#13 ナツ編集部室の夏 V
午後になると、宿題もあらかた片付いてゆかりも自分の家でできる程度の量になっていた。私は荷が下りたので、9月の学園通信のための原稿を書こうかとパソコンを起動した。甲子園は準決勝まで進んで負けるという初出場とは思えない好成績をたたき出してくれたおかげで、学園通信もかつてない利益を決算でたたき出してくれるのではないだろうか。
ゆかりはまだ問題集とにらめっこしている。なっちゃんはパソコンゲームをしている。うかつにも私は暇だなー、と漏らしてしまった。
「ん」
なっちゃんが反応した。
「暇なら面白いことはあるんだが」
面白いこと? 面倒なことにならないだろうね?
面倒だ。激しく面倒だ。場所は近所の駄菓子屋に移る。河川敷の上にある、昔ながらの駄菓子屋である。
「じゃあ、頼んだよ」
このおばちゃんとは幼稚園の時からの知り合いである。私達のこともよく知っている。で何を頼んだのかな? 今日の運勢はすごく悪い気がするのよ。事実悪かった。
次の行のはおばちゃんのセリフではない。私のセリフだ。
「いらっしゃいませー、カキ氷はいかがですかー」
何がそんなに悲しくて秋の兆しも見え隠れする8月31日に、カキ氷を食わなきゃいけないんだろう。それどころか何故カキ氷を売らなきゃいけないんだろう。
「なっちゃん!」
私はカキ氷をいそいそと食べるなっちゃんを睨んだ。なっちゃんは即座に弁明する。
「だますようなことはこれっ、ぽっちもしてないぞ」
「これっ、ぽっち」のところで人指し指と親指を使った。
「手伝うって言ってもバイトなんて……っていうか何故お前は食ってる」
「美味しいカキ氷をアピールしてるんだ。あー、お・い・し・い」
頭痛をこらえた顔にしか見えません。
そういえばゆかりは宿題の残りをすると言って帰ってしまった。昨日まで宿題が残っていない自分は優越感を持っていたが、今では利用されるだけの優越感に嫌悪しか残っていなかった。
いつしか部活の終了時刻も過ぎて夕方、夜になってしまったではないか!
そりゃあ、私だって怒る怒る。
「いい加減にしろ、この馬鹿!」
なっちゃんを思いっきり殴ってやった。
「お、おい! こら! やめろ!」
やめるものか!
「庄くん、お約束のもの用意できたよ」
その時、後ろにいた駄菓子屋のおばちゃんが声をかけてきた。私は殴るのをやめた。
「すみませんね」
「バイト料にはもってこいだろ。リンちゃんも楽しんでいきな」
え? 何を? そう思っていると私の背後から爆発音が響いた。振り向くと既になっちゃんは座っている。そう、花火だった。
「座れ。見えないんだよ」
何だか癪にさわるが、花火を見るとすーっと疲れが引いていった。いや体力的には変わらないんだろうけど、精神的に。正直ゆかりの宿題の話なんか言った割には午前に終わらせてたし、実はこの花火がなっちゃんにとってメインだったのではないだろうか。なっちゃんの夏にとって、学園通信編集部の夏にとってのメインイベント。それを私となっちゃんだけで見た。
花火が私達の夏休みの終わりを告げた。
次の日。9月1日。2学期の始まり。
なっちゃんは始業式には出た。いや出させた。でも以外とあいつにしては素直に出てきたほうで、
「ま、始まりをしっかりすることには意味があるだろう」
とのこと。
ゆかりは欠席だった。宿題が終わらなかったのかな、と思ったらそれは本当のことで今日は登校してからずっと部室にいたようだ。午前の式典が終わり、終業後に部室に行ったらいたので驚いた。ある意味なっちゃんよりも悪質なことしている気がするんだけど気のせいかな?
私達の夏はそうやって終わりを告げた。実はまだこれ以外にも話はもう少しあるんだけど、それはまた別の機会に。
「ナツ編集部室の夏」でした。
これでこの作品は終わりですが、シリーズ自体は始まったばかりです。しかし他にもいろいろ書きたいものがあるので、そちら優先で行きたいと思います。
それでは。




