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ヴァンパイア/ジェネシス(勘違い)  作者: H&K
第二章 白の愚者編
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第38話 「いざ新たなる地へ その2」

 半壊した聖協会の片付けは職員達総出で行われていた。

 月の民を吸血鬼から守護する象徴としての聖協会。その砦が晒す無残な姿はシュトラウトランドの住民によって噂の的にされていた。


 曰く逆鱗に触れられた狂人が中にいた人間を皆殺しにした、だとか。

 曰く白の威厳を讃えていた講堂は赤い血の海に染まった、だとか。

 そんな聖協会の失態を隠すために、わざと建物を半壊させただとか。


 市井に出ずとも十分に聞こえてくる住民の囁きに、片付けを見守っていたクリスはため息を吐いた。

 喉には治癒力を高めるための護符が貼り付けられており、ネクロノミコンを握っていた右手は包帯巻きでミイラのようになっている。

 最後の魔の力を行使したとき、「ネクロノミコン」から逆流してきた魔の力が右手を襲っていたのだ。


「クリスさん、そろそろ包帯と護符を取り替えましょう」


 働きづめの職員に適当に休憩の指示を飛ばしていれば不意に声が掛けられる。

 見ればあの死闘の中、自分の元に駆け寄ってきてくれたミトの姿があった。ついこの間までは「テトラボルトシスター」という随分と他人行儀な呼び方をされていたな、と少し感慨深く思えた。


「ああ、頼む」


 適当な瓦礫に腰掛け、クリスは右腕を差し出した。

 聖協会の医者によれば全治一ヶ月程だという。喉の方もミトの応急処置が良かったのか殆ど完治していた。

 護符は念のため、とミトが無理矢理貼り付けたのである。


「……狂人の行方はまだわからないのでしょうか」


 あれから三日、アルテによって痛手を被ったシュトラウトランドの聖協会は各地に散らばる聖協会支部にお触れを出した。


 狂人アルテを見つけ次第、拘束。それが不可能なら発見位置を報告せよ。


 結果は余り芳しくない。

 クリスとマリアという、聖協会の中でも上層と言える実力者二人掛かりで取り押さえに掛かった結果が、シュトラウトランド支部の半壊だ。

 殆どの聖協会支部が及び腰になっていて、まともに捜索すらしていないのだろう。

 それにレイチェル・クリムゾンの操っていた魔導人形の機動力は凄まじいものがあった。

 もしもあれを伴って逃げられたのなら、聖協会の影響が及びにくい東方の「暗黒地」か南方の「砂漠地帯」に易々と向かえるだろう。

 簡潔に言い表すと、アルテ達の完勝に終わったのだ。

 だからクリスは正直に首を横へ振った。


「まだだな。一応、奴が向かいそうな地域には連絡用の騎竜を寄越したんだが」


「そんなものがわかるのですか?」


「ああ、一つ目は紫の愚者が拠点とする魔導教院エンディミオン。二つ目は黄の愚者が拠点としている古代地ロマリアーナ。三つ目は……」


「私が住処としているグランディアの本部あたりですかね」


 突然声が降ってきた。

 随分と聞き覚えがある声にクリスは思わず視線をあげる。

 己が敬愛する人物、黒の愚者――ユーリッヒ・ヘルドマンがそこにいた。

 反射的に、腰掛けていた瓦礫から立ち上がろうとして、まだ傷だらけの右腕を思いきり支えにしてしまった。

 激痛に呻きをあげ、倒れ込むクリスをミトが咄嗟に支える。


「ああ、お構いなく。楽な姿勢で構いませんよ。今し方騎竜で到着しました。さすがは私の「ブラックウィザード号」。グランディアとシュトラウトランドを三日で駆けてこれましたね」


 ……そういえばこの人のネーミングセンスはそこらの子ども並だったな、とクリスは呆気にとられているミトを見て思い出していた。

 ただヘルドマンは特に気にした風もなくこう続けた。


「それと、およその顛末は彼女から伺いましたよ」


 彼女、が誰を指しているかクリスは直ぐに察した。ヘルドマンの後方に立つ、不機嫌を煮詰めて表情に貼り付けたマリア・アクダファミリアだ。

 見かけ上、マリアは無傷に見える。アルテに両断された胴も綺麗に復活していた。

 だがクリスは知っている。法衣で隠してはいるが、彼女の腹には決して癒えない太陽の毒による火傷が残されているのを。

 奇しくもヘルドマンと似たような傷をその身に宿したのだ。


「どうやら最後の最後に誤爆をしたみたいで……」


 言葉を受け、クリスの身体が固まる。

 そうだ。この三日間は何処か有耶無耶にされてきた己の失態だ。

 いや、クリス自身は失態とは考えていない。あの行動――魔の力を使い全ての人間を拘束したことを悔やんではいない。

 彼女は聖協会員としての義務とアルテの友としての矜恃を天秤に掛けた。そしてほぼ無意識に、アルテを選んだのだ。

 如何なる罰を受ける覚悟がある。

 ただ、後悔はしていなくとも、あの選択が正しかったとは言えなかった。アルテが撤退したから良かったものの、自分を支えてくれたミトの安全が脅かされる可能性など十分にあった。

 それでもヘルドマンからその罰を下される可能性までは全く考えていなかった。

 一番の被害者である、太陽の毒で身を焼かれたマリアから下されると思っていたのだ。

 この状況を鑑みるに、マリアはクリスの生殺与奪権をヘルドマンに与えたようだ。これはマリアなりの意趣返しなのか、とクリスはどうしても疑ってしまう。

 クリスにとって一番効果的な罰とはヘルドマンから弾劾され、切り捨てられてしまうことなのだから。


 ヘルドマンの氷のような視線がクリスを穿つ。


「アルテとの死闘の子細は把握しています。随分と健闘したようですね。一時はあの狂人に膝をつかせるところまでいったとか」


 死刑執行を待ち望む囚人の気分をクリスは味わう。先ほどまで感じていた腕の鈍痛は消え去った。

 唇が乾き歯が噛み合わない。


「しかしながら詰みの瞬間に「ネクロノミコン」を制御しきれなかったのは明らかな失態ですね。これは大幅な減点です」


「え?」


 間抜けな声が漏れた。

 見ればヘルドマンの視線を質が変化している。それはまるで悪戯に成功した子どものような――、


「こんな大失態をしでかした人間はまだまだ教育と鍛錬が足りていません。あなたをもう少ししたら他の支部の支部長に推薦しようと考えていましたがそれも無期限に取りやめです」


 ヘルドマンがクリスの頬に手をやってその表情を覗き込んだ。


「あと五十年は私の小間使いでもしてなさいな」


 暫く言葉が出てこなかった。

 代わりに視界が曇る。それが溢れ出る涙の所為だと気がついた時、クリスの中で張り詰めていた何かが切れた。

 一人でマリアとアルテの板挟みに遭っていた。

 このシュトラウトランドで得た友、エンリカを裏切る選択をしてしまった。

 仲間だと思っていた狂人を徹底的に痛めつけた。

 何より、敬愛するヘルドマンの期待に背いていないかずっと不安だった。 

 

「はいっ! はいっ!」


 何度も何度も涙ながらに頷く。己の成したことがヘルドマンに認められてたまらなく嬉しかった。

 期待に応えられたことが何よりも嬉しかった。

 傍らに控えるミトがおろおろとどうしたものか狼狽える。だが今はそんなことどうでも良かった。

 まるで親に努力したことを褒められた子どものように、クリスはぽろぽろと泣いた。

 そんな秘書を見て一つ柔らかく微笑んだヘルドマンは、背後に立つマリアの方へ振り返った。たったそれだけの動作で、半壊した講堂の気温が数度は下がった。

 何事か、と作業を続けていた職員達もヘルドマンとマリアに注目する。

 これまで二人のやり取りの中心にいたクリスも何とか涙を押しやって静かに成り行きを見守った。


「さて、マザー、いやマリア・アクダファミリア次長。これでこのものの罰則は宜しいでしょうか。いくら故意でないとはいえ、己に与えられた武装を扱いこなせなかった未熟者には相応しい末路だと愚考しますが」

 

 何処か芝居めいた口調はやはりわざとなのだろう。

 答えを返すマリアも舌打ちを隠そうともしなかった。


「ふん、相変わらず小賢しくて何よりです。ヘルドマン。ええ、構いません。不安定な武装を与えた私にも責任の一端はありますから」


 不安定な武装、という話の下りでマリアはクリスを見た。だが直ぐに一歩前へ出たヘルドマンによって視界を遮られる。


「あら、その責任は既に負われているのでは? まだ内蔵の回復が追いつかず禄に食事もされてないのでしょう? 良いのですよ、休養なさっても。何ならグランディア近くの村で静養されますか?」


 もう一歩、ヘルドマンが歩み出た。マリアも負けじと歩を進める。両者の距離はあっという間に接近し、互いの鼻面が数センチで触れ合わんばかりとなった。

 絶対零度のヘルドマン、灼熱地獄の怒りを讃えたマリアの視線がぶつかる。


「いいえ、お構いなく。私には捕まえきれなかった黒狼に首輪を繋ぐ役目が残されていますから」


「そうですか。では私も、その気性をいたく気に入っている黒狼を保護する役目が残されています。首輪を繋がれて飼い慣らされては台無しですからね」


 ひっ、とミトが小さく悲鳴をあげた。

 ヘルドマンから漏れ出す漆黒の魔の力と、マリアから漏れ出す怒気がぶつかり合ったような錯覚を覚えたのだ。

 クリスもそんな二人から顔を背けて、己の涙を拭いながら小さく嘆息した。


「アルテ、お前も大概運のない男だな……」



  /



 くしっ、とアルテがくしゃみを一つした。

 そんな光景がいたく珍しいのかイルミとレイチェルは互いに顔を見合わせた後、思わず彼を凝視した。


「まだ何処か痛むの?」


 アルテに寄り添うように腰掛けていたイルミが問う。アルテは一言「何でもない」と不調を否定した。


「もしも具合が優れないならすぐに言ってくれよ。これからボク達が通るルートはそれなりに危険だ」


 レイチェルもアルテの体調を気遣い、つらつらと語っていたこれからの計画の説明を一時中断する。

 三人で小さな廃屋の中で焚き火を一つ囲んでいた。

 時刻は深夜の二時ほど。月の民の活動が一番活発になる時間帯だ。気温はそれほど低くはないが、病み上がりということで二人はアルテを心配していた。

 もう一度アルテは「大丈夫だ」とかぶりを振る。


「ならもう一度おさらいするぞ。ボク達が今いるのはシュトラウトランドから少し東に向かったスレフフというところだ。ここからもう少し東に行けば小さな村がある。特に面白みのあるものは何もない村だがここから騎竜の定期便が出ている」


 羊皮紙に描かれた地図を広げ、レイチェルが説明した。


「ここの定期便はいろんな方面に伸びているがボク達が向かうのは南だ。騎竜を乗り継いで五日ほどすればレストリアブールという大きな街にたどり着く。ここまで逃げおおせれば取りあえずはボク達の勝ちだ」


 地図には赤線が引かれていた。それは聖協会の影響力が及ぶ地域を囲んだものだった。

 レイチェルが告げたレストリアブールという街にはその赤線が及んでいない。


「ここは聖協会とは別組織が管理している街だ。だからここに辿り着けば、一先ずの逃亡生活を終えることができるだろう。何か質問は?」


「……今更かもしれないけれど、本当にあなた着いてくるの?」


 沈黙を保ったままじっと地図を見つめるアルテに変わって、イルミが疑問を投げかけた。

 成り行きでここまでレイチェルの魔導人形によって逃亡を続けて来た三人だったが、ここらでレイチェルの立ち位置をはっきりさせたいとイルミは考えたのだ。

 レイチェルはイルミの明らかに歓迎していない雰囲気に気まずそうに頬をかくが、つらつらと自身の立ち位置を語った。


「抱えていたスタッフはもともとフリーの人間だから問題ない。そもそもトーナメントに参加できなければ、ボクはあの街に住む理由がないよ。それよか君たちと共に太陽の時代について調べたほうがよっぽど有意義さ」


 イルミはレイチェルの言葉を聞いて、アルテの方に向き直った。

 それはアルテの判断に従うという意思表示で間違いない。

 レイチェルの同行を快くは思っていないのだが、アルテが良いと言えば仕方がないと割り切っているのである。


「もともとそういう約束だ。だが前とは状況が全く違う。それでも構わないのか?」


 アルテはレイチェルの同行を拒否しなかった。だが頼むようなこともなかった。

 それは半ば指名手配のような扱いを受けている自分に着いてきても大丈夫なのか、というアルテなりの気遣いだった。

 イルミはそれが大層面白くなくて、寄り添ったアルテの腕に己の鼻を擦りつけた。

 レイチェルは苦笑を一つ。


「もちろんだとも。それに人から疎まれ追い立てられているのには慣れている。足は引っ張らないと約束するよ」


 トーナメントで得ていた栄光よりも、親から捨てられた人生の方が自分らしいと言ってのけたレイチェルにアルテは眉を顰めた。

 だがレイチェルは気にした風もなく、広げていた地図を綺麗に畳んだ。


「ところで、こういうことを君に告げるのも野暮かもしれないが――」


 よっ、とその場から立ち上がり伸びを繰り返すレイチェルがアルテを見下ろす。


「さっき、レストリアブールは聖協会の管理が及んでいないと言ったよね。これは別の勢力がそこに根付いているんだが……」


 どことなく歯切れの悪いレイチェルにイルミは訝しげな視線を送る。

 アルテは相変わらず感情の全く読めない、鉄面皮のままだった。


「その勢力というのがね、緑の愚者を信仰する暗殺教団なんだ。だからもし、君が緑の愚者を次の獲物に定めているのなら覚悟した方が良い。いよいよこの世界から君の居場所はなくなるよ」



  /



「その勢力というのがね、緑の愚者を信仰する暗殺教団なんだ。だからもし、君が緑の愚者を次の獲物に定めているのなら覚悟した方が良い。いよいよこの世界から君の居場所はなくなるよ」


 レイチェルの言葉を受けて、どうしてこうなってしまったのか真剣に考える。

 イルミとレイチェルによれば、俺は白の愚者の殺害犯として聖協会に狙われたらしい。だがそんなことはまずもって見覚えがないし、そもそもあんな化け物、現時点の実力では殺せるはずもない。

 マリアとかいう、下手すれば子どもみたいな奴ですら押し負けてしまったのだ。まだまだ修行が足りないのである。

 なら何故こんな事態に陥っているのだろうか。

 というか白の愚者は本当に殺されたのか? ふらっとどこかに出かけて周りが大騒ぎしただけでないのか? それで最後に面会したとされる俺が疑われている?

 あの後、白の螺旋階段を上っていれば女中の少女とすれ違った。それ以外に下に降りていった人物は居なかったように思う。

 だから疑われているのだろうか。

 すれ違った女中の仕業という可能性は? ……さすがにそれはないか。あの子からはそこまで実力があるようには感じられなかった。

 謎が謎を呼んでいる。

 出来れば今すぐクリスあたりに掛け合って事の詳細を確認したいが、殆ど喧嘩別れのように終わってしまったからそれも不可能だ。

 第一にシュトラウトランドに戻ることはもう不可能だろう。

 戻ったところでマリアにとっ捕まって紋様の続きを刻まれそうだ。


 ……そう。


 紋様は不完全ながら刻まれてしまった。これが魔の力を媒介にした誓約の呪いであることは知識として知っている。

 普段は全くの無地なのだが、何かの拍子で魔の力が色濃く触れてしまうと浮かび上がって来てしまうのだ。

 一度イルミに触らして確認してみたのだが、左頬の全面にわたって入れ墨のように紋様が浮かび上がってしまった。ただでさえ無表情で人相が悪いのに、完全に堅気のそれでなくなってしまったのである。

 極道か犯罪者の証みたいだ。

 いや、聖協会からしたら犯罪者そのものか。


 話を戻そう。

 あれからイルミとレイチェルには白の愚者を殺していないと遠回しに告げた。

 遠回しというのは、糞無能なコミュニケーション能力が足を引っ張りまくったからである。

 何度も何度も根気よく白の愚者を手に掛けていないと説明した。


「俺はあいつを殺せていない」


 ここまで絞り出した時には精根尽き果て、説明することそのものが面倒になりつつあった。

 だが一定の成果はあったようで二人は神妙に納得してくれた。その上で俺の旅に付き合ってくれるというのだから、感謝のしようもない。

 いつの間にかイルミも隣に座ってくれるようになったし、一先ずはパーティー内の空気は良好だ。

 以外なのはレイチェルとイルミの仲の良さか。

 いや、イルミは結構レイチェルを邪険にするのだけれど、レイチェルがそれを上手く流してくれている。

 もともと面倒見の良い性格だとは思っていたが、ここにきてイルミの姉のように包容力が増しているのだ。イルミもそんなレイチェルに毒気を抜かれているのか、何だかんだいって最後はレイチェルのことを認めていた。

 本当、指名手配とかいうおまけがなければ完璧な旅だったのに。


「しかしあのマリアという女。最後の絶叫は溜まらなく愉快でしたね。心躍るようです」


 前言撤回。指名手配スキルがなくても問題はあった。

 それはいままで沈黙を保っていた義手こいつである。

 どこで性格設定を誤ったのか俺の手に負えないくらい毒舌な仕様だ。エンリカに調整してもらおうにも、彼女のいるシュトラウトランドには向かうことが出来ない。

 レイチェルにそれとなく頼んでみたものの、義手は門外漢ということで匙を投げられてしまった。

 つくづくエンリカは魔の力を使う魔導具に関してチートだったんだな、と身に染みた。最後の最後で礼を告げることが出来て本当に良かったと思う。

 さて、この義手についてだが取り外しも何度か考えた。些か独断が過ぎるし口も悪い。

 けれどもマリアとの戦闘では比類なき有能さを発揮していたし、折角エンリカがこしらえてくれたワンオフ品なのだ。

 そう易々と切り捨てることも出来なかった。

 というわけでしばらくはこの毒舌を我慢して使い続けることにしたのである。


「当然の結果。アルテに掛かればそんなこと造作もない。あなたもアルテを補助するならいちいちそんなことで驚かないで」


「成る程、私の認識の浅薄さを恥じ入るばかりです。さすがは主様。まだまだあなた様に対する最適化が足りていないようで精進いたします」


 煽るな煽るな。

 イルミは姉が妹(弟?)を叱るように、義手にいらん知識を吹き込んでいく。

 というかいつの間にそれだけ仲が良くなったのだ。俺の指示なんて戦闘中は殆ど聞いてくれないくせに。


「さて、休憩はそろそろ終わりだ。スエフフに向かおう。騎竜便の出発は夜明けだ。日光対策のローブやゴリアテを偽装する鎧やら見繕わなければならないものは多い。少しばかり急ごう」


 レイチェルが焚き火を消して荷物を纏めだした。

 まあ、纏めるといっても殆ど着の身着のまま逃げてきたからそれぞれの武器や簡単な小物入れぐらいしか持ち合わせていない。

 早いところ旅装を整えよう。

 そう意識を切り替えれば、今の状況でもそれほど気を滅入らずに過ごせそうだった。


 いざ、レストリアブールへ。


 当面のスローガンはこれだ。

 そしてそこに到着したらレイチェルが教えてくれた太陽の時代の手がかりについて調べるのだ。

 レイチェルの故郷であるサルエレムはそこからさらに南の地域らしいが、それでもまだ見ぬ土地に対する期待値は高い。

 今更もとの世界に帰ろうとは思わないし、帰れるとは思わないけれどもせめて自分がこの世界に来た原風景くらいは調べてみたい。

 そうすればもっとイルミ達と心を通わせることが出来る。


 そんな気がした。 

これで白の愚者編はお終いです。次回からは緑の愚者編です。よろしくお願いします。

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