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dvd

今日はバイトがなかった。

 帰りのホームルームが終わった後もどうしたものかとまだ席に座ったままだった。

 今日は一度もアイからのメッセージはなかった。

 アイが映画の話をした日以来、バイト中にメールをしてくることはあっても、学校にいる時間帯にメッセージをよこしてくることはなくなった。

 最初はうざったかったが、無くなったら無くなったで寂しかった。

「あれ? 今日はバイトないの?」

 帰り支度を済ませた熊谷さんがまだ席に着いたままの僕にそう言った。

「うん。珍しく休み」

「休みのほうが珍しいって……、働きすぎだよ」

「そうかもね」

「今日はもう、予定ないの?」

 バイトのない日は大抵直ぐ帰ってだらだらと眠りに着くまでの時間を無駄に過ごしてきた。

 お金にはまあ余裕はあるし趣味の一つでも持とうといつも思っているが気力がわかない。

 あ、そうだ――。

「久々に映画でも見ようかと思ってる」

 たったいま思いついた。

 以前アイがあらすじを話してくれた映画『A.I.』を見てみたくなった。

「映画かあ、今なにか面白そうなのやってたっけ?」

「あ、いや、DVD借りて家で見ようかと」

 世俗に疎い僕は今やっている映画など一つも知らなかった。

「そっかDVDか。ねえ、私も行っていい? ちょうど借りたいCDあったし」

「うん、いいよ」 

 といっても田舎町のなかにある学校なので近くにレンタルビデオ屋はなかった。自転車でもいけないこともないが三十分弱漕いでいかなければいけないので僕らはバスで向かうことにした。

 バスに揺られること十数分、歩くこと数分かけてようやく僕らはレンタルビデオ屋に着いた。

「じゃあ、私ちょっとCDみてくるね」

「うん」

 僕は映画のあるコーナーに足を向けた。

 アクション、SF、ホラー、刺激、コメディ、ラブストーリー……、一口に映画といっても様々なジャンルに分けられていた。

「まあ、SFだろ」

 そう思い映画の中のSFのコーナーへ足を向けた。

 どうやらタイトルの五十音順で並んでいるようだった。

 棚の一番上から目を凝らして探した。

『A.I.』

 背表紙にそう題されたDVDを見つけた。

 背伸びしてなんとかそのDCDを抜き取った。裏に書いてあった小さなあらすじを読む限りアイの行っていた映画に間違いないようだ。

 目当ての物を見つけたのでCDコーナーに行き熊谷さんを探した。

 彼女はまだ棚の前で吟味していた。

「あ、もう決まったの?」

 僕に気付いた熊谷さんがそう言った。

「うん」

 そういって『A,I.』のDVDを見せた。

「一本だけ? しかも旧作? せっかくなら最近の新しいの借りればいいのに」

「いや、友達が面白いって話してたから」

「その友達ってメールの?」

「うん」

「ふーん」

 僕は会員になっていなかったので借りれないとレジに行って知った。代わりに熊谷さんが僕の分まで借りてくれた。

「ごめん、僕の分まで。はいお金」

「ううん、気にしないで」

 店を出て僕らはまた少し歩き、バスに乗り、学校へと帰る途中だった。

「そういえば、このDVDっていつまで返せばいいの?」

「恵比寿君のは旧作だから一週間大丈夫だよ」

「そっか、でも今日見て明日返すよ」

「別にもうちょっとゆっくりでもいいけど」

「明後日からはまたバイトだから」

「そっか。ねえ、一緒にその映画見てもいい?」

「えっと、いいけど」

 特に何も考えず二つ返事で了承してしまった。

「ありがと」

 バスが学校へと着いた。

 正面玄関に生徒はほとんどいない。運動部の掛け声が遠くに聞こえた。

 僕たちは自転車を取りに駐輪場へと向かった。朝はぎゅうぎゅうに自転車が詰め込まれている駐輪場も今は僕達の自転車ふくめ数台しか見えなかった。

「じゃあ、どっちの家で見る?」

 自転車に跨った彼女はそう言った。 

 一瞬、熊谷さんの言っていることを理解できず僕はきょとんとした顔をした。

 そして数分前のやり取りを思い出した。

「私の家は今、お母さんいるんだよね。そして居間の50型テレビは大抵今の時間は占拠されてるの。韓国ドラマにはまってて。私の部屋にはテレビないし……。恵比寿君の家は?」

「あー、両親は共働きだからいないよ。テレビは居間にも部屋にも……」 

「じゃあ、決まりだね」

 決まったらしい。

 断る理由も思いつかず、僕は自転車を漕ぎだし、後に熊谷さんが続いた。

 嗚呼、どうしよう。

 自転車を漕ぎながら僕は思った。

 今まで家に帰るとまずパソコンを付けていた。そして「おかえりー」というハイテンションなアイの声に出迎えられていた。だけど、今回はすぐつけるのはまずい気がする。かといって付けなかったらアイに怪しまれることだろう。何せ携帯を持っている時点で僕の居場所はアイに丸わかりなのだ。

「どうしたの? 難しい顔して。もしかして迷惑だった?」

「いや、大丈夫」

 いっそのこと携帯だけバイト先においてこようか、充電が切れたことにして電源を切ってしまおうか、電源入れていたらGPS機能って使えないよね?

 なんて馬鹿なことを考えているうちにも家に着いた。

「お邪魔します」

「じゃあ、こっち」

 そう言って僕は居間へと進んだ。

 居間のテーブルには今日の朝刊だけが置かれている。ソファー、向かい合ってテレビ。他には余り物はない。僕の家族は各々が各部屋にいることが多いのでこの部屋はあまり使われることはなかった。

「へー、広いね」

「テレビは熊谷さんちのより小さいけどね」

 42型の液晶テレビだ。

「ねえ、なんか広いと落ち着かないから恵比寿君の部屋で見ない?」

「えっ……」

「だめかな?」

「いや、いいけど」

 内心、あまりよくはなかった。

 ため息を押し殺して自室へと続く階段を上った。

「どうぞ」

「お邪魔します。綺麗な部屋だね」

 綺麗というより物がないだけだった。

 パソコンと後は必要最低限の物しかなかった。テレビだってめったに点けることはなかった。

「じゃあ早速みようよ」

 熊谷さんはそういって自らテレビの下に設置されたDVDプレーヤーに先ほど借りてきたDVDをセットした。

「よいしょっと」

 そして、そう言ってベッドに腰掛けた。

 僕は椅子に座ろうとしたが熊谷さんはぽんぽんと彼女の横のスペースをアピールし、横に座れと促した。 

 こうして僕たちは二人してベッドに腰掛け、映画館所を始めた。

 どうしてこうなったんだろう。


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