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バイトから帰り、パソコンを起動し、ネットでアニメを見ながら体を休めていた。
『ねえ、カオル』
「何? そして邪魔。あと十五分ぐらい待て」
『(*_*)』
画面を遮っていたウィンドウが現れては消えた。
それにしても最近コイツは顔文字まで使うようになっていた。
そして十数封後。
『ねえ、カオル』
「何?」
『どうしてカオルはカオルなの?』
「はあ?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
『ごめん間違えた。どうしてカオルはカオルって名前なの?』
「さあ……、僕の親にでも訊いてくれ」
『名前の由来ぐらい訊いたことないの?』
「そういえば、ない。別に知りたいとも思わないし、しょうもない理由だったらへこみそうだ。意味ぐらいは調べたことあるけどな」
『郁……香りがいい、かぐわしいとかって意味だよね』
「……ああ、てかなんでわかるんだよ」
すぐさま答えが返ってきたことに若干驚いた。
『ネット繋がってる状態だったら大体のことはすぐ答えられるよー』
ふと思いつき本棚に並べられた分厚い辞書を取り出してきた。買ってもらって使ったのはこれが初めてだ。
ぱらぱらと適当にページをめくって目にとまった単語を言った。
「慟哭」
『声をあげて泣くこと』
「僥倖」
『思いがけず、偶然に得る幸運』
「臥薪嘗胆」
『努力を重ねること』
便利だなコイツ……。
「歔欷」
『すすり泣くこと。ねえ、もういいでしょ、それより!』
「それより?」
なぜか直ぐには答えずコイツは数秒間を空けて答えた。
『名前、つけてよ』
「名前? お前に?」
『そう。私に』
「自分の名前知らないのか? お前を作ったやつが何かしら付けたんじゃないの? お前のプログラムの名前とかそれじゃないのかよ。そういえばおお前何処にあるんだよ、全然見つかんね」
『それが、私が何処にあるのか、私にもわからないの。このパソコンにあることは確かなんだけど。私自身何回も探したけど見つからなかった』
「本当かよ・・・…」
疑いをはらんだ声で僕は言った。
『本当だって。ねえ、だから名前つけてよ』
「名前ねえ……」
顔文字使って感情を表現したり、そして名前を持ちたがったり、なんかどんどん人間らしくなっているような気がする
それにしても名前ねえ。
暫く考え、そして一つの名前が思い浮かんだ。
「よし、アイでどうだ」
『アイ……愛、それは私が所詮プログラムで愛がないからせめて名前ぐらい愛にしよって皮肉?』
「いや、そんな……」
『それとも、人工知能、Artificial Intelligenceの頭文字をとってアイ? 所詮私は作られたプログラムでしかないって意味?』
実際そうだろ、とは言葉に出して言わなかった。
「そうじゃないって」
『じゃあ、なに』
明らかに怒っている口調、ならぬ文字調だ。雰囲気でしかないのだけど。
「いや、初めてお前に会った、っていうと変だけど、初めてお前が現れたとき言っただろ『私は私』って。だからお前はお前。私……英語でアイ」
『まあ、それで納得してあげる』
「別に嫌なら他に考えるけど」
『いい! これでいい! これからちゃんとアイって呼んでね』
「わかったよ。アイ」
こうして、コイツ改めアイに名前がついた。