表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

復讐を誘う闇

 彼女の言うとおり、祭りは1週間もの間飽きることなく続けられていた。揺らめく炎は一日中絶えることなく燃やされ、沈黙の闇すらも破る。

 人々は喚起し、踊り、笑い、飲み食べた。抑圧されていた欲望に際限はなく、尽きることのない数々の情欲も放たれていった。

 そして何よりも人々を喜ばせたのは、カボチャ頭の賢い青年。

 彼は音を奏で、歌を歌い、甘き誘惑を振りまき続ける。それが彼の存在理由であり、価値であると住人達も思っていたからだ。

 されど、彼らはまだ知らなかった。

 その揺らめく炎の奥に写っているのが、いつも白き少女であることに。


「大盛況ね」


 彼が現れてから1週間。彼の周囲にはいつも、楽しそうに笑う子供たちが付きまとっていた。彼の取り出す数々のお菓子が、あまりにも甘美だったからだ。夜遅くになればその輪は大人たちに変わり、愉快な音楽で人々を魅了した。

 しかし少女は、それを後ろに聞いているだけだった。

 朝早くから、夜遅くまで。視線はずっと目の前に広がる茅場を向いている。誰かを待っているわけではない。誰かと約束をしたわけでもない。

 ただ、そうしていないと悲しみに埋もれてしまうような気がしたから。


「……君は何故、ずっとここにいるんだい?」


 もちろん、彼も気になっていた。祭りを抜け出してはここに訪れ、少女を気にかけていた。

 村人たちが《それ》を気にするそぶりはなく、むしろあえて触れないようにしているみたいにも思えた。


「私は、この村が大っ嫌いだから」


 それは彼女が、初めて洩らした本音だった。


「ねぇ、ジャック。今のこの村の平穏が仮初のものだってわかる?」

「それはもちろんさ。誰もが楽しそうな仮面を被り、笑いを演じている」

「確かにそうね。でもね、そういうことじゃないの。私はただ……誰かの犠牲を弔うことなく、笑っているのが許せないだけ」


 それに伴い、表情も変わってきた。

 穏やかで儚げだったその笑みは、黒き闇をちらりと見せている。


「ねぇジャック。なんで人は、人を犠牲にしても平気でいられるの。どうして少しみんなと違うだけなのに、それを迫害するの。…………ねぇ、教えてよ」

「それは……」


 彼は初めて口をつぐんだ。回答に困ったからではない。目の前に広がりつつある闇を、さらに濃く、深くするためだ。

 言ってみれば、計算の内というものだ。


「それは、君がよく知ってるんじゃないかい?」

「そうね、……そう。だからこそ、私は彼らを許せないのよっ!!」


 狂気の陰に彩られた瞳。透き通る肌を、黒き怨讐の念が包み込み始める。

 もう少し……もう少し……。


「それじゃあ、僕が君の断罪を手伝おうか?」

「それは、だめよ。たとえ世界を憾んでも、私の体は動かせない。この場所に縛り付けられた……いいえ、私が望んでここに縛り付けたの。私は、彼の帰りを待つために」


 しかしその言葉には重みがなく、ススキに注がれる視線は遥か遠くへ。

























「じゃあ、もう必要ないじゃないか」

「それは……どういう――――ッ!?」


 視界を遮るかのように立ちはだかった彼の言葉に憤りを感じるも、言葉を続けることはできなかった。彼と目を合わせた途端、囚われたかのように体が動かなくなった。


「彼はもう、死んだんだよ。君もわかってるだろう?」

「あぅ、ううぅぅ……」

「彼は何故死んだ。悪いことをしたわけでもない。心優しく働き者の彼が何故?」

「うあぁぁぁぁ……」

「そうだ。奴らが悪いんだ。彼を死地へと追いやり、君を迫害し続けた奴らが!!」

「あああああああ!!」


 彼の紡ぐ言葉は甘味な毒のようで……痺れるような快楽と、身を裂く鈍色の痛みが体中を駆け巡った。皮膚は割れ、出るはずもない血の代わり蠢く闇が噴き出した。それらは体積を増やしながらも、彼女の体をしっかりと暗黒へと誘う。そして――――


「君がこの村に留まり続けるのは、復讐のためではないのかい?」

「……………………そう、ね。そう。私は、奴らに鉄槌を与えないと、幸せにはなれない。…………うふふ、アーッハッハッハ!!」













『さあ』







『復讐劇を』







「始めようか」

「始めましょう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ