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Magius!  作者: 高郷 葱惟
63/67

#14‐5

「ねえ、楓」


「なに?」



翌日、集合場所で唯奈は思わず楓に尋ねてしまっていた。


「…人数多くない?」


今ここに居るのは唯奈と楓、遥に誠と琴音、マナとツバキに晶と雅人、啓作に梨紗に紗枝に凛。

他校生である里桜や愛衣、純も居る。

オマケに遥から聞きだして参加の奈緒、奈緒から伝えられて集まったひかり、信乃、佐織。

紫音に進に浩平の一年生トリオも居るし、何故か和葉に咲月に陽菜―母親トリオも居る。


この時点で26人居るが全部ではないのだから恐ろしい。


集まったメンツ的には生徒会連合(=術師連合)の現役&OGという、これだけで戦争を起こせそうな戦力集中っぷりだ。



「だいじょーぶ。五組に分けてボーリングの予定だし」


他に考えが無かった訳ではないが、集まった人数的にそれが一番無難という判断だった。


ちなみに、籤は用意済みで楓の鞄の中にある。


「それに、このままこーやってのんびりしてるんでもイイんじゃない?」


広々とレジャーシートが敷き詰められた上で楓は足を投げ出して寝転がる。



集合場所として楓が指定したのは睦斗市中央公園(広大な広場のある市営公園だ)だった。

そこでシートをしいて皆でお昼(唯奈と楓と咲月と琴音、誠らによる持ち寄りの弁当)を食べてからの遊びに行く。


弁当箱とレジャーシートはデットウェイトになるがそこはそれ、男性陣(にもつもち)に丸投げの予定。




「…それもそだね」


計画性があるようで無い、そんなめちゃくちゃな企画ではあったがそれもそれでいいと思った。


だから唯奈も楓の横に寝転がって一緒になって空を見上げる。



幸運にも晴れた空はどこまでも高く―――



「こらー、主催者!サボってないで音頭取ってよ!」


そこに遥の悲鳴が飛び込んできて、楓と唯奈は互いに苦笑。


それからやれやれと言わんばかりに起き上って弁当を囲む環の中に飛び込んでいった。



『続きはまた後で』。


そう、決めてから。


 * * *


結局、食後はそのまま公園でのんびりすることになった。


弁当箱だけは唯奈がこっそりとゲートを開いてそれぞれの家に持ち帰らせたため荷物は最小限。


思い思いの人と、思い思いに過ごす昼下がり。




唯奈は、約束通り楓と一緒に寝転がって空を眺めていた。


「………」


ただぼーっと空を見上げる。


単調で、単純で、つまらなそうに聞こえるが『誰かと一緒に』となると意外と面白い物である。


沈黙。


微妙な緊張感と『言葉なしでの意思疎通が出来ている』ような気分になれる、不思議な時間。






そんな時間を終わらせたのは『ピシリ』という、どこか破滅を感じさせるような音だった。

唯奈のポケットからこぼれた栞が、銀色の輝きを放つ。


その瞬間に『世界』が変わる。


その変化に反射的に思考を戦闘向けに切り替えて即戦闘可能な面々は敵襲に備え、武器が必要ながら持ってきていない面々は邪魔にならないような位置取りに移行。


接近戦を主とする面々に至っては靴も装備し駆け回る準備も万端にしている。



全ては、和やかな日常の時間に戻る為に。




だが、今回ばかりは勝手が違った。



身構える唯奈たちの目前に魔方陣らしき紋様が浮かび上がってくると、その中心から刃が生えてきた。


その刀身から銀色の輝きが方陣へ広がり重々しい音と共に紋様の上に人影が投影される。




「えっ!?」

「ッ!」


視線が唯奈に集まる。


身構えている方ではなく、方陣から現れた方に。


『団らん中悪いけど、時間切れが予想より早まったわ。今すぐ、だけど決断できる?』


そんな事をお構いなしに唯奈に話しかける投射体(ゆいな)


「そんなの、とっくに出来てる。」


『上出来。』


にやり、と笑う


「ただ、みんなに事情説明くらいはしてよ?」


『…きっと、ね』



方陣へと足を進めようとした唯奈を阻んだのは楓の腕だった。


後ろから抱き抱えるようにして、楓の腕が唯奈を掴まえる。


他の面々は思考停止に陥っているのか身動きが取れないでいる。


「楓、放――」


「行っちゃ嫌だ、とでもいうべきなんだろうけど…」


振りほどこうとする唯奈が、動きを止める。


楓が少し腕を緩め、唯奈は楓と向き合う。


「それは野暮ってもんでしょ。」


楓は、薄々ながら気付いていた。


唯奈が、何か『覚悟を決めた』事、そしてその結果どこか遠くへ行ってしまう事に。


そしてそれは、唯奈自身の為ではなく、『他の人(わたしたち)の為』である事に。



「だから、私はこう言うんだ。」


それは、今まで通りの言葉。


「行ってらっしゃい。帰ってくるのを待ってるからね」


思考停止から抜けだした面々も、黙ってその光景を見守る。


「―――どれだけかかるか判らないよ?」


心なしか、声が揺れていた。


「それでも、私は待つよ。」


「―――ッ!」


今度は、唯奈の側から楓にしがみ付く。


まるで、泣き顔を隠すかのように楓のおなかに顔を押し付ける。


「待つのは、楓ちゃんだけじゃないわよ」


琴音に続いて、『私も』『俺も』と声が上がる。


「お姉ちゃん、みんな―――」


楓から顔を離した唯奈の目は僅かながらだが赤い




「マナ、皆のことお願いね。」


「うん」


「ツバキ、私の机の引き出しに入ってるのの続き、お願いしちゃっていい?」


「任されました」


「お姉ちゃん、お母さん達をよろしくね。お母さんは全く家事出来ないから」


「こら、そんな心配しなくていいの!」

「ふふふ、判ってるわ」



「佐伯先輩、事後処理はお願いします」


「…今回ばかりは、骨が折れそうね」



そして、しがみついていた手を放し―――



「そしてみんなに―――行ってきます!」


背中を向け、魔方陣へと駆け込む唯奈。


精一杯の強がりに見えるその姿を楓たちはただ見つめる。


魔方陣の中心に辿り着いた唯奈は投射体と共に溶けるように消えてゆく。


散ってゆく銀色の光。


非日常の終わりを告げたそれの残滓を見送ってから楓は呟く。


「――行ってらっしゃい」


なんだか、むしょうに泣きたくなった。


けれども、楓は泣かない。



『帰ってくる』と約束したから。


『行ってきます』と言って旅立ったから。


『行ってらっしゃい』と見送ったから。


少し長い間、会えないだけなのだから。



そして、心に決めた。


帰ってきたら、会心の笑みと共に言ってあげよう。

『お帰り』と。



だから、待つ。


『ただいま』と言って、戻ってくる日を。




ぐいっ、と袖で目許を拭ってから楓は務めていつも通りの笑顔を浮かべる。


唯奈は日常を守るためにあの決断をした。

だから、その日常を大切にしよう、と。



「さーて、頑張るよ!」


唐突な楓の言葉だが、帰って来たのは一様にして『応える』声だった。


シートの上にこぼれた栞は、もう輝かない。

 * * *



『随分と、可愛がられてたのね』


「まあ、ね。そういうそっちはどうだったの?」


『もう、覚えてないわよ』


二人の唯奈はそんな事を言い合いながら銀色の方陣を組み上げる手を止めることは無かった。


近づきつつある二つの世界。


管理者たる唯奈が直接手を出せない代わりに、人間で、魔法使いでしかない唯奈が行う『次界』への干渉。


「嘘つけ」


構築が終わった方陣に、次は魔力が集まり始める。


一度身体を通って方陣へと注がれてゆく魔力。


それが、臨界に達した時、管理者の方の唯奈がぼそりと言った。


『―――大泣きしたわ。引きとめられて、夜にこっそり飛び出して…』


方陣が臨海を突破し術式が稼働を始めようとする。


『…でも楓にはバレてて、そこでも大泣きして―――タイムアップに急かされて以下略。』


「なるほどねぇ」



暴走と安定の狭間を暴れる魔力を抑えつけつつ、唯奈は言う。


「そっちも、こっちでも楓には頭が上がらないわ。これ、世界の記憶(アカシック・レコード)にでも記述されてるんじゃないの?『御剣唯奈は高槻楓に頭が上がらない』って」


『そんな、まさか』



「あり得ないなんて、あり得ないんだよ」


そういう唯奈の手に、巨大な魔力球が形成される。



それを弾けさせることで微細ながらも波を起こして接近しつつある世界を押しとどめ、押し流す。


強すぎてもダメ、弱すぎてもダメ。


繊細な調整が加えられた最適な魔力球。



「さて、行きますか!」


『………それを撃ったら、すぐに「引き込む」からね』



「そんじゃ、これからよろしく、私」


『ええ、歓迎するわ。甘えん坊で、同じくらい人たらしの私』



ぱーん、


その瞬間、銀色の閃光が次界の海を満たして舞った。


これで終了---。


けれども、彼女たちの物語はもう少しだけ続きます。

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