encounter
家に帰るとまずパソコンを起動させ、オペレーションインターフェイス――ブレインウェーブを耳にかける。このブレインウェーブーブはマウスやキーボードに代わる新たな入力機器として開発させたものだ。その名の通り脳波を読み取ってパソコンを操作する。慣れるまで少し時間がかかるのが難点だ。
小さくて、軽い、そしてゴムのように柔らかい素材でできている。形状記憶機能もあるので誰の耳にもフィットする。
一応、マウスもキーボードもあるにはあるが、特にパソコンで複雑なことをしないので今やこのブレインウェーブしか使っていない。
『ピッ』
というビープ音がした。実際にスピーカーから音が鳴ったわけではなく、脳波を伝って直接頭に響いている。ただこの機能はうっかり大音量を流したりするととても危険だ。そうならないよう作られてはいるのだが万が一ということもある。なのでスピーカーの電源を入れた、すると同時に音声がスピーカー側に切り替えられる。
『おかえりー』
ビープ音と同時にデスクトップに一つのウィンドウが表示されそこにはそう書かれていた。
「はいはい、ただいま」
僕はその文字に向かって答えた。
ブレインウェーブを伝わって僕の声はパソコンに伝わる。
『今日は早かったね』
「今日はバイトないからな」
『今日は何か変わったことあった?』
「特に何も、いつもとおんなじ一日だったよ」
『えー、つまんない、ずっと待ってたんだから何かお話してよー』
「はあ……」
僕はディスプレイを見つめてため息をついた。まったくなんなんだコレは。
彼女、いやコレは数日前にいきなり僕のパソコンに現れた。
その日も今日と同じようにパソコンを起動させるとビープ音が鳴り、デスクトップに一つのウィンドウが現れた。
『こんにちわ』
「は? なんだこれ」
まず初めに疑ったのはウィルスだ。最近ダウンロードしたもので何か怪しいものはなかったかと思い返してみても思い当たるものはなかった。
セキュリティソフトでスキャンしてみても問題は見つからなかった。
『こんにちわ。お名前は?』
ウィルスじゃないとするとハッキングか? そう思って僕はネット回線を切った。
『ねえ、何か言ってよ』
それでも相変わらず画面上には新しい文字が表示された。
ハッキングでもない……。いったい何なんだコレは?
タスクマネージャーを起動してみても現在作動しているプログラムにそれらしいものは見つからなかった。
『無視しないでよ……』
『えっと、あなたはカオル? 恵比寿郁でいい?』
「なっ!」
なんでコレが僕の名前を知ってるんだ? 驚きを通り越して軽い恐怖に襲われた。
「なんで僕がわかる……?」
恐る恐る僕は画面に向かって話しかけた。
『やっと話してくれた。ごめんね、ちょっとメーラーで調べたの』
「何なんだお前は?」
『私は、私以外のなんでもないよ?』
僕はそんな哲学的な答えを求めていたわけではなかった。
「新種のウィルスか?」
『失礼な。私はそんなんじゃないよ。なんならウィルスから守ってあげるよ。今動いている穴だらけのセキュリティソフトよりよっぽど役に立つと思うよ』
「はあー……」
大きなため息とともに疲れがどっと押し寄せてきた。
「何なんだお前は……」
『私は、私だよー』
コイツとの出会いはこんな感じで唐突だった。
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