亡きモノの魂願
幸せそうな駆け足、白金の大地。
君だけが何故、涙を流しているのだろうか?
喜びの足音が聞こえる。どれだけの犠牲が、どれだけの憎悪がこの場所に消えたのかも知らないで。
人は、人の死を知らずに、人の無念に支えられて生きているのをどうしてわからないのだろうね。
一人の女性が、その喧騒を後ろに聞きながら……目の前に広がるススキ畑に魅入っていた。その瞳は悲しいほどに煌き、夕日に照らされてあふれんばかりの感情を抑えきれずにいた。
この地にははるか昔から争いが絶えなかった。
ある時は強欲な愚者に、ある時は見渡すばかりの食糧に、ある時は黒き死の病に……そしてある時は異教徒たちの革命の嵐によって。
彼女もまた、そんな争いのさなかに生まれた一人だった。
望まれたわけでもない生。親にさえ厄介者と罵られる毎日だった。
しかし、そんな彼女でも愛してくれる人がいた。
異端として、忌み子としてでしか自分を見出せなかった彼女に春を届けてくれたのだ。
悪魔のような赤い目も、生気の抜けた白い肌も、全て美しいと言ってくれた。
幸せな日々だった。こんな日常が永遠に続けばとも思った。
しかし、運命は残酷なその手で2人を引き離してしまった。
別れを告げる手紙を抱きしめながら、彼の愛した白金の大地を目の前に、彼女は涙を流した。
「ごめん……ごめんよ、ヴィリア」
悲痛に呻く、贖罪の声が聞こえてきた。自分を慰めるものではない、本当に悔やんでいる人間の言葉は、何度聞いても心に響いてしまう。君が私を呼んだんだね。
さぁ……教えて。
「何故、君は泣いているの?」
「彼女を、不幸にしてしまったから」
「何故、不幸にしてしまったの?」
「彼女を、また1人にしてしまったから」
「何故、1人にしてしまったの?」
「僕が、死んでしまったから」
「君は、不幸ではなかったの?」
「僕は、幸せだったさ。……だからこそ、彼女を不幸にしてしまったことが」
つらい。
わかるよ。君の気持ちが、君の後悔が私の中にすっと入ってくる。
決めた。
「君の願いを、叶えてあげる」
「僕の……願い?」
「そう。さぁ、教えて。君は死んでなお今、何を願っているの?」
「僕は……僕、は……」
彼をそっと抱きしめる。
言葉を紡ぐたびに、彼の体が温かく光を帯びていく。
「ヴィリアに、幸せになってほしい!!」
君はすごいね。自分の命を亡くしても愛せる人を、見つけることができた。そして彼女もまた、同じかそれ以上に君を愛してる。だからこそ、私は現れた。
ごめんね、私の力じゃ彼女を幸せにはできない。だから、君の記憶をちょうだい。
彼女を幸せにできるのは、君だけなのだから。
な〜んてね。……くすくすくす。
じゃぁ………………
いただきます。