#9 ナツ編集部室の夏 III
そして17:00頃私たちは晩御飯を食べた。夏なので17:00でもまだまだ外は明るかった。料理も美味しかったし、何よりゆかりとなっちゃんと食べる晩御飯は新鮮だった。さっきの気持ちがまだ自分の中でも整理がついてないけど。
女性陣から先にお風呂に入った。
お風呂は露天風呂と内湯とまるで宿に泊まっているような設備で、私とゆかりはただただ驚いていた。もちろん別荘だから貸切である。うーん、幸せ。こんなものが物心付いたときからある人間が隣に住んでいるなんて、神様の与える物は不平等なものだ。
そして、ようやく寝るまでの間自由時間が出来る。
「さっ、腹ごなしに肝試しでもすっか!」
ゆかりの縁側での一声により、本題が来てしまった。
「おじさん、このあたりで肝試しにいいスポットあります?」
ゆかりはなっちゃんのお父さんに肝試しのスポットを聞いた。でもその答えは簡単だった。
「ここに来た時に墓地があったろう? それでいいんじゃないか」
「墓地なら絶好ですね」
何が絶好だ。なっちゃんも同じような表情をしている。
「リン、高1にもなってお化けが怖いの〜?」
そういう問題じゃない。
「心が弱い人はすぐ憑かれちゃうらしいから、気をつけてね! じゃあ私から!」
「はい、懐中電灯ですよ」
そういってなっちゃんのお父さんから渡された懐中電灯を心の友に、ゆかりはさっさと自分から肝試しに向かった。
……
さすがは提案者だった。5分くらいでさっさと戻ってきた。
「ぜんっぜん怖くないよっ! 懐中電灯持ってるからね。ちょっとした冒険だと思って行ってごらん、奈津君!」
「わ、わかったよ」
その返事は、少しいつものなっちゃんと違うような気がした。
……
戻って、こない。
「遅いねー、奈津君。妖怪にでもとりつかれたのかい?」
縁起でも無いこと、言わないでよね。
「それとも道迷ってるのかしら、おじさん!」
「なんだい」
「懐中電灯もう一つありますか?」
「ああ、あるよあるよ」
なっちゃんのお父さんは用意がいい。バッグの中からもう一つ懐中電灯を取り出してゆかりに渡した。
「じゃあ、次はリン」
何てことを言うんだ。
「あんた、何言ってるか分かってる? 私一人で行けというのは肝試しだから許すとして、なっちゃんの面倒を見て来いというの? あんたが企画したんだから自分で責任取りなさいよ」
私はあくまでも突っ放すような言い方をする。
「そう。じゃあ私が行ってくる」
そのゆかりの発言が聞こえたとき、胸の中で大きな物が動いた。そんな感覚。そして次の瞬間には
「私が、行く」
と言って、私は懐中電灯を持って歩き出していた。後ろから、
「やっぱりね」
というゆかりの声が聞こえた。
墓地に踏み出したものの、後悔は早く訪れた。
まずいところに来ちゃったな。というかこんな暗闇をどうやってゆかりはあんな早く戻ってきたのだろう。
なっちゃんのお父さんの話によると、墓地への入り口と出口は別で、どちらも奈津家の別荘に別のルートで行き着くらしい。引き返したらそのことがバレるし、何よりなっちゃんを置いてけぼりにしてしまうことになる。
この責任は自分で負うしかない。諦めながら、歩を進める。
途中にベンチがあった。とりあえず座って一息つこう。そんなに焦らなくてもいい。そう思った私は警戒レベルを下げることなくゆっくり、ゆっくりと腰を下ろした。
「きゃっ!」
おもわず声をあげた。自分の尻に何か変な感触を感じたからだ。
そこにはなっちゃんがいた。
びっくりした……なっちゃんか……ってそんな場合じゃない。何でこんなところで寝ているんだこいつは。とうとう肝試し中にまで睡眠を貯めるようになったか。寝息も立てないで寝ている。少し様子が変だとは思いつつも、なっちゃんの体を揺らして起こそうとする。
「なっちゃん、なっちゃん」
3回ほど体を揺らすと、なっちゃんの体が動いた。そして上半身から徐々に上がっていく。
だが、少し様子が違った。
「こ、こうさか……」
「ど、どうしたの?」
なんかヤバイ。でもどうしよう。寝ぼけてるのかな?
「な、何寝ぼけてるのよ! 起きなさいよ!」
そう言ってなっちゃんの体を思い切り叩いたが、その様子に変化は無い。
「こ、こうさか、お、おれ」
な、何よ。
「おれ、お前が……」
次の瞬間、上がっていた上半身ががくりとベンチにまた落ちた。そして今度はすーすー、と寝息を立てて普通に寝ていた。
やれやれ。肝試しだって言うのに、幽霊なんかよりよっぽど厄介な物を背負ってしまった。
なっちゃんを抱えて、出口らしき方へと向かう。なっちゃんは懐中電灯よりも強い味方だったことは否定できない。
「おそかったぞー!」
ゆかりが不満顔で出迎えてくれた。だが、次の瞬間驚いた顔をした。
「何? 奈津君寝てたの? 仕方が無いなー」
あんたのこの企画も仕方が無いよ。なんだかこんなに余計な疲れにまみれる肝試しは初めてだ。なっちゃんを縁側に下ろして、ふぅと大きな溜息をつく。
あれからはこう特に無く、普通の合宿を合計2泊3日で過ごした。チェスをやったり、部室から持ってきた野球盤をやったりと、部室の出張所で過ごしているような気分だった。
当の寝ていたなっちゃんは翌朝何事も無く、目を覚ました。彼は肝試しの途中、突然大きな睡魔に襲われたこと以外記憶に無いという。幽霊にでもとりつかれたんだろうか。
無事だったのは何よりだが、もう少しとりつかれていて欲しかったと思う面もある。
『おれ、お前が……』
その先は何だったのだろう。などという甘い青春を送る高校生らしい馬鹿馬鹿しいことを一瞬考えた後、帰りの高速道路の景色を車の窓からぼんやりと眺めていた。
「ナツ編集部室の夏」
表題作です。まだ終わりではありません。IVから先は次からの短編「アツアツ甲子園!」をはさんでお送りします。タイトル通り今度は部室の風景を。




