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魔王と十字架  作者: 筒下
偽物と本物
4/10

Episode:03                            

燐はカバンを持った右手を肩にかったるそうに乗せながら教室へ入る。

「おはようー」

「昨日は、あんま遅くまで悪かったな」

燐の席の前に座っている了がニタニタしながら謝罪する。

「謝るならもっと敬意をはらえって」

ため息混じりに言い席へ座る。

「なんでフェロちゃんがあんなに明るくなったんだ? 性格変わりすぎだろ。昨日も言ったが」

燐は、最初フェッロの銀髪のほうを知っていたからそこまでの違和感がない。が、了は金髪のほうから知った。だからずれが生じているのだろうか。緊張感が緩まったってことにしてある。

「リーン。おはよーう」

フェッロの明るい朝の挨拶が聞こえた。すでに席についている。その黄金の髪が双翼の様に頭から延びている。

「おう。フェロ、おはよう」

フェッロのほうを見て挨拶を返す。周りからもフェッロちゃんおはよう。おっはーと聞こえる。おっはーって、古すぎだろ。フェッロも真似て親指と人差し指Oでを作り元気よくおっはー。と、

「阿澄君、おまけ。おはよう。ん? 君は?」

そう言い紫苑色のポニーテールを揺らし委員長こと葉月がやってくる。フェッロを後ろから抱きしめる。了はおまけってなんだ。おまけって俺のことだな。とか言って思いっきり自覚している。

「おはよう。昨日転入してきた」

「もしや、フェッロ・アイネ・フラウ。通称フェロ君とは、君のことか! いや絶対にそうだな。私の可愛い子センサーがそうと言っている」

葉月の髪からはアホ毛が立ち激しく回転しているかの様に揺れている。

『今、今可愛いって! このお姉さんあたしを可愛いって! ねえ、聞いた? リン』

ぴょんぴょん跳ねるかのような声を出す。頭の中でしゃべるのは、やめていただきたい。

『ああ。可愛いって言ったな』

『はっはっは。分かる人にはやっぱり分かるのね!』

昨日も言われていたが、ってあれは金髪のほうか。と言いつつも今のフェッロも金髪なのである。魔力解放時に銀髪になるようになる。

髪に結ばれた鈴を鳴らし奏が瑠奈と教室に入ってきた。

「おっと諸君待たせたな。また我が紹介に参ぜよう。この娘、瑠奈とは、茜色の短髪。いつでも笑顔で目を輝かせている。同じクラスの子奏の親友と言ってもいいだろう。可愛いものが大好物で暴走が始まるのがたまにキズなお茶目さんだ。そして、水泳部のエースにして学園中から他の部の助っ人を頼まれている」

「あれ? あ! この子が転入生? うちは瑠奈よろし……」

「ああ、そうだぞ(完全に紹介をスルーされた……トホホ)」

「えっと、フェッロ・アイネ・フラウです。よろしくね」

手を差し伸べるフェロ。瑠奈は目を鋭くして猫が威嚇をしている錯覚を覚える。

んー。と唸り始めた。もしかして、いつものやつかっ! 燐が止める間もなく瑠奈は動いていた。

「ねぇ、リン。この子……こわっ!」

手ではなく体で首を絞める。

「きゃは! フェロちゅわん、カワイイィ! 肌すべすべぇ~」

顔に頬を擦りつける。すりすりすりすり……。

「ねぇ。フェロちゅわん貰っていぃ~?」

「った、ったっけてぇー。……っう、って、あっ! どこを触ってぇっ! っくぅー」

もじもじしているフェッロを攻めまくる瑠奈。首筋や頬に軽く触れたか他の者からは分からないくらい優しくキスをする。周りから注目が集まってきている。そろそろなにやら起こる前に止めないとな。

「こら、瑠奈。フェロちゃん苦しそうだよ。やめなさいっ」

止めようと席を立とうと机と椅子の背もたれに手を掛けると奏が頭をこつんと瑠奈のおでこを軽く叩き注意する。

「あいたぁー。ちょいと興奮してしまったよぉ。ごめんねフェロちゅわん」

「いや、別に構わないけど……」

「そう? じゃあ」

構わないとか言うから……。またしても抱きつくと思う一同。

「持ち帰るうぅぅぅぅぅぅぅっ!」

だが、お姫様抱っこをして教室の前のドアから持って去って行った。が、あぎゃ! と言う悶え声が聞こえた後、後ろのドアから右目に涙を溜め戻ってきた。そして、チャイムが鳴って担任登場。義正が注意をしたのだろう。

そう言えば奏の様子が昨日おかしくて聞こうと思ったけど人生ゲームに夢中になりすぎて聞けなかったな。あとで聞くか。

「はーい、席につけー。出席とるぞー」

義正が適当な感じで進める。HRも一時限目の授業が終わり燐は、六組に行く。六組の男子生徒に黒目碧がどの子なのかを尋ねる。とともに燐は心中で紹介をする。

『こいつは六組のなんだ。ただのモブキャラだ』

「ああ、黒目ならあれだけど。阿澄ぃ気でもあんのか? 悪いことは言わないからあいつはよしとけって」

黒目碧。名前とは違い黒髪だ。全然青くない。あおいって言うから青いと思ったが、それに周りの空気まで黒い。よしとけって暗いからってことだろうな。

「いや、別に気なんてないけど、フェロが知りたいって言っててな」

「まじでええええええええ! フェロちゃんがか!」

六組の男子モブキャラが燐の両肩を掴み大きく前後に揺さぶる。燐は揺さぶられながら答える。

「あ、ああ。(ここまでフェロちゃんかよ人気者だな)そうだけどなっ」

「黒目紹介すっからフェロちゃんを頼む!」

フェッロは、可愛いと評判もよく男子女子ともに人気である。その内なとあしらう。六組を出ようとした時、女子生徒が目についてしまった。ボブヘアーの彼女を。

『なんで、あいつが……フェロに早く伝えないと!』


燐は、前のドアを勢いに任せ開ける。

「フェッロ! ちょっと!」

首を傾げるフェッロ。騒がしくしてしまったこともあり皆もこちらを見た。

「なに? リン?」

てとてとと近寄ってきてフェッロがまた首を傾げる。周囲には聞かれてはまずいと思いフェッロの耳に顔を近づけ、

「あぁぁアアァぁっああぁアぁッああ!」

叫び声とともに鈴の音が響き散る。振り返ると奏がドアにしがみ付いていた。

「フェロちゃんと、り、燐があぁ、アぁッあァ。き、きき」

なにやら言おうとしている。顔は真っ赤でこちらに指を向け目をすごい開いて、指と口はプルプル震えている。

「き、きキっきッキ、ききいキイきききィっ」

なんだ? どうしたんだ?

「きぃ~~~~」

奏が白目をむいて後ろに倒れる。危ないと抱きしめ地面と体の衝突を防いだ。奏は目を回して湯気が体から出ているくらい顔が真っ赤になってお星様が宙を舞ってる様だ。

「ほ、保健室だ」

教室の中央にいた葉月の指示が燐に下る。

「っおう!」

そう言い教室から飛び出る。奏をお姫様抱っこして。保健室に着くまでに奏が目を覚ました。

「奏! 起きたか!」

「りんっ。っておひえぇえ~」

また気を失った。早くせねば。奏は予想以上に軽かった。

「先生! 奏が、奏が!」

燐は息を切らせ額から汗を少し流していた。ベットカーテンで先生の机と先生は見えない。

「ええ。委員長さんから事情は聞いてるわ。ベットに横にさせなさい」

さすがだぜ。委員長。手回しが早い。燐は、奏をベットに横にしベットカーテンから出て行く。そして、チャイムが鳴る。先生が奏の様子をふむ。と言いながら看ている。

「騎馬先生。どうです?」

奏のベットと仕切ったカーテンからショートカットの茶髪に白衣でタイトスカートの黒を穿いている騎馬が出てくる。厳しい顔だ。燐は騎馬とは逆方向斜め上を見上げて言った。

「諸君美人とはこの人のことを指す。この人は騎馬雀。近衛ヶ原学園の保健室の先生だ。相談事などを聞いてくれるいい先生と評判も良い。男子からはエロいとかで評判が良い」

「大丈夫よ。安心して」

よかったーとその場に腰を降ろしてしまう。

「でも、なんで倒れたんだろ? 騎馬先生は、分かる?」

(この子、大分鈍感ね。多分クラスの子たちはみんな知ってると思うけどな)

何やら考えてる。目をカッと見開き、口がそして開いた。

「病ね――」

「なんなんなんのなんですか!?」

病だと。体力もないから心配だったんだ。いったいどんな病にかかってしまったんだ。焦りと不安で目が泳いでしまう。

「さあ。私からは何とも言えないわ。阿澄君が自分で気付きなさい」

まるで燐と関係があるみたいに言ってくれる。身に覚えがなさすぎる。ともあれ本人に聞くのが一番だな。自覚しているのか分からないけども。


燐は、教室に先に帰った。

「大丈夫そうだったか? 阿澄君」

心配そうに一番前の席の葉月が聞いてくる。委員長やみんなをあんまり心配させられないな。

「平気だって騎馬先生が言ってたよ。寝てれば治るってさ」

そして、席に着く。了も心配だったらしく。

「平気か? 奏は」

「平気だってよ。そのうち治るだろ」

そうか、と前を向いてしまう了。心配なのだろう。燐は、病と聞いている。重いものだったらどうしよう。心配の波が押し寄せる。

『ねえ、リン、かなではなんていうかーなんかいやな予感がする』

フェッロは、魔通で会話する。魔通とは昨日話していて魔力を従える者同士だけが疎通することができる。燐も魔通でフェッロに返事をする。

『なんだよ、いやな予感って』

もしかしたら、病となにか関係があるかもしれない。

『よく、わからない。……けど、かなでは、いや、かなでの裏、内かもしれない。それは、とても禍々しく哀れなようだった。まるで……』

内に何かいるってのか? それがもし病の原因なら排除するまでだ。フェッロは少し溜めて、違う躊躇っている。そして聞こえる。

『まるで……不死の不幸のよう』

『不死の、不幸。それは、いったいなんだ?』

燐はそんな言葉生まれてこの方聞いたことがない。フェッロは続ける。

『不死の不幸。それは、死ぬまで、いや、死んでも続く不幸。来世もその次の来世もその次も。終わることのない不幸』

死んでも続く。まったく想像がつかない。フェッロを見ると不穏を隠しきれていない表情だ。

『ようわからないけどどのくらいの不幸なんだ?』

燐は、のどを鳴らしてフェッロの言葉を待つ。

『そうだね、具体的に言うと毎回違うんだよ。お金が逃げるとか、物が壊れるとか、食物が育たない。家畜が亡くなる。それに、大切な人が死んじゃうとか。いろいろ』

『奏の周りの人が亡くなったって話聞いたことないな。本当にあいつはその不死の不幸を持っているのか?』

病を患っていることを騎馬雀から聞いた。もしかしたら、本当にかかっているかもしれない。

『まあ、それで最後は、思い人と添い遂げられず家族兄弟親戚ご近所、友人から嫌いな人までもが苦しみ死ぬ。周りを巻き込み死んでいく。残酷な運命の持ち主、いいや運命そのものなんだ。願ったものは必ず手には入らない』

フェッロは、とても悲しそうし俯く。燐は、考えていた。奏のことを。


――奏とは、保育園のころから一緒だった。僕は、隅っこで一人で遊んでいる奏を見つけ気になった。そして、何も考えずに『いっしょにあそぼうよ』僕たちは、それをきっかけによく遊んでいた。仲が良いと知った僕たちの親は、両親がその頃とても忙しいと言って家が隣同士の僕たちを大体一緒に居させた。僕たちも嫌ではなかったから一緒にいた。むしろ楽しくてたまらなかった。一緒にご飯も食べて寝て起きて。

小学校も一緒のクラスになっていつも一緒だった。奏の家や僕の家でよく遊んだ。小学生までは、一緒にお風呂に入っていた。奏がクラスの友達に言ったらしくそのあたりから入らなくなった。高学年になると他の子たちは、好きな子が出来たとかそういう話をよく耳にした。奏もそうなんじゃと思ったけど聞くに聞けなかった。なぜだかその頃も今も分からない。

中学校に上がると周りからいろいろ言われたりした。僕は、だからなんだと言ったが奏のほうが避けていってしまった。中学生の頃は、会ったら久しぶりくらいしか話さない。登下校も時間をずらして行っていたようだ。クラスも一緒にならなかった。奏が僕を嫌いになったのだ。そうとしか思えなかった。

高校に上がり一年の時クラスが一緒だった。僕は、昔みたいに話して遊びたい。そんな子供みたいなことを考えてた。だから僕は、奏に言った。『一緒にまた遊ぼう』って。その時に分かった。奏も遊んだり話したり登下校も一緒にしたいって思っていたことを。僕も多分奏も嬉しかった。でも、気持ちに対して正直にいかなかった。久々に行った奏の部屋は、女の子の部屋そのものになっていた。香水ではないいい香りがする。ベットの周りには可愛らしい人形がいっぱいになっていた。昔は、本棚に漫画とかが多かったが今では、勉強家の本棚でその中にも恋占いとか星座占いの本や雑誌があった。奏は、女の子。僕は、男だ。彼氏でもない男子が女子の部屋にインしては、いけない。奏だって好きな人くらいいるさ。だから、僕は、その日以来奏の部屋には行かないことにした。奏の内を知るのが怖かった。文化祭。僕は夜光祭に奏を誘った。ダンスを踊った。でも、近くなるほど怖くなっていった。体育祭。奏は申し訳なさそうにしている。僕は、体力が有る分奏に言ったんだ。『俺にまかせんしゃい!』ってふざけ半分でクラス対抗リレー奏は、やっぱり遅かった。そこは昔と変わらずでいた。奏のあとは、僕だった。アンカーだった。三位だったけど奏のところで六位になった。でもあまり大差はない。いけるかもしれない。目と目で通じた。『燐。任せた!』『おうよ。』僕は、笑顔でも返事をし、走る。クラスのために僕のために、奏のために。ただ走った。結果は、三位だった。こういう時だからって一位になって胴上げって流れじゃない。でも、奏は泣いて喜んでくれていた。嬉しかった。


奏は、家族もいるし、友達も多い。僕は、母さんしかいない。体力はないけど、歌唱力はあるし体を使わないようなことはあっさり熟す。僕は、体力しかない。頭は、良いし、回転も速いし。それに比べ僕は……。


『りん? りーん? りぃーーーーん』

燐は、うとうとしていた。

『おお、わりぃ。寝てた』

『どうしたの? なんか悲しそう』

フェッロは、燐のほうを見て気を使う。僕がこんな子に気を使わせるとはな。

『大丈夫だって。ちょい昔のことを思い出してな』

燐は、弱く何もない。奏は、素質がある。生きてほしい。燐は、ふとそう思った。



私は、どうしたのだろうか。

私は、燐とフェロちゃんがき、ききキスをしてて。ぅう~考えただけでも恥ずかしいよぉ。

少し熱が冷めて、片目だけ薄らと開ける。

「っん。あれ? 雀先生? なんでいるの? それに燐も」

雀先生と燐に聞こえないほどの声で言った。まだよく状況が理解できない。雀先生がいるってことは、ここは、保健室なのかな。まだ、疲れてるみたい。もう少し寝させてもらおう。燐が出ていくのを見送りすぐに夢の中にいった。


燐、私のファーストキスの相手。あれは、小学三年の時のこと。

――転んで膝に怪我をした私は保健室に燐の肩を借りて行った。保健室には、先生も誰もいなく、私と燐の二人だけ。燐は、消毒液を探す。私は、すぐに治るからいいよって言ったけど燐はばい菌入ったら死んじゃうぞって言った。頑張って探している姿が餌を頑張って探してるリスさんみたいで少し面白かったから死なないよなんて言わない。燐は、いくら探してもないから『よし、唾でも付けとけば治るら』バカなことを言っている。水で洗ったし大丈夫だよぉと拒否をする私。燐は、屈み込み舌を出す。ピンク色でキレイな舌。その舌が私の膝にぺろっとつく。何度も何度も。すごく気持ちがよかった。それが私のファーストキス。口と口のでは、なかったけど私にとって大切な思い出。キスされたっていうほうが正しい。

それを置きに私は、少し燐と距離を置いていた。見てるとどきどきして頭がボーっとした。私は昔燐とお風呂に入っていた。けど燐といると胸が苦しくなった。中学に上がる少し前からお風呂に入らなくなった。私は、燐にクラスの子に入っていると言ったと嘘をついたから。

中学生になるとどきどきが増していた。友達に話したらそれは恋だよって教えてくれた。

そう、私は、


燐のことが好きなんだ。


好きって分かってからは、空回りして話も全然できなかった。それにその時は、お母さんが頑張っているのに私が幸せな思いしてたらだめだと思っていた。私が幼い頃に私の家は、家庭崩壊というやつだ。お父さんがお母さんと喧嘩をして家を出て行ってしまった。喧嘩理由は、お父さんの浮気。と、お母さんからは聞いているけどお父さんから真実を聞いた。お父さんは、社長でその秘書さんに飲みに行ったときに家まで送ってもらったらしい。私は、お父さんを信じてる。それに、また三人でご飯食べたいなって今でも思う。でも、お父さんとはもう会うことすらできない。


自然と眠気が覚める。そこには、雀先生がいた。心配してくれる先生。

「うん、だいじょうぶ」

「ここまで奏ちゃんの愛しの王子様が連れてきたのよ。しかもお姫様抱っこで」

雀先生は私が唯一先生のなかで燐のことを相談している先生である。

「お、っおひめさみゃっ」

あらあらとふふふと笑う雀先生。顔が熱くなるのが分かった。

「ぅう~」

布団を鼻の先まで持ち上げ顔を隠そうとする。

「ふふふ。奏ちゃん可愛いわ。自信を持ってがんばりんぐぅよ」

右手でグーっと突き出す。私も布団の中からグーって先生の拳に優しく当てる。

「だから、今は、充電してなさい!」

今度は人差し指を立ててニヤリとする。雀先生には、いつも助けてもらってる。本当にありがとうございます。そう内で言いまた眠る。



『なあ、聞いていただろ。不死の不幸ってさ、誰かに移せないのか? てかよ、本当に不死の不幸にかかってるのか?』

燐は、聞いた。きっと治す方法がなくても他になにかあるはずだ。

『んまあ、確実にかかってるだろうぜ。ないことはないが、今の魔王様の話じゃ奏嬢ちゃんは、今のところ深い不幸にあっていないらしいな』

『今の話って、なんか話したか?』

燐は、リズリカミネに話しかけた記憶がない。

『奏の嬢ちゃんの過去を話してたんだぜ?』

無意識で口に出てたのか? 気を付けることにしないとな。

『まあ、それがなにか関係してるのか?』

少しためてリズリカミネが言う。

『奏嬢ちゃんはこの何年か不死の不幸を受ずにいる。なら、その分次来た時の反動が大きいんだぜ』

『反動かぁ』

十数年の反動なら結構なものになるだろう。でも、僕は、──。リズリカミネは燐の考えを妨げるように言う。

『同情とかなら、やめることなんだぜぇ。不死の不幸の担い手が他の者にその責務を渡すとなれば嬢ちゃんも魔王様も不幸よりも深い不幸を味わうことになるんだぜぇ』

僕は、同情していたのか? 胸に手を当て自身に疑問を問う。

『よくわからないけど、僕は、奏に幸せになってほしい。僕になんかできることはないのか』

それ以降リズリカミネは口を出さなかった。


リズリカミネは独り思う。

『魔王様。魔王様が本当に望むものはなんなんだぜ。奏嬢ちゃんの幸せを望むのは、やめとくことだな』


授業が終わりフェッロを除くみんなが燐のもとに寄ってきた。みんな口にするのは、心配のセリフ。でもその心配される奏が不幸の担い手なんて考えられない。りずどうなんだよ。リズリカミネは、返事をしない。燐はみんなに言う。

「大丈夫だってよ。騎馬先生が今看ててくれてる。てか、倒れるのいつものことじゃんか」

奏は、集会や小中学生の時なら合唱の練習とかによくふらつくことがあった。悪い時は、意識を失ったりした。

「だから、今回も大丈夫だって」

心配してくれているみんなを安心させる為言う。でも自分自身に一番語りかけていた。あの二次元にしか興味ない学園内のイケメン吉本だって心配している。燐は、涙が零れそうになる。

「さて、便所でも行ってくるかな」

そう言い吐き燐は、教室を出る。

「どこ行くんだ?」

教室を出た先には、了がいた。

「どこって便所だよ」

「そうか。ちょっと聞いてくれるか?」

「なんだよ、改まって。――ッ!」

燐は、今まで下へ俯いて了を見ていなかった。了の顔を見て少し驚いた。その顔は真剣そのものだった。

「ああ。ここじゃなんだ。屋上にでも行くか?」

了は少し考え、決まったようだ。

「いや、お前皆勤狙いじゃんか。昼休みにしよう。教室戻るぞ。授業始まる」

教室に戻ってしまう。それに続き燐も戻る。

「あん? あの席誰だ? 阿澄の隣の。それに夢響はどうした?」

葉月が説明をしている。なるほど、と授業を始める。



私は、夢を見ていた。そこには、幸せそうな燐に瑠奈に了、いいんちょさんも、フェロちゃんもいる。でも、そこには私はいない。話しかけても聞こえていなみたい。怖いよ、助けて、お父さん。


||「奏は、私が育てるわ!」

「お前一人に育てられるわけないじゃないか!」

お父さんとお母さんが喧嘩をしている。私は、力がなく二人を止めることが出来なかった。呆然と見ているしかできなかった。二人ともも怖い。私は、こんなこと望んでなんかいない。

お母さんが出て行ってしまった。私を置いて、私は、お母さんを呼ぶ。でも、振り返らないで行ってしまう。行かないで……。お父さんが私の顔を触れようとした。

「いやああああああああああああ!」

感情が噴き出た後に気が付いたら辺りが炎に包まれた。熱い熱い炎に。目の前で誰かが顔が分からないくらいに燃えている。皮膚が焦げる匂いがして咽る。

「けほっ。けほっ……」

『お父さん。お母さん。行かないで……助けて……』


「んっああああ。はぁはぁ」

意識が夢から覚め飛び起きる。そこは、保健室。また見てしまった。いつ以来だろう。この前見たのはいつだろう。汗を額から流す。

「大丈夫。奏ちゃん。随分、うなされてたみたいだったけど」

少し驚いた表情の雀がカーテンから現れる。

聞かれていたかもしれない。雀先生だし相談に乗ってくれるよね?

「私、怖いんです。お父さんとお母さんみたいにみんなが……いいえ。今度は、私がどこかに行っちゃいそうで怖いんです」

奏は、正直に雀に言った。大丈夫と頭をポンポンとする。

「そう。でも、奏ちゃんのお母さんは、しっかりいるじゃない」

「あのお母さんはきっと偽物です。本物は、多分別で」

雀は、手を退かし少しなにやら考えてくれている。奏は、話を続ける。

「家がなんでかわかりませんけど燃えていたんです。そこには、お母さんの姿はもうなくて、家を出たんです。それで帰ってこなくて。お父さんかは、わかりませんが、わ、私の前で、もえ、燃えていたんです。人が……その時家にいたのは、私とお父さんの二人だけでした。はぁ。私は、家をさまよいました。……どこに自分がいるか分からなくなった時、扉があって、それで……んぅ。すみません、ず、頭痛が……」

扉があった。だけどその扉を開けたのかさえわからない。思い出そうとすると頭痛がする。

「大丈夫よ。よく話してくれたわね。これは、ご褒美」

雀が奏の手を握りその中に何かを入れる。飴だ。

「これはね、つらい時に食べれば元気になれる魔法の飴なの。だから今度つらくて周りに話せる人もいなかったらこれを舐めなさい。きっと元気になるわ」

笑顔でそう言ってくれる雀。奏は、もう子供じゃない。でも嬉しい。すごく、すごく嬉しい。

「雀先生。ありがと」


四時限目が終わり、昼休みになった。奏は、まだ帰ってきていない。フェッロは、瑠奈に抱きつかれていた。

「ふぇろちゅわ~ん。ごはん一緒に食べましょ食べましょ」

「か、構わないけど……くるひぃ。でもあたしお弁当ない」

にひひと歯をきらりと見せてお弁当箱が二つ。

「もしかして……。いいの?」

「いいよ。だから一緒に食べましょ」

「瑠奈はいい人!」

まずは胃を掴む作戦らしい。そんなクラスと後にし教室を出た。

燐は、了と話しをするため屋上に移動した。いつもは、使用禁止だ。でも、使っている生徒は少しいて(主にカップルとか)ご飯を食べている(あーんとかしている)。

「話ってなんなんだ?」

少し張りつめた空気。今まで口を開かなかった了がやっと話し始めた。

「燐、お前さ、奏のこと大切か?」

「ああ。当たり前だろ」

「そうだな。その当たり前って、どんな大切なんだ?」

今日の了はなんか変だ。何かしてしまったのだろうか。

「そりゃー、……ともだっ」

「違う! 俺が、……俺が聞いてるのは! 友達としてなんかじゃない! 一人の女としてだ!」

すごい勢いで言ってくる。両肩を掴み燐を揺さぶる。

「お前は! おまえは、奏のことをどう思ってんだ?」

そう言った。瞬間だった。辺りが赤紫色に変わり了を含める周囲の人が停止した。それと同時に燐の横側から熱の様なものを感じる。

「……!」

殺気を感じ燐は、避ける。それは燐の頭があったところを一直線に横断する光線。

「んふふ。あはは! よく避けれたね! でも、次はそうはいかないよ~ん」

魔法陣を空中に張り片手を額につけもう片方を魔法陣にまっすぐ突き立てる。

「これは、いったい……なんなんだ? おい! りず! どうなってんだ!」

無反応。燐は了に被害が出ないよう少し遠ざかる。攻撃をした水色の長い髪をした少女が笑う。

「あははは! 使い魔に捨てられたのかなぁ?」

ちくしょう! りず、どうしちまったんだよ。どうしたらいいか分からずに燐は悔しさを込めネックレスを握る。

「君はまだ未熟って聞いてる。なら、使い魔がいないなら覚醒もできないよね」

聞いてるって誰に聞いてるんだ。それに魔王のこと知ってるのか? まあ魔王だしな、知ってても不思議じゃない。

「瞬殺で逝かせてあげるね!」

その笑顔裏腹に物騒なことをさらりとって、本当にまずい状況じゃないか。身を竦める。

「まあまあ、嬢ちゃん、落ち着こう。はなしあえば」

「んふふ。じゃあね! お兄さん!」

眩い閃光が燐に向かってくる。

「伏せろ!」

誰かの声、いや指示があった。言う通りに伏せる。

「Stall of sitting height specified,"serialNo.53"(指定座高の失速、"serialNo.53")」

すると目の前で敵の閃光がスローになる。その先に指示をくれた人のもとに行く。

「って、委員長! こんなとこで何やってんだよ!」

「っふ、決まっている。ご飯を食べに来たああああああ!」

「委員長! ここは使用禁止だ!」

燐の言葉を聞かずに前もって用意されていた魔法強化により体が若草色に輝きを纏いスピードが速くなる。葉月は少女の頭上に飛ぶ。

「Good health of Sleeping Beauty.(眠り姫の息災)」

少女は、反抗をする間もなく動きを止められる。まるで、魔法使いだ。

「今のうちに……逃げるぞ! 阿澄君!」

逃げるのかよ! 戸惑いながらも返事をし、葉月が先導して魔法陣の上に移動する。

「逃がすかあああああああ! リリス・テンプテーション!」

またもや閃光術、こちらに向かってきて目を閉じてしまう。

「──目を開けなさいな」

燐たちは、移動していた。そこは、なんとなく見覚えがあった。理事長室だ。

「委員長、ありがとう。助かったよ」

「いいや、彼女は、私が排除する存在なのだから」

「それって、もしかして、委員長もまほ」

「私は、結界の解除。彼女の排除をしてくる。阿澄君は、教室にでも戻るといい」

そう言って葉月は、出て行ってしまった。ここにいても仕方がないから移動する。


フェッロが瑠奈とお弁当を広げて昼食を取っていたときにそれは起こった。口に卵焼きを運んだ時瑠奈他のクラスメイトが動きを止めたのだ。教室の窓から見えるのは赤紫色に変わり果てた風景だ。

「これは、いったい……? けっかい?」

フェッロが窓際まで行くと向かい側の棟の屋上に見知った二人が見えた。

「ん、あれは、……リンとはづき!」

燐と葉月が光に包まれ消えた。その反対側に敵らしき者がいる。行ってみるしかない。パイアンを軽く突くとフェッロの姿は制服から魔装に変わる。

「パイアンお願い。Fliege(飛べ)」

窓から外に飛ぶ。屋上には、予想通り魔法使いがいる。

「あんたは?」

「私は、"serialNo.53"。貴女と違って命令を完全遂行しに来た。阿澄燐を殺しにね!」

やはり狙いは、燐だ。パイアンに乗ったまま答える。

「"serialNo.53"。この結界はあんたが?(あたしの命と違う? リンの身が危険……)」

「ええ、そうよ。いいでしょこの暗い空間。でもこれは結界じゃないのでーす。断封」

「なるほどね。本当にリン以外には被害を出さないようにはしてるわけね。でもこんな空間じゃ卵焼きも落ち着いて食べれない。La goccia di pioggia della primavera(泉の雨雫)」

「リリス・テンプテーション」

フェッロの水魔法と"serialNo.53"の閃光術がぶつかり合う。


燐が向かったのは教室ではない。保健室に向かった。奏が心配だ。ガラッとドアを開ける。

「奏! 大丈夫か! ……よかった。ふぅ」

保健室には奏の寝姿のみがあった。燐は奏の安全を確認し終え屋上に向かう。


ガチャ、こっそり外の様子を覗う。

『! あれは、フェロ君ではないか。今すぐ助けに!』

行こうとしたその時──。

葉月は聞いてしまった。葉月は下唇を噛み締める。排除すべき物が一人から二人に増えようとしていたからだ。


「まぁ戦闘泉は同じくらいの振り分けだから互角かな? お・ね・え・さ・ま。ふふふ」


葉月は屋上に飛び出す。すでに魔法を交差し合っていた二人が現れた人を見る。一人は、なんではづきが! と、もう一人は増援しても無駄よ。と啜り笑う。

そして、表情何一つ変えることなく葉月は呟く。

「フェロ君もあっち側の物だというのか。致し方ない。ヤルまでだ……」

「なあにを言ってるかよく分かりかねるわね。でも邪魔立てするこをは必至。なら藻屑にして、あ・げ・る」

不敵に笑みを溢す。

フェッロは思考を廻らせるが意味を理解を出来ないまま気の抜けた表情で固まる。

「フェロ君。短い間柄だった。が、私には大義があるのだ。世から君達偽物を払拭するというな」

「たいぎ……? ふっ、ショック? え、ふぇ?」

相変わらずの表情のまま疑問符を浮かべている。言葉の真意を理解できていないのだ。

葉月は困惑しているフェッロに気付き、ふむ。と言葉に補正をいれる。

「私は君達偽物を消さなければいけない。それが私へ下されている命というわけだ」

フェッロはようやく言葉の意味を理解することができ、両手をぶんぶんと大きく振り

「ぇええ!つまりはづきは偽物の存在知ってて、あたしたちをけす? ……ええ! でもでもあたしは――」

フェッロは確かに偽物だった。だが、今は本物の代行。本物といっても過言ではないのだ。

フェッロは改めて考えさせられた。自分がどういう存在であるのか。

「いざ――、参るッ!」

葉月は一度体勢を落としたと思うと一瞬の刹那。二人に近付いた。風を切り、葉月の通り過ぎた道中には遅れて小風が木の葉を躍らせた。

次に動いたのは"serialNo.53"だ。葉月に向かって投げつけるように呪文を唱える。

「リリス・テンプテーション!」

閃光術は葉月に届き姿を消した。と錯覚したが、閃光が消えるとそこには椿の花が葉月の周りを楽しげに舞っている。

「Of one thousand camellia(千の椿)」

葉月が右人差し指を"serialNo.53"に向かって一指し。椿の花びらが命令に従い向かって行く。

"serialNo.53"は目を見開いたかと思うとすぐさまに閉じ椿の花びらから腕全体で顔を庇った。椿の花びらは椿の蕾を作り上げ覆う。

次に左手をフェッロに向かってかざす。残りの花びらがフェッロに向かって刹那に舞い狂う。

フェッロは咄嗟に両手とパイアンで防御陣を構成し花びらを周囲に拡散させた。

葉月は鼻で納得するように笑い言葉を続けた。

「さすがフェロ君と言うべきか。このような逢着なぞなければどれほど喜ばしかろうか」

フェッロはただただ慌てふためくしかなかった。その姿を目に焼き付けるようにして葉月は一言、すまない。と言って攻撃の手を止めることをしない。

開いていた左手をそこにあるものを握り潰すよう閉じる。それと同調して拡散した花びらがフェッロに鋭利な刃の如く突き向かう。

フェッロに辿り着いた花弁たちは暗き光を中央から放出させて弾け燃えた。

煙の中にいたのは、十一代目魔王。阿澄燐。フェッロを抱き寄せ周囲に魔力を放出させ続ける。フェッロは唖然とリンと呟くだけだった。

「りず。遅いぜ」

「悪いな魔王様。寝てたぜぇ!」

「阿澄君。どういう了見だ? 君の抱いている物。君を襲撃した物と同類だぞ。なぜに庇う」

「当たり前のことを聞くなよ、委員長。フェロはフェロであって、物じゃない。委員長のクラスのクラスメイトお友達じゃないか!」

「阿澄君。君は知らないのか。それら物の真意を。私は止め排除しなければならない。それがクラスメイトだろうと」

燐は歯噛みをして納得をしない。

「私たちとて、魔王側と敵対の地位に立とうとは思わぬ。邪魔立てはしないでくれ」

「だめだ。どけない」

葉月は鼻でどうでもいいかのように蔑み空に浮かぶ椿の蕾を睨み付けた。

「まあいい。あれから葬る。Flame bullet(火炎の弾)」

呪文を唱えると指先に火の弾が現れた。と思うと瞬時に蕾に向かって弾け飛ぶ。火は蕾を覆うに時間は掛からなかった。辿り着いたと思えば巨大な火の玉に化した。

「ふっ。所詮偽物」

火の粉が屋上に飛散していく。

葉月は哀れているように見え、表情を戻して燐とフェッロを見つめる。

「フェロは、偽物とかじゃないんだ。聞いてほしい。委員長と争う気もない。だから聞いてほしいん……だ!」

燐が思いを込め説得を試みる。だが、強情だった。葉月は耳に入りもしていないように言い放つ。

「Flame bullet(火炎の弾)」

魔力が具現化し無抵抗の燐に向かって吸い寄せられるように飛んで行った刹那だった。

椿の蕾、火の玉が爆音とともに飛び消えその中には包帯の様な物がぐるりと丸を作り上げていた。焦げることも千切れることもせずに。そこにいた者たちはそれに反応して目を向けてしまう。それの刹那後、燐に向かっていた火の弾は燐の前で彼によって止められていた。

「りじちょう?」

燐の前に現れていた彼。彼を目にして葉月は冷静さを失いシドロモドロして言葉を溢した。

「お爺様。遠征お疲れ様です」

その貫禄の塊の彼を余所に宙に浮かぶ包帯の様な塊。それが徐々に束縛を緩和していた。

中からは"serialNo.53"ともう一人。包帯で顔を覆っている女。口元は覆っておらず表情を読み取るにはそこのみだった。包帯でふくよかな胸を強引に縛っていて脚や腕も纏わり付いている。女からひらりと包帯が宙にゆったりと浮かぶ。

誰よりも先に言葉を口にしたのは包帯女だ。

「うふふ。だめじゃない。勝手に此処で……此処で行動を誰かが許したの? 許してるわけないわよねぇ。あなたは命令だけ聞いて行動してくれるだけでいいの。この意味、分かるわよね?」

その包帯の隙間から覗かせる三日月のように綺麗に歪んだ口元からは想像もできない威圧感があった。誰もが口を挿むことが出来ず包帯女は続けた。

「もう今日は疲れたでしょう? さっさと帰りなさい……ね?」

その言葉を聞いた"serialNo.53"は無言で結界内から消え去る。

「おまえは……なに、ものなんだ……」

燐が漏らすと包帯女はまたも満足そうに錯覚する口元のまま艶めかしく答えた。

「うふふ。感心があることはいいことよぉ。でも、おまえとはいただけないわね。まあいいわ。私はあなたたちの、敵。ただそれだけかしら」

この状況下で当たり前なことを言って満足げにうふふと包帯から笑みを溢し続ける。

「まぁ? 私はまだ手を出すつもりもないの。だから詳しい内情はまた今度ね、魔王の糞虫君」

そう言い捨てて包帯が女を覆い隠して包帯が解け散るとそこにはもう女はいなかった。そして全方位から包帯女の声が響く。

「まあ初めましてだものね、そこの古ぼけ爺以外。名だけは名乗っといて上げるわ……"serialNo.4"vierフィーアと呼んでくれて構わないわ」

そして、気味の悪い笑声が徐々に小さくなりやがて無くなる。

「お爺様。彼女も、また……?」

「ふむ。とりあえずだ。理事長室で話そうかの。それまで葉月よ。その鉄拳! を抑えるのだ」

葉月は彼の言葉にただ、はい。と俯くだけだった。

彼は燐とフェッロのほうを振り向き先刻同様質問する。

「阿澄燐君。フェッロ・アイネ・フラウ君いいかね」

もちろん燐たちの返事は決まっている。言葉に発することはしなかったが彼は分かってくれた。

「では、放課後三者とも、訪れを待っている」

そうして彼は刹那にして姿を消した。姿が消えた時燐は言った。淀んだ空の天井を眺め。

「諸君、知っている者は多かろう。先刻ここに訪れをなした彼。言わばも分かる。この近衛ヶ原学園の長。理事長の近衛玄彦このえはるひこさんだ。プレイベートまでは知らない。以上」

葉月の重く閉ざされた唇が開き燐とフェッロに告げた。

「一時休戦というやつだ。事後処理は私に任せ君達は戻っているがいい」

葉月は一束になっているポニーテールをくるりと浮かし回し二人に背を向け小さく溜息一つ。手を前に出して何かに触れるようにする。葉月はピクリと眉と肩を少しばかり動かした。

「これは、結界ではない。断封……?」

「だんふう? お?」

「そう。"serialNo.53"も言ってた」

葉月は一人解除を進める。断封の境目や破壊された床、壁フェンスが青く白く瞬き輝く光の結晶が徐々に壊れた部分に集まり壊れる前の状態に戻り始める。

「だんふうってなに?」

「断封って言うのは、結界と同じようなもの。世界を割ることなく、その発動者の意に背き時の動きがなくなる。んで発動時間と解除時間が同じ。断封内の害は解除後には発動前と変わらない、害は消える。あと、魔力保持者のみ無条件で入り込んでその他の者は時間が停止したまま変わらない。ってところかな。結界は解除前に魔力で破損受けたものを補修しないといけないの。でもそれが不要ってこと」

「ふむ。つまり、エコロジーってことだ!」

フェッロは苦い物でも噛んだような表情をして、まぁ合ってるかな。と笑顔で首を傾げた。

話しが終わる頃には断封は解除し終わっていて昼休みが通常通り再開された。

葉月は解除を終えたのを確認し屋上から降りていく。

燐は少し離れたところにいる了を見つける。了は頭をぽりぽりかじり疑問符を浮かべている。

「フェロ。また放課後、だな。ご飯食べてたんだろ」

「うん、それじゃあとでね」

燐は後ろに手を振り了に駆け寄った。フェッロも屋上から教室に移動をした。

「おぅぅ。燐どこ行ってたんだよ」

「悪いな、フェロと話してたわい。話の続きなんだがなんだっけか」

了は少し唸り考えると、まぁいいや。腹減ったし!と話しは終わり昼休みを満喫していった。

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