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魔王と十字架  作者: 筒下
偽物と本物
3/10

Episode:02                            

 ――ちゅんちゅん。小鳥の鳴き声で燐の目が覚める。

「んあ~。んー」

燐は、背伸びをする。身体がかったるくなっていることに気が付く。

「あれ? なんで机で寝てんだ俺」

ぼんやり眼で昨日のことを思い出す。

『昨日はいつも通りの日常を過ごして確か、なんかあったんだけどなぁ。それで誰だっけか? 誰かが僕を助けてくれたんだけど……。思い出せない』

ふと時計を見ると現在時刻は、8時ジャスト。

「……ぉぃ」

普段なら7時に起き朝飯の支度をしてもうとっくに家を出ている時間である。制服に着替えいつもと同じまた一日が始まるのかと思いながらネックレスを手に取り首に下げる。


はぁはぁと息を切らせながら走る。

『まだ間に合いそうだな。こんなことなら奏に中学の頃みたく起こしてもらってりゃよかったかもしれん』

ここは、普通のいつも学校へ登校する時の路地。何のへんてつもないはずなのに。あれ? 燐は走るのをやめていた。

『この木、昨日切れてなかったか? ナイフだか日本刀で切った感じの切れ後で。ってなんで日本刀なんだよ!』

ふと日本刀が頭に浮かんできたのだ仕方がない。でも、確かに昨日切れてたような。頭が少し痛くなってきた。

「ぅう。っぐ……」

頭痛が酷く危うく倒れるところだった。携帯を取り出し時間を確認する。

『やっば。こんなとこで考え事してる場合じゃなかった!』


キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン。校舎全体に学園の朝を告げる音が響く。

「ぎりちょんセーフ。ふぅー。危なかった危なかった。今まで無遅刻無早退無欠席皆勤賞を狙っている俺が遅刻するところだった!」

汗を拭いながら右手の親指を立てて決める。

「阿澄、ぎりぎりアウトな」

「くそっ。この教師は俺を闇の底へおとしめようとしているのかっ!」

「ったく。くだらんこと言ってないで席に座れ」

この男は二年五組担任教師只野義正。いつも通り人生全てが面倒そうな表情をして頭を掻いている。

「はーい。はぁー俺の皆勤賞がっ」

そんなことを言いながら席へ向かう。クラスメイトにどまどまとか言わた。その先。

「どんまい。燐。そのうちいいことあるさ」

親友の了も慰めてくれる。

「さんきゅう。んでなんか今日人少なくないか?」

一週間前に席替えで燐の席の前は親友の了の席と我ながらいいくじ運だと思う。しかも窓際の一番後ろ。了もそう言っていたな確か。

「なんか電車が止まったみたいだぞ。ニュースもやってたが見てないのか? 珍しいこともあるもんだな」

「寝坊しちゃってさ。それで」

担任教師がパンパンと手を叩きHRを始める。

「静かにしろー。知っている人も多いと思うが今日は電車が停まってしまって電車通学の生徒が来るに来れない状況だー。だから担当教員に聞かれたらそういうように~」

「ってことは、今日の遅刻欠席は!」

義正が残念そうに顔を歪ませる。溜息をさらにつく。

「ああ。阿澄、お前の遅刻もなしってわけだ」

手を握り締め燐は言ってやった。

「やっほぉーい!」

「阿澄だまれ」

相変わらず素っ気ない教師だ。義正は今日の予定や行事を次々説明している。そういえば委員長も居ないな。あれ?奏もいなくないか?

「なあ。委員長も電車通学なのか?」

「さあ。いないんならそうかもな」

燐も了も委員長の家は知らない。今度教えてもらおうかな。

「さて、それとだな。今日は転校生がいる。入ってこーい」

義正がそう言うとドアが開いた。


そう。それは、必然。

そう。それは、絶対。

そう。それは、偉大。

そう。それは、無限。

そう。それは、強大。

そう。それは、幻想。


がらっとドアが開いた向こう側には、いた。全てが、凡てが、総てが、きっと初めから分かっていたのかもしれない。このずれた日常が始まる。


あたしは、……。

あたしは、何者?

あたしは、なんでここにいるの?

あたしは、何のためにここに?

あたしは、誰のためにここにいるの?

あたしには、わからない。

誰か、誰か教えて。

あたしは、


……生きてるの?


時は遡り昨夜。

あっちにいる、あいつが。指令を遂行するためにも行かないと。

「ちょっとごめんね。Fliege(飛べ)後で話すから! Rasen Sie 3 Male(スピード3倍)」

フェッロは、燐に謝ってそこを飛び出した。

『これじゃ、逃げられる!』

そう思ったフェッロは速度上昇魔法を詠唱をする。

「Ein Plus Rasen Sie 3 Male(プラススピード3倍)」

ほんの数秒で着いた。そこには、やはりやつがいた。暗くてもフェッロにはわかる。その邪気とも虚無とも言えるその存在が。

「来たか」

フェッロは、のどをゴクリと鳴らす。

「まあ、安心しろ。リズリカミネを大人しく渡せば苦しまずに済むのだぞ」

やつはフェッロがリズリカミネを持っていると思っているのかな?なら、かまを賭けてみるのもありかもしれない。

「ここは、交渉としようよ」

フェッロは、こんなやつに交渉を持ちかけた。

「んなんだい? どうしようと?」

「そだねぇー。っく!」

フェッロの後頭部に硬い物が強くぶつかり鈍い音が辺りに響く。

頭が割れる。なんなんだ、これは。今にも閉じかけそうな目を凝らし揺らぐ視界を凝らし後ろを見た。そこには


目の前にいたはずのやつがいた。


軽薄な意識の中で目を開ける。ここは、どこ?あたしは、そうだ。あたしは、あいつに殴られて意識を失ってそれでここに連れてこられたってことね。

口にはガムテープで声を出せないようにしてあり、手と足はロープで縛られ、体もロープで縛られている。いわゆる亀甲縛りというやつだ。そこは暗く何も視界に入れることが出来ない。

「おおう。お目覚めかな? お姫様」

げっ、キモイのきた。男が暗闇から現れる。

「ふふ。彼を誘き寄せるために君を使わせてもらおうと思ってね」

『彼って・・・あぁ。リンのこと? 彼ならきっと来ないよ』

脳裏にそう呟き目の前の奴に伝える。そう。彼は来ない。

「彼は何らかの方法で記憶を分解されているようだった。それはどうしてなんだろうねぇ~」

フェッロは、こいつが心を読み取れるのを知っていたから、心の底からかまを賭けるしかなかった。自分の記憶を操作してでも。フェッロは自身の記憶を一時的に消していた。

「なるほど、なるほど。そういうことかぁ。ふむふむ」

どうやら心を読み取ったらしい。少し頷いている。

「君は実に有能だね。ふふ。面白いことをしてくれたね。私の計画は無になったよ。けど、君のおかげでもある。ありがとう」

『こいつはあたしに何やら感謝をしている。見覚えが全くない』

男はフェッロの口を塞ぐガムテープを力に任せ剥ぎ取る。だが、フェッロは痛みに耐え言う。

「おまえは、何をしようとしている。いや、何が始まるっ!」

「このずれた世界ならいくらでも壊していいだろう? だから」

ぽちっとリモコンでテレビをつける。チャンネルはニュース番組だ。

「日本の国宝である布都御魂剣が昨日何者かに盗まれたという事件が発生しました。次の事件です。今朝未明某県近衛ヶ原市の警察署へ電車に爆弾を積んだとの電話が入っていたとのことです。爆発されてほしくなければ近衛ヶ原線を止めろ。との脅迫だそうです。」

「このえがはらせん?」

「近衛ヶ原線は近衛ヶ原学園、近衛町を囲むように設置されている線路のことだよ。おっと肝心なのはここからだ。」

フェッロも男も静かになりニュースが流れている。

「近衛ヶ原警察電通課は偽りの情報と定め、通勤、通学の終わる時間に停めようとしたとのことです。ですが、犯人は、脅しではないと南部にある径道楽駅を爆破させました。この爆発により……」

男がニヤリとにやつく。

「……身元未明の中学生と思われる少女が死亡しました」

息が止まった。男が爆弾を設置して殺したというのか。まあ待てと男がフェッロをなだめる。

「少女の荷物から検出した結果。無刃美島の黒目碧ちゃんという少女ということが判明しました。」

え? 今なんて言った? 今くろめ、あおいって……。

「んふ、そう君の計画の主。黒目碧。彼女は死んだ。君が彼の阿澄燐くんの記憶を分解してくれたおかげでリズリカミネの防衛線が発動し世界が丸ごと再構築された。世界の再構築のおかげで黒目碧は君の計画を実行せずに普段と同様近衛ヶ原線で近衛ヶ原学園へ行く。普通の学生のままだ。いやだったのほうが正しいね」

フェッロの計画は黒目碧が電車を使用し事故が起こるのはパイアンの導きで分かっていたからオリジナルの彼女を亡くさせるわけにはいかなかった。せすれば、彼女自身が変わってしまうから。とお父様に伝えられていた。

一人で黙々としゃべっている男。あたしの疑問に思ったところを素直に聞く。思ったらもうその時点でこいつには知られている。

「リズリカミネは今、どこにある? 貴様の持っているはずのほうは?」

フェッロへの指令はリズリカミネの死守。その持ち主阿澄燐の護衛。

「それがだね。私に投げられたチェーンが昨晩三時くらいだったかな。突然消えたんだ」


金色の髪を両サイドでツインテールに結んだ少女。体型も顔も幼めで高校生と言うにはお世辞でも言えないくらいに小さい。

「初めまして。フェッロ・アイネ・フラウ。どうぞよろしく」

無表情で無機質な冷たく冷えた声が教室に響く。皆が少しの間静寂が訪れる。が、そこにいた燐を除くクラス全員がわいわいとがやがや騒ぎ合い始める。だが、そんな中燐は呆然としていた。

「フェッロ……アイネ……フラウ……」

無意識で燐は立ち上がり彼女の名前を言っていた。

「はぃ?」

「ん? なんだ阿澄知り合いか? まあ静かにしろー。フェッロはイタリアから留学でこの近衛ヶ原学園に来たというわけだ。なんか意見のあるやつはいるかー? んなら以上だ」

ちょうどチャイムが鳴る。

「うぼおおおおおおおおおおおお」

了が狂った。男子が次々といえーい。よっしゃあ。勝ち組やでえぇぇ。天使が降臨されたぞよおお。とか色々言っている。女子はフェッロちゃん? 可愛いねとかとか言っていたりする。肌は白く子供体系である。無表情ながら元から可愛い小顔。

僕はこの子を知っている……と思う。彼女の席は燐の横になった。なぜなら、このクラスは男女37人で構成されていて縦横列に6×6で窓際の最後列にもう一つ席がなっている。

今日の一時限目は数学で教科書のない彼女に燐が横を向きながら見せている。

『この子絶対どっかであって話したりしたんだよな~。覚えてないけど』

じっと彼女の顔を見つめていると、彼女もそれに気が付き燐のほうを見る。

「わたしになにかついてます?」

と記憶の中の彼女とは違った口調と表情。のような気がした。「なんでもないよ」と授業に集中することにした。

休み時間はたいていお決まりの質問タイム。男子が彼氏いる? やスリーサイズを! とか言われ困惑する。女子が助け舟を出しフェッロちゃんっちてどこ? 今までどこにいたの? と聞く。

助け舟でもない気がしたけど珍しい転校生だ、興奮するのも無理ないか。燐は、暑苦しいかったから冷たいジュースを飲もうと自販機に向かった。そこには、幼馴染の奏がいた。

「よ。来てたのか」

「うん。寝坊しちゃって」

覆面面になってえへへと苦笑いを浮かべ言う。茶色の髪を小さく揺らし右側を宝石の様に綺麗なピン止めで括って左側を鈴の付いたリボンが締めている。

「あ、そうそう。転校生がきたぞ。どっかからの留学生だってよ」

「へぇーそか」

なにかを考えているご様子である。まあこんな時もあるだろ。燐は、百円を自販機にいれイチゴ・オレを買った。

「ほら、やるよ。何考えてるかわからねぇけど無理だけはすんなよ」

今買ったイチゴ・オレを奏にあげる。そして気遣いの言葉をかけすぐにそこを去った。奏だって一人になりたい時くらいあるだろうという心遣いだ。奏は遠ざかる燐に目を向けず手にあるイチゴ・オレを見つめ続ける。二時限目開始のチャイムが鳴り教室に入る。質問コーナーは終わっていた。鳴り終る前に席についた。

二時限目の国語も普通に終え、三時限目は体育である。休み時間になり女子たちがフェッロちゃんは今日体育やるの? と尋ねる。

「いいえ、体育着ないので」

え~そうなのー。残念。とクラスの女子たちが言っている。燐はボーっとしてその光景を眺めていた。近衛ヶ原学園の体育は二クラスがが合同してやる。奇数のクラスで女子が、偶数のクラスで男子が着替えをする。この学園には更衣室というものがプールのやつしかない。休み時間は十分なのでこのような決まりがある。

「ちょっと! 阿澄君。なにまだいるのよ!」「早く出ていきなさいって!」「この変態!」

「おおぅ。わりぃー」

急いで教室を出た。そして六組に移動し着替えグラウンドに行く。

「なあ。俺今日休むわ」

燐は、了にそう言い体育教師のところへ行って風邪気味で足を捻挫していると適当なことを言い休むことにした。了のもとに帰り、了がなんで休むんだ。と聞かれる。

「ちょっとな、転校生に話があって、な」

了はにやにやしながずれたら眼鏡をなおす仕草をする。だが、了は眼鏡をかけていない。

「もしや、人目惚れかぁ? 朝といいなんとなく察してはいたけどなっ!」

違うけど今はそういうことにしておこう。始まりのチャイムが校庭に響き渡る。みなが自然と整列する。すると体育教師が言った。

「今日は校庭周回だぁー。ちんたら走ってると点数ガッツリ引くからそのつもりでな」

いいタイミングでめんどいのが来たな。内容言われる前に休むって言ってよかったな。燐は、安堵した。ほかの生徒が燐と同じような言い訳で休もうとするが教師は元気そうだな。よし、走れ。との一点張り。

『本当に風邪気味だったらどうすんだよ。』

朝から調子が悪そうだった高須が言うと、いいぞ。休めと、案外本当か見分けがつけれるのかもしれないな。そんなことをやっているのをスルーして木の木陰にすでにいた転校生の彼女のところに燐も行く。適当に挨拶をし合い燐も彼女も座った。

「あの、さー。聞きたいことあるんだけど。いいかな?」

朝から感じたこの違和感の謎を知るために彼女に話を持ちかける機会をうかがっていたのだ。

「え? なに?」

聞いてもいいと承諾を得た。ならばさっそく聞くまでだな。

「俺たち前に会って話したりメシ食ったりしたことあるよな?」

彼女は、無表情に無機質な瞳でんーっと考えている。すると、高須が現れた。

「ちーっす、お二人さん。横いいか? ヘイチョコラッポ」

いいとも言っていないのに勝手に座る高須。邪魔なのが来たもんだ。

「よう。お前も休みか。調子朝から悪そうだったし保健室行ったほうがいいんじゃねぇの?」

さっさと追っ払おうと保健室へ誘導させる。高須は、大丈夫だって。と無理強いさせると怪しいまれそうだからな、大丈夫と言っている以上これ以上はよしておこう。

「ねね。フェッロさん。彼氏とかっているの? ヘイチョコラッポ」

高須が彼女に聞く。その質問に対し首をううんと横に振る彼女。

「えーまじで! そんなに可愛いのにもったいない。俺と付き合わない? ヘイチョコラッポ」

高須は狙っているのだろう。まあ可愛いのは本当だし、わからなくもないが燐は、こいつにだけは嫌だ。そう思った。なぜなら、こいつは、この学園一といっても過言ではない女たらしだからだ。

「えっと、付き合うという概念が私にはまだ理解不能だから」

少々電波的なことを言って断った。よし。と心の中でガッツポーズ。高須よ、残念だったな。

「ッケ、電波女かよ。興味が一気に薄れたわ。ヘイチョコラッポ」

そう言い高須は寝転がった。燐は、さらに疑問が増えた。燐の知っているフェッロは確かもっと感情が豊か、過ぎた気がしたけど。

「付き合うっての分からないの?」

うんとコクリとうなずく。

「付き合うってのは、好きな者同士が一緒になってデートしたりご飯食べたりすることかな? 俺も付き合ったことないからさ、よくわかんねえけど」

彼女は顔色変えずに下をうつむく。何やら考えているようだ。すると遠くから声がした。

「ぉお~い。りんー。フェッロちゃんもー」

呼ばれた気がした。グラウンドを見てもこっちに気をかける人は誰もいない。

「おーいってりん! フェッロちゃん!」

後ろからひょこんと二人の間に飛び出てきた奏。

「どうしたんだ?」

「フェッロちゃん横いいかな?」

うんとうなずく彼女。燐と彼女の間に入ってきた奏。

「フェッロちゃんってなんか言いにくいからフェロちゃんでいい?」

「なんとも失礼な。フェッロ断っていいんだぞ」

奏は呼び方を変えようとしていた。燐は奏の言ったことを否定していいと言うが、フェッロは首を縦に振りうなずく。その手は片方の尻尾髪の先端をくるりと弄る。奏は燐にドヤ顔で鼻を高くする。

「なあ、体育はどうしたんだ? サボりか?」

「まあね。フェロちゃんってさ」

奏は体力が他と比べない。今日のような走るものだと一分でも走るとダウンしてしまう。

「昼寝でもするだぁ」

二人の会話を余所に燐はそう言い残し眠りについた。

四時限目は日本史。一番苦手なやつである。教科書をフェッロに渡して眠りにつく。

「……きて、お……、起きて」

っはっと目を覚ます。そこにはフェッロが立っていた。もう昼飯だと了が言ってくる。

「ぉおう。ん~。おはよう、さて、行くかな」

首を傾げるフェッロ。その頭に手を乗せた。知っているこの感覚、一度経験したこの感覚。その覚えのある光景、銀色の光景がフラッシュバック。

それはすぐに消えていった。

「購買に行ってくるだけだから。またな」

そう言って教室を了と出る。フェッロはほかの女子から昼飯に誘われている。

「お前すんげぇ懐かれてるな」

笑いながら冗談っぽくに言われる。

「だなぁ。さて今日はメロンカツサンドにするかな」

服が引っ張られた。振り向くとそこにはフェッロがいた。

「それは食べ物? おいしい?」

「ああ。食べ物だ」

燐は、一回深呼吸をしとぎらせることのないように言う。

「メロンカツサンドとは、近衛ヶ原学園の名物。普通と思われるメロンパン二個の間に直径20センチものカツが堂々と乗っている至高の一品であるメロンパンの周りはカリカリ中のパンはモチフワでカツはホクホクこの世のものとは思えないパンである一日限定二品販売という希少価値な一品でありしかもその値段は、三百円! メロンパンが一個百円で二個使われていてカツサンドは百五十円となっているそのカツサンドのカツはメロンカツサンドのカツを半分に切ったものでつまり、メロンカツサンドはお値段的にもいいということになる」

長ったるい説明を終え購買へ向かう。服をまた引っ張られる。

「わたしも食べたい」

燐は、フェッロの両手を自分の両手で包み込み。

「ああ! いいだろう! 行くぞ! 我が楽園へ」

「お、おー?」

「っへ。仲いいなぁ」

そして、購買にたどり着いた。燐は、至高の一品を手に取り、レジのおばちゃんのところに行く。フェッロも真似をして後をついてくる。了はというとふっつうのメロンパンとカツサンド、野菜サンドを取ってもう会計済みだ。

「おばちゃん、これを……くれ!」

「あ~い。三百円ね。はい、毎度~」

ついに、ついに手に入れたぞおおお。フェッロが戸惑っていた。何があったのだろう。そうか、メロンカツサンドが迫力ありすぎてびっくりしているのだな。服をまた引っ張られる。

「わたし、お金ない」


「もう一回言ってくれる?」

フェッロは幻聴かと疑った。けど事実だった。

「私の持っていたリズリカミネ、チェーン部分は主の部分である十字架の元に帰ったのだよ」

ほっとするフェッロ、この世界から消えたわけじゃないのね。つまりは今燐のもとにあるってこと。多分だけど。

「私もね。そう思って彼を監視するためちょいと工作させてもらったよ。近衛ヶ原学園および付近の監視カメラをハックして」

そう言いながら男はノートパソコンを起ち上げる。すぐに起動した。きっとスリープモードだったんだろう。

「見ておくれ。これは、8時半の正門のカメラ。は~いこれが二年五組ね。燐くんはリズリカミネをつけているかなー?」

33分に燐が通った。遅刻して燐が教室に入った。そして、生徒が全員席につきなにやら教師が話している。

「んー。誰か入ってきたね。金髪でツインテール。ふむ」

……そんなはずはない。なんで? こんなこと起こるはずない。震えが止まらない。目を背けたい、でも気になって背けるどころか目を大きく見開いて見てしまう。

「あれれ? これって、なんだ色違いってやつなのかな? むふふ、1/8192の確率だね」


金髪のあたしがいた。


フェッロはそれから放課後という時間までフェッロの偽物? を見続けていた。授業中仲良さそうに話をする燐とフェッロの偽物。教科書がなく燐に見せてもらっているフェッロの偽物。休み時間、クラスメイトから質問攻めにあっているフェッロの偽物。体育の時間、木陰で燐と知らない男と知らない女と話しをしているフェッロの偽物。燐に教科書を借りてなにやら喜んでいる様子のフェッロの偽物。燐を起こしているあたしの偽物。


あたしは、……。

あたしは、何者?

あたしは、なんでここにいるの?

あたしは、何のためにここに?

あたしは、誰のためにここにいるの?

あたしには、わからない。

誰か、誰か教えて。

あたしは、

……生きてるの?


フェッロが無表情の中にどこかしら機嫌の良さそうに尻尾髪を少し弄る。五時限目、六時限目を終えHRの時間だ。

「今日バイトあんの?」

了がいつも通りに聞いてくる。HRの時間でいつも聞くってのはもう当たり前になっている。

「今日は、ないな。どっか行くか?」

バイトがない日はどちらかの家に行ってゲームしたりテレビ見たりとダラダラ過ごしている。

「今日お前っちでどうだ?」

たいていが燐の家になる。父親も母親もいなく気楽に過ごせるからだろう。了の家だと弟と妹が構ってくれと寄ってくるからな。まあ僕は兄弟がいないから羨ましいと思っているんだけど、了にすると兄弟はうぜぇだけだ。と、この前言っていた。

「まあいいぞ。あ、菓子なくなったから富士田で買ってこうぜ」

富士田とは、近衛ヶ原学園から燐の家の丁度真ん中に位置するスーパーである。夕飯とかの物もここで大体調達することが多い。

「ああ。いいぞ。じゃあ行くか」

HRが終わりさっそく帰ろうと教室をでようとした時服を引っ張られた。すごいデジャブ!

「わたしも……」

フェッロが燐の家に来たいと言ってきた。了のほうを無言で見る。

「別に俺はかまわねぇけどよ、お前はどうなんだ?」

了は別にいいらしい。まあ僕もいいからいっか。

「ああ、そうだな。来ていいぞ」

話足りないことあったから聞くとするかな。三人で校門を出る。特に話などはしなかった。家に帰ってからでもいいとお思ったからだ。それに周りには下校する生徒が結構いるから聞かれるのもフェッロも嫌だろう。いや僕が嫌だからな。

「さて、食いたいもん買っていいぞ」

そう言ってフェッロに買い物カゴを渡す。少しとまだっているようだ。

「燐、いいのか。なんでも?」

了はそう言ってこの店で一番高いトリフという食材だった。

「バカ言うな。限度くらい考えろよ」

二人笑いながら了が取った物を置く。フェッロが無機質に燐たちに尋ねる。

「おもしろい? 楽しいの?」

燐は正直に答える。嘘偽りのない真実を答えた。

「ああ。ふー楽しいぞ」

そう言いフェッロの頭に手を乗せる。やっぱり知っているこの感覚。そんなことを無視して。

「さて、何にするかな」

了は菓子のおいてあるコーナーに行った。フェッロも了の後をついて行き了と同じものを買ってきた。まあいいか。

「お会計のほう、8540円になります。」

たっけーな。荷物を三つに分けて燐の家に帰ろうとスーパーを出た。燐は無意識にフェッロの手を繋いでいた。


あのパン、おいしそう。

「なんだ? 食べたいのか?」

「ふん」

さっきからフェッロの内を覗いてはイチイチ何かどう言ってくる。実にめんどくさい男だ。

「んあっ。なんのつもり!」

馬を宥めるかのようにドウドウとやっている。あたしは馬じゃないわ!

「腹でも減ってるんじゃないか? んー?」

コンビニで買ったと思われるパンやおにぎりを前に出し見せびらかす。別にいらないし!

「ぉおー。それは残念だね~。んじゃ私が一人で頂こうかな」

勝手に食ってればいい。目を半分開けて横目で男のほうを見る。ゴクリとのどが鳴った。

腹を促すかのようにお腹もぎゅるううぅぅと鳴る。

「ぅう……」

ああ。お腹減った。男がパンを開けた。クリームパンだ。そしてあの汚らしい口に放り込む。フェッロは目を普通に開いていた。あの甘ったるそうなクリーム、いいなぁ~。次に開けたのはメロンパンだ。それをこちらに、向け食えとの意志表示なのだろうか。

「ま、まあ! あなたがそ、そこまで食べてほしいならまあやぶさかでもないよっ! あーっん」

食べれる寸前でひょいと遠ざけられる。

「人にものを頼むのはどうすればいいのかな?」

なんてやつ、でも食べたいし。

「んー、食べてあげるって……。じゅる」

フェッロは、自分にしか聞こえないような小さい声で言う。そして、涎も垂れる。なんだって? とわかっているくせになんてやつだ。

「だから、食べてあげるって言って……」

まだ聞こえてないふりをしている。あたしは、息を大きく吸い。

「だから! 食べたいって言ってるのよっ!」

きっと顔真っ赤だ。こんな屈辱、辱め、この男最低。笑いながらパンをくれる。腕のロープも足のも体の亀甲縛りも外してくれた。

「ん~。おいしい」

不覚にもこいつに満面の笑顔を見してしまった。食べ終わりパソコンの動画を再び見た。

下校の時間のようだ。フェッロの偽物は燐の袖を引っ張り何やら話している。一緒に帰るつもりらしい。帰る時は特に変わった様子はない。そして、三人でスーパーに入っていった。燐が何やら楽しそう。その光景を見て心が安らぐ。そして、フェッロの頭に手を置いた。

「仲がいいんだね~。見ていて幸せを貰える気がするよ」

男がそう言いながら煙草を吹かす。会計を済ませ帰ろうと、スーパーを出た。微かに見えた。燐はフェッロの偽物と手を強く繋いでいた。


そこには、無が広がっていた。スーパーを出たはずなのに、ここはどこなんだ。

「こ、怖い」

フェッロが無表情のまま燐の腕に抱きつき震えている。何がどうしちまったんだ。

「大丈夫、安心しろ」

燐は、フェッロが落ち着くようになだめる。

「了、大丈夫か!」

後ろを振り向き大丈夫かを確認する。が、いない。嘘だろ。さっきまで一緒にいただろ!それに夏がもう近いってのになんてここは冷たいんだ。息が白色だ。

「さ、寒い。怖い」

フェッロを抱きしめる。大丈夫と言いながら、燐には助けられる力はないのに。無責任なやつだ、まったく。そんなとき了は一人でスーパーを出ていた。

「おろ? 燐どこ行っちまったんだ? まあいっか先に行ってかな」

一人で燐の家に歩き出す。

「とりあえずここを出よう。戻ってみよう」

スーパーに位置するほうに戻ろうとする。だがやはりそこには何もなく無が広がっているだけ。すると、どこからか声が聞こえる。

「にゅふふ。ようこそ。無、に」

そこには、女が浮いていた。同年代くらいの子だ。髪型はボブでピンクと赤色が混ざった短髪でポニーテールになっていた。服はというとパンクバンドの服っぽい感じがする。ブーツは太ももくらいあるものでスカートはヒラヒラとしている、少しでも動いたら見えてしまいそうだ。いやもうすでに見えているのだが、パンツは白色でピンク色水玉が散りばめられている。ブーツとスカートの間は三センチくらい。それならいっその事ズボンを穿けばいいと思う。

「お前、何者だ! ここはなんなんだ。了をどこにやった!」

少し多めの質問をぶつける。彼女はこちらに近づきながら質問多いなー。と、指を薄い唇にあて、んーっと考えている。

「そうだなぁー。んじゃまず自己紹介ね。私は、お父様の命令のもと貴方の持っているその……なんて言ったかな? まあいいや、それを取りに来たの。あ、一つ。私は、魔族の騎士ともコノエキュルリーテとも神族閃々(しんぞくせんせん)でもない。お父様の奴隷」

燐はデジャブに似たものを感じた。前もこれを欲しいという人が現れたような気がする。これを渡してはいけない。そう思った。そしてきっと防衛本能だろう無意識にネックレスを握る。何も力のない弱い燐が強く。

「魔族の騎士……コノエキュルリーテ……神族閃々……それって……」

「まあ自己紹介はこんなとこかな。んじゃ次の質問の回答。ここは、見ての通り無の空間。私が時空を歪め作り出した世界」

女が両腕を大きく広げ言い回る。意味の分からないことを言って話を進められる。

「自己紹介になっていないだと……お前は……いったいなんなんだよ」

燐はこいつが世界を作るとか馬鹿げたことを言っているが信じられなかった。だが、現にこうして無が広がっている。無の世界が広がっている。

「この人怖い」

表情を変えないフェッロがより強く燐を抱きしめる。震えたその体はまさに本物だった。

「次、その君の友達かな? 了っての」

どんどん進める。物みたいに了を言いやがって。

「彼なら問題なく帰ったわ」

了の無事を告げられる。そして、燐はふーと、安堵する。

「私はもとから貴方一人だけでよかった。でも、そこの彼女が君と手を強く結ばれた結果一緒にこちらに来てしまったの」

ってことは、僕のせいでフェッロがここにいるのかよ。大丈夫とか言っておいて全部僕のせいじゃんかよ。拳を強く強く握り締めた。

「そう、貴方のせいで彼女がここにいる」

「そうだ。俺のせいだ。ごめんな、フェッロ」

消えそうな声で謝る。だが、そんなことないと言ってくれるがそれがまた燐を苦しめる。

「なあ。フェッロだけでも見逃してくれないかな。頼む」

燐は頭を下げた。深く深く。こんなことをしても無駄なのは分かりきっている。だが、

「そうね。彼女は何もない罪も善も悪も。果てしなく彼女は幻想なの。わかっていたんじゃない? 貴方は」

そう言いながら彼女は無から作り出す。剣を。

「だから~殺してあげる。にゅふ」

満面の笑みで剣をこちらに向け飛び込んでくる。燐はフェッロを押し敵の軌道から外す。だが軌道の直線状には燐がいた。

「あ、間違っちゃった。突っ込んでくるなんて馬鹿なの」

そう言い笑い。剣を燐の体から抜く。血が無を埋める。その剣をフェッロに向ける。

『僕が助けるんだ。次は僕が!』

燐はそんなことを考えていた。燐は、彼女の足に絡みつき動きを止める。

「は、早く行け! きっと出口はあるはずだ!」

「このガキ、邪魔だあ」

彼女が燐を蹴り飛ばす。5メートルくらいだろうか。そのくらい飛んだ。傷が痛む。燐は死ぬのだと悟った。なら、最後くらいかっこよく女の子を助けて死ぬしかないな。その意思だけが燐を立ち上がらせた。

「ぉい。そこの娘っこ。はぁはぁ」

彼女が振り向きそこに燐が体を押し倒す。手ではなく、体で押し倒す。笑顔で燐はフェッロに言う。楽しかったよ。と、多分きっとフェッロには届かなかっただろう。でも燐は言いたかった。

「―――ッ!」

ぐちゃ。燐の体を剣がまた貫く。燐の意識は亡くなりかけた。

「い、いや、いやああぁぁっああアああァアッあああッ!」

フェッロ・アイネ・フラウも剣で頭から真っ二つにされ死んだ。



スーパーを出たはず。だが、燐とフェッロの偽物は、燐の親友を残し消えていた。

「あれれ? 消えちゃったね~」

きっとこいつが消したに違いない。そう思ったフェッロは、睨みつけて聞く。

「燐をどこにやった。貴様が隠したのだろ。なぜそんなことをする必要が……」

男がフェッロの言葉を止めるかのように言った。

「私は何もしていない。スーパーから出たはずの燐くん達が消えた。そして親友の了くんが残った。これはどういうことなのだろうか?」

腕を組みまた煙草を吹かそうとライターに火を灯す。だが、煙草まで届いていない。

「そうか、そうか! なるほどそれならあり得るな。いや、それしかない」

何やらわかったようだ。

「ふふ。燐くんがどうなったか気になる。私は行くことにするよ。君も好きにするといい」

そう言い残し、この部屋から出て行った。フェッロも出発することにする。燐のもとに。

『燐待っててね。今行くから』

フェッロはイヤリングとなっているパイアンを魔力棒に変え空に飛び立つ。


ここが燐の消えたスーパー。もちろんこんな格好で街中に居たら通報されるからスーパーの前のビルの屋上から様子を見ている。何も変哲もないと思うけど、魔力探査で一応調べることにする。パイアンを掲げ唱える。

「Eine magische Machtanfrage(魔力サーチ)」

この辺りには魔力の流れがリズリカミネと少量の魔力しかない。転移魔法とかならもっと膨大な魔力を使う。なのに魔力が感じられない。リズリカミネもスーパーの出入り口のところで途切れている。っぽん。頭に手が置かれた。もしかして、後ろを向く。

「よう。嬢ちゃんどうだ? なんかわかったか?」

そういえばこいつも行くとか言ってた。頭に置かれた手を払いのける。

「今からが本番なんだから」

素直に言ってしまう。強がりを言い人払いの呪文を唱えて透明化の魔法をかける。

「Di me scompaia(我の姿を消せ)」

フェッロは、透明になりゆっくりと地上に降りていく。ほーなかなかやるね。と男が言う。少しは感心しているようだ。そしてフェッロは、リズリカミネが消えたことをもう一度よく見る。が、やはり何もない。もう一度魔力探査をしようと呪文を唱える。

「Eine magische Mach……。ぅぐ。ああああああ。痛い、痛い痛い。どうなって……うばあああぁぁっああアああァアッあああッ」

呪文を唱えようとしたらいきなり体が熱くなってすごく痛い。まるで切られているようだ。その様子を見ていた男は少し驚くが微動だにしない。

「い、いた……みが。無くなった? っん!」

痛みは急に消えたが次は頭だけが痛くなった。物理的な痛みではない。偽り、偽物の痛みだ。


意識が遠のいていく。そして、瞬間的に意識が蘇える。


『……ここは? あたしは?』

まだ意識がしっかりしない。確かスーパーの前で魔力探査をかけようとして体が痛くなってそれで、気が付いたらここに。

『あなたが……私の』

誰? 誰の声? いやこの声はあたしの声だ。

『君は……あたしの偽物』

そこには、あたしの偽物がいた。金髪のあたし。

『ううん。私が本物あなたが偽物。偽り。コピー』

『あたしが……偽物?』

あたしが偽物なはずない。意志もしっかりあるし、脈だってある。

『あたしは、偽物じゃない、あなたが……』

偽物だと言おうとしたが言えない。あたしの偽物も意志はあるし、脈もあるだろう。

『そうかもしれない。私が偽物かもしれない。けど、もう確かめられない』

肯定した。のか?

『なんで確かめられないの?やっぱりあなたが、』

『私は、もう死んじゃったから』

俯き答える。

『あなたは、何者?』

あたしは、……。

あたしは、何者?

あたしは、なんでここにいるの?

あたしは、何のためにここに?

あたしは、誰のためにここにいるの?

あたしには、わからない。

誰か、誰か教えて。

あたしは、

……生きてるの?

『あ、あたしは、……』

そう。あたしが偽物なんだ。思い出した。

『違うわ。あなたも私も等しく本物であり、等しく偽物。あなたは、生きているわ。大丈夫。矛盾してること言ってごめんね』

涙が勝手に溢れてくる。本物が手で涙を拭ってくれる。

『ほら、ちゃんとあなたには、感情があるもの』

『……あたしは、』

『聞いて、私が死んだことによって、あなたは、私の本物の部分とあなた自身の偽物の部分をあなたが背負うことになった。ごめんね。善処なる心、邪気なる心、そして。』

本物だったあたしは、間を空けて言った。


『偽物の心』


『にも、ものの』

『そうよ。私の記憶もあなたの記憶も感情も喜びも痛みも苦しみも悲しみも総てあなたが背負う。どんなに辛くなっても負けないであなたは、もう偽物じゃない。偽物な本物だから』

辺りが光る。白く目を開けても見えない。優しい光。落ち着く光。


徐々に光が弱まる。そこは、スーパーの前ではなかった。ここは、無。

何もない。いや、きっとスーパーの前にはあったんだ。何もないがあったんだ。


『きて……り……おき……起きて!』

聞こえてきた声。有からの声。

『無理だって、もう目も開けらんねえって。フェロ、俺ら死んだんだ』

そう。死んだ。燐は、見た。フェロは真っ二つになるのを。そして、燐は意識を無に任せた。



――あれは昔、燐がまだ幼い頃。

小学二年の頃僕はその頃好きだったアニメ、ライブミュージックのゲーム特典ネックレスが付くと聞き欲しくなり母に頼んでみた。ダメと言われた。テストの点数が悪かったからだ。クラスの友達は大体持っていた。羨ましい。僕は、ある日の放課後家に帰らずにずっと公園のブランコに座っていた。こぐこともなくただ座るだけ。すると、少女が現れた、誰かは覚えていない。顔もわからない。でも、その少女は僕の欲しい物をくれると言ってくれた。僕は、何も言わなかった。なのに少女は、当てて見せた。僕の手を優しく握る少女。僕の手の中には、欲しかったネックレスがあった。

『これでしょ? あげる』

そう言い残して少女は太陽の沈んだ地平線へ姿を消した。

「りーん。りーん。あ、燐。心配したのよ」

僕の母が僕を心配するなんて、ありえな、ぎゅっ。母が僕を抱きしめた。嬉しかった。心の底から嬉しい。僕の瞳からは涙が零れる。

その日、家に帰ると母が買ってくれていた。僕が本当に欲しかったのは、母さんの温もりだったんだ。

次の日の放課後僕はまた公園のブランコに座っていた。悲しいことなんて何もない。けど、僕は座っていた。少女に会うために。太陽が沈み辺りが暗くなった。母がまた心配してしまうかもしれない、帰ろう。とした時少女が現れた。

『欲しい物は、手に入った?』

『それなら、うん。』

僕は、少女の手を握る。そして、僕が母に買ってもらったほうのネックレスをその手に入れた。

『お返し。あげるね。じゃあね』

今度は、僕がそう言い残し帰る走って、母が待つ家に。



そうだったのか。このネックレスは、ゲームの特典じゃなかったのか。僕が少女と交換した少女が生み出したネックレス。僕は、意識もままならない状態で無から這い上がった。開かない目動かない足。僕は、手を首のネックレスにかける。やはりなかった。それもそうだろう。大分時間が経ったのだろうから。僕は、少女のことを思い出せた喜びと少女がくれたネックレスを盗られた悲しみあいつに対する苛立ちで心が満たされた。


『母さん、いままでありがとう。』


あたしは、無の空間にいた。まだ体が熱い。目の前には、燐が倒れている。血塗れで倒れている。そして、"serialNo.85"がいた。あたしは、思い出した。偽物のあたしは"serialNo.16"。お父様が創り出した偽物。"serialNo.85"は、燐のネックレスを盗った。燐が大切にしていた物を。戦う理由には、それだけで十分だった。


「"serialNo.85"それをよこしなさい!」

フェッロも別に戦いが好きなわけでは、ない。話し合いで解決できるならそうしよう。仁王立ちをして言う。

「ん~? 君は? ああ。出来損ないの"serialNo.16"じゃないの」

そう。フェッロは、感情泉を大きくしすぎて魔力や戦闘泉が少なめになっている。そう、出来損ないだ。"serialNo.85"は感情泉も演算泉も大きい。だが、確か戦闘泉は小さめと聞いている。勝機はなさそうだ。けど。

「そうね。あたしは出来損ない。だった! でも今は、コピーでありコピーでない! あたしは、偽物な本物!」

そうそれは、本物だったフェッロからの最後の言葉。

「"serialNo.85"? "afterNo."の分際で随分偉そうね」

「わたしは、お姉さまを超える存在。今ここでお姉さま、"serialNo.16"貴女を殺すわ!」

そう言い落ちていた剣を拾い上げこちらに向かってくる。

「携火焔使之窃舞釼(炎を携え剣を振るわせろ)」

剣が炎を纏った。その剣をあたしに振るう。この子の呪文中国語。"afterNo."は呪文まで違う。炎を纏った剣を華麗に交わす。

「ひょいひょいひょいっと」


『起きて! 燐起きて! 起きて!』

フェッロは振るわれる剣を何度かかわし燐を起こそうとする。が

『無理だって、もう目も開けらんねえって。フェロ、俺ら死んだんだ』

『バカ! あたしは、いや本物のあたしは死んだけど今あたしは、生きてる! 目を覚まして!』

反応がない。意識がなくなったのかもしれない。死んじゃったの? 燐。フェッロは泣くのを堪え戦闘に集中しようと思った。一定の距離を取り唱える。

「Bruci tutti; la magia della fiamma(全てを焦がせ火炎の魔法)」

パイアンを掲げ火炎魔法を打つ。がさすがと言っていいだろう。"afterNo."身のこなしが完璧だ。華麗にフェッロの攻撃を避ける。

「Dia un alito di persona morto della vita(死者に命の息吹を与えよ)」

フェッロは、燐に治癒魔法を使う。死者と言っても命がまだ燃え尽きていない者にしか使えないけど、燐には使えている。よし、大丈夫だ。

「いつまで逃げれるかな。ふん!」

会心一撃をすれすれでかわす。すっ、服にかすれていたようだ。火の粉が舞う。腹から胸に掛けて服が切れる。この子が言うよういつまでも逃げられないだろう。早く起きて、燐。

体力がそろそろ限界になってきてる。燐をかばうように前に立つ。

「はぁはぁ。そろそろ、けりをつけようかしら」

息が上がって肩が上下するのが分かる。両手でパイアンを抱える。

「どんなことで楽しませてくれるのかしら? お姉さま」

にゅふと笑う"serialNo.85"。偽物だった頃はここまで体力の減りが早くなかったのに。きっとまだ馴染んでいないのだろうか。"serialNo.85"が構え唱える。

「神速的烈火(神速の烈火)これで終わりだあああああああ!」

剣から時放れた烈火が向かってくる。もう本当に終わりかもしれない。なら相討ちにする!

「Un'increspatura del lampo(雷光の波紋)はあああああああああああ!」

雷を呼び出す。敵に向かって波紋ができるが烈火によって簡単に相殺される。

「まだまだ! La goccia di pioggia della primavera(泉の雨雫)」

魔法陣から水が勢いよく飛び散る。だが烈火の勢いは弱まることがない。

〈Ein Verteidigungssystem(防衛システム)〉

パイアンが防衛陣を張ってくれた。フェッロは、耐えるよう両手でパイアンと防ぐ。そして、耐えきれた。そう思った時、女は目の前にいた。手に持つ剣を振るう。魔法陣を切り裂いた。

「神速的烈火(神速の烈火)」



『まだだ! 魔王様!』

意味が分からない。誰が魔王だって? それに君は誰?

『お前さんだぜ。魔王様、阿澄燐。俺様は、魔王様に使える魔なる存在。魔王様の使い魔だぜぇ』

僕は、もう眠るんだ。永遠に。

『魔王様! これを見てくれ! 誰だかわかるよな』

目が開かないんだって。いや、開けてないのに見えてるだと?

『俺様が見てる光景を今魔王様に見せているんだぜぇ』

なるほど。こいつは……フェッロか? 髪が銀髪だけどっ、て痛てぇ。

『ああ。ごめん魔王様。今解除するぜ』

『なにを解除だ? あれ、痛くない。銀髪の少女、金髪の少女フェロってもしかして?』

ずれがなくなった。頭の痛みも消える。

『そうだぜ! 同一人物だぜぇ! けど、金髪のほうが死んでだな……』

そうだ。フェロは、死んだんだ。ッスと感情がこみ上げてきた。

『なあ。まだだってお前言ったろ? ならさ、俺を生き返らせてくれよ』

『てかな、魔王様。魔王様はまだ死んでないんだぜぇ。魔王様は一応思い出したんだろ? 昔のこと、俺様との出会い』

こいつとの出会い? なんとなく分かる。ネックレスがこいつだったってこと。

『ああ。そうだな。思い出した。そんで何も出来なかった僕に苛立ってる』

少女のことを思い出せた喜びと少女がくれたネックレスを盗られた悲しみよりも僕は、何も抵抗ができなかった自分への怒りが最高潮に達していた。

『魔王様。唱えろ、今の魔王様なら分かるはずだ。苛立ち、憎しみ、僻みなどの憎悪感を俺様にせき止められていた魔王様には、分かるはずだ』

そう。僕には、分かる。それがどんなに暗いものか。汚いものか。邪悪なものか。

魔王は、統べての……。

『魔王様。覚醒するんだ!』


『全ての悪よ。総ての邪気よ。総べての憎悪よ。我のもとに統べての闇を統括し我を王となせ。リズリカミネ。(We all evil. I of all evil. We all hate. Nase and the king of all the darkness we responsible to our original.)』


『きたきたきたきたああぁぁっあア、あァッあぁぁあぁァァッ!』

統べての闇が集まり僕の中に入ってくる。苦しい。吐き気がする。でも、これが人の闇。内に眠る闇。だが、嫌な気はしなかった。

『今ここに、阿澄、燐を十一代目魔王として降臨させる! Advent Devil(魔王降臨)』


意識がはっきりする。生き返ったのか。燐は、傷が癒え黒き魔装を装う。その姿は今までの燐とは全くの別人のようだった。髪は白紫色になり邪が溢れ出している。

『いいや、魔王様。もとから生きてるんだぜ』

『そういやそうだったな。力が漲る。これが魔王の力なのか? スゥちゃんや』

両手に集まる闇が分かる。憎悪も恨みも悲しみも苦しみも敵意・悪意・反感・殺意・怒り・憤慨・嫌悪・忿怒・怨恨・怨み・激憤・憤懣・憤怒・忿懣・欝憤も総てが。

『魔王様。スゥちゃんってなんなんだぜ……。まあいい。これだけ言っておくぜぇ。自分を見失うなよ。』

そう言われ、僕は、無に帰ってきた。


体が勝手に動き銀髪の髪が乱れるフェッロを黒き魔装を翻し庇う。左手で後ろへ押しのけ、右手で敵の烈火を相殺する。

「り、りん?」

向かなくても分かる。声が震えていた。きっと泣いているのだろう。だから安心させたくて燐は、言う。

「ただいま。フェッロ!」

弱かった燐が力強く、闇を統括した燐が言った。

「うん! お、おかえり!」

フェッロも言った。その言葉だけで力が漲ってくる気がした。

「ちょっと離れていてくれないか? まだどうすればいいかわからないんだ」

うん、とうなずき後ろに下がるフェッロ。

女は悔しそうに歯軋りをして呟く。

「降臨。しちゃったにゅか」

そして、歯軋りをしていた口が三日月の様に笑みを作り付け足し言った。

「ま、生まれたての魔王如き相手にもならないにゅふふ。それに貴方、そんな狂気に溺れた顔で正気を保てるとも思えないしね」

燐は先刻の正常な表情と一変し殺意が表情から分かる程に、邪気、を欲している。目は泳ぎ血走り燐の意識に関係なく口元は吊り上がっていた。

「確かに君の言う通り僕は邪を欲っし始めている。自分でもそれは分かる。そんなことしたくない、いらないのに。でもこれが総ての闇を纏う魔王ってことなんだろ? リズリカミネ。僕はそんな闇、魔王の本能。そんなことはどうだっていいんだ。僕はただ……」

燐は血走る瞳を閉じ間を少し開けて言った。

「フェッロを……もう死なせない」

その言葉と共にフェッロの瞳から一筋の雫が頬に一線を引く。女が罵声と共に燐に剣から攻撃を仕掛ける。

「闇に呑まれかけのゴミが! イキがるじゃねぇにゅふ。神速的烈火(神速の烈火)」

烈火に包み込まれる燐。それを離れたところからフェッロが見、涙を無に散らばめて燐の名を叫ぶ。烈火が一瞬にして消え去る。そこからは微動だにしていない燐の姿があった。

「次は僕がイカせてもらおう」

瞳を開けた燐。その真紅の瞳は血走ることを止め一心に女を見つめていた。燐はフェッロの無事を横目にさっと確認して右手を女に向けて翳し燐は唱えた。

「Familiar with the arrow hit the darkness, the enemy.(闇、敵を打つ矢となれ)」

燐の右手から溢れ出る魔力が矢の形に具現化する。が、魔力コントロールが効かず矢の形を保つことができない。だめだ、不発で終わる。と思った。だが、優しく手を握られた。フェッロが自身の魔力を流し込み魔力を支えてくれる。優しく温かい。形は段々と矢の形になる。一人じゃだめだ、でも、今は、フェッロがいる。フェッロを信じ自分を信じ魔王の闇を信じた。矢を放つ。"serialNo.85"を追尾して、そして、グサッと女の胸を貫く。

「それは、返してもらう」

前にジャンプするかのように跳ぶすぐに彼女のもとに着きリズリカミネを彼女の手から取る。

「あァー、あっ、あー……」

彼女は死んだ。フェッロを助ける為とはいえ誰かが亡くなるのは悲しい。だが燐は邪気を持った彼女の闇さえ受け入れる。死んだ時そう決めたんだ。自分の闇も他者の闇も。数秒後、彼女が優しい光とともに消えた。消えたことにより無が崩れる。歪みができ、いつでも戻れる。彼女から取り返したリズリカミネを首に下げた。ふぅー。と安堵の溜息。燐の体も光に包まれた。そして、魔王の力が消え元の人の姿に戻った。


歪みから外に黄金に輝く髪のフェッロと出る。そこは、いつもの町、近衛町のスーパー富士田の前だ。

「戻って来れたな。ありがとな(事情なんて後でいいだろ、それよか早く帰ろう)」

「う、うん。ちょっと疲れたかな。えへへ」

眉を軽く寄せて笑うフェッロ。フェッロは燐の家に向かって歩みを進める。そんな中燐は空を見上げる。

「明日、晴れるといいな」

「りーん。はやくぅー」

おう。と返事をして駆け足でフェッロのもとに行く。もう迷わないように一人で立てるように未来に向かって歩く。そんな中燐は魔王の使い魔であるリズリカミネに心から語りかける。

『リズリカミネ? ちょっと聞きたいことあるんだがいいか?』

『なんだぜ? 魔王様』

『フェッロのことに、あの女。あと、魔王になって分かったことがある。昨日の夜に会ったフェッロと今日転入してきたフェッロは別人で記憶操作されていた。違うか?』

『まあフェッロ嬢ちゃんとあの彼女は嬢ちゃんに聞くのがいいだろ、俺様にゃようわからんぜぇ。記憶操作じゃあないぜ、魔王様』

『じゃあなんなんだよ』

『あれはだな。昨夜嬢ちゃんが飛び出しただろ? 帰ってきた時には嬢ちゃんは嬢ちゃん本人ではなかったんだぜ』

燐は相槌を打ちリズリカミネの言葉の妨げをしないように聞いている。

『その後仮嬢ちゃんが魔王様に睡眠魔法を施したんだぜ。思い出せば急に眠気が襲いかかってきたんじゃねぇか? そして、仮嬢ちゃんが俺様に手を付けた時、魔王防衛システムが発動され俺様が世界を再構築したんだぜぇ! まぁ発動条件がうまく重なってことによる発動だったんだぜ。強運の一言だぜ。あの黒き衣の男が俺様の魔槍グングニルを遠くに持ち去らなかったら発動しなかったからな。ま、回りくどくなっちまったけどよー記憶操作じゃなく世界の再構築で魔王様として覚醒したから世界のズレの理を受け入れられたってことだろうよ。昨夜の嬢ちゃん、その後帰ってきた嬢ちゃん、今日再会した嬢ちゃん。全て別人だと俺様は思うぜ。結局推測でしかねぇがな』

それ以降帰路では、リズリカミネと燐が言葉を交えることはなかった。



「おーい。了、帰ったぞー」

鍵を開けて了がご健在の様子で現れる。

「おう。おかえりさん。どこ行ってたんだよ」

燐の後ろには、フェッロもいる。

「さあ、入れよ。何時でもこれるようにお茶淹れてあるからよ」

燐とフェッロは、燐の家に入る。了は自分の家のようにしている。ついつい笑みがこぼれる。

「リン、楽しいの?」

フェッロはしっかり見ていたようだ。その答えを聞きフェッロも柔らかく笑う。

「ああ、楽しいぞ。帰ってこれてよかった」

居間まで行き適当にこたつに座る。了は、せんべいをかじりながらテレビを見ている。ニュース番組だ。こいつ結構ニュース見てるんだよな。

「汗かいたし風呂入ってくるわぁ」

はいよ。と軽く返事を了がする。

「フェロも適当に食ったりしていいからな」

フェッロを置いて風呂に行く。

「待って、あたしもお風呂に入りたい」

「じゃあ、先に入れよ。おい、風呂湧いてるよな」

「ああ、湧いてるで~。」

どこの人だよ。と、軽いツッコミをいれる。

「服とかは……。奏に借りれるかなー」

「大丈夫。これでいくらでもできるから」

イヤリングをキラリと見せる。フェッロは魔法使いだ。昨晩も私服にパッと着替えていた。

「あ、そうだったな。使い方分かるな?」

うん、と風呂のほうへ行ってしまう。さて、夕飯の準備するかな。


「なあ。今朝の爆破事件だけどどうなったんだ?」

燐は調理中にふと爆破事件を思い出した。

「ああ? ああ、それか」

「ああ。さっき見たけど死亡者がいないって。でもフェロは、そのニュースを見てて確かに六組の黒目碧って生徒が死んだって言っててよ」

世界のずれは正された。でも爆破事件は起こった。フェッロは、あの事件は例の男が企てたとか言っていた。正された世界なのに爆破事件は起こり、黒目碧という生徒は死んでいない。

「バカ言うなって、フェロちゃん学校に来て俺らとお前っち向かってたじゃねぇか」

「まあ、そうなんだがな」

「夢でも見てたんじゃないか?」

そうかもしれない。男に捕まったという時点からもう夢だった。そう考えると全て片付く。訳はない。が、了に言われた通りそれを肯定する。

「そうかもな。ちょくちょく寝てたし」


フェッロが風呂から上がり燐も入って上がり三人で夕飯を食べる。食べている最中燐は今朝のことを思い出し話題を振った。フェッロの服装は結構薄着でピンク色の服いわゆる、フリルキャミというやつだ。ズボンは、穿いているのか分からないほどに短く服のほうが長くいい感じで見えなくなっている。そして服のヒラヒラから出ている太股は白くムチムチしてそうだ。そしてやんわり細い。靴下系統は着けていない。生足だぁ。極力見ないようにしよう。


『フェロ、黒目碧って子は、どうなったんだ?』

頭の中で話す。普通のほうでも了とも話をする。

『んー、多分事件自体は起こった。これは、やつの企てたものではないってことになる。魔法に関与していない者の犯行。でなければ事件もズレの再構築の影響で起こらない、と思う。そして、黒目碧だけど、彼女は魔法に関与している』

『なんか曖昧な感じになったな』

『あたしの記憶が再構築されたから』

『再構築って変えられたってことか?』

『んー、オリジナルの記憶と混ざってるから。記憶に穴開きばかり』

『リズリカミネの再構築とは別の力ってことになるのか?』

『なあ、俺様の意見聞いてもらえるか?』

燐とフェッロの声ではない別の声がした。リズリカミネだ。

『君は……スゥちゃん?』

『あーまあ、そうだ。魔王様の使い魔のリズリカミネだぜ』

なんか三人? で話してて了に悪いな。だが、リアルでもしっかり普通の話はしている。

『あなたが! あのリズリカミネさんね! 始めましてフェッロ・アイネ・フラウです。てかスゥちゃんて何?』

元気がいい挨拶だ。スゥちゃんって人気者なのか?

『おお。知ってるぞ。魔王様が世話になったな。スゥちゃんとはな。魔王様が付けたあだ名だぜ。正直やめてほしいぜ』

この子は僕の保護者か。

『なら呼ばないけど、リズリカミネ! とか言いにくんー、りずでいい? 短いし呼びやすいわ』

『ッ! 今りずって言ったか?』

なんやら驚いているご様子。

『ああ、いやか?』

『そ、そそっそおそんなことないぜ! むしろいいぜぇ~』

『りずって可愛いね』

そんなに良かったかリズリカミネは大分上機嫌な様子に捉えれた。

『あ、そうだ。りずの意見は?』

『俺様は、使い魔として魔王様の危機を回避すべく世界をずらした。これは、いいよな?』

ああ。うん。と相槌を打つ燐とフェッロ。

『この力を何者かに利用された。それでフェロ嬢ちゃんの記憶までもが構成された』

『でも、魔法使いのあたしだよ? そんなこと可能なの?』

『無理だろうな。ただ一人を除いて』

ただ一人……きっと強くてすごい人なのだろう。緊迫したリズリカミネの声でそう思った。

『それは、誰だ?』

『まだ言うほど時は満ちていない。ごめんな魔王様』

『謝んないでいいって』

夕飯を食べ終わり片づける。こたつに三人で入る。

「ふぅー。腹いっぱいやで。さて菓子食うか?」

了は、いつも通りぐだぐだしている。

「そうだな。何見る?」

「じゅぅいちぃ~。」

チャンネルを合わせる。

『時が満ちたら教えてくれるのか?』

『そうだな。言わないといけない時が必ず来るから。その時に言うさ。』

『そうか。フェロの記憶のほうは、置いといてあの子昼間の子は、なんで俺を狙ったんだ?』

『まあ、それは、魔王の力を欲する者は数えられないほどいるからな。魔族から天使までいろいろなんだぜ』

『天使ってのは、普通魔族とか邪とか嫌うっていうのかな? そうゆうもんじゃないのか?』

『天使も魔王の力は欲しいよー。天使って大体神様とかの命令の束縛とか多いらしいからそこから抜け出したいって者多いんじゃないかなぁ?』

『おお、フェロ嬢ちゃんよくわかったな。そうなんだぜ。天使だって好きで天使になったわけじゃない。魔王の力を手に入れれば神界から抜け出せるしな。てか、追放レベルだぜ』

『天使も魔族も大変なんだなぁ』

『だから、いろいろな者が狙ってるんだ。せいぜい気を付けることだぜ』

『お、おぅ。あ、魔族で思い出したけど昼のあいつが言ってた魔族の騎士とかコノエなんとかってなんなんだ?』

『まあでも、天使は基本神に忠実なんだぜ。だから襲ってくることはないと思うけどな。そいつらは敵に回すと厄介だぜ。できるだけいい顔はしておくんだな』

『あと、フェロ。君は一体どんな存在なんだ? 戦ってた時は無我夢中だったしあまり気にならなかったが、髪の色といい……』

『うん。説明しないとね。』

フェッロは一息間を空ける。燐もリズリカミネも何も言わずに待った。

『まず髪。外観は、魔力開放時に適した姿に変わるの。あたしは金髪から銀髪になるの』

『なんだかウルトラサイヤイ人みたいだ』

『次、あたしは、作られた偽物の存在。あの子フェッロ・アイネ・フラウのコピー。遺伝子レベルをお父様に改造して作られた。あたし自身オリジナルの死があったから思い出せた。それまでは普通に人として育っていたと思ってた。でも違った。あの女"serialNo.85"もそう。あの女もお父様に作られた偽物。そしてあたしたち"serialNo."にはオリジナルの遺伝子改造から

感情泉、戦闘泉、演算泉、欲々泉、無泉の五つの泉で能力が振り分けられてる。あたし自身は感情泉と演算泉に振り分けが多くて戦闘能力にかけてたからフェイク信教でも無能と駄作と言われたりしたこともあったっけなー。あ、フェイク信教っていうのは"serialNo."たちの集まりみたいなもの』

『シリアルナンバー? かんじょうせん?』

『"serialNo."はね、全員で98人いるらしい。一桁の偽物は"singleNo."No.11~No.49は第二世代。No.50~No.98は第三世代これは"afterNo."とも言われてる。でNo.98は"lastNo."って言うらしい。見たことはないんだけどね』

『なんだか多いな。全員偽物で本物がいるってこと?』

『まぁそうなんだけど、あたしにも仕組みは分からないけど偽物が消滅したらその子の泉の振り分け分がオリジナルに取り込まれてオリジナルは今までと違った性格や能力になっちゃうらしい。記憶の齟齬も生じるって。さらに周囲ーっていうか世界の理に触れたことだから再構築がされ周りは元々その子がそんな性格や能力だったと書き換えられる。まぁ、遺伝子改造で本来のオリジナルでもなかった訳。だから偽物が消滅して本来のオリジナルに再構築されるって認識でいいよ』

『本来の……じゃあ……オリジナル、本物が亡くなったら?』

『うん。偽物がオリジナルの生活を代行するの』

『だいこう? どういうことなんだ……?』

『そのままの意味。偽物が今までいたオリジナルの代わりをして世界の大きなズレを最小限に抑える。でも普通の寿命や端的な事故では代行はないの。この一連に関わった場合のみ代行を務める』

『そうなのか。だからフェロも代行をしているってことでいいんだな。でも偽物は存在し続けるんだろ?』

『ううん。処分されるって噂』

『・・・処分?』

『でも噂だから本当かどうかまでは分からないけどね。実際にされたーって話も聞かないし』

『偽物でもなんでも処分か、嫌だな』

『でも仕方ないのかも。オリジナルは亡くなりコピーが生きてたらそれこそ世界のズレが生じてしまうから――』

すると突然了が「もうこんな時間や。さてと」と、起き上がる。

「どっか行くのか? もう帰るのか?」

「いいや、今日は三人いるんだ。どうせだからさ」

携帯を取り出してどこかへ電話している。

「あ、もし~。おう、うんうん。そう、燐の家にいるから、はいよー」

そう言って電話を切る。

「誰と電話してたんだ? うちに来るのか?」

「まあ待てもう来るだろ。」

いや、今電話してもう来るってもしかして……。ピーンポーン。チャイムが家に響き渡る。

「まさか了お前呼んだな……」

「別にいいだろ? ほら、客来てるぞ」

燐は、玄関へ行きドアを開ける。そこにいたのは、夢響奏。燐の幼馴染だ。奏の家は、燐の家の隣。右の髪を束ねているリボンに付いている鈴が可憐に鳴る。

「来ちゃったけど平気?」

「ああ、大丈夫だ。さあ、入ってくれ」

首を傾げて聞く。また鈴が心地よい音を奏でる。フェッロとの仲を深めるに丁度いいかもな。

「ねねぇーリン。アイス食べていぃ?」

軽くはだけた服もう少しずれたら上のぽちも下のぽちも見えてしまう。

「……。」

奏がフリーズしている。

「えーっと、これはー。フェロ、食べていいからあっち行ってろ」

首を傾げ居間に戻る。

「これはですねぇ、奏さん?」

「何? ふぇろちゃんがいやらしいかっこうで……」

やばい……。殺される。地響きのような轟音が燐と奏の右手の平から発された。



その後、居間に入れて事情を説明。さすがに魔法とか言わなかったけど、歓迎会をしたかったって言ったらなんとか納得してくれた。

「リン、ほっぺ真っ赤っかぁ」

にやにやしている。もとは、フェッロがあんな恰好してるからだけど。まあ掘り返さないでおこう。

「フェロちゃん。燐になんかされたら言ってね」

「うん。でも、大丈夫。昨日は、お風呂でかま、んー、かま~ん? をやっつけてくれて、あとあと、優しくぎゅっしてくれたから。だから大丈夫!」

親指を立てて頼りがいのあるガイな表情を作った。

おい、かま~んってなんだよ。ぎゅってしたけども!

「燐……なにか言い残すことあるかしら?」

「絶対に誤解してる! 風呂で退治したのはカマドウマ! ぎゅっはフェロからしてきたことで」

「あと、オレッチニトマッテケヨとも言っててね。リンは優しいよ。でも、襲われるからやめためどね」

「今、襲われるって言ったわよ。それに泊まってけ? てか昨日ぉ?」

また来る……。



「あぁー……いでぇー」

逆側のほっぺをビンタされた。誤解をその後解けてくれたらしく今はみんなで人生ゲーム中。

「燐よ。災難だったな」

本当に災難だ。ほっぺ痛いし人生ゲームは、今借金が十万円。進みはビリ。職業、ニート。一番だめじゃん。対する了は美容師で金もいっぱいだ。家まである。奏はスポーツトレーナーだ。金はまあまあ家も一応ある。フェッロは……もうゴールしていてどんどん金が増える。欲なしでやるとこうも裕福になれるのか。

「はっはっは。燐よ。嫁もおらんのか!」

っく。了のちゃちゃがうざい……。右手でルーレットを摘まむ。

「っふ。こっからが俺の本領発揮さ。見てろ。ふんっ!」

気合を入れルーレットを回す。カチカチカチカチ、カチカチ、カチ。止まったのは十。

「きたああぁぁぁああっぁあ!」

自分の駒を進める。そこに書いていたものを奏が読んでくれる。

「えっと。車が故障。修理代十万円。えへへ……。しかも一周休み」

「うがあアっああぁぁぁぁぁあっぁ! また増えたぁ……」

借金がどんどん増える。次は、フェッロの番。ていっと回す。十だ。さっきから十や九しか出ていないだろ……。

「はぁーもう飽きちゃったぁ」

「確かに勝ったやつは、もうただ回すだけでつまらんさ。でもな、俺は負けられねぇ。勝ったら結婚するんだ。」

フェッロは投げ出し菓子を持ってテレビの前に寝る。最初一番楽しそうだったのにな。一番になるとこうなるからあえてビリになったんだ。

『魔王様。それは、言い訳って言うんだぜ』

『うっさいな、』

とまあ。こんな感じで進んでいきとある出来事で終わりを告げる。

「あれ? もう1時だ、私帰らないと」

「ほんとだ。送ろうか? 夜道は危険だからさ。あ、片づけやっとくって」

特にあの変な男とか。その件はまだ片付いていない。近くにいるのかもしれないからな。

「そう? ありがと。でも、隣だしいいや。じゃあね。またね、フェロちゃん、おやすみ」

居間を出る。

「また明日ね。おやすみさぁん」

フェッロと奏、結構仲良くなれたみたいでよかったな。ゲーム中も結構話してたしな。軽くまたな。と言い手を振る。

「なあ、了。お前いつ帰る? 今日泊まってくか?」

片づけながら聞く。

「そうだな。泊まってくかな。フェロちゃんはどうすんだよ」

「ああ、そうだな。俺が送ってくよ。家知らんけど。てか泊まるか?」

フェッロに聞いてみた。

「はぁ? こんな野獣のいる家にいたら何されるかわからないもん! 帰る!」

そう言ってどかどか玄関に向かう。まあ、魔法使いだしな。ほっといても大丈夫だろうが。

「燐、野獣だってよ。俺が送るわ」

お前が行っても同じだろうに。まあ折角のご厚意だ。眠いし頼もう。

「んじゃ、頼んだわ。またなー」

「おう、じゃあな。待ってくれよフェロちゃんー」

そして静寂が訪れる。

「はぁー。これ一人で片づけるのかぁ。はぁー」

飲み散らかしたペットボトルに食いかけの菓子(主にフェッロと。てかフェッロしかいない)人生ゲームも途中だ。まあ、のんびり片づけるか。

『魔王様。大変そうだな』

『そんなこと言ってないで手伝ってくれよ』

『ごめんな、魔王様。俺様今ネックレスなんだぜ。……がぁああ、がぁあああ……』

「薄情者め……」

あからさまないびきをするリズリカミネ。はぁ。いいや。片づけずに燐も眠りについた。

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