異世界トリップ
結崎明帆共々、宜しくお願いします。
白木優綺、その少年の16年という歳月は平凡だった。
武術、スポーツに長けている訳でも無く、特段、勉学が秀でている訳でも無い。
特記事項があるとすれば、極度の女顔と言うだけだろう。
しかし、それを除けば、白木優綺は平凡と言う層のど真ん中を生きる、平平凡凡な日本国民の1人でしか無かった。
その日を迎えるまでは。
優綺は目を疑った。
辺り一面、白、白、白。まるで影が無い。
遠近感と言う概念すらない、この空間は優綺には些か不気味だった。
優綺は考えた。
うんうんと唸り、頭を抱え、何故此処にいるのか、記憶を搾り出す。
しかし、全く記憶が浮かばない。
昨日も一日、特に何かしたでも無く寝床に就いたはずだ。
優綺は再度、再三そう確認すると、じわりと恐怖を感じ始めた。
まだこれは夢の続きか、幻覚か、果ては死後の世界か。
多種多様な結論が優綺の脳内を駆け巡る。
いづれにせよ、この状態はマズイのでは?優綺のとりあえずの結論が決定した時、その人物は現れた。
「猪狩先生。」
突如、この空間に現れたその男に優綺は目を丸くした。
なんと、その猪狩とは優綺の通う中学校の担任教師だった。
「白木、お前死にたいか?」
優綺、二度目の驚愕。
猪狩は優綺の通う中学では温厚な教師として知られている。
その教師から、死ぬか?など猟奇的な言葉が発せられたのだから、驚くのも無理は無い。
「猪狩先生。…あなたがどうしてこんな所に?」
「俺は死にたいか、と聞いているんだ。答えろ。」
これでは会話が成り立たない。
それに、20代前半の一介の新米教師が放つ言葉では無い。
優綺は猪狩の醸す雰囲気に圧され、訳も分からないまま「生きたいです。」と答えた。
猪狩は、その答えを待っていた。とばかりに笑みを零した。
「猪狩先生。あなたは一体何なんですか…?この空間は一体…?」
本能が直接教えてくれる、この猪狩という人は何かを知っていると。
優綺は確信していた。
そして、猪狩が次に放つ言葉は優綺を更に驚愕させた。
「俺、実は神様なんだよね。」
流石にこれには声が出ない優綺。
そんな優綺の反応が面白かったのか、猪狩はご満悦な様子で言葉を続けた。
「勝手で悪いんだけど、白木には別の世界に行ってもらうから。」
「えっ‼ちょ!ちょっと待って‼よく分からない‼何がなんだかサッパリ…説明して下さいよ‼」
堪らず声が大になる優綺。
「何を?」と猪狩は目を丸くしたが、すかさず「全部ですよ‼」と叫ぶ優綺。
「面倒だな…。じゃあ、まず転成することから説明する。」
優綺はとりあえず頷いた。
「お前は、元々お前の居た世界に生きる筈じゃなかったんだ。…分かり易く言えば…生まれ間違えたってヤツだな。」
「そんな事が…本当に…?」
「とりあえず聞けよ。」と促す猪狩。
優綺はコクリと頷いた。
話が支離滅裂だが、こんな空間に居るのだから、全ての話が優綺には現実味のある話に聞こえた。
「俺は神としてお前をこの世界から削除しなければならなかった。もしくはお前が生まれるべきだった世界に還すか。勿論その二択はお前に選択権がある。…まあその話はもうしたけどな。」
「なるほど…。だからあんな質問を…。でも、全部夢みたいだ。」
猪狩は、「当たり前だ。」と優綺を笑い飛ばした。
「さて…もういいな?」
「…はい?」
猪狩は満面の笑みを浮かべていた。
まさか…。優綺の背中に悪寒が走った。
「いってらっしゃい。」
「ちょ、まだ何も聞いてな…ああああああぁ‼」
優綺は何処かに吹っ飛んで行った。
最後に優綺が見た猪狩の表情は悪魔さながらだった様だ。