1日目 AM11:30
_誰にだって人には一つや二つ、誰にもいえない隠し事がある。
時と場合によってそれは物理的なものだったり感情的なものであったり思い出やら夢か現実か句切りの付かないものであったりと実に様々だが、内容は大体皆似たようなものであるだろう。
しかし、オレとオレの幼馴染、小春の場合、多少状況が違っていた。
まあこれもよくある話・・・といってしまえばよくある話なのだが。
オレは小さい頃実家の神社の祭り神、『お狐様』に遭遇しており
小春はこの世のものではないものが見える・・・いわゆる『霊感体質』を持っていた。
とはいっても周りの大人や友人に話してもまあ当たり前だが「そんなわけないだろ」と笑われるのがオチである。いや、むしろ心配されたか。
信じてくれたのはオレの祖母と祖父だけ。二人とももう亡くなってしまったが一番の理解者であったことは確かである。
特に祖父は神社の神主であるからかその辺の事情に詳しく、昔自分もお狐様に会ったことがあると得意げに話していたことを薄ぼんやりと覚えている。
頭ごなしに幽霊とか妖はいない、なんていってるうちの両親よりよっぽど神主に向いていた、むしろよく継ぐ気になったな両親よ・・・
「・・・おーい、凪沙」
「ん、なんだよ」
黒に少し碧色がかかった瞳の幼馴染が訝しげにオレの目の前で手を振っている。
「いや、なんか意識飛んでたっぽいから何があったのかと」
「別になんでもねぇ」
今まで脳内エピローグを繰り広げていたとは口が裂けようがこいつにはいえない、また大丈夫かお前といわれるのは目に見えている。
「ふーん、ならいいけど」
興味を失ったかのように前を向き直ると再び歩き出す。
オレもとりあえず思考を切り替え目的地へと歩き始める。
「そういえば今日はなんか見えんのか?」
「そうねぇ、あそこの電柱の上に一人、あの家に・・・座敷わらしかあれ。まあ害悪になりうるようなのはいないし気にしなくていいんじゃないの」
日常会話のごとくそんな会話を交わす。そこまで大声で話していないから人気のないこの道で他人に内容を聞かれることはないだろうが、うっかりすれ違った通行人に聞こえてしまったときは冷や汗物である。あわててごまかしたこと数知れず。
小春も飄々とした性格ではあるもののこの能力を他人に知られるのは面倒だと自覚しているらしく、こういう会話の時は少し声を潜めて話すようになっていた。
「そんなことより早くしないとお昼過ぎるじゃない、墓参りは午前中までってのは誰んちの家訓よ」
「はいはい、まぁ行こうぜ」
今日は我が祖父母の月命日、前述のとおりオレたちは二人ともなんだかんだで祖父母になんども助けられていたため、礼の意味も込めて必ず一ヶ月に一回墓参りに行く。
毎月墓参りする高校生、というのもなかなかいない気もするが。
「ほら、早く早く!」
はっと顔を上げると小春はすでに墓地へ向かう階段へと辿り着いていた。
「お、おう!」
オレはあわてて花束と線香の入ったビニール袋を肩に引っさげなおし、彼女の元へ駆け出すのだった。
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