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小火騒動から数日、特に事件が起こるわけでもなく僕は平穏に過ごしていた。

「オセロしよー、オセロ」

 スピーカーからアイの声が突然聞こえる。

「またかよ。よく飽きないな」

「カオルに余裕で勝てるようになるまでは飽きないよ」

 相変わらずアイは僕に勝てないままだった。

「それにしてて……」

「ん? 何?」

「前は――、声が出る前は画面に表示されて視覚で捉えることができたけど今は耳だけだからな、目が疲れなくて楽になったと言えば楽になったけど、なんか存在が希薄になったよな」

「存在が希薄……」

 アイはどことなくショックを受けたような声で言った。

「アイ……?」

 その後何の反応も示さなかったので心配になり声をかけた。

「要するに私が見えればいいんだね」

「どうする気だ?」

「待ってて、ちょっと修行してくる」

 あ、デジャヴ。

 それから暫く呼びかけても反応がなかった。

 しかたなく僕はパソコンのの前を離れベッドに横になりながら特に興味もないテレビを眺め始めた。

 その日はいつの間にか眠りについていた。

 そして翌日。

 バイトから帰り、アイの修業の成果がどうなっているかを少し期待しながらパソコンを起動させた。

「おかえりー」

「うわっ!」

 突如として画面上に何かが現れた。

「ははっ、驚きすぎだって」

「……」

 画面に漂っているのは3Dでできた女の子のキャラクター。

「どうしたのー?」

 声に合わせてそのキャラクターの声と表情が動く。

「アイ、か?」

「うん。どう? 可愛い?」

 そう言って画面のキャラクター――、アイはくるっと一回転して見せた。

「まさかそれも僕の好みに合わせて作ったって言うのか?」

「そうそう」

 アイは得意げに笑った。

 グラフィックはかなり綺麗にできていて細部まで見て取ることができる。ほっそりとしていて身長は、わからないが等身から見て160前後かな。髪はストレートで肩より少し長いぐらい、目は切れ長でなぜか瞳の色は青。あいつはどうやって僕の好みを判断したんだ?

 そして服装は無地の水色のパジャマ。

「何故パジャマ?」

「だってもう夜でしょ」

「まあ、そうだな……」

「ねえ、どう? 気に入らないところあったら直せるけど……」

「いや、いいよ。そのまんまで」

「よかった」

 そういって画面の中のアイは微笑む。

「……」

 試しにアイのいる画面の上をつついてみた。このディスプレイはタッチパネル式なので直接画面を触ってクリック、ダブルクリックができる。

「ちょっと! 何!」

 アイはびくついて驚く反応を見せた。

「おお、触れるんだ」

「急に触らないでよ。ブレインインウェーブの位置で何処にいるかはわかるけど姿は見えないんだから吃驚するじゃない」

「位置は分かってたんだ……」

 それは初耳だった。

「そうだ。ねえ、カメラ付けてよ」

「カメラ? なんで?」

「だってそっちから私は見えるのに私からは見えないんて不公平じゃない」 

「えー、面倒くさい……」

「いいじゃない。カメラ、カメラ―。私もカオルがどんな顔なのか見てみたい」

「……わかったよ。今度買ってくるよ」

 まったく、なんでプログラムに物をねだられなきゃいけないんだ。

 だけど、不思議と悪い感じはしなかった。

「ありがとー。明日ね、明日!」

「はいはい」

 画面の中では風でも吹いているのかアイの髪は微かになびいている。

 初めは文字で次は声、そして身体? をアイは手に入れた。どれだけ人間に似せようがアイはプログラムで実際にはいない。存在しない。感情があるようにみせてもそれは人工知能。そんなことはわかっているけど、だけどアイという存在を愛おしく思い始めている自分を実感できた。

 認めたくはないがそれはたしかな自分の感情だった。

「はあ……」

 思わずため息が出た。

「どうしたの?」

 自分が原因だとも知らずにアイは無垢な顔でそう言った。

 少しいらっとしたので画面の愛に向かってでこぴんをかましてやった。

「痛っ!」

 痛覚じみたものまであるらしい。

「何するの!」

「なんとなく……」


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