番外編
これは、ちょっとした思い付きの産物です。
クオリティとか時系列設定とか、キャラ崩壊とか気にしないでね
それはとある春の日…
「はぁ!?」
「頼む。こればかりは我々だけでは出来ないんだ」
「そりゃそうでしょうけど…」
聖奏学園の生徒会室横の応接室で唯奈は睦斗学院の藤澤会長―――今は退任したから前会長に詰め寄られていた。
頼み込むその様子からは切羽詰まった様子がうかがえるが、唯奈の困惑の顔が事態の大きさを窺いにくくしている。
その要件とは………
「行き成り『全国大会に出れる事になったからチアガールを応援に派遣して欲しい』って言われても…」
そう、『男子高である睦斗学院に女子の応援を…チアガールを!』というものであった。
確かに、睦斗学院単体でやろうとしたら無難そうな処を数人見つくろって女装させるしかなくなる。
それで全国大会の会場に晒すなど、なんて酷い仕打ちだろうか。
みんながみんな、某聖奏生徒会の男子役員みたいな精神構造の持ち主ではないのだから。
だからと言って、元女子高で女子率が高い…というか綺麗どころの多い聖奏と言えどそうすぐに『ハイどうぞ』と出せるものでも無い。
「まあ、学校間交流イベントってことで公欠の申請は出来ますけど…いつなんですか?」
普通、高校の生徒会に公欠とかを申請する権利は無い。
だが、『裏』に携わる生徒会連合加盟校の生徒会長にはその権利があるのである。
「三週間後だ。月曜日に開会、その後の第一試合が最初の出番だ」
「…一発殴っていいですか?」
聖奏学園にチアリーディングを出来る人間がどれだけいるのか。
そして明日から聖奏学園は年度初めの実力テストがある。
それはつまり、実質的に二週間しかないという意味でもある。
そんな突然と言っても過言じゃない猶予で話を持ってきた惣一に対して唯奈は軽く殺意を覚える。
ただでさえ新入生イベントが有ると言うのに、これ以上厄介事を増やすなんて…
「一発殴られて、後輩たちに応援団をつけてやれるならそれでいい」
だが、そんな事言われてしまったら唯奈としても譲歩をするしかなくなってしまう。
もうとっくの昔に忘れ去られているだろうが、唯奈の根本にあるのは『藤谷誠』という少年である。
つまり、ちょっとばかり『情』とか『浪漫』とかを追い求めたい気持ちもわからないでも無い、という事。
「…はぁ。判りました。こちらで学校側と折衝してみます。大した規模にはならないと思いますけど、出来る限りはやってみますよ」
「助かる。」
それから、必要事項というか必要な情報はまとまり次第メールで送るとか、そういった取り決めの後に惣一は帰ってゆく。
「…それじゃ、まずは職員室に行く準備をしますかね」
それから唯奈は色々な折衝の為にとりあえず職員室と学長室に提出する書類の雛型作りを始めるのだった。
* * *
「―――てな訳で、公欠扱いで応援団…主にチアガールを募集する事になりました」
それから数日後、学校側に無茶を押し通した(というか、主に男子部の男性教員の後押しを貰った)結果、無事に行事として認められた事が生徒会内に報告されたのだった。
ついでに『生徒会連合』の名義での募集なので他の各校…男子高である睦斗学院を除く全校からの募集だ。
その連絡は既に各校に送られており今頃はそれぞれの学校で検討中だろう。
「まあ、事情はわかったけど………大丈夫なの?」
楓の疑問は『チアガールとして仕立て上げられるのか?』と『授業を休ませて大丈夫なのか』の二点だった。
「指導に関しては私が頑張って三日で覚えてくる。で、募集の条件だけど今度のテストで五十番以上の人のみ」
つまり、成績がそれなりに無ければ応援団の一員として公欠で応援に行く事はできないシステムだ。
「ふーん………」
「ついでに言えば生徒会はほぼ強制参加ね。」
一応言っておくと生徒会に居る面々は基本的に成績優秀者である。
唯奈は万年一位だし、楓と遥は普段十位圏ギリギリ、悪くて三十番代。晶はもう少し下がって五十番前後だ。
それならば問題は殆どない、筈である。
「今の所、出る予定なのは私と楓と遥と誠。三年生を駆りだすのは正直心苦しいから無しの方針」
「ちょっと待て。何故に素で俺がそこに入る」
「まあ、希望者は受け入れるけどね」
「無視かよ」
「まあ、妥当じゃない?」
「そうだね」
「おい」
誠のツッコミというか文句は全員が聞き流していた。
「で、ついでに各学校の吹奏楽・ブラスバンド部にダミーの演奏会の情報を流して、応援用の吹奏楽団も編成してるから。」
『どうせやるなら徹底的に。』
正に地域をあげての一大イベント化である。
「『事を知らぬは出場する選手だけ』って状況になるように各校に注意は呼び掛けてるからけっこういいサプライズになると思うよ」
一般人に魔術だとかの事を隠し続けてきた生徒会連合だ。
隠蔽と情報操作に関しては一日の長がある。
おそらくだが、魔術師や精霊使いたちが本気だしたらその存在すら直前まで隠し通せてしまうだろう。
睦斗学院の生徒たちは腕ききの対魔士として成長しつつあるが、装備に支えられている一般人に変わりはないのだ。
「それじゃ、予定の調整とかしとくよ」
「体育館と教室の利用申請もお願い」
「りょーかい」
そして、選手たちの知らぬ場で事は進んでゆく。
* * *
睦斗学院野球部の面々は試合開始を間際に相手チームの応援席を見てだれともなく溜め息をついていた。
何故か、それは相手チームが共学校故に女子の応援もそれなりに居るからである。
対して自分たちは男子高。良くて親兄弟…親類関係の女性しかいない。
それに、応援席にぽっかりと巨大な空き席の塊もあり、レギュラー以外のメンバーと応援にきてくれている吹奏楽部がぽつんと居るだけに等しい。
これは、応援の段で負けるな。
そう、どこかで諦めに近い物を抱いていた。
女子の応援がなくとも、せめて応戦席は埋まってて欲しかった。
と、寂寥感を漂わせながらいざエール交換の段になったときそれは現れた。
応援席に用意されている壇上に駆けあがって来た一団。
その姿に野球部の面々は思わずざわめき立つ。
「あれって…藤澤先輩?」
まさに『応援団の王道』をいくような服装の元生徒会長に率いられた一団がいままで空白だった場所になだれ込んできたのだ。
みるみるうちに空き席は埋まり、壇上には詰襟姿の八人が立っている。
「おい、あれ聖奏の生徒会長じゃないのか?」
ふと、誰かが気がついた。
同地区の学校とはいえ他校には変わりない。
なのに、何故に生徒会長が居る?
「…っていうか、藤澤先輩と一緒にいるのってみんな生徒会長じゃ、」
そういった生徒は執行部にも所属していた為に気付く事が出来た。
生徒会長が勢揃い。
それはつまり、同市内にある学校総ての代表が応援に来ているという意味である。
これは、負けられない。
そんな思いが野球部員の中に芽生えつつあった。
そして、それが熱狂的な『勝つ気』に変わる出来事が一回の裏――後攻だった睦斗学院の攻撃の時…
立ち上がった応援団。
そのうちの半分ほどが詰襟を脱ぎ棄てた。
中から出てきたのは、見た目眩しいチアリーダーたち。
いつもなら制服に隠れている筈の腕やら足やらが選手たちにはまぶしく映る。
いつも聴く吹奏楽部の数倍の人数による演奏と、先輩や他校の生徒たち、特に女子の応援を背中に受けて野球部の面々のバットを握る手に力が入る。
「ストライク!バッターアウト!スリーアウト、チェンジ!」
但し、最初は力が入り過ぎて三者凡退になったけど。
* * *
「ふーん」
和葉は興味津々と言わんばかりに楓の話に相づちをうっていた。
「まあ、試合の方は最後の最後で逆転されて負けちゃったんですけど…あ、そうだ。これ」
楓が和葉に差し出したのは一冊の本。
本と言っても出版社による製本が為されたモノではなくどちらかと言えば冊子に近い。
「何?これ」
「ウチの写真部が出した特集本だそうです。同行して応援してる様子を撮影した写真集」
但し、撮影者の好みから大半が女子のチア姿(一部が詰襟応援団姿)という代物ではあるが。
ぺら、ぺらとめくる和葉。
「そういえばさ、生徒会連合で応援団を共同設置するって話、あったわよね」
「はい。今回の例に倣って、いつでも出せるように」
顔は冊子にむけられたままの和葉の言葉に楓は答える
「チアの衣装、私が作るから」
顔を挙げた和葉の目は…獲物を見つけた猛禽類のようだった。
この数日後、共同設置された応援団宛に三人ほどの着用例つきの発注書が届く事になる。
着用例に使用された二人の少女と一人の少女(?)はそれを見て
『せっかく黙ってたのに』
『何故にバレたし』
『やっぱりやりやがった』
という、感想を残している。
この間、ウチの大学の野球部が全国大会に出たんですよ。
で、学校側から命じられて応援に行ったは良いんですが、対戦相手のほぼすべてがチアリーダーを持ってて、ウチの大学だけ無くて(男:女=9:1 応援団・チアなし)『いいよなぁ…』なんて声が…
なんで、その思いを代弁し、なって欲しかった状況をつい書いてしまいました。
ぶっちゃけオマケにもならないものですが…まあ、登場キャラたちの応援団姿とかチア姿を想像して燃えでも萌えでも好きに盛り上がってください。