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目にも止まらぬ刹那の攻防。ハッキリ言ってVRBを観戦していた一般ピープルには理解不能だったに違いない。精々でマリサが電磁熱線砲に焼かれたかと思ったら壁に突っ込んでいた――というところだろう。
今しがた、『早乙女ミレイの敗北宣言による八雲マリサの勝利』がアナウンスされたのだが、観戦会場は静まり返っている。おそらく今のシーンが副学園長の解説入りでスロー再生されており、彼らは固唾を飲んで見守っているのだろう。
俺はもうもうと立ち込める砂埃のなか、マリサという人間弾頭を撃ち込まれた瓦礫を見守っている。豪奢な玉座の間を一瞬で瓦礫に変えた一撃。そんなパワーを上乗せした破城槌を食らうとなれば、まぁミレイちゃんのギブアップもわかろうものだ。
ガラガラと石崩れの音など立てつつ、結界の主が弾痕より出てきた。ドレスの裾を直したり砂ホコリを叩いたりと身だしなみを整えるマリサ。どこぞの脱衣ニンジャ要素はないためコスチュームは破壊されない。
破壊神マリサはミレイちゃんと向かい合うと、じとりと不満ありげな目を向ける。すると
【すまなかった、八雲。このとおりだ】
予想に反して先に言葉を発したのはミレイちゃんだった。しかもどういうわけか、送信されてくるコクピット内の映像では頭まで下げている。マリサは目を瞬かせた。
【今回のVRB戦におけるお前の申し分、ハッキリ言って徹頭徹尾に渡って最もなことだ。私は手段を選ばず勝利を狙いに行ったし、お前の戦い方に対する考え方を利用して戦術を組み立てたことを認める。やり方も極めて下賎だった。でも、それでもこの戦いには勝ちたかった】
ミレイちゃんは言った。今更といえば今更だが、潔いといえば潔いミレイちゃんの弁明。これにはマリサのみならず俺も驚いてしまった。
【ただ。たとえ私が敗北しようともこのESUTUXETTOだけは傷つけるわけにはいかない。それは仮想世界の中であってもだ ――なぜなら】
ミレイちゃんはそこで言葉を切ると、やや俯いてから言った。
【私の大切な人が、戦闘装甲を褒めてくれたから。すごくカッコイイねと、これの原型を見ながら言ってくれたのだ】
ミレイちゃんのその言葉を聞いて俺は得心がいった。なるほどと。戦闘装甲に対するマリサの発言に彼女が拘った理由はそれだったらしい。要するに乙女心。言うまでもなくその褒めてくれた大切な人というのは、シキ少年に違いない。
そしてマリサもその辺りの事情を察したのだろう、サファイアの瞳からは不機嫌の色が消えていた。
まるで氷が蒸発すように、ESUTUXETTOが量子単位で分解されて消失する。そしてミレイちゃんの消沈した姿が現れると、マリサは疲れたようにため息を一つついてから、口惜しそうに言った。
【そういうことは先に言ってくれたら、私の格好いいヤラれざまを見せてあげられたのに】
マリサの言葉にミレイちゃんが顔をあげる。そして彼女の見開いた目が写したのは、心底残念そうに苦笑しているマリサの笑顔だ。
ミレイちゃんに向けてマリサが歩いて行く。
戦闘が終了したとはいえ、不用意に接近するマリサにやや警戒を示すミレイちゃん。マリサはそんな彼女の手を握手の形に取った。
【まぁ、その辺はこれから協力していきましょう】
それから健闘を称えるように、、マリサはミレイちゃんの手を高らかとあげた。
【同じ女同士ね、なにより私達友達でしょ?】
しばらくの間を置いて、仮想世界には観戦者たちの歓声が轟いてきた。
小出しですが、これでVRB一回戦おしまいです