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Magius!  作者: 高郷 葱惟
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# After -そして時は流れ………-

あれから、十数年の時が流れた。


高校という短い時間を駆け抜けた私たちはそれぞれの路へと別れ、歩んで行った。


進学、就職、人によっては結婚し、更にその中には子供が居る人もいる。



十数年という時間は、短いようで長くて、過ぎてみればあっという間の事だった。


それでも、過ぎた時間は確実に私たちを変えていた。

少なくとも、当時小学生だった誠の妹を社会人にしてしまう程度には。


遥も姓を藤谷に変えて旦那(まこと)とよろしくやっている。


確か、一番上の子が来年の春に小学校に上がるのだとか。


そのほかにも、苗字が変わった友人は少なくない。

同窓会が『母親の集い』に半ば化しているのも致し方ない程度には。



かく言う私、高槻楓も…


「おかーさーん!ツバキさんが待ってるよー!」


現在幼稚園の年長、来年の春には小学生になる娘が居る。


まあ、娘と言っても少々訳有りな生まれ方をしており、父親も居ないのだけど…



強いて言えば、十数年前に『彼女』が残したモノの成果だろうか。



とはいえ、予想外に早かった初孫に母さんたちはもうメロメロ。

それに、母さんたちも『裏』の人間だったから判ってくれるのも早かった。



「はーやーくー!」


「今行くわ」


急かす娘―唯香(ゆいか)の声に応えて、私は身支度を確認する。



それから、ちらりと机の上に飾られた写真立てに視線を向ける。


そこに写っているのは聖奏学園の制服に身を包んだ一団。


そこには、唯香に似た面影を持つ少女も居る。




「…十八年、か」


それは、『もう』という意味でもあり、『まだ』という意味でもある。



ただ、あれから十八回目の五月三日がやってきた。


それだけの事。



けれども、その日は私たちにとって『特別な日』。


「それじゃ、行ってきます」


外に出たら、待ちくたびれた様子の娘と、微笑ましげに頬を緩める乳母同然のツバキが待っていた。


「遅いよー」


「お待たせ。さ、行きましょうか」


「うん!」


唯香の右手は私の左手と、唯香の左手はツバキの右手と、しっかりと繋ぐ。


行く先は、十八年前の約束をした場所。


再開発で少しばかり様相の変わった街の中で、唯一姿を変えなかった場所。






「楓、遅いわよ」


十八年前と全く同じ場所に広げられた巨大なレジャーシート。


そこに集まっているのは、十八年前にここに集まった仲間たち。


「ごめん、ごめん。」


「まあ、十分許容範囲だし、集合時間よりは早いから問題ないんだけどね。―――それじゃ、始めましょうか」





十八年前から毎年繰り返された『集まり』が始まる。


 * * *


「唯香ちゃん、随分とおっきくなったわね。」


「晶菜ちゃんだって、十分大きいでしょ」


団欒する私たちの視線の先には、子供たちが集まっていた。


が、まだ幼稚園児か小学校低学年生が大半なので引率役にマナが黒猫の姿で混ざって面倒を見ていた。

とはいえ、大半が昼寝中で一部のやんちゃ坊主が駆け回っている程度。


「なんだか、マナと一緒にいる唯香ちゃんを見てると思いだすね」


「………そうだね」


『誰』を思い出すかは言わずとも判る。




その時だった。


ピロロロロ…


「ちょっと失礼」


私の携帯電話に着信があった。


送信元は、私の職場。

睦斗市が十八年前の『大発光事件』後に設置した裏に対応する為の部署。

『特殊災害対策課』


…この課に入って一番最初に思った事は『役所って特殊とか特別って単語が好きなんだなぁ』だったのは今だに覚えている。


それはともかく、

「はい、高槻です。」


『ああ、休暇中悪いが今何処に?』


今日が当番になっている室長からだった


「中央公園の広場に居ますが…」


『丁度よかった。そのあたりで微弱ながらも空間が歪み始めているんだ。早急に対処を――――』


ノイズが激しくなり、遂には切れてしまう。


「どうしたの?」


「職場から電話が有ったんだけど切れちゃって―――っ!」


ぞくり、と背中に悪寒のような物が走った。


それはまるで、空間が歪む前兆でも有るかのように………


ぐにゃり―――と、空間が曲がるような錯覚



かつては日常的に起こり、十八年前の『あの日』以来は年数回程度となった『それ』


私は『市職員の仕事』として対応に当たって来たから良い物の、ここにいる面々の半数以上は戦列を離れて久しい。


だから、この時は生徒会連合のOGとしてではなく、睦斗市役所の特殊災害対策課の職員として動く。


「ツバキ、避難誘導!マナちゃん、子供たちをよろしく」


それから、いつも通り符を取りだそうとして、持ってきていない事を後悔する。


私には魔力はそれなりに有ったようだが使う方の才能は皆無と言って良い。

だから『発動体』となる符を使っていたのだけど…


万全の態勢とは言えない状態のまま、特徴的な『パキン』という音が歪みの中に響く。



歪みの中心部――公園の広場の中心から、何かがはい出てこようとする


出きった瞬間が勝負………


そう、身構えていたら


「ぐぎゃぁっ」


はい出てこようとした幻魔が、下から生えてきた銀に輝く刀身にあっさりと串モノにされていた。




「―――え?」


光となって溶けるように消えてゆく幻魔は誰もが意識の外側に追いやり、その串モノにした刀に視線が集まる。


それは、『十八年前』と同じような………



幻魔がすっかりと光に還元された後に、残り続ける刀。


それは、存在を誇示するかのように立ち続ける。



きゅっ…


左手の指を握られてはっと我に帰る。


唯香が私の指を握って、不安そうにこちらを見上げている。


「おかーさん…」

見てみれば、それぞれ子供たちは親元に寄っている。


それはうちも例外ではない。

「大丈夫。」


そう言って、自由な右手で優しく頭を撫でる。



刀から円が現れた。


それが地上から二メートルほどまで浮かびあがって、円の中に複雑な文様が書かれてゆき、方陣が出来上がる。



そして、その方陣の中に銀色の光が満ちてきて…



『だぁー、やっと来れたー!』


その光が抜けた後、どこか透けて見えるが懐かしい、待ちわびていたあの姿が現れた。


その姿に私たちはただ、唖然としてしまう。



『………ん?』


そして、私と目が合う。


『えっと……………楓?』


不意に、目頭が熱くなった。


「―まったく、何年待たせたと思ってるの?」


声が、少しだけ上ずってしまってる。


『ご、五年くらい?』


「十八年よ」


たったの、十八年。


長くも、短い時間。


『なるほどねー。道理でみんな老け―』「老けた言うな」


でこぴんの一つでもしてやりたいけど、触れるかどうかも判らないのでツッコミだけに留めておく。


『道理で、みんな大人びた訳だ』


言い直させて、その頃にようやく状況を飲みこめたみんなが駆け寄ってくる。


「で、いつまで幽霊状態で居るつもりなの?」


『あ、これ以上出来ないんだ』


抱きしめたい。


そう思った私の言葉はほかならぬ『彼女』に否定された。


『管理者権限でこうやって中までは入ってこれるけど、直接影響は与えられないんだ』


つまり、この幽霊みたいな姿が限界。



「そんな………」


呟きが、背後からこぼれてきた。


『これでも頑張った方なんだよ?この世界(ここ)を総ての中心に据えて、総管理者の居場所に一番近い直轄世界にしたんだから。』


そうでもしなかったらこんな事できないし。


なんて続けた『彼女』は笑う。



戻ろうと、約束を守ろうと全力を尽くしてくれたんだろう。


『まあその代わりに、なんというか、ヤバげな神さま系の上役になっちゃったりもしたんだけどね』


「なんか怖いから具体的には聞かない事にしておくわ」


『まあ、色々あったけど、これからは多少近くに居れると思うから………』



“ただいま”


そして、薄ら透けた姿が虚空に消えてゆく。

同じくして、魔方陣もその姿を虚空に沈みこませてゆく



ほんの短い時間だったけれど、戻って来た事が実感できた、約束が果たされた瞬間。



だから、私たちはこう言うんだ。


「おかえり、唯奈(ゆーな)





歪みが消滅した後、刀身のあった場所にはちいさな、木の芽が芽吹いていた。



 * * *


ねえ、知ってる?


そう、話しかけてきた友達は言う


市役所の近くに、遊具も何も無い、広場だけの公園がある。

その公園、昔は今の数倍の規模があったけれど、街の再開発で今の規模まで縮小されたらしい。


「で、その公園が何故広場だけ残されたのか、だけど…」


ごくり、と一緒に聞いていた友人たちが息を飲む。


「あそこの広場の真ん中にさ、やけに大きい樹が生えてるでしょ?そこに『護り神的な何かが居るから』らしいのよ」


真顔でそう言った友達に、友人たちは言う

『何をバカな事を』


「唯香、あんただけは信じてくれるよね!?」


話を始めた友達が、唯一否定的な事を言わなかった私に寄って来た。


私は………


「信じるも信じないも…私、会った事あるよ。」


保存樹になっているあの木が、まだ小さい芽だった時に。



「また始まった、唯香の不思議ちゃん」


「まあ、そういう感じる系が強いのかもね」


私の発言に興ざめしたのか会話の流れはこの後に控える連休にシフトしてゆく。


高校に入って一度目の、まとまった連休。


「じゃあ五月三日でいいんじゃないのかな」

今年出会ったばかりの友達がそう切り出したけれど


「あ、ゴメン。その日はちょっと用事があるんだ」


小学校に上がった頃から毎年参加している、幼馴染たちとその親との集まり



「他の日に回せないの?」



「唯香は小学校からずっとこうだよ。」

「五月三日だけは必ず用事が入ってるの。」


「ごめんね」



「ま、いいけどさ」


それじゃあ、いつにしようか。


そんな話もいつしか雑談に変わり、教室に夕日が差し込む時間になり、


「それじゃあ、またね。」


『計画』なんて代物が出来上がる前に帰らざるを得なくなる。




ちょっと、ふとした出来心で私は『例の公園』に立ち寄る事にした。


ただの広場でしかないその公園の真ん中には保存樹に指定され、一部では御神木とまで呼ばれている樹がある。


「こんにちは、唯奈さん」


その、枝の一本に腰かけた私よりも小さな少女、母さんの大事な人に挨拶だけはする。


本当は入学した日にも報告に来たんだけど、その時は居なかったからお披露目は初めてだ。


「私も、聖奏学園に入ったんですよ」


母さん曰く、昔から変わっていない制服をくるり、と回って見せる


風が吹いて、樹が立てる音が『頑張ったね』と語りかけてくるような気になる。


「明日は、ちゃんとここに居てくださいよ。『最近は姿が見えない』って、母さんたち残念がってたんですから」


ざわ…


その風の音を聞いていると、まるで苦笑いしながら『努力はする』と言ってる様。


「それじゃ、ちゃんと居てくださいよ!約束ですからね!」


それから、私は公園を出る。


六つ年下の妹と母さんが待つ、我が家へ。


 * * *

『まったく、親子揃って強引なんだから』


そう言いながらも、唯奈の顔は笑っていた。


『約束もさせられちゃったし、これは頑張るしかないかな』


そう言って、枝から飛び降りると地面に吸い込まれるようにその姿は消える。









世界は、今日も平常運転を続けている。


これにて、Magius!の物語は一度幕を閉じます。

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

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