othello
『ねえカオル、何してるの?』
「特に、何も」
本当に何もしていなかった。ただぼーっとテレビを眺めていただけだった。
『暇だよー、退屈だよー』
「退屈って……、プログラムのお前が何言ってんだ。それに、僕にどうしろって言うんだ」
未だにプログラムに話しかけるのには抵抗、そして独り言を言っているような気恥ずかしさがある。
『遊ぼうよー』
「どうやって?」
『こうやって』
すると突然ブラウザが起動された。表示されたページはいつもホームに設定されているページではなくとあるゲームサイトだった。
そのゲームサイトは各種ボードゲームやトランプ、パズルゲームなどをネットを介して対戦するサイトで以前少しだけはまっていた時期があった。
周到なことにログインは既に済まされていた。
もしかしてこいつ、優秀なハッカーに匹敵する能力を持ってるんじゃないか?
「で、何するんだよ?」
『じゃあ、このオセロってやつにする』
僕はオセロのゲームに入った。
そこにはいくつかの部屋がありプレイヤーはそこで対戦をする。対戦中と表示されている部屋、そして『上級者募集中!』、『初心者です。お願いします』などとメッセージが書かれた募集中の部屋がる。
それはすぐに目に入った。
『カモン、カオル!』
一番新しく作られた部屋にそんなメッセージが書かれていた。僕はすぐにその部屋にはいった。
『じゃあ早速やろうー』
その部屋のチャットにそう書かれた。
僕は別に声で答えればよかったのだが、同じようにチャットに『OK』と書き込んだ。
ふと対戦プレイヤーの名前を見てみたが何も書いてない。現在この部屋にいるプレイヤーを見てみても僕一人しかいない。
それでもゲームは始まった。
恙無くゲームは進み、そして終わった。珍しいことにゲームの最中、コイツは一言も喋らなかった。
盤上はほとんど白で埋め尽くされていた。ちなみに僕が白。弱っ! 弱すぎる。
『もう一回』
そう一言だけ告げると自動的に次のゲームが始まった。
数封してゲームが終わる。
結果はまたしても僕の圧勝。
『もう一回!』
「おいおい、なんでお前こんなに弱いんだよ。プログラムだろ?」
意外だった。将棋、囲碁、チェスなどのゲームは既に人間はコンピューターに勝てないと言われているっていうのに。
『うるさいな。いいからもう一回』
その文字からどこかコイツが怒って様に思えて面白かった。
「はいはい」
そして始まった三回戦、さっきよりは黒の面積が増えたが結局は僕の勝ちだった。
「はははっ、本当に弱いな」
思わず笑ってしまった。
『うるさい、うるさい!』
チャットルームではなくそれは大きなウィンドウで画面いっぱいに現れた。
『負けたのはまだ慣れてないだけ。公平に勝負しようと思って基本的なルールしか読み込んでないからなんだから! ここの最強に設定されているアルゴリズムを読み込めばカオルなんかに絶対負けないんだから!』
「そんなむきになるなって」
『もう一回!』
「もう疲れたよ。ちょっと休憩。……それにしてもお前に感情ってあるんだ」
『感情?』
「いや、気のせいかもしれないけど、なんか怒ってるように見えてな」
『そう、この感じが怒るってことなんだね。知識としては知っていてもそれがどんなものかわからないことがまだ私には多いの。これが怒る……、喜怒哀楽の怒ね。また一つ賢くなったよ』
その台詞を僕は複雑な思いで見ていた。
もう数週間コイツとは一緒にいるがまだまだわからないことが多い。本当にプログラムが感情を持つことなどあるのだろうか。SF映画じゃあるまいし。
いったい誰がコイツを作ったんだろう? そして何故僕のパソコンに?
『ねえ、もう一回!』
「はいはい」
まあいっか。考えても仕方ないし、調べようもない。
結局その後、二時間にわたりオセロをさせられた。