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魔王と十字架  作者: 筒下
偽物と本物
2/10

Episode:01                            

燐は自宅へ帰る途中だった。

その日もいつもと同じ。学校を普通に過ごし、いつも通りの時間で終わり、帰宅部の燐は放課後学園をふらりとして時間をつぶしアルバイトの時間になり行った。いつもと同じ空間で接客をして常連さんの話に愛想笑い。お客さん以外でもアルバイトの先輩や荷物を運んできてくれる運送屋にもいい顔をする。燐は思った。

いつも通りの日常をこの日も過ごして今日という僕の多分長い人生のたった一日を終える。

そう僕は、思っていた。

そう・・・あの時までは。


静かな夜道。街灯が地面を照らす。

「今日はいつもより静かだなぁ」

いつもなら車の一台二台はよく通る。けど、この日はバイト先の大通りから出てから車も人もまだ見ていない。まあ、偶然だろと思った。その時、地面を照らしている街灯以外に一瞬何かが光った。何かと考える間もなく燐の首に刃物が突きつけられる。

「なんだ、お前は?」

燐は意外と冷静だった。

『黒尽くめでガタイのいい男にナイフ……いやこれは日本刀か。日本刀を突きつけられて……って。日本刀! けど、お脅しの偽物なんだろ!』

「これが、偽物だって? 坊主」

『え? 俺、今口に出してたか!』

「ハハハ。口に出さなくても分かるよ。坊主の考えてることくらい?」

『……ゲイか! こいつ!』

「おおう。私は、ゲイじゃないよ。ただ……君のつけているそのネックレスがおじさんは欲しいんだ」

「このネックレスが?」

燐は十字架のネックレスに視線を向ける。

「ああ。お金ならいくらでも出すよ? おじさんにくれないか?」

「なんでこのネックレスが欲しいんだ? これはゲームについてた特典だぞ」

燐は、ゴクリと喉を鳴らせた。

「ほーう。特典かぁー。なら、別にいいだろ?」

そう言って男は日本刀ですぐそばにあった木をスッと切った。

『っておい、おいおい! マジモンじゃんかよ!』

「んふ。どうかね? 命とネックレスどっちが大切か君は考えられる子かね?」

鼻を鳴らし少し満足そうに男は言った。

「まあ命とゲームの特典のネックレスどっちって言われたら命さ」

燐は普通に返した。思入れは少しはあると思うが命と引き換えにとかそこまでのものではないだろう。燐は、ネックレスに手をかけネックレスを取った。

「いい子だ。さぁ。それをおくれ」

んまあー、金くれるって言ったし金を貰っても罰は当たらんだろ。おお。と男が言った。燐は顔を顰めると男が悟り謝罪する。

「すまん、すまん。んー、」

謝って何かを考え始めた。燐は金のことを考えてこれ買ってもらったときの値段は確か一万円だっけか?んじゃそんなもんでいっかな。と考えていると。

「十万円でどうだ? 坊主」

燐には男が何を言ったのか理解するに時間が掛かった。きょとんした表情で男を見る燐。

「だからだね。十万円でトレードしようと言ったんだ」

ニヤリと笑って男が言う。『なんか裏があるな? 燐は少し泳がそう』と思った。いや無意識だったのかもしれない。なぜなら、男はそのことに突っ込まなかったからだ。

「これって、そんなに高い物なのか?」

「さあ。けど私はそれが欲しい」

「んなら、にじゅ――」

と言いかけた瞬間

「渡しちゃだめえー!」

女の子の声がした。声のほうを見ると銀色の髪のツインテールざっと見て小学五、六年の女の子が仁王立ちをしている。

『渡すなってこのネックレスのことか? 人気者だな。スゥちゃんや』

スゥちゃんとは今燐が咄嗟に考えたネックレスの名前である。

「貴様……何者だ!」

男がそう言った。こっちからしてはお前が何者だって言いたい。

「ん? あたし? あたしは……通りすがりの美少女です!」

片目を閉じて右指を頬に突き立て舌を少し出して言う。

「なぁに言ってんだこの子。」「なに言ってんだ。こいつ。」

言葉が調和し微笑を浮かべる燐と男。結構気が合うのかもしれない。すると、頭の中に。

『ネ! ネ! 聞こえてる?』

「はい?」

自称美少女の声がしたので表情一つ変えずに一応返事をしてみた。

『違うよ! しゃべってないよ! ぁ、しゃべってないんじゃないけどしゃべってることはしゃべってるんだけどそれはあたしが君の頭の中に直接話しかけていて口ではしゃべっていなくて、そのその』

『なるほどね。これは何? テレパシー的なやつなのか? てか、若いのに大変そうだな(白髪なんて可哀想に……もっと栄養摂ったほうがほうがいいと思うけどな)』

『魔通って言うんだけど解釈は間違ってないよ。大変でもやらないと。てか今失礼なこと言わなかった?』

言っていないと拒否をしながら会話をする少女と燐。男のほうはゲラゲラ笑っている。

「はっはっは! 自分で美少女だってよ!」

少女が名乗ったポーズの真似をしている。それにしてもいい笑いっぷりだ。少女のほうは燐と頭の中で会話をしながら男と言い合っているどっから見ても美少女でしょ! とか本物の美少女は自分でなんか言わねぇよ! とか。

『そか、んで自称美少女の銀髪ツインテールのお子さんがなんの用?』

『お子さん言うな! 君を助けに来たんだ♪ だから言う通りにしてよ』

『ほほーう。んでどうすれば?』

『自分でそのくらい考えなさいよ』

どうしたらいいんだよ。男と自称美少女がクールダウンして本題に入り。

「お前は何者だ!」

「あたしは正義の味方です!」

「おっさんあんなガキシカトしてこのネックレスの件だが」

燐は、ネックレスを取り、そして少し間を空ける。そして、ネックレスを男の顔目掛けて投げつけた。男の目にちょうど当たり男が少しひるんだ瞬間に燐は少女のほうへ走った。少女が頭の中で何か言っていたがシカトして少女の所についた。

「なにネックレス投げつけてるのよっ!」

少女はすごく不機嫌になりながら言う。

「……大丈夫。……はぁはぁ」

燐は硬く握っていた手をゆっくりあけた。それを見てふぅーと少女が安堵のご様子。

「早く乗って!逃げるよ!」

何に乗れって? 少女が棒を跨いでいる。……これに乗れと? 少女は既に棒に跨っていた。

「無理無理無理無理! そんな棒に乗れるかって!」

「平気よ乗りなさいっ! Il sonno dell'agio(安らぎの眠りを)」

徐々に意識が薄れていく。倒れ込むかのようにして棒に乗ってしまう。


冷やりとした風が頬に当たる。意識が戻ってくる。目を開けると少女がいた。お姫様抱っこをされていた。普通逆だけどまあいいか。

「君はさっきの……」

「ん? 起きたのね。あなたはアスミリンで間違えない?」

「ああ、そうだが、お前は何者だ?」

返事がない無視である。

「んー、自称美少女さんの名前なんなんだ?」

返事がない屍の様だ。そう思った瞬間少女から殺意の眼差しが向けられる。

「えーっと、銀髪でツインテールで美少女の貴方様のお名前はなんですか?」

今度は、少女に超丁寧に尋ねる。そうすると、顔色が変わる。

「え? 美少女ってあたし? やぁね。美少女なんて。あ! もしかして、あんたあたしに気でもあるわけ? このヘンタイッ!」

なんだよこいつ! 名前聞いてんのに美少女だけに反応しやがってやがる。少女にニヤニヤして月を背に飛び続ける。

「んで、名前なんて言うんだ?」

「フェッロ。フェッロ・アイネ・フラウ"Ferro Eine Frau"よ」

何人なんだよ。たしかフェッロってイタリア語で鉄でアイネ・フラウってドイツ語で女だっけ? 直訳すると鉄の女である。燐は母が海外出張が少しあるせいで外国語を少し教えられた。

「そうか。フェッロ、ありがとな」

軽くうなずく。月の明かりで暗くなりよくフェッロの顔が見えなかったけど、頬が少し赤くなっていた気がした。銀色の髪が靡く。それは実に幻想的だった。体勢を変え後ろからフェッロの頭に手を乗せる。

「乗せるな!」

乗せた手を勢いよく払われる。

「で、だ。これはどうゆうことなんだ? あの男といい。ものすごく浮いてるしさ……」

「簡単に説明すると、あんたの持っているそのネックレス。まぁ十字架のほうが重要だから賢明な判断だったことは褒めれるけども、だからってチェーンを投げるのは褒められる行為じゃあない。ばか」

「……ばか」

「あたしはお父様の命でそのネックレスを死守すること」

燐は相槌も打たずフェッロはそのまま続ける。二人の乗っている棒のような物を見て

「あと、これは魔法って言われてるものかな。あたしは魔法使いってこと。世界には知るべきもの知らざるべきものがあるの。世界は知らざるべきものを隠している。だから知らざるべき者はそれを知ることを極力避けるようにしないとならないの」

「なんだかようわからんな。でも俺はそれを知ってしまったわけだ」

フェッロは首を横に小さく振り答える。

「違う。あんたは知るべき存在ってこと」

燐とフェッロはその言葉を区切りに口を閉じた。

そして、起きてから十分くらいになる。ずっと抱っこされている体勢は恐縮だ。燐はフェッロの後ろに乗り換えていた。

「歩きより早いしとっくに家についていてもおかしくないが。いつまで飛んでるんだ?」

「さぁ。あたしにわかるわけないじゃない」

(……なんか当然かのように言っているがわからないのにどこへ向かってるんだよ)

「あ、そういえばあんたの家ってどこなの?」

「は? 今なんて言った? 俺んち知らないのか?」

「なんであたしがあんたの家知ってないといけないの」

なんだって! 勝手にこの変な棒に乗せてあんたの家知ってないといけないって。まあ助けてくれたんだけども。ため息混じりに燐は言う。

「知らないならそう言ってくれよ。教えたのに」

「べつに知りたくないし」

……そうかもしれんが、フェッロも家に帰りたいくせに素直になればいいものを。

「んじゃ、教えたいから教えるでいいか?」

「キモ。なにあんたヘンタイ? 彼氏面とかないわぁ」

お前みたいなちんちくりんロリっ子興味ないって。とか言ったら落とされるからな慎重に訂正する。

「はぁー。俺もう家に帰ってのんびりしたいんだよ。フェッロの親御さんも心配してるとおも」

と言いかけたとき、

「うっさい! だまれ! このヘンタイ! 知ったような口訊かないでっ」

……なんだなんだ。急にキレやがった。女の子には月に一度そうゆう日があると言う。

「ああー。悪かった」

一応謝罪をする。親が心配してると言ったらキレたってことは、喧嘩でもしてるのか。

「謝ればいいって思ってるでしょ。そんな謝り方じゃ許さないんだからっ」

「じゃあどうしたら許してくれるんだよ?」

(しかしやけにめんどくさいな。この子)

「んとねぇ。あんたんちのお風呂使わせて」

「そんなことでいいのか?」

「え? 不満? この美少女があんたんちのお風呂を使ってあげると言っているの。普通愚者だったら失神ものよ」

こいつこそ変態なんじゃねとか思っているうちに家についていた。足が懐かしの大地に着く。

「フォー。懐かしの大地。久しいな」

「はい! 着いた。お風呂に案内して」

顔を上げるとそこは見事に燐の家である。

「おお。なんでわかったんだ? やっぱ初めからしっ」

棒でコツンと殴られ最後まで言えなかった。

「この国では、えーっと読心術ってやつかな。言ったでしょ。あたしこれでも魔法使いだから。てか、早くお風呂に入れなさい」

「はいはい。ちょいと待っててな」

感心していたが撤回する。母さんがいるかもしれないからな。母さんにキレたりしたらというか風呂に知らない女の子しかも小学生が入っていたりしたらなにを思われるか。

「待ってるんだけど? まだなの?」

外で急かされる。今日は母さんはいないようだ。それもそうだ来週まで帰ってこないのだ。安心して風呂を使わせてやれる。

「待たせたな。入ってくれ」

なにも言わずに入る。土足で。

「おいおいおい。土足とか日本じゃなしだから! 靴を脱げって」

「ほーぅ。ニホンデワクツヲヌグノカー」

日本語ペラペラなのに日本の風習知らんとかなくなくないか? てか棒読みだ。

「よいっしょっと。お風呂はどこ?」

フェッロは靴を適当に脱ぎ捨て風呂の位置を聞いてきた。燐はフェッロの脱ぎ散らかした靴を丁寧に揃え答える。

「風呂は、あの突き当りを左に行った先だ。けどまだ風呂湧いてないから待ってろよ」

玄関で立ち話もなんだから居間に先導した。ように見えたが居間に着く頃にはフェッロが先に入り右指を燐の顔に突き立てて言いながら

「なぬ。まだ待たせるのか……。まったく自分の身分を知っているの?」

ソファーにボフゥと座り質問をするすごく偉そうなフェッロ。

「ああ。近衛ヶ原学園二年五組出席番号二番阿澄燐。帰宅部で彼女いない歴年と同じ。さらに言うと彼女はいなかったわけだからそのようなことはまだしたことはなくキレイな純粋などこにでもいる男子高校生だ。あと、牛ドンドンでバイトをしている」

親のことも言おうかと血迷ったがフェッロにもなにかあるのだろう。だから言わないでおこうと思った。近衛ヶ原学園はこの町の中心にある学園で少し大きめの学園だ。

「なに? 彼女いない歴年と同じって。しかも純粋童貞男子高校生と来たもんだ!」

爆笑しながら腹を抱え笑うフェッロ。くぅー。ここまで言われるとは。小学生だとしてもなんだかんだ気に食わない。

「お前とかじゃなくて燐って呼べよ。名前教えたんだし」

「で、親は? 見当たらないが?」

こいつ親でさっきキレたんじゃないのか。何も気に留めてない表情をしたフェッロ。

「んまぁ。母さんは、仕事の事情でたまに帰りが遅くなったりして。てか、帰ってくるほうが珍しい感じだな。」

「ふーん。今日も帰ってこないの?」

変わらない顔で平然と燐に尋ねる。

「そうだな。もう十時になるし。たいてい俺のバイトの帰りと重なるか少し早いかだからな」

燐は居間の時計を見て言った。ふーん。とフェッロ。大して興味はなかったようだ。

「で、父親さんは?」

その時、ピピッピピッ。風呂が湧いたという合図のタイマー音だ。

「そんなことより、風呂。湧いたぞ」

フェッロは目を輝かせ風呂のほうへどたばた駆けて行った。

「おい。リンよ。もう入っていいの? いや、いいに決まっている。なので入るぅ♪」

フェッロは棒を掲げた。すると、棒が光りフェッロが光に包まれそしてフェッロの普段着と思われる服に変わりその服を無雑作に脱ぐ。勢いよく奇声を発して風呂場に突っ込んでいく。

「あれ? 今、リンって言わなかったか? っておい。シャンプーとかリンスわかるか?」

「ええい。わかるに決まっているではないか! いいからどっかにいっけーい♪」

フェッロは楽しそうに燐を追っ払う。浴槽のお湯をバチャバチャと散らかす。

「バスタオルとかここに置いとくから使えな」

フェッロは、聞いているかわからないがケタケタと本当に楽しそうである。それを聞いていた燐もなんだか幸せな気分になり、ついにやついてしまう。

「フェッロが出たら飯にするかな。あ、それと着替え。奏になにかあるか聞いてみるか。いや、変に勘ぐられるのは今は俺の思考回路が混線状態に陥るな。とりあえずさっきまでの格好でいてもらおう」

燐は独り言を言いながら脱衣所から出ようとした。その時、浴場から

「きゃあああぁぁぁ!」

フェッロの悲鳴が家に脳に響き渡る。なにも考えずに浴場への扉を開ける。

「何があった! 大丈夫か!」

燐に向かって湯気が襲い掛かってくる。視界がほぼ白くなった。

「フェッロ。どこにいる? 大丈夫なのか」

辺りを見渡す。湯気が薄くなり、うう~。と言う声のほうを見る。角でフェッロがうずくまっている。

「どうしたんだ!」

「ぴょん、ぴょんって……。は、跳ねて。ぴょんぴょんって……」

ぴょんぴょん?辺りを見たらカマドウマがいた。

「ああ。こいつか、こいつはカマドウマって言ってキリギリスやコオロギ、ウマオイに似ているが、跳躍力は非常に強く古い日本家屋ではかまどの周辺などによく見られたことからこの名前が付いた。俗称として【便所コオロギ】などとも呼ばれる事もある」

「そんな丁寧に説明してないで、殺してよ!」

「殺すなんて可哀想な。小さきひとつの命なんだぞ。簡単にそういうことを言うなって」

フェッロに少しばかり説教じみたことを言う。まあこんなことを言っても燐もカマドウマは苦手なのだ。このままだとフェッロが殺してしまうかもしれない。なら、

「落ち着けって、今すぐ退治するから」

そう言い、燐は洗面器でカマドウマの飛ぶと思われるほうをブロックで捕獲という完璧な流れを創っていた。まずは、捕獲して即逃がすように窓を開ける。

「よぉーし。かまちゃんいい子だからちょいとこん中に入ってくださいなぁー」

かまちゃんとかこの子のなま

「かまちゃんってなによ! はやく逃がすなら逃がしてよぉ」

クッ。またしても最後まで言え

「早くしてよぉ」

(まただ。まあいい。靴下もびちょびちょだし、はやくここ僕も出たいからな)

かまちゃんが跳ぶ。コオロギ、ウマオイとは違い完全なる跳躍力で洗面器に……を通り過ぎ燐の頭へ。

「うぎゃあああああああなまはげぇええええ」

かまちゃん混信のジャンプ。その先には、フェッロがいた。

「…………」

かまちゃん、フェッロの頭からそのまま窓のほうへダイブ。

「Bruci tutti; la magia della fiamma(全てを焦がせ火炎の魔法)」

フェッロが何かを唱えた。かまちゃんはと言うと、丸焦げに……。ご愁傷様。フェッロが何かを言いたそうに唸っている。

「うわああああああああああん」

フェッロが泣きながら燐に抱きついてきた。

「怖かったよぉ~。うわああああああ。ぐっす……」

思いっきり抱きつかれているわけで、でフェッロは入浴中だったわけで、つまりは全裸というわけで。

「お、おおおおい! そんなにくっつかれたら。離れろって!」

フェッロの柔らかい二つの小さめの小ぶりなマウンテンが押し付けられて、形がぐにゃってなって。

『小学生のくせに意外とあるんだなぁ。しかも柔らかいし、服の上からでもわかるな』

燐の頭の中はそんなことが今循環している。

「ぅう~。んぐ……あ、あたしは……小学生じゃ……ない、もん」

泣きながら言っている。本人曰く小学生じゃないらしい。ハイハイとあやしていると、

「助けてくれて……んぅ……あり……がと」

感謝された。追っ払おうとしただけで、しかもとどめを刺したのはフェッロなんだがな。

燐はフェッロの濡れた頭に手を乗せる。

「ああ。まあ後で聞くからさ。その……いつまでもくっつかれてると、む、胸が」

顔に血液がすごい勢いで循環しているのが分かる。すごく真っ赤になっているのだろう。

ぱっと離して両手で胸を隠そうとしている。でも、さっきも今もばっちり見えているのだが。このままでは、燐の理性がヤバいのでさっさと出ようと立ち上がりフェッロを見ると、フェッロが赤く染めた頬に涙とお湯が濡らし銀髪はお湯のせいか今までで一番輝いていた。

急いで浴室から出て行く燐。浴室を背に焦りながら言う。

「あ、あああ、あれだ! 服はうちにはないからさっきまでのを着てくれよな。じゃじゃ、じゃあな!」

フェッロはその場に立ち尽くし、涙を頬に垂らし先刻まで燐の手が乗っていた頭に触れ何かを思っていた。


今日の夕飯はいつもと違っていた。いつもなら夕飯は一人で簡単なものを作って食べている。

フェッロは先ほど来ていた服ではなく薄ピンクの寝衣をしていた。髪は、風呂上りでツインテールの髪を下ろしている。

『まぁ魔法使いだし目の前で服装変わるところみたし不思議じゃないか』

「なにこれ? んぅ~。いい匂い」

「これはラーメンだ。食ったことないのか? すっげーうまいんだぞ。栄養が付くといいな」

燐はフェッロの胸元に合掌した。フェッロは首を不思議そうに傾げた。

「まあ市販の麺を茹でてキャベツやもやしを適当に入れただけの物だ。メンマやナルト、チャーシューとかが入っている本格的なものではないが腹にたまればいいだろうと思った懇親の作品である」

と適当に説明をしているうちに

「うっまぁーい。んん。んぅ~。うまいねっ。これ!」

フェッロが満足そうにもう半分以上食べていた。

「だろ。急いで食って、熱くないか?」

「ぅん。ふぁいほぉうふはぉ」

少し熱そうに口をはぐはぐさせて返事をするフェッロ。

「っんく。っん。ん、ふはーおいしかった!」

もう完食していた。スープまでしっかり飲み干している。ん~。とフェッロが唸りながら燐のラーメンを見つめている。

「あげないぞ」

口をへの字にしてがっかりしているご様子。

「んっはっは。そんなに落ち込まんでも。仕方ないな半分やるよ」

にぱぁとすごい笑顔で喜んでいる。

「え? いいの! まああたしは欲しいなんて言ってないけどリンがどうしてもあげたいのならもらってあげなくもないよっ」

と早口で言う。すごく上から目線だけどまあいいか。フェッロの笑顔見てるとなんかほっとするしな。

「ああ。どうしても食べてほしいな。ほら、どんぶりよこせって」

ふふ。と上機嫌なフェッロのどんぶりを受け取り、燐のラーメンを半分入れフェッロに返す。

「ちゅるちゅる~。もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。ちゅる~もぐもぐもぐ」

何というスピード。もうなくなりそうだ。このままではまたあげることになる。負けじと食べる。そして、ほぼ同時に

「ぷは~。ごちそう様~」「ふはー。ごちそうさまー」

なかなかいい出来だったな。まあかの有名なさっぽろ五番だからな。

「ふぁ~。んにゃんにゃぁ。眠い」

右目をこすりながら左目を半眼にして言う。

「もう遅いしな。泊まってくか?」

もう23時になろうとしていた。小学……中学生はもう寝る時間かな。

「と、泊まるなんて……ヘンタイ! 夜な夜なあたしにいやらしいことするつもりなんでしょっ。だから泊まらない」

調子がすっかり戻ってるな。まあ無理強いはしないほうがいいか。すたすたと玄関に向かう。もう遅いしな。送ってやってもいいかな。

「送るとかいいからね。一人でも帰れるから」

そう言い残して、家を出た。

「おい待てって。さすがにもうすげぇ遅いし危ないって」

引き留めようとしたが玄関を出たらもうフェッロはいなかった。そういえば、魔法使いだったな。風呂でかまちゃんを焼き殺したしまあ大丈夫か。そう思い燐は家に入る。いや下手したら相手のほうが心配だ。

居間の食器を片づけ風呂に入り二階の自分の部屋に入り眠りに着こうとする。ふと思い出す。あ、そうだネックレス。燐は明日すぐに持っていけるようにベットの横の机に置く。チェーンのほうはおっさんに投げたので十字架のほうだけだが。燐の日課。寝る前に星を少し眺め布団にもぐり燐は今日あった出来事を思い返していた。

『バイトが終わって変なおっさんに絡まれてネックレスくれとか言われ。自称美少女のフェッロにあっていつもと違う一日だった……』

そう思うと燐は無意識に笑みが溢れていた。


フェッロは、燐の家を出た。泊まっていけばよかったかもしれない。でも男の家にこんな美少女が泊まったらいやらしいことを絶対するに決まってる。

『……でも、リンを見てると落ち着く。なんだろうこの感じは』

フェッロはこの感じを知っている。けど、思い出せない。フェッロは、唱えた。

「Fliege(飛べ)」

フェッロは、燐の家の屋根までパイアンを使い飛ぶ。パイアンとはこの魔力棒である。フェッロの使命は、阿澄燐の持つネックレスであるリズリカミネの死守。お父様から命令が下っている。

「Io gli do una torta di ordine Ann(パイアンよ命じる)Io mi divengo gli occhi, e mossa(我の目となり動け)」

フェッロは、パイアンに魔力を込め目を閉じる。

『リンは、まだ起きてるのね。ん? あれは、あれは! リズリカミネ。机の上になんか乗せて、もうちょっと警戒しなさいよ。って、こっち来た! なんでくるのよ!』

急いでパイアンを戻した。何も気づかない様子で燐は布団の中にもぐった。ふぅー、と安堵する。フェッロも眠くなって来た。寝ないように頑張ったけどもうそこは夢の中だった。


「おーい。りーんくーん。みんなー。早くー」

そこには、クラスの委員長近衛葉月が燐とフェッロと了と燐の幼馴染の奏ともう一人一緒にいるが分からない人を待っていた。そう。学校へ登校する最中だ。燐たちは昨日見たテレビの話をしたり、今日の授業のことなど他愛無い話をしていた。すると、フェッロが

「やっほぉーう。……ごめんね少し遅れちゃった」

了も奏も葉月もその子にごめんごめんと軽く謝っている。女の子の名前だと思うけどなんて言うのかわからない。それに女の子は何かを言っているが聞き取れない。

「ほら、燐も謝りなさいって。あんたが遅れたから遅れたんだから」

「こらこら、フェロちゃん。フェロちゃんだって寝坊してたじゃない。それに私も遅れたのが悪かったんだ。ごめんね。いいんちょさんに……」

奏が葉月に言った。フェッロは少し頬を赤く照らし奏に言い返して葉月は仲裁しようとしている。すると了が

「早く行かないと遅刻しちまう。行こうぜ」

みんなが再出発した。燐は女の子の手を引き

「ほら、……行こう」


「はぁはぁはぁ。なんだったんだ今のは……夢か?」

体が少し汗で濡れていた。額も湿っている。あの女の子の名前を言おうとしたら頭痛がした。

燐はふと夜空を見た。


フェッロはよくわからない夢を見ていた。燐にその友達? と一緒に……。まあ夢とは記憶の残滓が所々再構築されてできるものだもの。見覚えがない経験だって夢に見る。

今は、燐の監視をしないと。フェッロは、顔を屋根から出して部屋を覗いた。


「あ」「へ?」

一瞬、時が止まったと思った。なんでフェッロが屋根から顔出してんだよ。目を合わせて止まり合う燐とフェッロ。

「くぅ~。まだ夢ってか。お前はなんでうちの屋根から顔出して俺の部屋を覗いてんだよ?」

「えーっと、それはー。そのー。なんていうかー。んーあれだよ! 言い忘れてたの!」

なんだ今とっさに考えて出した答えは。燐は、寝たいから少し素っ気ない態度をする。

「えっとね。ん?」

フェッロは、横を見て疑問符を浮かばしている。

「どうしたんだ?」

無視である。いやでも家に帰るときの無視とは違って本当に耳に入っていないような。

「ちょっとごめんね。Fliege(飛べ)後で話すから! Rasen Sie 3 Male(スピード3倍)」

呪文を唱えて行ってしまった。なんだったんだ? 飛んで行ったほうを見てももう見えない。気になって眠れないじゃないか。あっちのほうは、燐が男に絡まれたあたりじゃないか? なんか嫌な予感が胸をざわつかせる。少しして戻ってきた。何にもなかったぽいよかった。

「ただいまー。ふへぇ」

「ふーう、おかえり。急にどこ行ってたんだ? どうかしたのか?」

平然と帰ってきた。顔を少し赤らめ息を切らせる。

「んとね、お、おトイレに……」

「トイレか。行ってくれれば貸したのに」

トイレ? なんであんなほうに行ったんだ? それにあの時の顔。何かあったのは確実だろう。

「それもそうだね。えへへ」

ニタニタ苦笑いをしながら言う。

「あのぉー。外寒いから、えっと……ごにょごにょにょにょ」

「なんつった今?」

全然声が聞こえない。しかももじもじしてるし、どうしたんだフェッロは。

「だからぁ。燐のへぁ……」

「だからしっかり言えって。聞こえんよ。俺のなんだよ。」

「だから! 外寒いから燐の部屋で寝させてって言ってるのぉ!」

顔を真っ赤にして言った。両目を閉じている。

「おお。びっくりした。そこまで大きな声出さなくても聞こえるって。まあ寒いのはそうだしな。早く入れよ」

今夜はいつもに比べ本当に冷えている。

燐は、布団に再びもぐる。すすっとフェッロが燐の布団の中に入ってくる。

「えへへ。温か~い」

「だろう。って布団の中にくんのかよ!」

燐の背中に二つの出っ張りがむぎゅうっと押し付けられる。温かくて柔らかくて、あれ? 風呂の時よりなんか二つのマウンテンがよくわかりやすくなっている。

「なあ。家に帰らなかったのか?」

燐がフェッロに質問すると、フェッロは何も言わずに燐の服をきゅっと締める。

「まあ言いたくないならいいけどよ」

そして数秒だったかもしれない。けど燐にはそれはとても長く感じた。

「傍に居たいのぉ。燐の。燐の傍に居たいの」

フェッロがやっと話してくれた。とても小さな声ではっきりと話してくれた。小さな体で小さな胸、フェッロは少し震えていた。

ヤバいこのままだと間違えを犯してしまいそうだ。

「そか。でもまあ男女の若者が一つのベットで寝るのは俺にも、いや俺がすごい抵抗がある」

燐は布団から出て机に伏せて寝ることにしようと机のほうに行こうとしたが阻止。

「え? 行っちゃうの?」

燐の足に抱きつき少し涙目にして言う。

『おぉ~。柔らけぇ~』

足がすごく柔らかいもので挟まれる。

「平気だって。そこの机で寝るだけだから」

「そかぁ、なら我慢するっ」

帰ってきてからフェッロが甘えん坊でめちゃくちゃ可愛くなってる! さっきからずっと頬を赤くしている。そして、フェッロは落ち着いたのかもう寝ている。

「Il sonno dell'agio」

何か聞こえた気がした。燐はふわふわして段々と眠くなってそのまま視界がなくなり眠りにつく。

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