0─0
魔王を倒す旅に勇者に誘われて以来、努力を惜しんだことはなかった。
朝も昼も夜も、時間があれば剣を振り魔法を練る。飽きることなく毎日、今までしたこともないほどの努力を柄にもなく続けた。
結果、分かったことがある。
私には剣術の才能も魔法の才能も何もなかったということ。
剣技は三流の域を出ず、魔技は最弱の魔法がどうにか出せる程度。
勇者の一行に居座るにはお粗末にもお粗末過ぎる凡才だった。
勇者一行の総意、とはいっても勇者は私を引き留めてくれてはいたのだが、多数決で新しい仲間の参入で私の役目なくなってしまった。
王国一の剣士、王国図書お抱えの魔法使い。二人に敵うはずがなかった。
大人数での移動は目立つ上、何もできない穀潰しを頭数にいれていれば余分な費用が嵩むという理由で私は勇者一行と離別することになった。
勇者一行を離れた私が何をしたか?
答えは簡単だ。何もしなかった。
特別なことは何もせず、今まで通り時間を見つけては修行に明け暮れ、夜に眠り朝に起きる。
旅は続けていた。魔王を倒すといって村を出た以上村に戻ることを恥ずかしがったからだ。
剣も魔法も三流だったが、生きる術だけは一流であった私は三年程旅を続けていた。
小遣い稼ぎでとある村の酒場でウェイトレスをしていた時、風の噂で勇者一行が魔王を倒した事を聞いた。
酒場の中では勇者、戦士、魔法使い、そして私が離れた後に入った素性もしらない僧侶の話で持ち切りだった。
私としては誇らしくあった。
排斥されたとはいえ、かつての仲間が英雄として語られていることは嬉しいものだった。
語り草の中に雑草であっても私が入ってないことは残念だったが、それでも余りあるほどの喜びが胸の奥から湧いてくる。
世界中が勇者の話で持ち切りだった。
私の中でも勇者達の話で溢れていた。
そんな時だった。
私が"彼"と出会ったのは。
「勇者なんて……糞喰らえだ……糞っ! クソッ! クソがっ!」
嫌っていた。
恨んでいた。
憎んでいた。
"彼"のことは何も分からなかった。
初対面で分かるも何もないのだけど、それでも一つだけ分かった。
私は"彼"を見捨てることができない。
この時はまだ理由を理解していなかった。
勇者を憎む者が"第二の魔王"となるかもしれないと思ったのだ。
まさか、この出会いが私を勇者に導いてくれるとは思いもしなかったのだ。