#2‐3
今回から『三人称の部分』が時々出てきますが、そこの部分は主人公がその場に居ない時なのでお間違えないよう…
「おはようございます」
翌朝、午前九時。
俺は生徒会室に、いつも通りの制服でやってきた。
「あら、昼過ぎに来ると思ってたけど、随分と早いわね」
意外そうに言う会長。
他の面々はまだ誰も居ない。
「これでもいつもより二時間寝坊してるんですけどね。とりあえずお湯を沸かしておきます」
そう言って俺は給湯室へ行き、水の並々と入った薬缶をカセットコンロに掛ける。
普通、火を使う機器って学校内じゃ忌避されるんじゃ…と最初は思ったが問題なく使えるので遠慮なく使わせてもらっている。
お茶汲みが俺の仕事の一つになっているのはなんとなく釈然としないところがあるが…
まあ、茶坊主スキルが一番高いのが俺なので仕方ない
「さて、他の物の用意は…っと」
茶筒の茶葉が切れていたりと出鼻を挫かれたが他の役員が揃う頃には全員分の煎茶が各自のデスクの上で湯気をあげていた。
さて、休みの日にも関わらず昼前には集合を果たした俺たちは一体何の為に集まったのか。
それは『明日の準備』の為である。
ホワイトボードには簡単な戦略図が描かれ最前線、中衛ライン、後衛ライン、非戦闘ラインといくつかの領域に分けられている。
それは戦闘になった時の配置図だった。
ちなみに梨紗先輩と楓は最前線、俺は最前線ラインの少し前。
「だいたいこんな感じかしらね。作戦としては藤谷くんの魔力が保つ限り防壁を展開しつつ前進。相手が味方撃ちせざるを得ない距離まで迫ったら殴り合いを始める。……言わなくても判ると思うけどこの作戦の肝は―」
「わかってます。俺の展開する防壁の強度と時間にある…でしょ?」
「ええ。昨日までの拷…訓練通りに行けば問題ないと思うけど…」
…いまこの人『拷問』って言いかけたよ確実に。
「大丈夫だと思いますよ。拷問じみた特訓もクリアできた訳だし、とーやは昔から本番に強いタイプだし。ね?」
楓がなんだか問題発言な気がするセリフで後押ししてくれた。
「まあ、ダメならダメで手は用意してあるけど…一苦労なのよね」
それは『絶対に成功させろ』という意味の脅しとも激励とも取れた。
「さて、この配置概要をメールで三人に転送。大体の配置図が出来たら送ってもらうように。お願い」
「了解」
氷室先輩が席を立ち、パソコンの電源を入れたと同時
Prururu…
電話が鳴る。
「はい、聖奏学園生徒会………あら、佐織。どうしたの?……………!」
どうやら会長の知り合いらしいが、だんだんと険しくなる会長の顔。
そして
「睦斗学院が襲われてる!?」
ガタッ!
そのセリフに生徒会室に集っていた全員が椅子を蹴って立ち上がっていた。
省エネモードとして子猫姿で、氷室先輩のこれまた省エネの為の子狐姿のコンと一緒に寝ていたマナもむくり、と上体を起こす。
「わかったわ。信乃と藤堂君にも連絡を回して。ウチは今すぐ全員出すわ。ウチが一番戦闘向けな編成になっているから…ええ。お願い」
ガチャ、と受話器が置かれるときには俺たちは既に部屋を飛び出す準備を終えていた。
「大体の話しは解ると思うけど…睦斗学院が襲撃を受けてるわ。おそらく、幻魔の出現地点になった為。ウチは先行して結界と負傷者救護、応戦に回るわよ」
『了解』
一斉に生徒会室を飛び出し、屋上への階段を駆け上がる。
無人になった生徒会室では人数分の湯のみが湯気をあげ、起動が終わりログイン待ちのパソコンがパスワード入力画面で虚しくカーソルを点滅させていた。
* * *
それは突然のことだった。
『術師連合』から申し入れられた会談を翌日に控えたこの日、おそらく決裂の際に実力行使が予想されたため、『処理執行部』の中枢要員はそれをどう打ち破るかの協議の為に睦斗学院に集まった。
集まって会議を始めようとした時、校庭で破砕音がしたため外に出たら、『幻魔』の大群が校庭を蹂躙していた。
「藤澤会長!」
「うろたえるな!救援要請は出したんだろう!」
「は、はい!」
執行部総長、藤澤惣一は現れた『幻魔』を睨みつける。
人を小馬鹿にしたような、道化師の姿をした『幻魔』
傍らで風を操り道化師に至る道を切り開こうと攻撃を続けている翡翠色の衣をまとった貴婦人のような女性は惣一の契約精霊、ヒスイだ。
…大半が聖奏学園を初めとする『術師連合』に流れてしまうため我々執行部……『睦斗学生連合実働処理執行部』には精霊契約者や術師は殆ど居ない。
そもそもで『執行部』が『魔術師ではない者が幻魔と戦う為』に作られた組織である為、術師を戦力に組み入れるには抵抗がある。
…だが、背に腹は代えられない。そう思っていても『伝統』が再編を阻んでしまう。
魔術師ならば残弾を気にせず戦えるのに…惣一がそう思うのは愛用の64式小銃(自衛隊でも使われている)の残弾も、残敵の数からすると心許無いからだろうか。
「ッ!」
バキ、と木の割れるような音がして惣一がその方向に振り返るとヒスイによって迎撃された道化師の操る『人形』が砕けていた
「済まない」
礼を言いつつ、狙撃の手を止める事は無い。
飛びかかって来る人形の残りも脆いであろう部位を狙った予測射撃で少しでも勢いが減れば味方への被害は抑えられる
だが、数が多いと迎撃も間に合わない。
「会長!」
「くっ!」
そして、惣一が『こうされたら厄介』と思っていた通り、数十体が一斉に飛びかかって来た。
『やらせない』
ヒスイが迎撃するが焼け石に水に過ぎない。
それどころか過剰放出のせいでヒスイは自身の維持すらままならない。
ここまでか…
そう思った時、目の前に銀色の壁が現れぶつかった人形を一気に『消し飛ばした』