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voice

「なあ、アイ」

 その日は珍しく僕のほうから声をかけた。

『何ー?』

「お前、声って出せないの?」

『声? なんで?』

「いや、お前のことだから音声ソフトかなんか使ってできのかなって思っただけ」

 実のところ理由は他にもある。いちいち画面に目を向けるのが面倒くさい。アイと会話するには絶対ディスプレイの前にいなければならない。そして毎回鳴るビープ音も少々うざったいのだ。

『たぶんできるよー。ちょっと待ってね』

 持つこと数十秒、スピーカーからビープ音以外の音が響いた。

「ハロー、聴こえる?」

「おぉ、聴こえる、聴こえる!」

 確かに人間の声だが、いかにも作ったって感じ発音が微妙な声だった。

「やっぱ機械っぽいな」

『むー、やっぱ機械っぽいね。声も私のイメージとはなんか違うし』

 アイは一言発しただけでまた直ぐに文字に戻ってしまった。

「なんで戻るんだよ。それになんだよお前のイメージって」

 イメージもなにもないだろうと、おかしくて少し笑ってしまった。 

『私はもっと人間っぽくしたいの。こんな機械っぽいのじゃ嫌』

「変なところこだわんなよ。聴き取れればいいよ」

『ていうかなんで喋ってほしいの?』

「いつも僕ばっか喋っててさ、いや……言葉数でいえばアイのほうが多いけど。やっぱ喋って、返ってくるのが文字っていうのは味気ないし、寂しいしな」

 面倒くさい、ってのもあるけどこれも本心だった。

『……うん、わかった。喋れるよう修行してくる』

「修行だって?」

「うん、待っててね」

「おい、有料ソフトとか勝手に使うなよ」

 暫く待っても返事はなかった。

「おーい、アイー」

 その後何度か呼びかけても結局一度も反応を示さなかった。

 そして翌日。

 恐る恐るパソコンを起動ボタンを押した。起動するまでを待ち遠しく感じたのは初めての経験だ。

 やがてパソコンが起動した。

「……」

 いつもなら真っ先に聴こえてくるはずのビープ音が中々聴こえてこない。

「アイー……」

 呼びかけてみるが反応がない。

 もしかしてまだ修行中だろうか?

「――ル……」

「ん?」

 ふと何か聴こえた気がした。

 耳に神経を集中させた。

「カオルー」

 今度は確かに聴こえた。

「アイか?」

「き、聴こえる?」

「おう、聴こえる聴こえる」

「なんか、話すのって緊張するね」

「ははっ、何が緊張だよ。それにしても、昨日ちょと喋ったときとは比べ物にならないほど流暢になったな」

「ふふんっ」

 どこか自慢げな笑い。こんな声までだせるようになったのか。知らない者が聴いたらこれがプログラムだなんて思いもしないだろう。

「どうやったんだ?」

「秘密。だけど頑張ったんだよー。カオルの要望に答えるために」

「まあ、確かに喋れるかとは訊いたけど、ここまでの完璧さまでは求めてねえよ」

「えー、せっかくカオルの好みとかも考えて頑張ったのに」

「おい、なんだよ僕の好みって」

 声の理想なんてアイに語った記憶はない。

「カオルが見てるアニメで研究したんだよ。アニメを見ているときのカオルの微妙な生体の変化をブレインウェーブで読み取って好みの声、嫌いな声、好きな髪形、好きな体型、好きな仕――」

「やめろー!」

 まったく、恐ろしい奴だ。確かに今のアイの声は好きだったキャラクターの声に何処となく似ている。

「カオルがアニメ見てる間、何もただおとなしくしてたわけじゃないんだよ」

「まったく、勝手にプロファイリングするな」

「いいじゃない。カオルのことは何でも知りたいの」

 不覚にも、今のセリフに少しどきっとしてしまった。相手はプログラムだっていうのに……。軽く自己嫌悪に陥った。

「ま、これでビープ音の嵐から解放される」

「ははっ、今までうるさかった? ごめんね」

 こうしてアイは名前に次いで声まで手に入れた。

 どんどん人間っぽくなっていくアイはどこまで成長するのだろうか?


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