表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Magius!  作者: 高郷 葱惟
61/67

#14‐3



そこは、とても不思議な場所だった。


場所と言っていいのかも判らない。

上と下、右と左、前と後ろ。


そういった概念が存在するのかも判らない、空間




何も無いようで、何かに満たされているその場所を、私は何故か漂っていた。



まるで、海の底にでもいるのかのような静寂なる世界。



見上げた先には、青い惑星(ほし)の姿。



どんな宝石よりも貴重であろう、それをしばし眺めている。



ふと、人影が現れた。



その影は光源で逆光になり影しか見えない。


けれど、不思議と背中側を見てみろと言わんばかりに下を指さしているのが判って、私は下…背中側を見てみた。




―――え?


そこには、もう一個、地球の姿があった。


慌てて振り返れば地球、もう一度見返しても地球。




二つの、青い惑星(ほし)



『これだけヒントが有れば十分かな?』



そんな声が聞こえた気がした。


けれども、その声は―――



 * * *


気がついてみれば、私は自宅の自分の部屋だった。


どうやら、机に突っ伏して寝てしまっていたらしい。



時計は午後十時を指している。


「…なんだったんだろ」


鮮明に覚えている夢の内容。


二つの地球を、外側の空間から眺める夢。




私は無性にその夢の話をしたくてメールで確認してから楓に電話をかけることにした。




『ゆーな、こんな時間にどうしたの?』


「うん、ちょっと居眠りしちゃったら不思議な夢を見たんだ」


『不思議な夢?』

楓の言葉には嫌そうな様子は無い


「そう。」



『どんなの?』


「二つの地球の間から両方を眺める夢」


『ふーん』


「あの空間、なんとなくだけど知ってるような気がするんだよね」


どこかで感じた事のある感触に包まれていた。

そんな気分がするが夢の中の話なのだから説得力など皆無。


『それって、生まれる前とかの事とか?』


確かに、その可能性はある。


けれど、


「それは私には無いと思うな。」


私に『生まれた時の記憶』というものは無い。


『なら世界の狭間みたいな場所は?』


「………それなら、判るかもしれない。」


『とりあえず、頭の片隅に置いておく事にするから、早めに寝たら?ここ最近、忙しいんだからしっかり休まないと』


「…そうだね。ゴメン、変な時間に電話しちゃって」


『いーよいーよ。それじゃあお休み』


「おやすみ。」


ぷつ、つー、つー、つー…


電話が切れる。


不思議と、さっきまで残っていた不快感というか倦怠感のような物はきれいさっぱりと無くなっていた。


「さて、お風呂入って寝ちゃお」


それから一時間ほど後、私は布団にもぐり込むとすぐに寝つくことが出来た。



―――声の事は、何故か言えなかったのに。


 * * *


それから数日、ゴールデンウィーク目前の日曜日



「ったく、少しくらい休みをくれたっていいじゃないかよ」


「はいはい、文句言う暇あったら手を動かす!」


「この区画はまだこれだけ戦力が有るだけマシよ。」


誠の悪態に遥と琴音の中々に逃げ場のないツッコミが突き刺さった。


そうやり取りしながらも、誠が斬撃を飛ばし、遥と琴音の魔力弾が雨霰と降り注ぎ、軽く三ケタ近い数のゴブリンの群れを吹き飛ばす。



「うひゃー、先輩たちすげー」


「所詮、俺たちは単発どまりからな」


「秋山、藤村。ごちゃごちゃ言ってないで手を動かす!――収束、固定、そして―――打ちだす!」


「いや、お前らも十分凄いと思うぞ」


そんな様子を見ながらも新入生三人組こと秋山 進と藤村 浩平と冨坂 紫音もそれぞれの手段で攻撃を続ける。

進は魔術特性『風』の初歩であるカマイタチで、浩平は魔術こそ使えないが魔力の放出は出来た為、魔力をかき集めて『撃ちだす』という性質を持った素材を使って作られた銃で。

紫音は『魔力の結晶化』という特性を生かし、結晶化させた魔力の欠片を撃ちだしては炸裂させるという、いわば榴弾砲のような方法で。


倒す数こそ三人の一斉射で数体では有るが傍から見ていた第六高校の面々からすれば十分規格外に近い戦力である。

第六の面々は長期戦に備えて休憩中なのだが、予定より聖奏組が戦闘を続けている為手持無沙汰になっていた。


彼ら聖奏生徒会と第六高校生徒会の面々は両校の管轄域をまたいで発生した巨大な『歪み』の対処に当たっていた。


最初はバラバラに活動していたのだが中心から有る一定距離に来たところで出現する小物の数が激増した。

その為、それぞれ戦力をある程度まとめて配置し数方向から同時に削る方法を取る事にした結果がコレである。



別の場所では第六の生徒会長である里桜が率い、聖奏の非戦闘組とその護衛―つまり啓作と凛、そして梨紗が属する本隊が里桜の砲撃で空いた穴を広げつつあり、また別の場所ではマナとツバキを護衛につけた唯奈と楓が御得意の広域殲滅を繰り広げていた。

そこに今ここで戦闘をしている琴音に率いられる、新入りが一番多く配置されたこの一隊を合わせた三部隊編成だ。


この集団からも火柱と紫電、またたく銀光ははっきりと見て取れる。


規格外たちの戦闘の様子は直線距離で一キロ離れていても見えるようだった。


とてもではないが結界なしでは繰り広げることのできない戦闘である。


一応、断っておくが広域殲滅組は基本的に広い幹線道路や公園などを戦場に選んでおり極力被害は出さないように加減はしている。

ただ、『街に被害を出さないための加減』が『威力の収束』になっているだけで。



――街を更地にしても事後処理班が地獄を見るだけで実際の所の影響はあんまり無いのだが。



それはともかく、大量のゴブリンを前に実質的に足止めをされている状態が続く。

先日以上に強大な本命との戦闘を、二年以上は半ば確信的に予想していた。


 * * *


「何だよあれ!?でかいぞ!」


「ボスキャラか!?」


「…中ボス止まりじゃないのかな」


琴音たちの一団が中心部に近づいた時、地面から巨人の胴体から上が生えていた。


それを見て男子はざわめき始める。

まあ、見た目が割と凶悪そうで強そう、かつ今までザコが大量発生していた後のソレなのだからシチュエーション的に期待するのは判る話である。


だが、先輩方からの話やデータからそういう『浪漫』とかを追い求めない女子からは至極冷静な呟きがこぼれる。


どちらかと言えばまだ半分しか出現していない大物よりもその周囲に群れなす小物の方が厄介だ。



とはいえ、


「おー、久しぶりの本命は随分とおっきーわね」


「まあ、大きければいいってもんじゃないがな」


「二人とも、先にあの廻りの小物退治が先よ」


余裕綽々な琴音たち。


彼らが規格外な戦闘集団とはいえその様子に安心感を覚えた一年集団も驚いたり感心する事はあっても怯えることは無かった。


「浩平、まだいけるよな」

「当然。冨坂は休んでていいぞ」

「冗談言わないでよ。私の魔術って威力の割に燃費いいからね。これからが本番。」


むしろヤル気満々でそれぞれの得物の準備をする位だ。


「燃えてるねぇ、聖奏組は」

第六(ウチ)は会長の火力頼りだからな。連中ほど燃えないんだよな」


「なら、ウチ来る?」

そんな第六組に遥が声をかけた


「「遠慮させて頂きます」」


だが、九十度の最敬礼で辞退された。


その間も紫音の榴弾砲撃やら、浩平の単発魔力弾やらがゴブリンを着実に減らしてゆく。


だが、命中弾は出ているが大物には目立ったダメージが無い。


ピリリリリリ、


「はい、―あ、ゆーな。どしたの?」


攻めあぐねていると遥の元に電話がかかってきた。

相手は別動隊の唯奈だ。


「…わかった。至急退避ね。相手から二百メートルほど距離を」


『二百メートル圏からの至急退避』

なんとも物騒な響きだ。


「みんな、聞いた?ウチの会長から『とっとと逃げろ』だってさ」


「それじゃ、退避ぃー」


さっさと距離を取り始める琴音たちを一年集団が追う形になり、十分な距離をとって振り返った時…





ずだだだだだだだだだだ


「「「キー」」」


無数の銀光が降り注いでゴブリンを次々と葬ってゆく。

が、巨大な幻魔にはまったくダメージが与えられている様子が無い。



落胆と僅かな絶望感が一年生たちの中に生まれ始めた時、宙に現れた銀の輝きに変化が現れた。



それまでは拡散して降り注いでいたものが一か所に集まり始めたのだ。

そして、それは剣の形を取り、鋭い切っ先を形成し―――


すじゃっ


「ギャァァァァァァァ………」


身動きの取れない巨大な幻魔を脳天から貫いた。


続いて巨大な焔と紫電が無数の閃光と共に襲いかかる。




「うわぁ…」

「なにこれこわい」

「見事なまでのオーバーキルだな」

「オーバーキルは魔王の嗜みですよね、判ります」

「幻魔終了のお知らせ」


その光景を目の当たりにした一年生たちは口ぐちに訳の判らない事を呟いていた。

おそらく、怪電波でも受信してしまったのだろう。



ともかく、巨大で強そうな見た目の幻魔は見事にオーバーキルされて少しづつながらも光に還元されていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ