第112話 「黄金剣」
お久しぶりすぎました。
早く完結させたいので二話連続で出します。
見られている感覚があった。砂漠のど真ん中、孤独と焦燥を感じながらただひたすら前に進んでいる。
こちらを見下ろしている星々も、遠くの海岸のさえずりも、砂粒が擦れる音も現実のように感じ取ることが出来る。
——成る程、これがマリアの言っていた監視の術式か。
そう合点が言ったときには眼が醒めてしまっていた。なかなかどうして新感覚である。
むこうも同じようにこちらの感覚を共有しているのだろか。いや、彼女は左目に刻んでいたから正確には見ているのだろうか。
「アルテ、アルテ。起きてくれ。ノウレッジが呼んでいるぞ」
現実に完全に引き戻してきたのは最早聞き慣れたレイチェルの声。いつもの作業着とは違った旅装に身を包んだ彼女はどこか新鮮な見た目だった。
「どうした。——厄介事か」
これからの旅路にびびり散らしている影響か、いつもの数倍はぶっきらぼうな口調が出てしまった。
だがレイチェルも慣れたもの。「いや、ケイプロス島が見えて来たそうだ」と、夕食代わりの白パンを投げつけてきた。
「人々の活動が始まる日没を持ってして上陸するそうだ。で、君には最初に巨人族との顔つなぎになって貰いたいらしい。まあ、確かに君ならば少々巨人がお手つきをしてもどうにかなるだろう」
レイチェルさんや、それは立派な厄介事だと思います。
いや、巨人族とか見たことないし、漫画やゲームなら神聖に片足突っ込んでいる種族じゃん。
多分一捻りでミンチみたいになって殺されるって。
「アルテ、これ新しい魔の力の薬。巨人族に会う前に飲んで」
ほら、イルミちゃんも警戒してドーピング剤渡してきてるじゃん。これ、本当に効果覿面なんだよな。飲んだ瞬間に魔の力が体中を駆け巡って、マジでこの世界の超人共と戦えるようになるのだ。なにで出来てるんだろ?
「おや、もう仕度はお済みですか。港には灯光信号で来航をお知らせしています。向こうからの返答によれば、島の長直々に歓迎してくれるそうですよ」
手狭な船室にノウレッジが現れたお陰で圧迫感が一気に増した。恐らく島の長という人物と面会したらこんな感じなのだろうな、と糞下らないことを考えていた。
00/ ヴァンパイア ジェネシス 第112話 「サイクロプス」
近くまで来ている。
それがマリアが目覚め一番に得た感覚。
「————寝顔を覗くのはおやめなさいと言った筈です。行儀が悪いですよ」
マリアの鼻頭がもう一つの鼻頭に触れている。赤い血を煮詰めたような瞳が、こちらを見ている。
いつかマリアが助けた吸血鬼になり損ないの少女だった。
「シャリア。あなたには生前の理屈や道理が備わっているはずです。それを大切にしなさい。でなければ正真正銘の畜生に身をやつしますよ」
シャリア、と呼ばれた少女は特段の反応を示さない。ただじっと、マリアの顔を眺めている。これは中々骨が折れそうだ、とマリアは小さく溜息を吐いた。
「やはり一度死に瀕したせいか、全ての行動規準があやふやになっている。言わば抜け殻、か。これならあの場で殺してやるべきだったか」
ちらりと視界の隅に映っていた鉄塊のような槌を見やる。薄暗い就寝用の天幕の中、それだけが鈍い光を放っている。もう幾度となく血を吸い続けたそれは振ろうと思えばいつでも振ることの出来る凶器。
しかしながら、シャリアを助けることを選択したどこかのぼんくらの顔がちらついてそちらに手が伸びることはなかった。
「ま、抜け殻なら今から中身を詰めてやればいいことか。シャリア、湯浴みに行きます。お供しなさい」
二人分の着替えと、シャリアの左手を引っ掴みマリアが天幕を出る。日は完全に暮れ、青白い月明かりが砂丘の輪郭を影絵のように映し出していた。そしてその影に纏わり付くように蠢く影と影と影たち。それらは全て、聖教会とロマリアーナが派遣した遠征部隊のものだ。
「——我が父ながら、ほんとよく集めましたね。死地に赴く覚悟をどうやって植え付けたのか」
諦めのような目線をぼんやりと影達に向けていれば、直ぐさま隣に人が立った。シャリアではない。彼女は三歩遅れて後ろにひっついている。いつもの従者二人でもない。二人には別件の用事を申しつけ、本隊から遠ざけたばかりだ。
なら、心当たりのある人物など一人しか思い浮かばない。
「ジョン、女性にそのように距離を詰めるのは行儀が悪いですよ」
どこぞのぼんくらや死に損ないの小娘のように。
「はは、これは手厳しい。何度も呼びかけていたのに、振り返りもしてくれなかったからこそ肩を叩こうとしただけですよ」
柔和すぎる笑みは人を不安にさせるんだな、とマリアは思った。あのぼんくらのように仏頂面オンリーはただただ不愉快なだけだが。
「——先遣隊がポイント・ゼロ。いわゆる禁足地に到達しました。死者98名。再起不能者5名。行方不明者3名。犠牲は心苦しい限りですが、今の我々の技術ではここが限界でしょう」
「なら最初からこんなところに来なければ良いのです。父が何を考えているかわかりませんが、わざわざ人的資源を擦り潰してまでやることではないでしょう」
沈黙。ジョン・ドゥは柔和な笑みを貼り付けたまま、マリアの言葉による追撃をただただ待っている。それがたまらなく苛立たしいので、マリアは特大の溜息を吐き出しながらジョンを睨み付けた。
「ここ最近、聖教会の遠征は度が過ぎているように思います。レストリアブールからここサルエレムまで余りにも間が短い。あなたは何を急いでいるのですか、ジョン」
どうせ答えは返ってこないだろう。そう結論づけているマリアは吐き捨てるように続けた後、シャリアの手を引いてその場を離れようとした。だが意外なことに、「時間がないのですよ」とジョンが言葉を漏らした。足が止まる。
「我々月の民に残された時間は残り僅かなのです。赤の愚者の暗躍により、終わりの時はもう直ぐそこまで来ている。狂人によって殺された愚者の数は3人。あと1人倒れると、月の時代が維持できなくなり太陽の時代に逆行するでしょう」
なんだそれは、とマリアは訝しげにジョンを見た。ジョンの言葉の意味を完全に掴みかねていた。
「マリアは考えたことがありませんか? そもそも七色の愚者がどういった存在なのか、と。殆どの人間が強大な力を持つ吸血鬼と認識していますし、それは間違いではありません。ですがそれだけでないのだとしたら? 彼ら彼女らにはきちんと役割があるのだとしたら?」
「役割って、世界の安定とかですか? 私の父のように治世に力を入れている愚者もいるでしょう」
「当たらずとも遠からずですね。我々月の民が、太陽の民から世界の支配権を簒奪したとき、報復を恐れた先祖達は愚者という存在を生み出したのです。強大な魔の力を持ち、太陽の民を殺し尽くす絶対的な存在。そして太陽の民が報復しようとも、それを押し潰してくれる庇護者としての存在を」
筋は通っている、とマリアは感じた。どれもこれも初めて聞いたことばかりだが、そう骨董無稽なことではないだろうと、ジョンの次の言葉を待った。
「ただ話をややこしくしているのが、愚者達はほとんどその役割に気が付いていないということです。恐らく愚者自身の使命や役割について理解して動いているのはあなたの父君くらいでしょう」
「なら父は月の民のため、愚者の役割を果たすために此度の遠征をしているというのですか?」
ほぼ答えはそうだろう。話の流れとしてそうなるだろうと感じてマリアは問うた。しかしながらジョンから帰ってきたのは意外な言葉。
「まさか、今も昔も彼は娘の貴方の為にしか動いておりませんよ。彼は、黄色の愚者は、自身の役割を理解した上で、それを利用してのける悪辣さが長所です。法王かつ、ロマリアーナの王族たる女との間にもうけたあなたを常に愛していますからね」
01/
巨人族はいうほど巨人ではなかった。それが第1印象だった。
いや、そうは言っても背丈は二メートルくらいはあるから、十分大きいのだけれどね。
「我々巨人族は随分と月の民との混血も進みましたからな。神話に残るような英雄ならとにもかく、今の我々はそうたいそうな存在でもありますまい」
上陸して最初、ノウレッジが地に膝を付け頭を垂れた。続いて上陸する俺もノウレッジの所作を真似してみせる。異文化との接触は勝手知ったる人間を真似るのが一番だ。そして俺たちを出迎えた集団は、その巨躯を小さく小さく丸めて俺たちの肩へ手を掛けてきた。
「歓迎致します。古き偉大な友よ。そちらはあなたのご友人ですかな?」
普通、集団の長というものは何かしら着飾っているものだが、巨人族はどうやらそうではないらしい。集団を率いていた長は一番質素な身なりだった。だが身に纏っている魔の力がただ者ではない。実力主義で長を決めているのだとしたら、この長は的確そのものだ。ノウレッジの眼前で膝をつく長がこちらを見る。
「ええ、その通りです。彼は友人であり元同僚であり、今の協力者です。信頼に足る、強き男ですよ」
おい、ノウレッジ。その元同僚という紹介はいらんだろ。船から様子を伺っているイルミちゃん達に聞こえたらどうすんだ。
「ふむ。成る程。では視てもよろしいかな?」
「ええ、どうぞ。加減はいりませんよ」
瞬間、全身の毛が逆立つ感触。接近する影は二つ。長の後ろに控えていた男二人。武器はない。素手。しかしながらその膂力は人体を容易に破壊せしめる凶器そのもの。
拳が飛ぶ。その腕を巻き取りながら懐へ飛び込む。黄金剣はつかわない。ただ、殺気に反応した義手が思い切り男の腹部を殴りつけた。
一人が吹き飛ぶ。もう一人がこちらの頭部へ回し蹴り。
掴み取る勇気はなかった。多分触れた部位が粉々に砕ける。足下の砂地を利用して、わざと足を滑らす。腰から地面に墜ちたものだから、頭上を足が通過していった。
空ぶった相手の足を引っかけ、砂地へ突き倒す。
黄金剣の刃を首元に突きつけて動きを止める。
「——成る程。あっぱれ。ノウレッジ殿が見込まれただけはありますな」
「アルテさん。流石ですね。やはりあなたを連れてきたのは正解でした。ところでイルミさん、もう事は済んだので、この狼たちを戻して頂けますか?」
みればノウレッジの首を今食いちぎらんと、大口を開けた狼が二匹召喚されていた。どうやらイルミは巨人族の方ではなく、ノウレッジの方へ狼をけしかけたみたいだ。いいぞ、もっとやっちまえ。
「これが顔つなぎ?」
イルミが絶対零度の目線で、船からノウレッジを見下ろす。返答次第では狼のアギトを閉じさせるつもりなのだろう。ノウレッジは「ええ、」と脳天気に言葉を返した。
「彼らの信頼と協力を勝ち得る最上の方法です。アルテさんを選んだ私の目に狂いはなかった。それに、彼が負けるとは微塵も考えなかったからこそ、私の方に狼を遣わせたのでしょう?」
ノウレッジに対して、イルミはつまらなさそうに「そうね」と言葉を吐き捨てた。そして同時に狼たちは霧散していく。
「——驚きました。まさか古代の召喚外法を使いこなす御仁までいらっしゃるとは。よろしい。皆様方を、このケイプロス島に足を踏み込むにたる勇者として歓迎致しましょう。数々の無礼、ご容赦くだされ」
いやほんと、歓迎の仕方が手荒すぎません? この世界に来てから、異文化に対して警戒する癖がついてきたけれど、問答無用で襲いかかられたのは恐らく初めてだ。何となく、強者を尊重する文化というのは理解できるが、それにしてももっと他にやり方もあるだろうに。
「——今回は特別ですよ。事前に私が認めたつわものがやってくると伝えておいたのです。誰これかまわず襲いかかっていては文明が成り立ちませんよ」
隙をみてノウレッジがこちらに耳打ちをしてくる。いや、それは事前に説明しとかんかい。間違って俺が相手を殺していたらどうしていたんだ。
「彼らには客人としてもてなす文化と、つわものとしてもてなす文化の二つがあります。禁足地に隣接している厳しい環境だからこそ芽生えた風習ですね。ちなみにつわものと認められると、女を宛がわれて子をなすことを期待されますよ」
「殺すわよ」
いつの間にかイルミが下船して、俺たちの隣に立っていた。どうやら上陸のあれこれが整ったらしく、他の船員達も荷の積み下ろしを始めている。ノウレッジはイルミに対して困ったように笑いかけると、今更ながら釈明を口にした。
「今回は別にそれを期待してのことではありません。つわものして認められたときの別の特典目当てですよ。実はケイプロス島から禁足地に向かう場合、彼らの協力が必要不可欠な地点があるのです。その協力を取り付けるためには、彼らにアルテを認めて貰う必要があったのです」
なんでその地点とは? と問いかけようとしたが、あとから追いついてきたエンディミオンの面々がノウレッジに話しかけ始めたのでタイミングを見失ってしまう。レイチェルだけが「災難だったな」と小さく肩を叩いてくれた。
「で、子は成したいのか?」
なんちゅーことを聞くんだ。ユーリッヒに聞かれたらズタボロにされそうな質問だ。
「もう十分だ。俺は彼女を救うことに忙しい」
だろうな、とレイチェルが満足そうに頷く。彼女は「二人でヘルドマンを運ぼう。彼女も少しばかり、外の風に当たったほうがいいだろう」と提案してくれた。イルミもまたそれに付き合ってくれるそうで、三人で担架に乗せられたヘルドマンを船から運び出した。
「手間を掛けさせますね。自分一人で歩くこともままならないとは、なんとも情けない」
満月ではないのが残念だが、月の光が少しでも彼女を癒やしてくれたら、と思う。禁足地まで行けば、ユーリッヒの心臓を奪った奴に会うことが出来るらしいが、残された時間は限られている。
少しでも早く、このケイプロス島から禁足地に向かいたいとそう思った。
02/
歓迎については普通の酒宴だった。濃いめのワインと肉料理、魚料理が中心に振る舞われる。気になったのはイルミとレイチェルの二人とは違う席に案内されたことだ。ノウレッジと俺、そして巨人族の長の三人で、円卓を囲んでいた。長の名はドルギスと言うらしい。
「なるほど、禁足地に設けていた桟橋にアレが出現したと。それは由々しき問題ですね」
長は円卓の席で、禁足地の玄関口の現状を語り出した。彼が言うには、これまで禁足地へ上陸するときに使用していた桟橋が現状、使用不可能になっているらしい。
「――アレとはなんだ?」
事情を理解しているらしいノウレッジに問いかける。彼は肉のかけらをつまみながら、やや酒で赤くなった顔でつらつらと言葉を続けた。
「サイクロプスですよ。禁足地を縄張りにしている古い魔物です。ただ魔物といっても知性の高い種族です。かの魔物は神槍と呼ばれる聖遺物を守護する存在として語り継がれています」
「神の槍?」
二つ目の俺の疑問には、ドルギスが答えた。
「太陽の時代にこしらえられたという、太陽の力を宿した槍です。月の民は魔槍と畏れていますが、禁足地の民たちにとってはそうではない。その槍を奮い、禁足地を護りつづけている存在こそがサイクロプスなのです。ですが、かの魔物は禁足地を守護する存在というだけあって外からの侵略者に牙を向く。本来ならもっと内陸に陣取っていたはずが、なぜかここ最近は海の側に現れているのです。一月前、交易に向かった若者たちは誰も帰ってこなかった」
「おそらく聖教会が内陸から追い出したのではないでしょうか。いくら太陽の力を振るうと言っても所詮は1つの個体に過ぎない。組織的な軍隊であるロマリアーナと、対吸血鬼のスペシャリスト集団の聖教会相手では部が悪いでしょうから」
うーん、だとしたら思わぬ障害になってしまっているな。こちらとしてはなるべく早く禁足地に向かいたいのに、その玄関口に強力な魔物が陣取ってしまっているわけだ。ノウレッジもイルミもいるし、倒せないことはないだろうが、時間のロスは避けられないだろう。
「もしかの魔物を討伐することができれば、相応の謝礼をする用意はある。なんなら禁足地の道案内をあなたたちに同行させてもいい。どうか討伐を考えてはくださらんか」
03/
「断る理由はないだろう。僕のゴリアテも持ってきている。戦力としては十分すぎるくらいだ。今更何を躊躇う必要がある」
その日の明け方、就寝の準備をしながら俺とイルミ、レイチェルは作戦会議を行なっていた。
γはヘルドマンの体を濡れ布巾で清めてくれている。会話には参加していないが、雰囲気からして聞き耳は立てているのだろう。
「躊躇いはない。ただ嫌な予感がする」
これは怖気付いたわけでもなんでもなく本当のことだ。αに呪いを刻まれてから、ときたまこういった予感のようなものを感じるようになっている。
なんとなく嫌な感じだな、と思った時は本当に碌でもないことが起こるのだ。
「アルテの勘は馬鹿にはできないわ。私も何か引っかかる。特に神の槍とかいう聖遺物。もしかしてそれ、アルテの黄金剣と同じ存在なんじゃない?」
イルミが指差したのは壁に立てかけられている黄金剣だ。名前は知らない。いつの間にか、この世界に来た時から手にしていたやけに切れ味のいい金色の剣。
聖遺物ねえ。確かノウレッジから教えてもらったけ。禁足地で発見された太陽の時代のオーパーツたちって。
「パラケルススの魔剣。私たちは黄金色の剣をそう呼んでいますよ」
不意にγが口を開いた。三人してそちらを見てみれば、彼女は呆れ顔でこちらを見ていた。
「というか、それがなんなのか知らずに使っていたのですか。命知らずな」
え、太陽の力を流しやすい便利な剣じゃないの?
「パラケルススというのは太陽の時代に卑金属を黄金に変える技術を作り出した錬金術師の名。その名の通り、正しく使えば、斬りつけたものを全て黄金に変えてしまう魔剣です。ま、どうやらただの切れ味の良い剣として使っていたみたいですけど。通りで合点がいきました。人類最強を両断した時も、どうしてその権能を使わないのか疑問だったのですが、使い方を知らなかったのですね」
衝撃の事実! まさかこの剣がそんな厨二病な能力を持った剣だったなんて! え、めちゃくちゃ格好いいやん。
「だとしたらどのように使用すればその力を行使できる? 斬りつけたものを黄金に変えれるのならば、切り傷一つ負わせるだけで致命傷まで持ち込める。黄色の愚者、人類最強を相手どる中で心強い力になるではないか」
レイチェルの言葉にγは視線を逸らした。それは事実を告げるべきかどうか迷っているような視線。
「――その剣は使用者の魔の力を刀身に流し込むことで権能を行使します。斬りつけたものが金属から遠ければ遠くなる程、必要な魔の力は増えます。例えば銀などの金属に傷をつければ大した魔の力なしで黄金化が進行します。ですが、生き物となるとそれこそ愚者クラスの魔の力が必要になるでしょう」
だめじゃん。俺じゃダメじゃん。ていうか金属なんて斬ったことなかったから全然気が付かなかった。いや、人類最強の甲冑は斬ったよな。あれ、あれはどうして力が発動しなかったのだ?
「あ」
声を上げたのはイルミだった。彼女はどうして今まで気が付かなかったのか、と歯噛みを一つした後こちらに向き直る。
彼女はその赤い瞳で俺を見てこう言った。
「人類最強、殺すのそう難しくはないかも」