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オトナになりたい。  作者: ふぉるて
第一章
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「信じるって簡単だよ、少しだけ相手を許せばいいんだから。」


「大人しくて女の子らしい子」ーーつまり本来の自分と正反対の自分を演じ終えた翌週の週末、私は他校の友人「田口玲」と恒例になりつつある報告会を行っていた。


「で、次は何ヶ月?」

続いたの、と言葉を続けなくても何を訊かれてるか分かるほどにこの報告会は回を重ねていた。

「三ヶ月。出会って五ヶ月、付き合って三ヶ月。」

悪びれない私の態度に玲は心から呆れた顔をした。


「いい加減やめなよぉ、トモせっかく美人なのにもったいないよ。好きでもない人と駆け引きして遊ぶの」

好きでもないわけじゃないよ、と言い掛けて口をつぐんだ。

並んで歩くには申し分ない容姿だった。五ヶ月の付き合いだけれど一度もぶつかり合うことはなかった。まあ、悪くない。そう。総じて「まあ、悪くない」相手だったのだ。


「私の話はいいよ。玲はどうなの?高木くんの連絡先くらいゲットしたんでしょうね。あんたの話進展なさすぎてつまんない。」


玲とは小学校の頃に学習塾が同じことで知り合った。背が小さくて目ほくろが愛らしい、私には珍しい女の子らしい友人だ。

中学受験で中高一貫校の今の女子校に通うようになった私と違い、玲はこれまた塾で一緒の「高木くん」と同じ高校に通っている。

玲の話から高木くんの名前が出るようになって、つまり彼女が彼を意識し始めてから三年は経っている。


学校は違うから詳しくは知らないが、塾で見る限り彼女らはすれ違い様に挨拶をする程度にしか進展していない。


「つまんないって!別にトモを楽しませるために片思いしてるわけじゃないんだからぁ!」

飲んでいたジュースの殻を、少しだけ勢いよく机に置く玲を見て私は、ごめんと笑った。



「心子ちゃん?」

その時だった。隣のテーブルから突然声をかけられた私は振り返った。

「あ、あぁ。居たんだ、気づかなかった。こんにちは」

隣のテーブルに座っていたのは同じクラスメイトの子達だった。

「やっぱり心子ちゃんだった、最初気づかなかったんだよ!心子ちゃんって無口なイメージだったから。私たちこれからカラオケ行くところだけどよかったら…」


「遠慮しとく。」

どうやら目が笑えていなかったらしい、少しだけビクリとしたクラスメイトはそっか、と言って帰っていった。


「え、トモ。訊きたいことが山ほどあるんだけど」

玲が身を乗り出している。なんだか面倒な展開になりそうだ。


「そもそもモトコチャンなんて呼ばれてんの?ぶふっ…チャンって!小学生じゃないんだからさぁ!それに無口って何よ。それ。トモ喋らずにいられないタイプだったでしょう?」


「まず、私の名前はもとこだし。心に子でもとこだし。あんたの方が間違えてんのよ。それに無口キャラってわけでもないよ?話しかけられないから話さないだけで。」


そりゃあさっきみたいに睨まれたらねぇ、と玲は納得するように言った。

睨んだんじゃない。少しだけ目がキツイだけ。よく言えば猫目。それにクラスメイトが私に声をかけないのは目が怖いからじゃない。なんでも思ったことを明け透けに言う私の言葉が怖いんだ。





入学当初はむしろサバサバしているこの性格は女子校ではウケていた。

ただ夏に行われた学園祭で、私はやらかしてしまったのだ。

「大人しく女の子らしい子」が好き。つまり遠まわしに私には興味ないと言われたあの瞬間私は見事な変わり身の術で奴の懐に入る対価に、クラスメイトの反感を買ってしまった。


「男好きなの?」「たしかに美人だけど性格きつくない?」

いじめに発展したわけではないけれど、居心地の悪い空間が何日間か続いた気がする。しかしやらかしたのはそこではない。言ってしまったのだ、本音というやつを。



「あんたさ、隠れて友達の彼氏に連絡先聞いてるわりに私にそんなこと言える立場なの?」

「学園祭だけ必死になって身なり整えてもだめ。痩せたいっていうなら言葉通りダイエットしたら?だらしない体に男どころか同性だって引いてくよ?」


不思議と怖くはなかった。なんて嘘は言えない。

内心、心臓はどくどくと鼓動を打っていたし声だって震えかけていた。

だけれど私には中学の頃から女子校という異空間が苦手だった。

表向きには仲良くしているのに、裏では何を思っているか分からない。

息が詰まる思いを何度もしてきた。



結論から言うと、私はいじめに遭うことなく今に至る。

クラスメイトに陰湿な人がいなかったことを感謝するべきだろうか。

その代わりに私は怖い人認定され、私も口を閉ざしていったのだ。



「でも、思うんだけどさ。仲良くしたいんじゃないの?クラスメイトはさ。」


なんで、と訊くと玲は「鈍いなぁ。」と続けた。


「分かる気がするんだよねぇ。双方の気持ちが。私も初対面はトモが怖かったクチだし、でも思ったこと言えるの自分持ってて格好いいなぁとも思ったし。今はもう慣れたから怖くもないし?私もネチネチ嫌い!クラスの中には思ってる子いるんじゃないかなぁ。『心子ちゃんみたいになりたい』って。


じゃなきゃ休みの日にたまたま会っただけのクラスメイト、カラオケに誘わないよぉ。


それにさ、思ったけど。トモ殻破れてるじゃん。クラスメイト相手に本音ぶつけられてるじゃん。好きな人にもそんな風になれたら素敵なのにねぇ。」


素敵って…玲の率直な意見に納得したり恥ずかしくなったりした。

玲は私が悩んでることをこうやって見破ってくれる。入ってきてくれる。

私が欲しい言葉以上をくれる。いつもこうやって助けられてきた。



「私がトモに入っていけるのは、トモが開けててくれるから。素直になるっていうのは相手を信じることだと思う。信じるって簡単だよ、少しだけ相手を許せばいいんだから。自分の心の中に相手のスペースを空けてあげればいいんだから。」



その日はそんな話をして、玲と別れた。




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