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arbeit

学校にいる間、アイはちょくちょくメールを送ってくるうようになった。

『今日もバイト?』

『そうだよ』

 と送信。

 せめて休み時間ならいいものの、授業中に送られてきては少し面倒なことになる。

 少々騒がしい授業中なら気づかれることはないが、シンと静まり返った授業中ではたとえマナーモードにしていてもバイブの音は割と響く。そしてアイのやつはすぐに返信しないと立て続けに送ってくるもんだから困る。先日は少しでも音が漏れないようハンカチで携帯を包みこむのに必死だった。

 なので授業中は電源を切ることにした。

 しかし授業が終わりいざ電源をつけてみると受信メールが二十通もあった。

「……」

 しかもどれもたいして意味のない内容のメールだった。

『学校にいるときは緊急のとき以外メールするな。するとしても昼休みのときだけにしろ。みつかったら没収されるんだから』

 二十通のメールに対してそう返信して一息ついた。

「恵比寿君、なんか最近よく携帯いじってるね」

「え? ああ、ちょっとね」

 あまり周りにも目立たないように操作していたつもりだが、さすがに隣お席の熊谷さんまでには隠せていなかったようだ。

「誰かとメール?」

「まあね」

「まさか、彼女?」

「そんなんじゃないよ」

 誰か、っていうのすら怪しいものだ。

 話している間にもまたメールがきた。まったく、人の話を聞いているのか……。

 メールを開くとタイトルも本文もない。画像が一つ添付されていて、開くとあかんべーしたアイの姿が映し出された。

「はあ……」

「どうしたの?」

「あまりメールするなっていったら怒ったみたい」

「はは、寂しがりなんだよ。きっと」

「そうなのかね」

「あ、先生着たよ」

 熊谷さんの声に反応し素早く携帯をしまった。

 それから学校が終わるまではメールが来ることはなかった。一応は言うことを聞いてくれたみたいだ。

 学校が終わり、家に帰ることなくバイトへと向かった。

 バイト先は、まあ定番のコンビニだ。

 本来、高校生がバイトをするには学校の許可証なるものが必要らしいのだが。もちろん僕の通っている高校はバイト禁止なのでそんなものはない。

 ここでのバイトの前にいくつか他のバイトの面接を受けたが許可証が必要とのことでだめだった。

 しかしこのコンビニでの面接では許可証を出せとは言われなかった。よほど人手が足りていなかったらしく午前中に、面接を受けてその日の夕方からいきなりシフトを入れられた。

 基本は週四のシフトのはずだが大抵人手が足りないせいでシフトの入っていない日でも構わずに呼びだされる。

 部活もやっていないし、帰っても特にやることもないので別に構わなかったが。

 夕方のピークを過ぎ、ようやく来客が少なくなってきた。そしてもう一人のバイトは補充の作業へと移り、レジには僕一人になった。

 そんなタイミングを見計らったようにメールが来た。

『バイト何時まで?』

『十時まで』

 客がいないことを一度確かめてからメールを返信した。

 もうバイトを始めて一年以上たっているのでバイトの中では結構上のほうだった。そしてこの店自体それほど厳しくないので客さえいなければちょっとぐらいサボっていても誰も何も言わない。しょっちゅうシフトを代わっているせいもあって店長でさえめったなことじゃなきゃ僕に口出しはしてこない。といっても基本は真面目に働いている。

 客が入ってきたので急いで携帯をポケットにしまった。

「いらっしゃいま――あ、」

「あっ」

 入ってきた客は熊谷さんだった。

「えーと、こんばんわ」

「……こんばんわ」

 思いがけない出会いに互いに何を言えばいいかわからずとりあえず挨拶を交わした。

「バイトしてたんだ」

「まあね」

「許可って?」

「もちろん取ってない。だからどうかご内密に」

「別に言わないって」

 熊谷さんは笑いながらそう言って店内の品物を物色し始めた。

 このコンビニは通学路からは程遠く周りは田んぼばかりなので同じ学校の生徒がくることは少なかった。きたとしても僕はあまり目立つほうではなかったので大抵気づかれることはなかった。

 同じクラスで、しかも隣の席の人という、ピンポイントでの遭遇は今回が初めてだった。

 またポケットが震えた。

『まだー? 暇だよー』

 無視しようとも思ったが特にすることもないので返信した。

『まだバイト中だ。だけどこっちも暇……』

「あ、携帯いじってるー」

 いつのまにか熊谷さんがレジの前まで来ていた。

「し、失礼しました」

「ははは、ねえ、いつからバイトしてるの?」

「一年、ちょっと前からかな」

 商品のバーコードを読みながら僕は答えた。

「そんな前から? たまにここ来てたけど全然知らなかった」

「家って、ここらへん?」

「うん、割と近く。自転車で十分ぐらいかな。週何ぐらいで働いてるの?」

「四か、五かな」

「そんなに? 何か欲しいものでもあるの?」

 熊谷さんはレジが終わってもその場で立ち止まり話を続けた。

「いや別に、強いて言えば免許の費用かな卒業したらすぐ取りたいし」

「免許かあ・三十万ぐらいだっけ?」

「そんなもんだね」

「偉いね、そんな大金を自分で払おうなんて」

「なるべく親に借りはつくりたくないし。それにここらへん田舎だろ? 足がないとどこにもいけないしね」

「確かに田舎だね。遊ぶとことか全然ないし」

「カラオケもゲーセンも駅のほうまで行かないとないしね」

「ねえ、バイト何時まで?」

「十時まで」

 熊谷さんはレジの上の時計を見上げた。丁度九時を指していた。

「残念、もうすぐ終わるようなら一緒に帰ろうと思ったのに。じゃあね、また明日」

 熊谷さんは最後に思わせぶりなセリフを残して店を出て行った。

 残りの一時間、訪れた客はわずか二人だった。客がいないときはレジの中で何をするでもなくぼおっと突っ立っていた。

 十時になり、バイトが終わった。

 この店の行く先を心配しながらも家路についた。

「遅い―」

 パソコンをつけるとすぐにアイはそう言った。

「仕方ないだろ、バイトなんだから」

「暇だから一つのアニメ見終わっちゃったよ」

「アニメなんか見てわかるのか?」

「うん、楽しいよー」

「そうだ、お前メール送りすぎ」

 僕は少し口調を強めて言った。

「だって……、暇だったんだもん」

 アイはしょげ返った様子を見せた。

「……ああ、じゃあ――」

 僕は携帯を操作して一つのアプリを起動させアイに見せた。

「何これ?」

「携帯どうしてチャットするアプリ。これをパソコンでできるようにできるか? これなら無料だしいくら使ってもいいけど……。バイブ音の音量や長さも設定できるからまあ、授業中でもそんな目立たないし」

「わかった!」

 数分後にはアイはどんな技を使ったか知らないが僕が示した携帯用のアプリを使って僕の携帯にメッセージを送ってきた。

『これならいつでもいいんでしょ?』

「……いいよ」

 結局、これからも頻繁に携帯をいじることになりそうだ。


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