており、その経験が今の彼女を作り上げたのだ。


「それは否定しない。だが、俺はそれなりに実力をつけてから家を出た。カミラの現在の力では、心許なさすぎる」

「夫の言うとおりです。それに、時代が違います。私達が若い頃に比べて、世情は遥かに不安定になっています。武器の性能も格段に向上しており、のんきに武者修行などできる状況ではありません」


 確かに、エリザベスの指摘にも一理ある。

 近年、銃器の性能は飛躍的に向上した。昔なら剣と剣、ナイフとナイフの戦いで決着がついていたものが、今では遠距離からの狙撃で一瞬で決まってしまうことも多い。

 暗殺の技術も高度化し、毒の種類も増えている。情報戦の重要性も格段に増した。


「確かに世の中は変わった」


 アルフレッドが頷く。


「じゃが、マキシマム家もそれに応じて技術を磨いておる。十分に対応できるはずじゃ」

「技術だけの問題ではありません」


 エリザベスが身を乗り出す。


「私達マキシマム家には、途方もない額の懸賞金がかかっています。世界中の賞金稼ぎが、私達の首を狙っているのですよ」


 その通りだった。

 マキシマム家に懸けられた懸賞金の総額は、小国の国家予算に匹敵する。それだけの金額が動けば、世界中から腕利きの暗殺者が集まってくる。


 カミラのように若く、まだ名前も知られていない者であっても、一度正体がばれれば格好の標的となるだろう。


「カミラの顔は知られておらん。大丈夫じゃろう」

「殺しを続けていれば、いずれ正体がばれます」


 エリザベスが矢継ぎ早に反論する。その論理は的確で、アルフレッドも反駁に窮した。

 確かに、危険は山ほどある。カミラを外に出すリスクは計り知れない。

 それでも——


「エリさんの心配はよく分かる」


 アルフレッドの声に、今までとは違う重みが宿った。


「じゃが、リーベルがついておると言っておる」

「リーちゃん一人では——」

「リーベルで十分じゃ」


 アルフレッドがきっぱりと断言する。


「いや、リーベルだからこそ任せられる」


 息子夫婦が息を呑む。

 アルフレッドの声に込められた確信は、絶対的なものだった。


「これは孫可愛さで言っているのではない。一族の長としての、客観的な判断じゃ」


 アルフレッドが立ち上がり、家宝の剣の前に歩み寄る。

 壁に掛けられた古い剣は、マキシマム家の歴史を物語る貴重な遺品だった。初代当主から代々受け継がれてきたその剣は、数々の戦いを潜り抜けてきた証人でもある。


「マキシマム家の名にかけて誓ってもよい」


 応接室に静寂が降りた。


 マキシマムの家名にかけた誓い——それは一族にとって最も重い盟約だった。破れば死をもって償う、それほど重大な意味を持つ。


 アルフレッドがこの誓いを立てたのは、これまでわずか数回。いずれも一族の存亡に関わる重大事の時だった。


「お義父様……」


 エリザベスの声が震えている。


「本気でいらっしゃるのですか?」

「もちろんじゃ。リーベルの才能は、我らの想像を遥かに超えておる。あやつに任せておけば、万事問題なしじゃ」

「親父……リーベルにそこまでの信頼を寄せているのか?」

「当然じゃ」


 アルフレッドが息子を見据える。


「お前とて、リーベルの底知れぬ才能に気づいているだろう?」

「それは……確かに、息子の才能は並外れている」


 ドミニクが重い口を開く。


「しかし、まだ俺の域には達していない。発展途上の部分も多い」


 最近の訓練でも、リーベルの成長は目覚ましい。技術的にはまだ父親に及ばないものの、その吸収力と応用力は既に常人の域を超えている。


「意地を張るな。正直になれ」


 アルフレッドが息子を見据える。


「確かにリーベルはまだ発展途上じゃ。しかし、その才能と成長速度を考えれば、我らの器では測りきれん領域に足を踏み入れるのは時間の問題。あやつは我々が知る常識を超えた存在になるじゃろう」


 アルフレッドの言葉には、深い洞察が込められていた。

 リーベルの才能は、もはや通常の暗殺者の範疇を超えている。発展途上で技術的には完成に至っていないものの、その潜在能力と成長速度は規格外だった。

 全てが規格外だった。


 長い沈黙が流れた。


 やがて、ドミニクが重い口を開く。


「……そうだな」


 巨漢の父親が、ゆっくりと頭を下げた。


「俺としたことが、娘可愛さで冷静な判断を失っていたようだ」


 息子の言葉に、アルフレッドは安堵の表情を浮かべた。


「あなた!」


 エリザベスが慌てて夫を見るが、ドミニクの決意は揺るがない。


「外出を許可する」

「許しません!」


 瞬間、エリザベスが愛用のレイピアを抜いた。その切っ先が、アルフレッドの喉元に向けられる。

 美しいドレス姿からは想像もつかない、殺気立った表情。母親として、息子の妻として、そして現役の暗殺者として——エリザベスの全ての側面が、この瞬間に表れていた。


「誰であろうと、リーちゃんとカミラちゃんを危険にさらす者は許しません!」


 アルフレッドが身構えた、その時——


「落ち着け!」


 ドミニクが息子の妻を後ろから抱きしめ、強引に唇を重ねた。

 エリザベスの美しい瞳が大きく見開かれる。レイピアが手から滑り落ち、床に乾いた音を立てて転がった。


「あ……あなた……?」

「落ち着け、エリ」


 ドミニクがエリザベスの肩を優しく抱く。


「俺達は親だ。子供の成長を邪魔してはいけない」


 夫の真剣な眼差しに、エリザベスの戦意がゆっくりと萎えていく。


「賢いお前なら分かるはずだ。これが本当に子供達のためになることを」

「でも……でも……」


 エリザベスの声に、初めて迷いが表れた。


「大丈夫だ」


 ドミニクがエリザベスの頭を撫でる。


「リーベルがついている。あいつなら、必ずカミラを守り抜く」

「うう……わ、分かりました」


 エリザベスが大粒の涙を流しながら頷いた。


「私も母です。それが子供達のためになるのなら……」


 こうして、激しい家族会議は終結を迎えた。


 その時——


「むっ!?」


 アルフレッドが眉をひそめる。

 館の中で、執事達の気配が次々と消えていく。しかも音もなく、瞬時に。まるで影に呑み込まれるように。


 これは……まさか、リーベルが再び動き出したのか!


「やりおったな、あの孫は」


 アルフレッドが苦笑いを浮かべる。


 家族会議に時間をかけすぎたか。痺れを切らしたリーベルが、ついに実力行使に出たのだろう。


「行くぞ」


 アルフレッドが立ち上がる。ドミニクとエリザベスも慌てて後に続いた。


 三人が到着したのは、ちょうどリーベルがエスメラルダに最後の攻撃を仕掛けようとした瞬間だった。

 孫の拳が、家令の胸部に向かって——


「やめんか!」


 アルフレッドは雷鳴のような咆哮と共に、その拳を掴んだ。

 瞬間、右手の人差し指に鋭い痛みが走る。


 折れたか。


 リーベルの一撃は、それほどまでに重かった。アルフレッドの予想を遥かに上回る威力。これが、孫の真の実力だったのか。


 アルフレッドは内心で苦笑する。


 さすがは我が孫よ。この老骨を本気にさせるとは。

 列車も跳ね返すこの身体で骨折など、一体いつぶりのことか。おそらく二十年以上は経っているだろう。


 それこそがリーベルの成長の証でもあった。いや、既に成長という段階を超えているのかもしれん。


 その後の展開は、今し方決めた通りだった。外出を許可し、孫達を送り出す。


 リーベルとカミラが正門をくぐって行くのを見送った後、アルフレッドは折れた指を見つめながら静かに思った。


 まだ死ぬわけにはいかんな。


 リーベルが真の意味で世界最強の暗殺者となる日まで、この老体にもう少し働いてもらわねばならん。

 孫達の成長を見守ること——それこそが、今の自分に与えられた最後の使命なのだから。


 アルフレッドは微笑みながら、窓の外の景色を眺めた。遠い空の彼方で、新たな物語が始まろうとしている。


 そして、その物語の主人公たちは、確実に伝説を超える存在になるだろう。

 アルフレッドは確信していた。

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