#3‐1
お待たせしました。第三話です。
今回は難産でした。
睦斗市内にある学生対魔組織が総出となった『睦斗学院襲撃事件』から一週間弱が経った。
『別に襲撃された訳じゃなくて偶然、出現地点が睦斗学院なだけだったんだけど』とはツッコんではいけない。
これをきっかけにお互いに悪しき伝統を打破するきっかけにしようという意味が入っている(とお互いのトップは言っていた)のだから。
それはともかく
俺は矢吹先輩と組んで関係各位への事情説明などの報告に回っていた。
と、いっても睦斗警察と睦斗市役所の二か所だけな訳だが。
「市、警察への説明と報告、終わりました」
何故俺が、というと渉外担当を俺が引き継ぐと先輩方の中では内定しているらしく顔通しをする意味だとか。
「御苦労さま。問題は?」
「特にありませんでした。とーやがしっかりと説明してくれたし、質問にも『答えて平気な範囲』で答えてましたから」
…矢吹先輩はこう言うが実際は丸投げだった。
到着前に大体の説明する内容と『教えてはいけない境界線』を教えられ、紹介ののちに説明が丸投げにされたのだ。
大事なことなので三度言うが、入学してやっと一ヶ月経ったばかりの一年生に説明を丸投げしたのだ。
相手の担当者も『触れてはいけない境界線』をわきまえてくれているらしく無事終了となったから良かったが…
「それじゃあ、これでこの件は終わりね。明日から連休だし、溜まってる仕事がなければ上がっていいわよ」
と、会長。
まあ、過ぎた事だしぐちぐち言っても仕方ない。
それにそのうち俺が一人でいくようになるのだからいい練習だ。
会長の言う通り上がらせてもらうとしよう。
…が、そうは問屋が卸してくれなかった。
「藤谷、いいところに居た。資料探し手伝ってくれ」
と、氷室先輩に捕まり資料室へ連行。
表の会計関連資料ファイルを一冊、裏の資料に混ぜてしまったらしく、それを見つけるのに定時…午後六時までかかった。
ちなみに発見場所は氷室先輩のデスクの上。
諦めて連休明けにもう一度探そうと生徒会室に戻って来た時のことである。
* * *
「まあ、見つかったんだからいいじゃない。そのおかげで一緒に帰れるんだし」
これは俺がファイル紛失疑惑の顛末を話した時の楓の反応だ。
「それより明日からのゴールデンウィーク、どうするの?」
『ゴールデンウィーク』
五月初めにくる三日連続の祝日と前後の土日、祝日を合わせた大型連休。
今回は三日から始まり五日まで祝日、そこに学校側が休校にした土曜日と元々休みの日曜日がくっついて五連休となる。
俺たち一年生にとっては同級生の中から見つけた『気の合うヤツ』を友人へと昇華させる時期でもあるが…
「んー、とりあえずは片づけと常備菜作りしないとな。」
俺はクラスの連中から『幼馴染みの女子と仲がいい』というだけで白眼視されている。
その為、友人といえる友人は中学時代以前からの連中だけで、その連中は総じて学校の反対側、そして家族旅行などの予定で埋まっていた。
なので『友人と~へ』系イベントは一切フラグが立っていない。
んなわけで、訳有って一人暮らし中の俺としては普段は出来ない家の中の事をする予定だ。
あとは魔術の練習。
「むー」
前に回り込むようにして行く手を塞ぎ、腰に手を当てて睨むようにしてくる楓。
身長差が二十センチ近くあるからどうしても見上げてくるような姿勢になるが妙に迫力がある。
「…なんだよ」
そう返すと、突然笑顔になる。
「それじゃ、さ。休みの後ろの方でどっか行こ。はいこれ決定。詳しい予定はあとでメールでもするから予定は開けておいてね。」
『約束だからね』と念を押してくる楓は家の側まで来たら『じゃ』の一言で小走りしながら玄関へと向かっていく。
『…見事に押し切られたね』
見送ると、傍らの黒ネコが話しかけてきた。
『話しかけてきた』と、いっても声に出して喋ってる訳ではない。
どちらかと言えば『思念通話』とでも言うべきもので、精霊と契約主の繋がりを利用した意思疎通の方法らしい。
「………あの勢いには抗い難いモノがあるんだよ」
おそらく、楓の頭の中ではあの口約束は確約であり契約並の重さになってる筈だ。
それを破ったら………思い出しただけで寒気がしてきた。
『…とーや?』
「いや、ちょっとばかり過去の惨劇を振りかえってただけだ。帰るぞ」
「んにゃ」
そして俺は歩き出し、五日間全部を使う予定で立てていた大掃除をどう四日に振り分けるかの案を練り始めた。
* * *
[5月3日 GW 1日目]
ピロロロロ…
GW初日の朝、俺は携帯電話の着信音で目を覚ますことになった。
「だれだ…」
まだ寝ぼけ気味の頭を強制的に覚醒に持っていきつつ、時計に目をやる。
現在時刻、午前六時。
いつもよりは一時間ちかく寝坊してるが休みの日なのでもう一時間位の寝坊は許されると思っていたが…。
顔をパンパンと叩いて無理矢理、目を覚まさせる。
『早く取れ』と言わんばかりの携帯電話を取り
「はい、藤谷です―」
『朝早くにごめんなさいね。急な話でこっちもてんてこ舞いになってるのよ』
「…どうしたんですか?会長」
電話の相手は佐伯会長。どうやら急用みたいだ。
『伯母が喫茶店を営んでいるのだけど、昨日の夜に『バイトが休んで人が足りない』って泣きついてきてね…最初は私が行く予定だったのだけど、私の方にも外せない用事が入ってしまって―』
「で、俺に…ですか」
『ええ、頼まれてもらえるかしら。』
「それって、今日だけですか?」
『今日と明日よ。』
セーフだ。
楓から『この日は開けとけ』と指定されたのは五月五日――明後日。
「わかりました。引き受けますよ」
『助かるわ。とりあえず身一つでも大丈夫なように用意はしておいてもらうから。詳しい場所とかは今からメールで送るわ。それじゃあ、お願いね』
ぷつ、と電話が切れて数秒後にはメールが届く。
生徒会関係者全員の携帯電話の番号とアドレスを登録してあるのに未登録になっているのはパソコンか何かのアドレスだからだろう。
届いたメールに目を通す。
そこに書かれているのは店の名前と集合時間だ
場所は聖奏学園最寄駅である東睦斗駅のすぐにある『wisteria trellis』。
集合時間はわりと早く午前八時。
駐輪スペースなどは無いので徒歩で来るように…とのこと。
会長は身一つでいいと言っていたから制服はあったとしても店側で用意してくれている筈だ。
「…さて、遅刻しないように行かないとな」
家から駅までの時間を思い出しながら身支度にかけられる時間を計算する
「…まあ、いつも通りの朝にはできるか」
最近『食事』に目覚めたマナの分も合わせて朝食と、簡単な昼食を作り置く。
食事も含めた身支度が終わったのは七時ちょっと過ぎ。
十分間に合う時間だった。